トレーナーが着いた後のノイズサウンドとカイシン。二人は恐山トレーナーのトレーニングスケジュールの元、来るデビュー戦に向け切磋琢磨をしていた。
「よし、今日はこれくらいにするぞ。」
恐山トレーナーが終了を告げるとノイズサウンドは肩に掛けたタオルで顔を拭って程よい疲労と成果を得たような様子だが、それと対照的にログマイヤは相変わらずヘロヘロの疲労困憊のような状態になりながら戻ってくる。
「と、トレーナーさぁ~ん…。わたしの悪癖ってぇ…どうすればぁ…。」
息絶え絶えのカイシンはアドバイスを要求するが、恐山トレーナーとノイズサウンドは二人揃って微妙な顔になった。
遡ること、一時間前。
「…嘘、ですよね…?これって、わたしなんですか…?」
併走トレーニングした時の様子を録画し、その時の様子を見せられたカイシンはいつもの間延びした口調ではなく、本気で絶望している声音で喋った。
これまで併走した相手はただ怖がるか、カイシンの前任トレーナーのように言葉を濁していた。それは、教えてしまえば自信喪失に繋がるかもしれないと言う優しさから来たものだった事が窺える。
「あぁ、紛れもなくお前だ。カイシン。」
「残念ながら貴女なんですよ、これ。」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
しかし、恐山トレーナーとノイズサウンドはそんな優しさを無下にするようにキッパリと言い切った。言い切ってしまった。
今までの自分の走りを突き付けられたカイシンは、
練習を終えた二人は、寮に向かって歩いていた、いつものように歩くノイズサウンド。だが、その隣でカイシンは目に見えて落ち込んだようにトボトボと歩いていた。
「はぁ…。後で一緒に走ってくれた子に謝りに行かなきゃ…。」
「律儀ですねぇ。もう貴女とは関わりのないウマ娘ですよ?知らぬ顔でいれば良いのではないですか?」
「でも、記憶が無くてもやったのはわたしなんですよ~…。だから、今まで一緒に走ってくれて、た…。」
「ん?どうかなさいましたか?」
突然、カイシンの言葉が途切れた事にノイズサウンドは不思議そうに尋ねたが、カイシンは何かを思い出したかのように顔面蒼白になりだし、そして、
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然叫び出した。周りにいた他のウマ娘はビックリして何事かと目を向けるが、カイシンはそれでも気にせずに取り乱し続ける。ノイズサウンドは何やら面白くなりそうだと思い、下唇を噛んで、にやけるのを我慢していた。
「ルドルフ会長!!最初にルドルフ会長に謝りに行かなきゃ!!あの時のわたし絶対ルドルフ会長に暴言吐いちゃってる!吐いちゃってるよね!?ノイズサウンドさん!!」
「…まぁ、『何が皇帝だ。』とか、『先頭を譲れ』とかは言ってましたね。」
「生徒会室に行ってきます!!!!先に帰ってて下さい!!!!」
カイシンはノイズサウンドの証言を聞くや否や、練習後だと言うのに凄まじいスピードで走っていった。
「…クックックック。これからが新しい日常になることでどうなることかと思いましたが、これなら楽しくやっていけそうですねぇ。」
一人残ったノイズサウンドは必死に駆け抜けて行くカイシンの後ろ姿を見ながら不気味に笑い、一人寮へと戻って行ったのだった。
それがノイズサウンドにとって新たな友人を作る切っ掛けが訪れる事になる。
数日後。
その日はトレーニングが休みの日だった。ノイズサウンドは趣味であるスプラッタホラームービーやパニックムービーの鑑賞に一日を費やそうとしていた。
しかし、突然カイシンから『新しく出来た友達とカラオケ行きませんか?』と、連絡が入ったのだ。たまには新しい友達とやらを弄って、他の刺激でも味わおうかと気紛れで了承したノイズサウンドは待ち合わせのカラオケ店へと向かったのだが…
「何故、貴女が居るのですか?トウカイテイオーさん。」
「えー、何だよー。ボクじゃ役不足だって言いたいのー?」
カイシンの新しい友達は自分のライバルになるウマ娘だった。ノイズサウンドはブーブー言うトウカイテイオーに対応しながらも、カイシンに話しかける。
「と言うか、どういう経緯で友人になったのですか?カイシン。」
「あ~、それはね~。」
ノイズサウンドの疑問にカイシンは間延びした口調ながら話してくれた。
それはカイシンがシンボリルドルフに謝罪しようとした時だ。
「いた!す、すいません!会長!!」
丁度、校舎から出てきたシンボリルドルフにカイシンは呼び止めると、スライディングしてそのままシンボリルドルフの前で止まって土下座をした。
「き、君は…?」
突然、ウマ娘が自分の事を呼んだかと思ったら、土下座してくる状況にシンボリルドルフとその隣にいたウマ娘は戸惑いを隠せなかった。
「あの!模擬レースをさせてくださった中等部のカイシンです!!この間は、レース中に会長に暴言を吐いてすみませんでした!!!お詫びに切腹でも何でも罰を甘んじて受けます!!だからどうか!どうか退学だけは勘弁してくださいぃぃぃぃ!!!」
「えっ!?カイチョーと走ったあの!?て言うかどうしたの!?」
「ま、待て待て!事情は分かったが、そんなに自分を責めないでくれ。」
饒舌に謝罪の言葉を述べるカイシンに同行していたウマ娘は混乱し、シンボリルドルフは落ち着くよう宥める。それでもカイシンは、まるで生まれたての子鹿のように震わせ、顔を地面に着けたままだった。
困ったように笑ったシンボリルドルフは土下座しているカイシンの背中を優しく撫でた。背中を触られたカイシンはビクリと身体が跳ねるが、顔は伏せたままだ。
「顔を上げてくれ、カイシン君。私はあの時の君に大層驚いたが、別段気にしてはいない。」
「ほ、ほんとですかぁ…?」
シンボリルドルフの言葉を聞いたカイシンは土と涙と鼻水まみれになった顔を上げる。
「あぁ。私も無敗でG1を勝ち続けてきたが、その道中も決して喝采ばかりではなかった。勝ち続ける私を非難する者、妬む者、火遊びをするように罵声を放つ者…。様々な声が耳に入ってきた。」
「会長…。」
「だから、罵声に関してはそれなりに耐性は付いているよ。それに、暴言以前に君の走りには私を追い抜きたいと言う気迫があった。それに応えない事こそが無礼だと思ったまでさ。」
優しく語り掛けるシンボリルドルフにカイシンは涙が止まらなくなった。これ程まで慈悲深い生徒会長に許してもらえた事が嬉しかったのだ。
「君の暴言についてだが、あれは私にしか聞こえなかったよ。安心してくれ。」
そう付け加えた事でカイシンの緊張の糸が解けたようで土下座から尻餅を着くようにへたりこんだ。
「ふーん…。キミも中々大変みたいだねぇ。」
その時、シンボリルドルフの隣にいたウマ娘、声が聞こえた。聞き覚えがある声にカイシンは視線を上げると、そこにいたのは…
「トウカイテイオーさんがいて、友達になってくれたと…。」
「うむ!ワガハイは未来の帝王サマになるウマ娘だからねー!友達になったのだー!」
「それに~、同学年だから仲良くなれたもんね~。」
「ねー!」
(これは、普段のカイシンが友達を作りやすいからか、それともトウカイテイオーさんのコミュニケーション能力が高いのか、もしくはその二つが合わさった結果なのか…。)
いつの間にか意気投合したのか、和気あいあいとする二人にノイズサウンドは呆れ半分、感心半分の気持ちでいた。
「そう言えば聞きましたよ、トウカイテイオーさん。見事デビュー戦を勝利したらしいですね。」
「え?知っていたの?」
「まぁ、風の噂程度ですが、貴女の反応を見るに当たっていたようですね。」
「おぉ~!それじゃあ~、テイオーさんデビュー記念にぃ~、一緒に盛り上がろぉ~!」
「いぇーい!」
「私が言いたかったのは、そういうつもりではなかったのですが…まぁ、楽しみますか。」
早速曲を入れ始めた二人に流されるようにノイズサウンドも付き合わされた。ノイズサウンドは、共にクラシックで走り、しのぎを削り合う相手を知る良い機会だと割り切ることにした。
「はい次!ノイズサウンドの番だよ!」
トウカイテイオーとカイシンが一緒に盛り上がっている様子を眺めていたノイズサウンドはトウカイテイオーからマイクを渡されて困惑した。
「…私も?」
「あはは~、ノイズサウンドさんったら、カラオケに来たらやることは一つでしょ~?」
その様子を見ていたカイシンも笑う。だが、ウマ娘としてこれからはライブの練習もしなくてはならないと考えたノイズサウンドはまたも渋々ながら曲を入れた。
「ノイズサウンドってどんな歌を歌うのかなー?」
「楽しみだよね~、テイオーさん。」
ワクワクしている二人を尻目にノイズサウンドが入れた曲は、
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」
デスメタルだった。完全無防備だったトウカイテイオーとカイシンは鼓膜を叩くような音圧で繰り出されるデスボイスに圧倒され…
「…ふぅっ。スッキリしましたね。」
「す、スゴかったよ…。」
「ノ、ノイズサウンドさんのデスボイス…スゴい…。」
歌いきったノイズサウンドは晴れやかな顔を見せるなか、二人は撃沈していたのだった。
豆知識
ノイズサウンドはパニックムービーが好きな理由は「逃げ惑うモブの行動一人一人を眺めるのが好き」だかららしい。
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