『さぁ、最後の直線に入った!トウカイテイオーが抜け出した!ノイズサウンドも追い上げてくるがテイオー突き放す!夢を叶えるかトウカイテイオー!!三冠ウマ娘だ!!皇帝に憧れてターフに立ったウマ娘が今、同じ舞台に立ちました!三冠の帝王の誕生だ!!!』
(敗けた…。完全に…。)
『三冠阻むって言っておきながら、結局負けたのかよ、なっさけねぇ。』
(…!?)
『ホント、大口叩いて負けるとかカッコ悪すぎでしょ。』
(あ…あ…。)
『そんな負けた奴よりもテイオーだよ、テイオー!三冠だって!スゴいよね~。』
『テイオー!テイオー!テイオー!』
(私、は…)
「っはぁ!!?」
飛び跳ねるように起き上がるノイズサウンド。寝間着は大量の汗でぐっしょり濡れており、肌に張り付いて気持ち悪さを感じる。時計を見ると、針は午前4時を指していた。
(次の菊花賞…私は…勝てるのか?)
まだ日が上っていない一人しか居ない寮の部屋でノイズサウンドは頭を抱えたのだった。
(次の菊花賞…距離は3000m…。)
まだ外が暗いグラウンドでノイズサウンドは一人、菊花賞を想定した自主トレーニングを行っていた。
イメージで作り上げた出走者達を相手に走るノイズサウンド。そして、最後の直線へ入った瞬間にスパートを掛けた。
(走れ…走れ…!もっと走れ!)
ノイズサウンドはイメージ上の相手を次々と追い抜いていく。しかし、その顔に余裕はなかった。
(まだだっ!まだこの程度の加速では、今後成長するアイツに追い抜けない!!)
イメージ上の前を走る相手に追い抜こうと歯を食い縛って加速を続けるノイズサウンド。
だが、それでも前を走るイメージは駆け抜け、小さくなっていく。
「はっ、はっ、はぁっ…。」
ゴール板を通り抜けたノイズサウンドは満身創痍になり、全身で息をする。
思い切り走った反動で胃の中のものが込み上がりそうになるのを、息を整えてこらえる。
「勝てるイメージが…浮かばない…。」
そして、途方に暮れるように空を見上げて呟いたが、そのまま静寂に吸い込まれるだけだった。
「…今日の練習はここまでにするぞ。」
その日の放課後、恐山はトレーニングをし始めて一時間ほどで練習の終了を告げた。
「は?」
「ふぇ?」
「…へ?」
普通ならば、二、三時間もトレーニングメニューを組んでいる恐山が一時間で練習を切り上げた事で担当のウマ娘達はそれぞれ困惑の声をあげた。
「ちょっと待ってください。トレーナーさん?一体どういう考えですか?」
代表してノイズサウンドが語気を強めながら理由を問い詰めた。しかし、恐山はそれでも表情を変えず、理由を話す。
「ライスシャワー以外のお前らがおかしいからだ。」
「…私達に、分かるように、言ってくださいますか?」
恐山の大雑把すぎる理由にノイズサウンドは苛つき始める。その圧は日本ダービーの最後の直線で見せた圧と同等のものだ。しかし、それでも、恐山は臆さずに口を開いた。
「じゃあ、具体的に言うぞ。まずはカイシン。お前の走りはどこか上の空だぞ。何があったか分からんが、そんな状態で練習されても何も身に付かないぞ。さっさと吹っ切れろ。そしてノイズ、お前はいつものコンディションじゃないな。ダービー以降、無茶な自主練でもしているのか?だったら止めておけ。」
担当の事をよく見ている発言でカイシンは気まずそうに俯いた。しかし、もう一人は黙っていなかった。
「無茶な自主練?何を言っているのですか?私がそんなに疲れきっているように見えるのですか?私はいつも通りですよ?貴方の目はサングラス越しだから曇って見えてるのですかね?早く練習を再開させてほしいので次のメニュー教えてください。」
「駄目だな。俺はお前らのトレーナーだ。お前らが絶好調で走る姿を腐るほど見てきたし、いつものお前らの様子もよく見てきた。そんな俺から見たお前ら二人の様子が、いつもと違うから今日の練習を切り上げた。文句を言われる筋合いはないな。」
「ほう?そうですか、そうですか!それはつまり、私に菊花賞を負けろと言っているという認識でよろしいですかな!?」
「おい、ノイズ。お前は何をそんなに焦ってるんだ?トウカイテイオーに二連敗したのが堪えたのか?」
ノイズサウンドが食い下がり、恐山が反論し、ノイズサウンドが更に噛みつき、恐山が図星を突く。
「あ、あわわ…ど、どうしよう、カイシンさん…!」
「え、えーと、えーと…。」
このままでは言い争いがヒートアップして関係が拗れてしまう。そう察した外野の二人はどう穏便に収めようか、右往左往する。
「大変よ!誰か来て!!」
その二人を止めたのは助けを呼ぶ第三者のウマ娘だった。体操着を着ていることからトレーニング中の事故だろう。
「どうした?」
恐山はノイズサウンドとの言い争いを切り上げて、事情を聞くことにする。しかし、ノイズサウンドはどこか不機嫌な様子だ。
「テイオーちゃんが…!足を押さえて痛がっているの!」
しかし、助けを呼んだウマ娘が事情を説明し終える前に、ノイズサウンドは凄まじいスピードで現場へと向かっていったのだった。
保健室へと運ばれたテイオーは診断の結果、ダービー直後に足の骨にヒビが入り、その状態のまま練習した結果だと言われた。菊花賞の出走は難しいとも言われ、テイオーとそのトレーナーはショックを受け、付き添ったノイズサウンドは完全に顔から表情が抜け落ちてしまった。
「…………。」
「…テイオーはどうだった?」
ノイズサウンドは何も言わずに保健室から出ていった。外には恐山とそのチームメンバーがおり、恐山が尋ねた。
「…菊花賞の出走は難しいと診断されました…。」
「そ、そんな…!」
「テイオーさん…大丈夫かな…。」
ノイズサウンドからの報告に恐山は眉間にシワを寄せ、カイシンとライスシャワーはテイオーの身を案じた。
「…今日のトレーニングはもう終わりにしましょうか。先程は我が儘を言って申し訳ありませんでした…。」
ノイズサウンドはさっきまでの覇気が嘘のように無くなり、すんなりと恐山の言うことを聞いた。
「…おう。」
恐山はそう返したが、とぼとぼと歩くノイズサウンドの後ろ姿が前よりも小さく見えたのだった。