「君!中々の走りだったぞ!どうだ?うちに来ないか?」
「私なら貴女の能力を伸ばせると思うわ!どうかしら?」
「あんたの走りに見とれちまった!こっちに来てくれ!」
出走を終えたノイズサウンドとカイシンは制服に着替えてレース場を出た後、案の定カイシンはトレーナー達の勧誘を受けていた。
「おやおや、大人気ですね。」
「ふわぁ~!?そんなにたくさん話さないでよぉ~!」
カイシンは頭の処理が追い付かないのか煙が出そうな顔になり、ノイズサウンドは涼しい顔で困ったように笑う。
「た、助けて下さいよぉ~!」
「まぁ、良い機会です。頑張ってください。」
ノイズサウンドは自分をそっちのけでトレーナーに囲まれるカイシンを見捨ててそそくさと退散していった。
こうして二人は別れた。次に会うのはどこかのレース場だろう。ノイズサウンドはそう考えた。
数日後、
「うぇ~ん!助けてくださいぃ~。ノイズサウンドさぁ~ん!」
「どうして私にすがるのですか?と言うか、何があったのですか?て言うか、離してください。」
そこには泣きじゃくりながらノイズサウンドの制服のスカートを掴むカイシンの姿があった。しかも、エントランスという大勢の人の目につきやすい場所なのだ。何があったんだと言いたげな目をしているウマ娘や職員、トレーナーたちの視線が二人に集中する。
「ぐすっ、えぐっ。」
「ほら、周りの視線が痛いから別の場所で話を聞いてあげますよ?立ってください。」
「うん…。ずずっ、ありがとうございますぅ~。」
「スカートで鼻をかんだら蹴り飛ばしますからね?」
「は、はいっ!」
二人はエントランスから場所を移して、人通りが少ない場で事情を聞いてみると、案の定の理由だった。
「なるほど。併走トレーニングをしたら、他の子を怯えさせたので、もう来なくていいと言われたのですね?」
「そうなんですよぉ~!わたしは普通に走っていただけなのにぃ~!うぇ~~~ん!」
「貴女には御学友のウマ娘がいらっしゃった筈ですが、彼女らに相談は?」
「それがぁ、二人とも『知ってた。』って感じで取り合ってくれないんですぅ~!ひどい仕打ちですよぉ~!」
(でしょうね。)
カイシンはまた泣き崩れてしまい、ノイズサウンドもカイシンの友人と全く同じ感想を胸の内に抱く。付き合ってられないと思い、適当な事を言って逃げようとしたが、
「そうだ!ノイズサウンドさん、まだ担当トレーナー決まってないんですよね?それじゃあ、わたし達二人でチーム作ってトゥインクルシリーズに出ましょう!そうすれば…」
「トレーナーが居なければ出走は出来ませんよ?と言うか巻き込むの止めてください。」
「あぅっ!正論ですし、辛辣…!い、良いじゃないですかぁ!選抜レースで一緒にゴールした仲ですよぉ!?」
「何時からそんな関係になったのですか?それにレースの結果に関しては、私がハナ差で貴女より先にゴールしています。」
「そんなの屁理屈ですぅ~!」
ああ言えばこう言う。そんな押し問答が繰り広げられそうになった瞬間、
「歓談中にすまない。少しいいかな?」
凛とした、それでいて威厳のある声が二人の会話に割り込んできた。
「こ、この声ってぇ…!」
「…おやおや。」
押し問答を止め、声がした方に目を向けると、カイシンは顔面蒼白になり、ノイズサウンドは不敵な笑みを浮かべた。
そこにいたのは、このトレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフだった。無敗でG1レースを七勝し、『レースに絶対はないが、このウマ娘には絶対がある』と言わしめたウマ娘が二人の前に現れたのだ。
「る、るるる、ルドルフ会長!?」
「これはこれは。皇帝様が私たちに何か御用で?」
「楽にしてくれて構わない。君達二人に用があって来たんだ。」
「ほう、ほうほうほう!かの生徒会長様から話があるとは!皇帝様は随分暇で物好きのようですね!」
「ノ、ノイズサウンドさん!失礼ですよぉ!」
ルドルフから話し掛けられたカイシンはまた何かやらかしてしまったのかと震えだし、ノイズサウンドは更に口を弧を描くほど口角を上げ、笑みを浮かべる。
「カイシン君。先程、君の元トレーナーに伝言を受けたのだが…」
「ああああああ!!!やっぱりそうですよね!!退学!?退学になるんですか!?うわぁぁぁぁぁぁん!!痛っ!?」
ルドルフが次の言葉を紡ぐ前にカイシンは元トレーナーの言葉で早合点し、取り乱し始めた。ノイズサウンドは話が進まなくなると察知し、直ぐ様カイシンの頭を鷲掴みにして握力で黙らせた。
「カイシンさん?生徒会長はまだ何も言ってないですよ?」
「い、痛い痛いぃぃ~!」
その様子をルドルフは困ったように笑って見ている。端から見れば状況が掴めない場になっているが、ここは比較的人通りが少ない場所だ。仮に誰かに見られたとして、その場の状況を話したとしても、信じて貰えないだろう。
「落ち着きましたか?」
「はい…。」
「ふふ、手間を掛けさせてすまなかった。さて、話を戻すが、君の元トレーナーから『併走トレーニング中に発覚した問題はあるが、素質はある。磨けば光ると思うが自分の手には負えない問題だ。切り捨てるような形になってしまって申し訳なかった。』との伝言を受けたのだ。」
ルドルフからの報告を受けたカイシンはまたも目から涙を流し始めた。切り捨てたかと思っていた相手が気に掛けてくれていた事に感動したのだ。
「そして、ノイズサウンド君。君はこれまで何度も選抜レースを出ているが、何時になったら担当トレーナーが決まるのだ?」
「え。ノイズサウンドさん、そんなに出てて、まだ担当居ないんですか?あれ程わたしに高説垂れてたのに?」
真剣な眼差しで見つめるルドルフと急に冷めた目線になったカイシン、普通なら居心地が悪くなるような状況だが、ノイズサウンドは何処吹く風の態度だった。
「ふむ、そう言われると痛いですね。ですが、残念ながら私は、私が決めたやり方を貫き通したいのですよ。そのやり方を汲んでくれるトレーナーがいれば行くのですが、生憎トレーナーの皆様方はデータばかりででしてね。お似合いの相手が中々見つからない訳でして。」
ノイズサウンドは仰々しく肩を竦め、成果なしのアピールをする。どれだけ言われようが後ろ指を指されようが全く意に介さないようだ。その言葉を聞いた相手次第では高望みするなと反感を買う内容だが、ノイズサウンドなりに考えがあるのだろう。
「成る程、君の言い分は良く分かったよ。それで君達二人に提案があるのだが…。」
ノイズサウンドの言い分を聞いたルドルフは頷くと、その次に言葉を紡いだ。
「二人とも、私と模擬レースをしてみないか?」
「「……………はい?」」
その言葉に二人は思わず聞き返したのだった。