そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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マンハッタンカフェちゃん欲しいと思いますか?ボクは思いますけど。


問題児、問題に直面する

 トウカイテイオーに宣戦布告をした後、早速トレーニングを始め、まずは併走トレーニングで脚力とスピードを鍛えるところから始めたのだが…。

 

「誰の許しで俺の前走ってんだてめぇ!?あぁ!?てめぇだよてめぇ!!その気色悪ぃ薄ら笑い顔ひっぺがしてやろうか!?おい待てやコラァ!!逃げんじゃねぇよ止まれやてめぇ!!」

 

「はぁ…、喧しいですよ貴女。」

 

「あぁ!?今何つった!?もっぺん言ってみろよこの×××が!!!」

 

 早速、問題に直面した。

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…。」

 

「やれやれ。これは前途多難ですよ、トレーナーさん。」

 

「…まさか併走トレーニングだけでああまで豹変するとはな。こりゃチームから外されるわけだ。あんな感じで付き合わされたウマ娘の身が持たんし、メンタルにも影響する。」

 

 案の定、カイシンは途中から豹変して怒鳴り散らしながらノイズサウンドを追い越そうとし始めた。

 

 だが、ノイズサウンドは一緒に走るのは二度目のため、どう来るのか、どういうペースで走るのか予想していたので余裕綽々で走っていた。

 

 その一方、カイシンはシンボリルドルフとの模擬レース同様、中盤から無茶なペース配分、怒鳴り散らし余計な体力の消耗、そしてその二つを掛け合わせて大幅にスタミナを消費したことによる失速。

 

 コースを一周するまでにペースを保てないようでは今後のレースの障害になってしまうことは明白だった。しかもタチが悪いことに、走り終えると問題の人格は引っ込んでしまうのだ。

 

「カイシン、聞こえるか?返事できるか?」

 

「は、はひぃ…何とかぁ…。」

 

 恐山トレーナーが意識の確認を取ると、カイシンは汗だくで息絶え絶えながら、返事をした。その様子を見た恐山トレーナーは口を開く。

 

「そうか、なら答えろ。お前は一人で走っているときはどれくらいの距離を走れる?」

 

「マ、マイルから、中距離、です…。」

 

「記憶はあるんだな?」

 

「一人で、走っているときは、ちゃんと、最後まで、覚えてますぅ…。でも、誰かと一緒に走ると、いっつも、後半の、記憶が無くてぇ…。」

 

 カイシンの言葉に恐山トレーナーは思案するように腕を組んだ。カイシンは普通のウマ娘とは違う。だから普通のトレーニングでは才能を伸ばすことはできない。

 

 前半の走りはフォームやペース配分はそれなりにいい線を行っているのだが、後半の諸々が完全にダメにしてしまっている。

 一人では勝負にならないし、かといって二人以上になると、まるでスプリンターのようなペースで走ってしまい、それに加え妨害行為を行ってしまう悪癖。

 

 こんな状態で本番に出してしまえば、良くて降着。最悪の場合、出走停止になりかねない爆弾を抱えていた。

 

「…ふむ。なら、今日のカイシンの練習はこれぐらいにしておくか。おい、カイシン。お前はこれから柔軟体操をして筋肉をほぐせ。」

 

「は、はい。ありがとうございますぅ…。」

 

 恐山トレーナーはカイシンのトレーニングメニューをもう一度よく考える事にし、コースの端で柔軟するよう指示して、カイシンも従ってヘトヘトになりながらも移動していった。

 

「では、私はこれからどうトレーニングするのですか?恐山トレーナー?」

 

「ああ、そうだな。さっきのお前の走りを見て意見を言おうと思うが、構わないな?」

 

 疲労困憊のカイシンを見送った後、まだ余裕があるノイズサウンドがトレーナーに指示を仰いで来た。恐山トレーナーはノイズサウンドと意見交換をしようとノイズサウンドの目を見て、サングラス越しの目を細めた。

 

 此方を見るノイズサウンドの目は、まるでトレーナーを試すかのように挑戦的な眼差しだ。日が暮れ掛けていることも相まって、その顔は不気味にも見える。

 

 下手なことを言えば、失望されかねない。そんな感じの視線だ。だが、これから二人三脚で走る相棒でもあるのだ。恐山トレーナーは、自分なりに真摯に向き合おうとした。

 

「えぇ、どうぞ。忖度の無い真っ直ぐな意見をよろしくお願いします。」

 

「お前はこれまで追込の走りをしているが、それは何故だ?」

 

「…おや。もしかして貴方も他の方と同じような疑問を?ならば、答えましょう。今の私にとってはこの走りが一番気持ち良く走れるからです。」

 

「…そうか。まぁ、実際のお前は選抜レースを余裕で一着になり、あの模擬レースでもシンボリルドルフと接戦になる程の実力がある。…でもそれはお前の本気じゃないだろう?」

 

 恐山トレーナーはノイズサウンドの不気味な笑顔に臆することなく睨み返す。

 

「…と、言いますと?」

 

「お前の走りは他のウマ娘の走り方を観察しているようだった。最初は走るコースを予測しているのかと思っていたのだが、選抜レースと模擬レース。この二つでのペース配分とスパートを掛けるタイミングが違った。」

 

 恐山トレーナーの分析をノイズサウンドは黙して、笑顔のまま聞き続ける。

 

「それで俺が考えたのは、お前は自分が戦うに相応しい相手だと認識すればそれだけ本気で走れるのではないか?とな。」

 

「…よく見ておられるんですね。えぇ、正解ですよ。私は自分が戦って満足できる相手だと思ったなら本気を出す性分です。」

 

「トウカイテイオーとのやり取りも、そうなのか?」

 

「そうですねぇ。あのトウカイテイオーの私に臆さない、あの真っ直ぐな目、夢に向かって邁進する自信と希望に満ち溢れたあの顔を曇らせると、どうなるか。考えただけで滾りますよねぇ?」

 

 ノイズサウンドは宣戦布告してきたトウカイテイオーの顔を思い出し、更に邪悪に満ちた表情になる。

 

 夢を持ってやって来たウマ娘を絶望させて、その様を見て嗤う。

 

 興奮気味にそう語るノイズサウンドはこの学園に来るウマ娘にあるまじき思想を持っていた。

 

「…そうか。お前のその話を聞いて、前任はどう答えたんだ?」

 

「前任?あぁ、その方、というかほぼ全員、激昂して私を非難しました。そのような目的で走るな。とね。」

 

「…なるほど。」

 

「全く、器は広くなくちゃいけませんよ。このトゥインクルシリーズには悪役と呼ばれるようなウマ娘は居りませんが、皆が仲良しこよしで走っているわけではないでしょう?ここは勝負の世界。同じ釜、同じ志を持って走る仲間。そして、その後に残るのは勝利の栄誉を手にし、讃えられる者と、夢破れて慟哭し、怨嗟を吐く者。その二つに分かれるのですよ。だから私のような存在が居ればレースも盛り上がると思うのですがねぇ?」

 

「…それは、お前が経験したものか?」

 

「…おっと。私としたことが、つい熱が入ってしまいました。フフフ、さっきの話をどう捉えるか貴方次第ですよ、トレーナー?」

 

 恐山トレーナーがその一言を言うと、流暢に喋っていたノイズサウンドははぐらかすように笑い、ランニングしに行った。

 

(こいつが、カイシンとはまた違う意味で問題児と言われる所以か…。)

 

 とんでもないじゃじゃウマ娘を引き当ててしまったな。

 運動後のストレッチをするカイシンと残った恐山トレーナーはそう独り言を言う。

 

 だが、トレセン学園に所属するトレーナーとして、一癖二癖あるウマ娘達をターフの上で駆けさせる職業に居る以上、背に腹は代えられないと今後の予定を脳内で構築するのだった。

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