そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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タウラス杯、オープンじゃない方が良かったのかもと悔いております。


二重人格者、レースをする。

「はっはっはっは…。ふぅ~っ。」

 

 ノイズサウンドが絡まれた後、トレーニングの時間になった。

 ノイズサウンドと併走トレーニングしていたカイシンは度重なる指導と、ノイズサウンドのデビュー戦で上がったモチベーションにより、少しずつだが暴言を吐く回数が減っていき、遂に目標の距離まで人格を維持できるようになっていた。

 

「いやはや、もう少し掛かるかと思っていましたが、マイル距離まで維持できるようになるとは予想外でしたよ。」

 

「と、とは言っても、まだ全力は、出さずに走ってますからぁ~…。」

 

 カイシンの言う通り、併走トレーニングではもう一つの人格を理性で抑えつけた状態で走っているのだ。レース、特に最終直線のラストスパートは正に全身全霊で行っているウマ娘も少なくない。

 カイシンの弁を聞いたノイズサウンドは、ふむと考えるように顎に手を添えた。

 

「ならば、模擬レースをしてチェックしてみましょうか。トレーナーさん。少し良いですか?」

 

 ノイズサウンドが恐山トレーナーに走りをチェックしてもらおうと頼みに行くと、恐山は見慣れないトレーナーと先程脛を踏み蹴ろうとしたウマ娘に絡まれていた。

 

「…で、そいつが噂の…。」

 

「そう!この僕がローカルシリーズのレース場からスカウトしてきたコモーノーデスさ!地方で燻っていた宝を見つけたこの僕の眼でね!」

 

「はぁ~い!コモーノーデスです!よろしくお願いします!顔の怖いトレーナーさん♪」

 

 恐山は表情こそは変わらないが、『地方から来たウマ娘?実力見てないから至極どうでもいいし、お前の慧眼もどうでもいい。』と言いたげな雰囲気を醸し出している。それでも、キザなトレーナーは天狗にでもなったかのように地方からコモーノーデスをスカウトしてきた事を雄弁に語っていた。

 

(…ほう、あれがコモーを中央へ連れてきた張本人ですか。)

 

 確か、名前は釜瀬と言ったか。そんな事を思い出しながら、ノイズサウンドは極力釜瀬とコモーノーデスを視界に入れないように恐山トレーナーの元へと向かった。

 

「よろしいですかな?トレーナーさん。」

 

「ノイズサウンドか、どうした?」

 

 ノイズサウンドに呼び掛けられた恐山は、すぐに二人に興味を無くしたように振り向く。自慢話によっぽどうんざりしていたのが見て取れる。

 

「先程、カイシンと併走トレーニングを行っていたのですが、カイシンはマイル距離まで自制して走れるようになりました。それで、提案なのですが…」

 

「ほう?併走トレーニング?なら、コモーノーデスの出番だな!この娘のスピードになら良いトレーニングにもなるだろう!コモーもいいかい?」

 

「えぇ!良いですよ!まだデビュー出来てない後輩ちゃんの力になれるように付き合ってあげます!」

 

 話を中断されたことが気に障ったのか、釜瀬トレーナーはコモーノーデスをカイシンのトレーニングに付き合わせようと割り込んできた。

 

「俺は別に構わないが…。おい、ノイズサウンド。」

 

 恐山はノイズサウンドを連れて二人から少し離れた場所でヒソヒソ話し始めた。

 

「大丈夫なのか?カイシンはマイル距離まで走れるようになったとはいえ、まだ不安材料は残ってるぞ?」

 

「クックックッ、ご心配無く。あのコモーノーデスというウマ娘は私と同郷のウマ娘でしてね。少しばかり中央の恐ろしさを身をもって体感させてやろうかと思っているのですが、どうでしょうか?」

 

 ノイズサウンドの言葉を聞いて恐山トレーナーは賛成したかったが、あのカイシンだ。もし問題を起こしてしまったらどう責任を取れるのか。万が一の事があるので聞くことにした。

 

「確かに…。だが、それであのコモーノーデスが今後のレースで尻込みしてしまうようになったら…。」

 

「その程度の実力のウマ娘だった。それで十分ですよ。」

 

「…お前、あのコモーノーデスに何かされたのか?随分と私怨が籠ってるぞ?」

 

「未遂ですが、転校初日に私の脛を蹴ろうとしましたね。」

 

「よし、釜瀬トレーナー。あんたのコモーノーデスとうちのカイシンで模擬レースをしてくれないか?」

 

「はっはっは!良いとも!コモー、行くぞ!」

 

「はーい!釜瀬トレーナー!」

 

 恐山トレーナーはノイズサウンドが言い終わる前に釜瀬トレーナーの元へと向かい、模擬レースを申し込んだ。自分が鍛えているウマ娘に、それも大事な脚に怪我を負わせようとしたから当然の反応なのだがその様子を後ろから見ているノイズサウンドは悪い笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

 

「芝の2400。これで行くぞ。二人とも用意は良いか?」

 

「はぁーい!分かりましたー♪」

「は、はいっ!おねぎゃいしますっ!」

 

 恐山が走る前に確認を取ると、コモーノーデスは自身たっぷりに、カイシンは緊張気味ながら頷いた。

 ノイズサウンドは二人の走りを見物しようとしていたのだが、

 

「…それで、貴女は何故、私の隣にいるのですか?トウカイテイオーさん。」

 

「えー、別にいいじゃん。あのコモーノーデスってクラシック路線行くって話を聞いたからどんな走りをするのかなーって見に来たんだよ?」

 

 釜瀬トレーナーの声が大きかったせいで他にも練習していたウマ娘やトレーナー達が話題の地方から来たウマ娘の実力をこの目で見ようと集まってきたのだ。

 そしてノイズサウンドの隣にはトウカイテイオーが来た。ノイズサウンドはカラオケの時のように自分に物怖じせず接してくるトウカイテイオーには少しばかり苦手意識を感じていたのだが、トウカイテイオーはそんなのはお構いなしなのだろう。どう対応するか考えている内に恐山が手を上げた。

 

「よーい…スタート!」

 

 恐山の手を振り下ろす合図と同時に駆け出すカイシンとコモーノーデス。スタートダッシュは二人とも良好のようだが、恐山は安心できなかった。

 

(アイツは最初は良いんだ。だが、問題は最終コーナーから直線のスパート…。気性難のアイツがマイル距離まで抑える事は出来たとしても中距離、それも日本ダービーと同じ距離を走れるのか?)

 

 恐山の視線の先には逃げの戦法で悠々と走るコモーノーデスを脚を溜めるように追うカイシン。カイシンはシンボリルドルフとの模擬レースで見せた先行ではなく、ノイズサウンドと同じ追込の戦法で走っている。ノイズサウンド曰く、カイシンはこっちの方が本領を発揮できると言っていた。それに関しては恐山は賛成なのだが…

 

(ノイズサウンドは中距離を提案した。一体どういうつもりだ?)

 

 横目でノイズサウンドを見たが、ノイズサウンドはトウカイテイオーの隣でいつもと変わらない、何を考えているのか分からない笑みを浮かべて一緒にレース展開を見守っているだけだ。

 併走トレーニングをして間近で見ていたからこそ、何か秘策があるのか?そう考えている内に走っている二人は最終コーナーに差し掛かった。

 

 

(ふん!まだデビュー前のウマ娘風情にアタシが負けるわけないじゃん。ノイズサウンドの奴、後輩いじめでもしてんの?さいってーじゃん。)

 

 最後の直線。先頭で走るコモーノーデスは心の中でノイズサウンドを批判する。後ろに耳を向けてみたがカイシンの足音は小さい。これぐらいならスパート掛けないままでも余裕で勝てるだろう。コモーノーデスはノイズサウンドをどう貶すか考えながら余裕の表情を浮かべるのだった。

 

 

「あれ?スパート、掛けないのかな?」

 

(やはり!奴は八百長まみれの地方からやって来たウマ娘だ。相手がまだデビュー前という前情報のみで高を括っていると踏んだのですが、どうやら正解のようですね。クックックッ…。)

 

 最終直線で余裕そうに走っているコモーノーデスを見たトウカイテイオーはポツリとそんな言葉をこぼし、ノイズサウンドはコモーノーデスが自分の予想通りに走ってくれた事に口角を上げ、邪悪な笑みを浮かべたのだ。そして、

 

 

(どういうつもりなんだろう…ノイズサウンドさんは…。)

 

 カイシンは最終コーナーでレース前にノイズサウンドに耳打ちされた作戦を思い出す。

 

『いいですか?最終コーナーで理性で抑えるのを止めるのです。』

『分かりました!最終コーナーで…へ?』

 

 思わず了解しかけたカイシンはすんでのところで止まり、どうしてなのか聞いてみた。が、ノイズサウンドははぐらかすばかりで話してくれなかった。

 だが、ずっと一緒に併走トレーニングをしてくれたノイズサウンドだから分かるところがあるのだろう。あの時は不安しかなかったが、今、先頭を走るコモーノーデスを見ていく内にカイシンの中にふつふつと勝ちに対する欲求が沸き上がってきた。

 

(でも、勝ちたい…。勝ちたい!あの走りは(わたし)を貶している走りだ!あんな奴には負けたくない!向こうは地方からやって来たかなんてどうでもいい。勝つ、勝つ、絶対勝つ!!誰だろうが勝ってやる!!!ああもう、我慢できない!!信じますよ、ノイズサウンドさん!!)

 

 カイシンはノイズサウンドを信じてその意識を落としていった。

 

 

 

(よし!この勝負、アタシの…?)

 

 勝ちを確信したコモーノーデス。しかし、そんな彼女の後ろから風が巻き起こった。

 

「…え?」

 

 その正体は風ではなく、後ろにいるはずだったカイシンだ。

 コモーノーデスは間抜けな声を出すが、その理由は追い抜かれた事ではなく、その走り方に呆気に取られたのだ。

 

 

「す、スゴい走り…。あれって、ホントにカイシンなの…?」

 

 トウカイテイオーはカイシンのラストスパートの一部始終を見てそう言葉を漏らした。

 トウカイテイオーはこれまでカイシンがノイズサウンドと併走トレーニングをしている姿を見かけていた。だが、今走っているのが同一人物なのか疑わしくなったのも無理はない。

 何せ、走りながら突然ガクリと意識が失ったように頭を下げたと思ったら急に加速し始めたのだ。

 

 前半のカイシンのフォームは良くて安定した、悪く言うと地味な走り。それこそ、コモーノーデスが負けるわけがないと高を括っていた走りだ。

 しかし、今、コモーノーデスの前を走っているウマ娘のフォームは姿こそカイシンだが、脚の運びや手の振りは荒々しく、粗雑で、まるで制御不能になった暴走機関車のような力任せの走りだ。下手に近付くと弾き飛ばされそうな気迫が後ろ姿からも感じた。コモーノーデスの実力を見に来た野次ウマ達もまさかの展開にどよめき始める。

 

うぉらららららららららららぁあああああああっっっっっっっっ!!!!!!!」

「んのっ!はぁあああああ!!」

 

 雄叫びをあげながら引き離すカイシンにコモーノーデスは差し返そうとスパート掛け始めた。だが、既にカイシンは2バ身ほど引き離しており、差し返せる距離ではなかった。結局、カイシンは3バ身半差の勝利を手にしたのだった。

 まさかのどんでん返しに野次ウマのウマ娘やトレーナー達はどよめきから一人、また一人と拍手を始めた。

 

 レースに絶対はない。

 

 その言葉があるからこその拍手だった。

 

 

「っしゃああああっっ!!!しゃっ!しゃっ!っしゃああああああああああははははははぁぁああ~…疲れたぁ~…。」

 

 ゴールしたカイシンは勝利の実感を身体で表現するように声に合わせて何度も拳を空高く突き上げたが、すぐに元のカイシンに戻ってターフの上に仰向けに倒れた。

 

「おめでとうございます、カイシン!ああ、なんと素晴らしい末脚でしょうか!!」

 

「おう、見事だったぞ。」

 

「カイシーン!こんなにスゴいなんてビックリしたよ!次はボクと走ってよ!」

 

 ノイズサウンドは寝転ぶカイシンを覗き込み、讃えるように誉め、一緒に覗き込む恐山も僅かに上がった口角で満足なのが見て取れた。更に、友人のトウカイテイオーも併走トレーニングの申し出をしてきた。カイシンは自分は勝ったんだと、そしてこんな問題がある自分に併走トレーニングを頼んでくれる良き友人に出会えたと疲労困憊の顔に笑顔を見せたのだった。

 

 

「はっはっはっ…!?」

 

 一方、負けてしまったコモーノーデスは膝に手をつき、肩で息をしながら呆然としていた。

 

(嘘でしょ!?何であんなデビューしてないウマ娘風情にアタシが負けるの!?これが中央のレベルだってこと…!?…いや、ノイズサウンドはそれを見越して模擬レースを持ち掛けたの!?)

 

 コモーノーデスは絶望しているが、実は余裕で勝てると判断した甘さが招いた結果なのだ。もし、普段のレース通りにスパートを掛けていたらカイシンは差しきれなかっただろう。それを怠ったからこそ、敗北に繋がったのだ。

 コモーノーデスはカイシンを誉めるノイズサウンドを睨み付けると目があった。その時、ノイズサウンドは笑みを浮かべたが、コモーノーデスにはこう言っているように見えた。

 

 

 勝てると思ってたお前の姿は道化だったし、滑稽だったよ。

 

 

「コモー!大丈夫だったか!?」

 

 釜瀬トレーナーが飛んできて心配そうに声をかけて来た。コモーノーデスは怒りを内に潜めて、泣きそうな表情を見せた。

 

「トレーナーさぁ~ん!カイシンちゃんが怖かったですよぉ~!」

 

「よしよし。怪我はないようで安心したよ。まさか、デビュー前にあんな伏兵がいるとは思わなかった…。よし!明日からクラシック戦線で勝てるようトレーニングを頑張ろう!」

 

「はぁ~い!コモー、頑張りまぁ~す!!」

 

 ぶりっ子の声を出しながら、コモーノーデスはノイズサウンドろカイシンをレースで貶めてやろうと奮起するのだった。




カイシンの噂

実は辛党

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