そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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カレンチャン出なかったので初投稿です。


問題児、意気込みを語る

『ねぇ、わたしたち、これからも一緒でしょ?一緒に有馬記念を走ろうね!』

 

『と、トレセン学園って、一人しか行けないの…!?』

 

『今度のレース、アンタは後ろで走っててよ。アタシの頼み聞けるでしょ?友達なんでしょ?』

 

『何で…何で脚質合ってない筈なのに一着になれるの!?意味分かんない!』

 

『絶対に…絶対に許さない!アタシを差し置いてアンタ一人だけトレセン学園に行って!許さない!絶対に許さない!』

 

『この悪魔!アンタなんか屈腱炎になって走れなくなってしまえ!』

 

 

 

「……久しぶりに見ましたね、この内容の夢。」

 

 ノイズサウンドはゆっくりと体を起こしながら呟く。

 

「…まだ引きずってるようでは甘いですね、私も。」

 

 夢の内容は脳の記憶の整理の為に行われていると言われているらしい。

 昔の出来事を忘れられない自分は何なのだろう。いや、むしろ今の自分が出来た出来事だから忘れないのだろう。

 ノイズサウンドは自分一人しか居ない部屋のベッドの上で自嘲気味に、クックックと嗤ったのだった。

 

 

 

 カイシンは同室のウマ娘と共に身支度中だった。同室のウマ娘はそれとなしにカイシンに話し掛ける。

 

「ビックリだよね。昨日トレーナーから解雇されたと思ったら、あのルドルフ会長と走って、もう新しいトレーナーが着いてるんだもん。」

 

「あはは~。わたしもビックリしたよぉ~。」

 

「にしても、あのノイズサウンド先輩と一緒のチームって…運が悪いと言うか、何と言うか。」

 

 何やら良い印象を抱いてないように含みを入れる同居人。それにカイシンは首をかしげた。

 

「?ノイズサウンド先輩って、有名人なんですかぁ~?」

 

「有名も何も、このトレセン学園の問題児に名を連ねている先輩だよ!?あの意地の悪い感情が読めない笑顔で喋る人なんだよ!?同室とか無理だって!」

 

 どうやら、ノイズサウンドはカイシンがいる寮と同じ寮なのだが、あまりにも不気味すぎて同居したくない、朝イチに話し掛けられたくないと言う意見が集中したらしい。寮長のフジキセキが注意したらしいが、

 

「ほう、ほうほう!寮長様は私に肺呼吸をするなと仰られるのですか!生憎、この顔は生まれつきのもの。それを止めろと言うのは酷なものかと思いますがねぇ?」

 

 と、反論した結果、寮の一番端っこの部屋に一人だけ移されているらしい。

 

「へぇ~。」

 

「だから、あんまり関わらない方が良いよ。何されるか分かったもんじゃないし。」

 

 そうアドバイスされた直後、出入口のドアを誰かがノックしている音が聞こえた。

 

「あ~。わたし今髪飾り付けてるから出て~!」

 

「はいはい。」

 

 鏡と向かい合って髪飾りを付けてるカイシンに代わり、同室のウマ娘がドアを開けると、

 

「やぁ、お」

 

 さっき話題に出したウマ娘(ノイズサウンド)がいた。思わずドアを閉めてしまい、気のせいかと思い、もう一度開けると、

 

「はよう!」

 

 やっぱり問題児(ノイズサウンド)だった。同室のウマ娘はドアを閉め、カイシンに呼び掛ける。

 

「ね、ねぇ、カイシン?」

 

「ん~?」

 

「ノイズサウンド先輩が、ドアの前にいるんだけど…。」

 

「あ、分かった~!」

 

 

 

 

「いやはや、こうやって訪ねに行くのは初めてだったのですが、いきなりドアを閉められるとは思っても見ませんでしたよ。」

 

「あはは~。怖がられちゃってるねぇ~。」

 

 その後、一緒に寮から出て登校するノイズサウンドとカイシン。ノイズサウンドは迎えに来て挨拶したら閉められた事にわざとらしく悲しそうな顔をするが、カイシンはのほほんと笑う。周りではノイズサウンドが誰かと一緒に歩いていることに不思議に思ったウマ娘たちの視線が集中しているが、二人は気にすることなく校舎へと入っていった。

 

「おや、貴女は中等部だったんですか。」

 

「そうなんですよ~。じゃあ、午後のトレーニング頑張りましょ~!」

 

 

 

 そして午後、担当のトレーナーが着いた二人は、先にレース場でトレーナーが来るまでの間、軽く準備運動をしていた。特にカイシンは鼻唄を歌いながら体をほぐしていることから上機嫌なのが見てとれた。

 

「ご機嫌ですね。」

 

「えへへ~。そりゃあ、そうですよ~。こうしてわたしたちにトレーナーが着いたんですからご機嫌になりますよぉ~。」

 

「…にしても、その喋り方が貴女の素なのですね。」

 

「ふぇ?何の事ですか~?」

 

「おっと、トレーナーさんが来ましたよ。」

 

 ノイズサウンドが言った通り、勧誘したトレーナーが現れた。ズボンのポケットに手を突っ込みながらこちらに歩いてくるサングラスを掛けた男。これに煙草を咥えていたら裏関係の人間だと思われかねない容姿のトレーナーにカイシンは慌てて背筋を伸ばし、ピシッと音が出そうな程の気を付け姿勢になった。

 

「と、トレーナーさん!きょ、今日から、よ、よろしゅく、よろしくお願いします!」

 

「昨日言ったが、今日からお前らのトレーナーになった恐山蓮(おそれやまれん)だ。よろしく。」

 

 カイシンは緊張のあまり舌が回らず噛んでしまったが、新任トレーナーの恐山は気にすることなく話を続けた。

 

「まずはお互いの事を知るために質問タイムにする。何か…ノイズサウンド、何だ?」

 

 恐山が言い終わる前にノイズサウンドが挙手をし、恐山はノイズサウンドに言うよう促す。

 

「私たちを誘ったのならば、何故選抜レースの時に誘わなかったのですか?」

 

「まず、カイシン。お前は選抜の時に目を付けていたが、お先に取られてしまったからだ。まぁ、チームから外されたって聞いたときは棚からぼた餅が落ちた気分だったな。」

 

「あー、そうですか…。」

 

 最初に自分を誘った理由を聞いたカイシンは怒って良いのか、喜んで良いのか分からない複雑な表情になる。

 

「そしてノイズサウンド。お前は選抜レースで全く本気を出さない走りをしていたから、敢えて誘わなかった。だが、シンボリルドルフとの模擬レース。あの皇帝と本気であそこまで張り合う実力、磨けば光ると思ってな。」

 

「…ほうほう。つまり貴方は私に皇帝を越えろと。そう言いたいのですね?」

 

 そしてノイズサウンドは面白そうに邪悪な笑みを浮かべ、わざとスケールを大きくして意地の悪い返しをする。

 

「あぁ。最終的にはそこまで行く予定だ。その間にお前たちをクラシック三冠取れる程の実力を付けてやる。」

 

 だが、恐山トレーナーは臆することなくハッキリと返した。恐山トレーナーの言葉にカイシンは息を飲む。

 

「さ、三冠…。」

 

「今年のクラシックは普通なら三冠を取れるような連中が転がっているんだぞ。それでもやれるか?」

 

 恐山トレーナーの問い掛けにカイシンは尻込みする。クラシック三冠とは皐月賞、日本ダービー、菊花賞の事でそれぞれ速いウマ娘、運が良いウマ娘、強いウマ娘が勝つと言われている。それを三連覇すると言う事は速く、運が良く、強い。その三つを兼ね備えていると言うことになる。そんな過酷な目標にログマイヤは息を飲むが、ノイズサウンドの含み笑いが聞こえてきた。

 

「クックックッ…フッフッフッフッ…!アーッハッハッハッハッ!!」

 

「ノ、ノイズサウンドさん?」

 

 見事な三段笑いにカイシンはポカンとする。

 

「あー…、こんなに笑ったのはいつ以来でしょうか。クラシック三冠!そこまで言いますか!ますます気に入りましたよ!ならば、貴方の為に見事三冠を取って見せましょうか!」

 

「わ、私も!長距離は難しいかもだけど、頑張ります!」

 

 ノイズサウンドはひとしきり笑ったあと、恐山トレーナーと握手を交わそうと手を差し出す。カイシンも同調して意気込みを語ろうとした。

 

「ちょぉーっと、待ったぁーっ!」

 

 すると、第三者の声が割り込み、三冠に意気込むノイズサウンドたちに待ったをかけた。

 

「とぅっ!」

 

 声がしたほうへ目を向けると、トレーニング中だったのか、ジャージを着た一人のウマ娘が軽々とコースの柵を飛び越えて、華麗に着地した。

 

「何だか聞き捨てならない言葉が聞こえたぞー!」

 

 現れたウマ娘は長めのポニーテールでシンボリルドルフのように白い一房の前髪が特徴のウマ娘だった。

 

「へ?あ、あなたは…。」

 

「カイシンさん。一緒に走ることになるかも知れない相手の事はしておいた方がいいですよ?彼女はトウカイテイオー。あのルドルフ会長に憧れて走っている、まさに主人公のような志を持つウマ娘です。」

 

 唐突に現れたウマ娘、トウカイテイオーにカイシンはまたも戸惑うが、ノイズサウンドは面白そうに口を歪めた。

 

「お?ノッポの君ぃ、ボクの事を知ってるみたいだねぇ。」

 

「いえいえ、あれだけ胸を張って目標を宣言すれば記憶に残りますよ。クラシック三冠。あのシンボリルドルフも達成した業績を後を追うように進むウマ娘は後を絶ちませんからねぇ。」

 

「それよりも、キミも目指しているんだね。クラシック三冠。言っておくけど、三冠達成はボクのものになるんだ。キミには負けないよ!」

 

 トウカイテイオーの意思の強い目と言葉に、ノイズサウンドは目を見開き、これまで感じたことない、不思議な感情が沸き上がってきた。

 

(…何でしょう、これは。私に向けるトウカイテイオーの目と言葉に、震えているのか?…これは恐怖じゃない。これは、むしろ…。)

 

「クックックッ…。負けない、ですか。面白い!そこまで言うのならば、私も貴女に全力を出さねば無礼と言うものです!いいでしょう。その挑戦、受け入れます。貴女がその夢に邁進するならば、私も受けて立ちますよ!トウカイテイオーさん!この私、ノイズサウンドは貴女の三冠達成の夢を阻んで見せましょう!」

 

「にししっ!望むところだよ!ノイズサウンド!名前は覚えたからね!」

 

「あ、あの、ノイズサウンドさんが悪役みたいに…トレーナーさん!止めないんですかぁ!?」

 

「別に良いだろ。最終的に勝てば官軍だ。」

 

「面白がってますよねぇ!?トレーナーさぁん!」

 

 滾る感情をそのままにノイズサウンドはトウカイテイオーに宣戦布告をし、トウカイテイオーも受け入れた。そして、これからのトレーニング内容を考える事で恐山トレーナーは僅かに口角を上げたのだった。

 

 

 

「ふふっ、そうか…。面白くなってきたな。」

 

 その様子をレース場を一望できる場所から見下ろす一人のウマ娘がいた。シンボリルドルフだ。

 問題児二人の実力を模擬レースで実感したルドルフはそのままにしておくのが惜しいと思うほどの才能だと思っていた。そんな二人にトレーナーが着いた。その情報が耳に入ったルドルフは安堵していたのだ。

 

「あの二人もトレーナーが着いてくれて、テイオーも同じ三冠を狙う良いライバルが出来たな…。」

 

 自分に憧れてやって来た、天才的才能を持つトウカイテイオーと、これまで選抜レースで燻っていた、問題児の激突。このトゥインクルシリーズは大いに盛り上がるだろう。

 まだ見ぬ未来に夢を見て、シンボリルドルフはその場を後にした。


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