そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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日本ダービーに向けて

日本ダービー。日本のレース史に置いて最も歴史と格式を持つ、クラシック路線に入ったウマ娘達なら誰もが夢見るレースである。

 

 過去にも数多の名勝負がこの府中のターフに刻まれてきた。

 

 最後の直線で何者も追い付けない加速で絶対的な勝利を納めたシンボリルドルフ。

 

 全力を振り絞った逃げで勝ち、世界最高記録の観客からのコールを受けたアイネスフウジン。

 

 その他にもライバルとの死闘、譲れない想いと共に、多くのウマ娘達の垣根をすり抜け、勝者となったウマ娘は特別視される。

 

 いつしか日本ダービーは、最も運が良いウマ娘が勝つレースと呼ばれるようになった。

 このレースを目標に死力を尽くすウマ娘やトレーナーがいることから、その特別さがよく分かるだろう。

 

 

 

 皐月賞を終え、次に来るG1レース日本ダービー。トレーニング場では出走するウマ娘とトレーナー達がトレーニングを勤しんでおり、その熱気は皐月賞の比ではない。何時の時間でも誰かがトレーニングをしている中、ただ待つように立っているトレーナーがいた。

 

(コモーは今日も来ない…。皐月賞の後、エアグルーヴ副会長が直々にボクが組んだコモーのトレーニング内容とコモー自体の調子を根掘り葉掘り聞いてきていたが…。どうしたのだろうか?)

 

 釜瀬トレーナーはただ一人、自分の担当ウマ娘を待ち続けていた。

 出来ることならば直接会いに行きたいが、ウマ娘専用寮は男女問わずトレーナー立ち入り禁止なのだ。

 だから今の釜瀬トレーナーに出来ることはコモーノーデスが来るのを待つだけなのだ。

 

(もしかして、皐月賞で入着出来なかった事を悔やんでいるのか?それがダービーに出走しないと宣言した理由か?)

 

 それは、皐月賞を終えてしばらく後の事。コモーノーデスから今後G1には出走しないと連絡が来たのだ。釜瀬トレーナーは原因は皐月賞で良い結果を残せなかったからだと判断したが、全くトレーニングに来ない事から原因は別にあるのではないかと考察をしていた。連絡を入れてみても全く返事が来ず、どうすることも出来ずにいた。

 

(…待とう。ボクはあの娘の走りに惚れて、あの娘をトレセン学園(ここ)に連れてきたトレーナーなんだ。僕に出来るのは信じて待つことだけだ。)

 

 釜瀬トレーナーはそれでも待つことにした。例えどんなに時間が経とうが待ち続けよう。そう決断した。

 

「あ、あの、釜瀬トレーナーさん、ですよね?コモーさんの…」

 

 すると、一人のウマ娘が話し掛けてきた。

 

「君は…。」

 

 釜瀬はそのウマ娘に見覚えがあった。コモーノーデスとルームメイトのウマ娘だ。

 

「私、実はあなたにコモーさんの事で伝えたいことがあって…。」

「…伝えたいこと?」

 

 何やら深刻そうな様子に釜瀬は身構える。そして、そのウマ娘からポツリポツリとコモーノーデスの今が語られた。

 

 

 

「皐月賞の後、コモーさんはずっと怖い顔をしていました…。次の日もそんな顔をして出て行ったんです。私は、怖くて声を掛けられませんでした…。しばらくして、コモーさんが帰ってきたんですけど、泣きながらベッドに顔を埋めちゃって…それからベッドにうずくまってしまったままなのです。どうしたのか聞いても、全く返事しなくて…。それからずっと元気がなくて…私、一緒の部屋にいるからとても心配なんです。コモーさんを助けてやりたいんです。」

 

 同室のウマ娘からの情報を聞いた釜瀬は黙って下を向き、そして、顔をあげた。

 

「分かったよ。伝えてくれてありがとう。後はこのボクがどうにかしてコモーを助けてやろう!何故なら!僕の担当ウマ娘は素晴らしいからね!!」

 

 

 

 

 

「ふぃ~…。今日も何とか自制して走れたぁ…。でも、この調子で行けば…。」

 

 トレーニングを終えたカイシンは、満足げに手応えを実感していた。ゲート試験も合格し、この調子で行けばデビュー戦も問題なく行けるだろう。鼻歌を歌いながらスキップして帰る途中、その足を不意に止めた。

 

(あれ?テイオー?)

 

 校門前にテイオーがいたのだが、何やら小さなウマ娘と話している様子だった。そして、丁度話し終えたのか、小さなウマ娘に手を振って戻ろうとしたところでカイシンと目が合った。

 

「あ、カイシン!今トレーニング終わったの?」

「あ、うん。ところで、さっきの娘って…。」

「うん!ボクのファンなんだ!三冠応援してますって言われちゃった!」

「へぇ~、スゴいなぁ!」

 

 カイシンは素直に誉めるとトウカイテイオーは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「えへへ~、…でも何だか不思議な気分だなぁ。ボクはカイチョーに憧れてトレセン学園にやって来たけど…そんなボクの走りを見て、憧れてくれるウマ娘が出てきたんだ。なら絶対三冠取らなくちゃって思うんだ。だって、ボクは無敵のテイオー様だからね!」

「…それは、頑張らなくちゃだね。」

 

 自信満々に語るトウカイテイオーに、カイシンは複雑な心境になった。

 

(どうしよう…。わたしとしては、ノイズさんを応援しなくちゃだけど、テイオーさんに憧れている子がいるのを見ちゃったら…。)

 

 カイシンの立場としては、一緒に練習し、口ではあれこれ言われるが自分の悪癖改善に取り組んでくれたノイズサウンドには感謝しているし、応援したいと思っている。だが、希望と決意と夢に満ち溢れた真っ直ぐなトウカイテイオーを見ているとトウカイテイオーも応援したくなる自分がいる。

 

(わたしは、どうすればいいのかなぁ…?)

 

 心の中で呟いた言葉に答えた者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

(最終コーナー…その手前でっ…!)

 

 空が暗くなり始めた時間。トレーニング場で赤いウマ娘が走り続けていた。

 東京レース場を想定して最終コーナー手前でスパートを掛けて加速していく。

 

「はあああああっ!!」

 

 雄叫びをあげて最後の直線を駆け抜けるノイズサウンド。そして、ゴール役の恐山が手に持ったストップウォッチを押す。

 

「…タイムは悪くないな。歴代のダービーウマ娘に迫るタイムだぞ。」

「…ですが、足りない。これではトウカイテイオーには勝てないかもしれない…。トレーナーさん、もう一回走ってきます。」

 

 恐山から誉められはしたが、ノイズサウンド的には納得は行かなかったようで、もう一度スタート位置へと戻ろうとする。

 

「待て。もう門限も近い。さっさと寮に帰らないとフジキセキが怖いぞ。」

 

 しかし、恐山はもう一度走ろうとするノイズサウンドを止めた。止められたノイズサウンド既に暗くなっている空を一瞥して、忌々しげに舌打ちをした。

 

「チッ…。いいでしょう、今日はこれで終わりにしますよ。あぁ、時間の早さが憎い…。」

 

 ノイズサウンドは渋々と言った様子でトレーニング場を後にした。

 

「日本ダービーは…必ず…。」

 

 寮に向かう間もノイズサウンドは次のレースのコース取りや意気込みをブツブツと呟いていた。その後ろ姿を見た恐山は懸念していた。

 

(アイツ…トウカイテイオーに絶対勝つと宣言した以上、有言実行しなければと根を詰めているな…。もし、日本ダービーでノイズサウンドが負ければ…)

 

 そこまで考えた恐山は振り払うように頭を振った。

 

(止めよう。出走する前から杞憂するのはトレーナーとしては良くないな。今はノイズサウンドを仕上げるのが先だ。)

 

 日本ダービーまでの時間は、迫ってきていた。

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