雑音はノイズサウンド
二重人格者はカイシン
問題児は二人
と、それぞれが主役の話にしていきます。
その後、トレーニングを積みに積んだノイズサウンドは晴れてデビュー戦へとやって来たのだが…。
「その…この間のトレーニング相手を人選ミスしたのは申し訳なかった。」
控え室のノイズサウンドはへの字になった口に腕を組み、片足をもう片方の足に乗せた姿勢という不機嫌な様子で座っており、恐山トレーナーは頭を下げていたのだった。
「えぇ、全くですよ。まぁ、誰でも良いと言ったのは私ですし?私も悪かったですよ?」
「そ、その割には~、不機嫌そうですよ~?」
こうなった原因は、デビュー戦前のトレーニングまで遡る。この時、カイシンはもう一人の人格を抑えながら走る練習のため、そしてノイズサウンドは他にもトレーニングしている(トウカイテイオーを除く)ウマ娘に嫌われ気味で、トレーニングに来ていたウマ娘のほとんどが目をそらし、関わろうとしなかったので恐山トレーナーは併走トレーニングは止めようとしたのだが、
「別に誰でも構いませんよ?」
と、ノイズサウンドが鶴の一声を放ったとこで恐山トレーナーは受けてくれそうなウマ娘のトレーナーを連れてきたのだったが…。
連れて来たのはトレセン学園で変人として有名なゴールドシップとそのトレーナーだったのだ。
ゴールドシップを見たノイズサウンドはいつもの笑顔が一気にへの字になり今までに見たことがない嫌そうな顔になった。明らかにテンションが落ちている。
ゴールドシップはそんなノイズサウンドの表情を気にもせず、
「よう、久しぶりだな紅ショウガ!アタシと一緒に宇宙に行きてぇって事か?遂にアンタもゴルシちゃん号の船員になる覚悟が出来たんだな!」
「私の名前はノイズサウンドですし、宇宙には行きませんし、そんなありもしない船の船員になった覚えはありませんよ。頭にちゃんと血液行き届いてるんですか貴女は。」
「おいおい、ノリが悪ぃなぁ。そんなんだからお前はヤキソバの具材にしかならねぇんだよ。そんなんじゃエデンなんか夢のまた夢のまた夢だぜ?かぁーっ!もっと素直に笑えよな!?」
ワケの分からない解釈でノイズサウンドに話しかけた。対するノイズサウンドは嫌そうに否定してきたがゴールドシップの奇妙なマシンガントークに押し黙ってしまう。
後になって分かったことだが、ノイズサウンドはトレセン学園編入当初は色んな先輩に皮肉を込めた挨拶をしようとしていたらしい。
それこそ、生徒会の女帝エアグルーヴや皇帝シンボリルドルフに対してもだ。
しかし、最初にゴールドシップをターゲットに絞ってしまったのが運の尽きだった。
自由奔放で何を考えているか分からず、気分でレースをするなど、破天荒を地で行くウマ娘。それがゴールドシップだ。ノイズサウンドはこってりと搾られたそうで、それ以来ゴールドシップには近づかずにやり過ごしてきたらしい。
しかし、恐山トレーナーの人選ミスで遂に捕まってしまった。
「よっしゃ!紅ショウガ、お前との併走トレーニングでアタシが勝ったら、バンドを組んでくれ!それで漁船に乗りながらエデンを目指し、ハードなロックをかき鳴らして一位を目指そうぜ!!」
ゴールドシップは明らかにレースとは関係ない、もはや何を目指しているのか分からない斜め上の方向に突き抜けた条件を出しながらも併走トレーニングに付き合ってくれた。
しかし、そのトレーニングを行ったノイズサウンドの顔はいつもの人を見下すような笑みを浮かべる余裕は無く、G1レースに出場したウマ娘さながらの気迫があった。
さらに悲しいことに、偶々人格を抑えながら集中して走っていたカイシンの隣を通り過ぎて集中力を乱してしまい、ノイズサウンドはノリノリで追い掛けるゴールドシップと豹変したカイシンに追われる事となってしまったのだった。
「なんか…ゴールドシップがすいません…。」
申し訳なさそうに謝るゴールドシップのトレーナーに目の隅があるのを見た恐山はこいつも苦労しているのかと、サングラス越しに同情の目線を送った。
「今度からは、ゴールドシップなどと言う変人以外を、連れてきてくださいね。」
時間は戻ってデビュー戦の控え室。
ノイズサウンドはかなり念を押して、いつもよりも圧があるの笑顔で忠告した。その圧はいつも表情が変わらない恐山トレーナーすら頬が引きつるほどだった。
「分かった。分かったから、もう本番間近だ。その怒りをレースにぶつけてくれ。」
恐山トレーナーが説得するとノイズサウンドは鼻をならし、カツカツと早歩きで控え室から出ていった。
「あ。トレーナーさん、出てきましたよ。」
「頼むぞ…。掛かったりするなよ…。」
観客席へと移ったトレーナーとカイシンはゲート入っていくノイズサウンドを見守っていた。遠目からはどうなっているのか分からないが、掛からないことを祈る他無かった。
(はぁ、全く。ゴールドシップめ。何が素直に笑えだと?私の身の上も知らないくせに…!)
ゲートに入ったノイズサウンドはゴールドシップの奔放さにまだイラついていたが、出走の構えを取る。
(このフラストレーション、ぶつけてやりますよ…!)
ノイズサウンドが意気込んだ直後、ゲートが開き、レースが始まった。
「…あれ?」
「…うん?」
ゲートを注視していたカイシンと恐山トレーナーはノイズサウンドの走りに思わず声が出た。
『スタートです!おっと?最初に飛び出したのはノイズサウンドですね?追込だと聞いたのですが掛かっているのでしょうか?』
そう。ノイズサウンドが追込とは思えない先頭に出るスタートダッシュをしたのだ。
(掛かっているのか…!?やっぱり、俺の人選ミスかぁ…!)
「あわわ、トレーナーさんは悪くないですよ!?」
それを見た恐山は頭を抱え、カイシンにフォローされるのだった。
(おっと、私としたことが。平常心、平常心…。)
ノイズサウンドは、辺りを見渡して直ぐ様ペースを落とす。そこから冷静に辺りを見渡し始めた。
(さて…この人数と質なら軽々と追い越せますね。)
後方にポジションを納めたノイズサウンドはそこからじっくりと走るウマ娘達を観察し始める。
(よし…よし…ここのポジションで…よし。おや、そこに行くのですか。なら…)
ノイズサウンドは走りながら前にいるウマ娘達のルートを読みながら最良のポジションに着けていく。
『さぁ、最終コーナーを曲がって直線に入った!各ウマ娘はここからどう出るのでしょうか!?』
(抜けた!よし、このまま一気に突っ切れば…!)
集団から抜け出した一人のウマ娘が勝機と見て一気に駆け出した。
(見ててお姉ちゃん!私はこれから勝ってお姉ちゃんに良いとこ見せるから!)
段々近付くゴール。そこへ全力疾走しながらウマ娘は勝利の笑みを浮かべる。
(私の勝ち!)
希望に満ちた笑顔を見せた瞬間、視界の端から赤い影が躍り出た。
(…え?)
先頭を走っていたウマ娘が驚いている間にも、赤い影はどんどん小さくなっていく。
(い、急がなきゃ!)
慌てて差し返そうと加速するが、既に赤い影は突き放していった。
(そんな!勝ったと思ったのに…!)
もう誰も追い付けない。そう感じてしまうほどのスパートに、ウマ娘は自身の敗北を察した。
実況も熱が入り、声を荒げながら状況を伝える。
『ここで外から不気味に様子を伺っていたノイズサウンドが仕掛けてきた!スゴいスゴい!なんと言う末脚だ!バ群を外から追い抜き、そのまま突き放して行く!誰も追い付けない!』
ラストスパートで加速を続け、凶悪な笑みを浮かべたノイズサウンドが最前列で見ている恐山トレーナーとカイシンの前を通り過ぎていく。
「す、スゴい…。」
これまでノイズサウンドのラストスパートを見たことがなかったカイシンは間近で凄まじいスピードで通り過ぎていくノイズサウンドの走りに圧倒された。
「よく見ておけ。もう一人のお前は、このスピードに食らい付こうとしていた。その事をお前も覚えておきな。」
恐山トレーナーは内心安心し、そのままゴール板を通り抜けたノイズサウンドに目を向けながらも、カイシンに話し掛ける。
興奮したカイシンは更にはりきった。
「て、テレビで見るよりも迫力がスゴいなぁ…。よぉ~し、わたしもこんな感じで走るぞ~!」
「お前はまず、暴言恫喝するもう一人をどうにかしろ。じゃないとデビューは出さん。」
「…ですよね。」
『ノイズサウンド!他のウマ娘達相手に大差を開き、一着でゴールです!この赤いウマ娘はこれからのトゥインクルシリーズにどのような音を鳴らすのでしょうか!?』
結果はノイズサウンドの大差勝ち。興奮する観客達の歓声にノイズサウンドは涼しい顔で手を振り、応えた。
「…ふん、今に見てろ。そうやって笑ってられるのも、今のうちだから。」
その観客たちの中に、恨みを込めた目でノイズサウンドを見つめるウマ娘の姿があった。ノイズサウンドが一着を取ったのを見届けると、観客の合間を縫って、その場を去っていったのだった。
豆知識
カイシンの周りに友達が多いのはトレセン学園に入学する前から友達の作り方を勉強していたから。