そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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ストック尽きたので不定期になりまーす。


問題児、皇帝と走る

 皇帝シンボリルドルフが模擬レースをする。その情報は瞬く間に広まり、レース場はルドルフの走りを見ようと大勢のトレーナーとウマ娘たちで賑わっていた。

 

「やれやれ、まさかこんな事になるとは。人生何が起こるか分かったもんじゃないですね。」

 

「どどどどど、どうしてそんな涼しい顔でいられるんですかぁぁぁ…。さっきこっそりレース場覗いたら物凄い人だかりが出来てたんですよぉぉぉ…。観客はみんな人参…人参…。」

 

 控え室でゼッケンを着けたノイズサウンドは悠々としているが、それに対しカイシンは緊張で身震いが止まらない状態だった。そんなカイシンを見てノイズサウンドは玩具を見つけた子供のように口角を上げた。

 

「観客は皆人参ですか…。歓声を上げる人参が大量に転がっているレース場で走るのはどんな気分ですか?」

 

「うわぁぁあぁあ!!落ち着こうとしていたのに止めてくださいよぉおおぉぉっ!」

 

 思った通りの反応をするカイシンにノイズサウンドはケラケラと笑う。

 

「レース場を走るウマ娘の理想として、ここは慣れる場だと思っておいた方が気が楽ですよ?有馬記念や天皇賞等のG1レースだと、これの倍以上は余裕でいると思いますので。」

 

「あぁ…三女神様はどうして、わたしをこんな運命に…?」

 

「さぁ、行きましょう。生徒会長を待たせるわけにはいきませんからね。」

 

 ノイズサウンドは途方に暮れるカイシンの襟を掴んで、一緒に控え室からレース場へと向かった。

 

 

 レース場に出るとそこにはシンボリルドルフが腕を組んで二人を待っていた。その佇まいから、そして観客席から聞こえる賑わいから醸し出す、上に立つ者としての威厳にノイズサウンドは表情こそは変わらないものの冷や汗を流し、カイシンは圧倒されていた。

 

(観客、雰囲気、歓声…これがシンボリルドルフの影響力…。レース映像を見ていたからどうにかなると思っていましたが…やはり生だと実感しますね。圧倒的な強者だと。)

 

(ひ、ひぇぇ…。会長怖いぃ…。)

 

「よく来てくれた。私の我儘を聞き入れてくれて感謝する。」

 

 ゲート前でシンボリルドルフは二人に笑い掛ける。

 

「いえいえ!かの皇帝の異名で知られる貴女の誘いを断るなど、それこそ無礼千万ですよ。」

 

「あ、あああああ、あの!よろしくお願いします!!」

 

 シンボリルドルフの言葉に二人は返事をする。

 

「模擬とは言え、手加減しませんよ?もしかすると、私が勝ってしまったりして。」

 

「フッ、そうでなくては面白くない!では、始めようか。君達の矜持をこの私に走りで示してくれ!」

 

 ノイズサウンドは不敵な笑みを浮かべた顔で、カイシンはこの世の終わりのような顔で、シンボリルドルフは真剣な顔で、ゲート入りをした。

 

 一瞬訪れる静寂。

 

 その静寂はゲートが開く音を合図に歓声に変わった。

 

 最初はカイシンが先頭、その後ろにシンボリルドルフ。そして最後尾にノイズサウンドの順となった。

 

(無理無理無理ルドルフ会長に勝てるわけないってもうずっと後ろで足音が聞こえてるし離れないもんでもここで全力出さなきゃ失礼だしでも会長に叶う相手なんているの居ないよねだからもう何位でもいいからとにかく走り抜かなきゃ走って走って走ってビリでもいいから走らなきゃああでも勝ちたいなぁどうしようどうすれば勝てるのこれ無理だよね無理じゃんでも勝ちたいえこれどうればいいの勝っちゃったらわたしが皇帝になっちゃうってことむりむりむり)

 

 カイシンは頭の中が混乱しながらも走り続け、先頭をキープする。

 

(今のところ、カイシン君は掛かり気味だが、問題があるようには見えないな…。だが、それよりも問題なのは、私の後ろにいるノイズサウンド君だ。彼女は何故、追込の走りをしているのだ?過去に何かあったのか?)

 

 シンボリルドルフは自分の前と後ろを走るウマ娘の分析をする。だが、今はレース中。疑問は捨てて、走りに専念する事にした。

 

(流石は皇帝シンボリルドルフ…。選抜レースのウマ娘達とは一線を越えた…いや、最早次元が違う走りですね。彼女に憧れて走るウマ娘もいるわけだ…。あぁ、そうですよ!この素晴らしい走りをするウマ娘を追い越して勝つ!何とも素晴らしい下剋上ではないか!)

 

 ノイズサウンドは自分の前を走るシンボリルドルフの背中に闘争心を燃やし、スパートへの活力にする。

 

 そして最終コーナー。最初に抜け出したのはノイズサウンドだった。

 

「では、お先に!」

 

 ノイズサウンドは溜めていた脚力を開放すると一気にシンボリルドルフとカイシンを追い抜いて行った。

 

「そう易々と譲るか!」

 

 だが、シンボリルドルフは逃がさない。直ぐ様ノイズサウンドの横に付いて、競り合う。

 

(っ。やはりそう簡単に行かせてはくれませんか!それでこそ心が踊る!)

 

 ノイズサウンドも負けじと加速し、熾烈なデッドヒートを展開し始めた。

 

 そして、最後尾になってしまったカイシンは、

 

(あああああああああやっぱり無理ですよね知ってた知ってましたやっぱりこんな事になるよねそうですよねああでも悔しいなぁ勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい)

 

 段々と走り方が変わっていき、グングンと前を走る二人へと近付いて来た。

 

「なぁにが皇帝だ!一着は俺様のもんだ道開けろやこらぁああああああああ!!!」

 

 豹変したカイシンにノイズサウンドは始まったと言わんばかりの表情をし、シンボリルドルフは驚きながらも、直ぐに冷静になり引き離しに掛かる。

 

 最後の直線は三人によるデッドヒートを展開した。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けちゃいましたねぇ…。」

 

「…………。」

 

 シンボリルドルフの圧倒的な加速に追い付けず、敗北を喫した。ノイズサウンドは追い越せただけマシかと開き直ったが、豹変したカイシンはそれでも追い抜こうと無茶なペースで走ってしまい、残り100mでバテて失速、ビリになった。

 

 そして、今現在ノイズサウンドとカイシンは控え室でそれぞれ椅子に腰掛けて黄昏ていた。ノイズサウンドは天井を眺めながらシンボリルドルフとのレースを噛み締め、カイシンはスタミナが切れ、ただただぐったりしていた。

 

(あれが皇帝の走り…。直接対決して分かったのは、あの走りをイメージトレーニングの相手にすればトゥインクルシリーズはそれなりに行けるかもしれないと言う事だけ…。厄介な相手ですねぇ。)

 

 ノイズサウンドはしみじみとシンボリルドルフの走りを思い返し、噛み締める。あのルドルフに勝つのは容易ではない。だからこそ燃える。だからレースは止められない。凶悪な笑みを浮かべ、いつか絶対の走りを持つ皇帝を討つべく、ここ最近萎えかけていた闘争心を燃やしていた。

 

(……後半全く覚えてないけどぉ、わたしの前を走る会長とノイズサウンドさんの走り、スゴかったなぁ…。わたしもあんな風に、なれるかなぁ…。あぁ~!何で最後らへん覚えてないのぉ~!?)

 

 カイシンは考える余裕が出来るほど回復し、レース中に残っていた自分の前を走り、引き離す二人を思い出す。が、そこから記憶に靄が掛かったようになってしまう。いつも第4コーナーを越えた辺りから曖昧になる自分の記憶力が嫌になる。だから、最初から最後まで覚えていられるようになろう。そう決意する。

 

「失礼する。」

 

 すると、控え室のドアが開き、サングラスを掛けた細身の中年男性が入ってきた。二人は、突然の訪問者に目を向ける。

 

「お前らがさっきシンボリルドルフと競っていた二人だな?単刀直入に言う。お前ら、俺の元で走れ。」

 

「え…。」

 

「ほう。」

 

 入ってきた男性はキッパリと勧誘してきた。二人は続く突然の出来事に思わず声を出した。

 

「と、トレーナーさん…?」

 

「…クックック!私たち二人を勧誘するとは、余程の物好きですね。」

 

「お前ら二人の走りを見て決めた。だから来い。」

 

 言葉数は少ないが、サングラス越しに見える眼差しは真剣だ。丁度レースに対する情熱を燃やし始めた二人にとっては渡りに船の状況だった。

 

「良いでしょう!こんな変人ウマ娘である私たちを受け入れて、どれだけ胃に穴を空かずにいられるか興味があります!受け入れましょう!」

 

「うんうん…うん?ちょっと待って下さい。変人ウマ娘たちって、わたしも入ってるんですかぁ?」

 

「おや、入らないのですか?」

 

「いや、入りますよぉ!でもノイズサウンドさんに変人扱いされたくないですよぉ~!」

 

 こうして、担当トレーナーが決まった二人のウマ娘の戦いが始まったのだった。

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