ノイズサウンドが見事なデビューを果たした後、トレセン学園ではノイズサウンドの話題で持ちきりだった。
あの選抜レースを出て場を荒らしていただけのウマ娘が?
シンボリルドルフと同じ無敗三冠を挑むトウカイテイオーを阻むのか?
そもそも何でデビューできたのか?
そんな話題の中心にいながらも、ノイズサウンドは特に気にすることなく、登校をしていた。
ノイズサウンドは自分のクラスに入ると一瞬、クラス中のウマ娘の視線が集中するが、それだけでまたそれぞれのグループで会話し始めた。
「あ、あの、ノイズサウンドさん、おはよう。」
席に着いたノイズサウンドの隣から、か細い声がノイズサウンドに挨拶をした。
「やぁ、ライスシャワーさん。おはようございます。」
挨拶をしたのは体が小さく、片目が隠れるほど伸びた前髪、そして青薔薇が飾られた帽子がトレードマークのウマ娘、ライスシャワーだった。
「ノイズサウンドさん、デビュー戦を勝てたんだね。おめでとう。」
「えぇ、どうも。」
ライスシャワーが祝ってくれるが、ノイズサウンドは特段喜ぶこともせず、礼だけで済ませた。
この二人が会話する程になったのはノイズサウンドが編入後の話になる。
「はぁ…はぁ…。くっ、あのゴールドシップとやら、随分と厄介なウマ娘ですね…。とりあえず、何処かに隠れなければ…!」
ゴールドシップというやぶ蛇をつついてしまったノイズサウンドは身を隠す場所を探して図書室へと訪れていた。
その時、読書中だったライスシャワーが目に入った。
「もし、そこの方。」
「ふぇっ?わ、私?」
「今、私は変人に追われているのです。もし、ここに私を探しに来たウマ娘がいても見なかったと言ってください!では!」
ノイズサウンドは、何がなんでもゴールドシップの追跡を振り切りたかったので藁にもすがる想いでライスシャワーに庇ってほしいと言った後、そそくさと図書室の奥へと消えていった。
「おーい!どこだ紅ショウガ!くっそー…ここら辺に来たと思うんだけどなぁ…。」
ノイズサウンドが隠れた直後にゴールドシップが図書室へとやって来た。
ゴールドシップは何かを探すように図書室を見回すとポカンとしているライスシャワーと目が合った。
「あっ!なぁなぁ、お前。この辺に紅ショウガ来なかったか?なんか、赤くてひょろっちい奴!」
「え、あ、ご、ごめんなさい…。ライスは見てないです…。」
「くっそー!ゴルシちゃんレーダーが故障してんのか?まぁいいや!ここの生徒だからどうせすぐ会えるだろ!じゃなー!」
ゴールドシップは悔しがったかと思えばすぐに開き直って図書室を出ていった。残ったライスシャワーは嵐のように現れ、風のように去っていったゴールドシップに呆然としていたが、すぐに庇ったウマ娘を呼んだ。
「あ、あの、もう行きましたよ…ベニショウガさん?」
「ふぅ、庇ってくれてありがとうございます。あと、私の名前はノイズサウンドです。」
それ以来、ライスシャワーはノイズサウンドとそれなりに話す程度では仲良しになったのだ。
「皆さん!席に着いてください!」
その時、クラスの担任がやって来て会話はそこで途切れた。教卓へ移動した担任は着席したウマ娘たちを見て話し始めた。
「えー、今日は地方から転入生がやって来ます。」
担任のその言葉に一瞬ざわめくクラス。地方からやって来たウマ娘として真っ先に思い浮かぶのは、北海道からやって来て、ダービーを制してそれからもG1で好成績を残したオグリキャップやスペシャルウィークが思い浮かぶ。
ざわめくクラスメイト達を宥めた担任が新しく入るウマ娘を呼んだ。
入ってきたウマ娘は正に清楚という言葉が似合うような立ち振舞いと容姿だった。短く、綺麗に切り揃えられた髪型と、にこやかな笑顔が人付き合いの良さを醸し出している。
「初めまして。地方からここ、中央にスカウトされてきました。コモーノーデスです!」
にこやかに挨拶したそのウマ娘に拍手が起こる。
「わぁ…。地方から来たって、まるでオグリキャップさんみたいだね。ねぇ、ノイズサウンドさ…」
ライスシャワーも拍手をして、ふとノイズサウンドに声をかけようとしたが、その言葉を詰まらせてしまった。
ノイズサウンドの顔はいつものような意地の悪い笑みではなく、目が見開き、口も閉じて、感情が無くしたような顔で固まっていた。
(の、ノイズサウンドさん…?)
ライスシャワーはいつもと様子が違うノイズサウンドの顔を見ていたが、ノイズサウンドはすぐにいつもの笑顔に戻った。コモーノーデスの紹介が続くなか、ライスシャワーはノイズサウンドが気掛かりだった。
「へぇー!
「逃げって言ってたけどさ、どんな感じの逃げをするのかな?もしかして、サイレンススズカさんみたいな大逃げ?」
「あはは、私なんかがあのサイレンススズカさんと並べられるの恐れ多いですよ~。」
昼休みにコモーノーデスはクラスメイトに囲まれ質問攻めに会っていた。しかし、そのウマ娘の集団をノイズサウンドとライスシャワーはあぶれているような位置で眺めていた。
「あ、あの、ノイズサウンドさん、転入生のコモーノーデスさんって、知ってる人なんですか?」
ライスシャワーは、自己紹介でコモーノーデスを見た瞬間のノイズサウンドが見せた表情が気になり、恐る恐る質問してみた。ノイズサウンドはライスシャワーを一瞥した後、顎に手を添え、何か考えるような仕草をして口を開いた。
「ふむ、まぁ、何と言いますか…」
「ねぇ!あなたが噂の問題児さん?」
しかし、クラスメイトの集団から抜け出したのか、ノイズサウンドの言葉を遮るようにコモーノーデスがノイズサウンドに話し掛けてきた。ライスシャワーはビクリと身体を強張らせ、ノイズサウンドは一瞬目を細めた。
「…まぁ、よく言われてますね。」
「地方じゃそういう人居なかったから興味があるんです!ちょっと二人で話してもいいですか?」
「…まぁ、良いでしょう。では行きましょうか。」
「ありがとう!ごめんね、ちょっと問題児さん借りるね?」
「う、うん…。」
コモーノーデスはライスシャワーに断りを入れるとノイズサウンドと一緒にクラスを出ていった。
(だ、大丈夫かな…ノイズサウンドさん…。)
ノイズサウンドの表情から見て、コモーノーデスとの関係は良好ではないだろう。ライスシャワーは出ていく二人の背中を見て不安になった。
「いやぁ、お久しぶりですね。まさか貴女が中央に来るとは、驚きましたよ。元気でしたか?」
誰も居ない校舎の屋上でノイズサウンドはコモーノーデスに軽く話し掛けた。
「はっ、そう言うあんたはこのトレセン学園で問題児って呼ばれてんの?アタシを踏み台にして中央に来たってのに、何その体たらく。そんなあんたに元気かどうか聞かれたくないんだけど?」
しかし、コモーノーデスはさっきまでの優等生っぷりが嘘だったかのような、冷たい顔に豹変した。
「つーか、見たよデビュー戦。あの時のまんまで追込やってんの?ズルズル引きずって走ってんの笑えるんだけど。」
「………。」
「何か言いなよ?そうやって気色悪い笑顔でヘラヘラしてんの腹立つんだよ。バカにしてんの?」
「…生憎、何処かの誰かのせいでそうなった訳ですので。」
「は?アタシのせいって言いたいわけ?」
「誰も貴女のせいとは…」
ノイズサウンドが否定しようとした瞬間、コモーノーデスがノイズサウンドの襟首を掴んできた。
「ふざけんじゃないよ!何であんたみたいな親の顔も知らない孤児の落ちこぼれ風情がアタシより優れてるとか意味分かんないんだよ!」
「まぁまぁ、そうカリカリしないでくださいよ。折角中央に来れてめでたいのに何に怒っているのですか?」
「あんたのせいだよ!あんたのせいでアタシのレース人生出遅れてるって言いたいんだよ!今、ここで足折ってやってやろうか!?」
コモーノーデスはそのままノイズサウンドを壁に叩き付け脅す。だが、ノイズサウンドはそれでも相手を嗤うかのような表情を崩さない。コモーノーデスはそんなノイズサウンドにイラつき、脛を狙って蹴ろうと足を上げた瞬間、
「あーもー、うっさい!さっきから寝られないんだけど!喧嘩ならよそでやれっての!」
屋上に先客が居たのか声が聞こえた。コモーノーデスは慌ててノイズサウンドの襟首を掴んでいた手を離し、取り繕った。
現れたのは、ライスシャワーと同じくらい体躯の小さい、しかし、目に宿った闘志が鋭いウマ娘だった。
「ご、ごめんなさ~い!ナリタタイシンさんの昼寝場所だったんですね~!そうとは知らずすいませ~ん!」
すぐに猫を被ったコモーノーデスはペコペコと謝りだした。
ナリタタイシン。彼女もトレセン学園に通っているウマ娘で『BNW』と言う三人組の内の一人でそれぞれ皐月賞、日本ダービー、菊花賞を競い合い、それぞれ勝っており、その年のクラシックを盛り上げた事で有名なウマ娘だ。ちなみに、ナリタタイシンは皐月賞を制している。
「はぁ…。そこの赤いあんた、大丈夫?」
ナリタタイシンはノイズサウンドとコモーノーデスの二人を見て、先程の会話の内容から、ノイズサウンドの心配をした。
「えぇ、怪我はないですよ。ご心配無く。」
ノイズサウンドは制服を整えながらナリタタイシンに礼を言う。それが気に食わなかったのか、コモーノーデスはナリタタイシンに低姿勢で媚を売るように謝りだした。
「な、ナリタタイシンさん、お昼寝を邪魔して本当にごめんなさい~。」
「何回も言わなくても聞こえてるっての。ったく、寝る気無くなった。」
ナリタタイシンはコモーノーデスを雑にあしらうと頭を掻きながらその場を去っていった。
ナリタタイシンが階段を降りる音を聞き、本当に二人きりになった事を確認したコモーノーデスはまたもノイズサウンドを睨み付けた。
「…あんたのせいでナリタタイシンさんに怒られたじゃん。」
「それは理不尽では?」
「あんたのせいに決まってんでしょ!見てなよ、アタシもクラシック走ってあんたに吠え面かかせてやる!」
コモーノーデスは捨て台詞を吐き、そのまま屋上を降りていった。残ったノイズサウンドはいつもの笑顔でふぅ。とため息を吐くと後を追うように屋上を後にしたのだった。
豆知識
ノイズサウンド、実はタップダンスが得意