「ん……ここは……?」
アリスは人体力学に基づいて設計されたベッドから起き上がったが、見覚えのあるIS学園の寮でも保健室でもないようだ。
ベッドを中心に様々な機材やケーブルが乱雑に接続された実用性皆無の不思議な部屋に既視感を覚えるが、うまく思考が働かない。
「や、おはようアリス。目は覚めたかい」
悩んでいたアリスに声をかけたのは隣室から入ってきた白衣の少女だ。華奢な身体つきにポニーテールでまとめた白く波打つ髪。その頭の上には『ヘイロー』がふわふわと浮いていて、まるで現代に適合した天使のようで。
「……?
あっ、『ハレ』。なんでハレがIS学園に? もしかしてハレも鈴やラウラウ、シャルルのように転入してきたのですか?」
中学時代の知人であるハレが目の前にいることにアリスは驚いているが、当のハレは苦笑い。
「あー……回線の切れ方が悪くてまだ寝惚けてるみたいだね。もう一回リブートしてごらん」
「了解、リブートします」
アリスが再び上の空になっている間にハレはアリスの周辺の計器類を手早くチェックしていく。
「……完了しました。おはようございます、ハレ」
先程の眠たげな状態からすると随分スッキリした表情でアリスは再度挨拶した。
「はい、おはよう。ここがどこか思い出した?」
「『ミレニアムサイエンススクール』の部活『ヴェリタス』が管理する実験室のひとつです」
「じゃあ、IS学園じゃなくて『キヴォトス』側の、昨日の出来事は覚えているかな」
「はい、ハレが開発した
「そうだね。それじゃあ使ったゲームの題材は?」
「システムの機能チェックの為、それなりに資料があって、それなりに設定に『空白』のある作品が適しているという事で『インフィニット・ストラトス』という作品を採用しました」
「よしよし。最後にゲームを動かしていた超高度演算装置にはどういう機能があったかな」
「演算装置は入力していない情報でもプレイヤーの思考情報から自動的に世界を順次構成する機能……今回だとアリスは『ミレニアム中学校』を卒業し、IS学園に入学したことは初期データとして入力されていましたが、その仮想中学では『ミレニアムサイエンススクール』のエンジニア部のメンバーやゲーム開発部のメンバーが在籍していたことが自動的に反映されていました。
更にアリスがネトゲをしていたという記憶から巡り巡って……ラウラ・ボーデヴィッヒの『魔法少女ラウラウ』という『原作』にはない設定も自動生成されたようです」
「昨日からずっとモニタリングしていたから分かってはいたけど、結果が良好そうで何よりだよ」
「またエナドリで徹夜ですか……? 先日も先生が心配してました。アリスもハレが身体を壊すのは見たくないです」
「ゴホン! ゴホン!」
「一晩で5本もエナドリを!?」
「違うよ!? ……それよりゲームの方で聞きたいことは無いかな」
「予定では銀の福音戦までのテストプレイを予定していたはずですが、なぜ中断されたのでしょう」
「あー……うん。君が食べたセシリア・オルコットのサンドイッチによる本体へのフィードバックが想定より大きくてね。この後に控えているVT戦や福音との戦闘で大怪我でもしたらアリス本体に悪影響が出そうだと判断したからさ。……私の調整不足だね」
一瞬視線を泳がせたハレにアリスは気付いたが、何も聞かないことにした。あえて隠すのはきっと理由があるのだろう。
「でもアリスに試験してもらって助かったよ。……最初から普通の人に試してたらあまりにもパンチの効き過ぎた複雑で重厚な味覚データによる情報過多で脳みそが蕩けたバターになっててもおかしくなかったし」
「セシリアの料理で人の脳がそんなことに!?」
なんとも形容しがたい摩訶不思議な味だったがまさか状況次第では殺人料理になっていた事実に震える。
「まぁ、今後そんなことにならないようにするのが私の仕事だから。それでゲームそのものは楽しめたかな」
「勿論です。ただ……」
アリスは少し口を閉ざし、自身の中にある回答を的確に表現するために再度動かし始める。
「……入学から2ヶ月、アリスはあの世界で生きてました。クラス代表決定戦のためにのほほんさん達とウォルを作って戦ったり、セシリアの奴隷になったり、対抗戦に乱入してきた無人ISを狙撃したり、最後には『テイルズ・サガ・クロニクル』を一夏達にプレイしてもらったりしました」
「うん」
「没入する際にこちらが現実であるという記憶データを反映させないようにしたのは失敗だったと判断します。アリス、あの世界が仮想現実だったと思い出して少なくないショックを受けています」
「なるほど。要検討だね」
「アリスはあの物語の続きを行えますか?」
「セーブデータは残してある。再調整はしばらくかかるけど、いつかは再開できるだろうね。やりたい?」
「……アリスはとても悩んでます。もし再開したら楽しくて『この夢が、覚めなければいいのに』。なんて思ってしまうかもしれません。でも、こちらにはミレニアムのみんなや先生がいます。お別れは嫌です。だけど、あっちのみんなともう会えないのも悲しいです」
「……」
「難しくてもどかしくて……。魔王の誘いなら即座に断れるのに、この選択はとても難しく的確な選択ができそうにないです。
…………だからあえて決断はしないでおこうと思います。これからゲーム開発部に行ってユズ達にここで経験したことを話して、一夏達の『テイルズ・サガ・クロニクル』の感想を伝えてからまた考えたいと思います」
「合理性で判断するはずの機械、アンドロイドが『検討保留』なんて曖昧な選択をするとは。はーちゃん的にはどうかなー?」
アリスが帰路につき、残って今回のテスト結果をまとめているハレにスピーカー経由で話しかける者がいた。
「人間味が増してきて良い傾向だと私は思うよ。
束博士。つまり篠ノ之束。『インフィニット・ストラトス』の中でタイトルにもなっているマルチフォームスーツを開発した天才。だが彼女は仮想の存在である。仮想世界の中で話しかけられるならばともかくキヴォトス側でその声が聞こえることにハレは違和感を持っていない。
……当然である。彼女と直接会話ができるようにスピーカーを設置したのはハレなのだから。
「うーん、はーちゃんやあーちゃん含めて俄然そっちに興味が湧いてきたなー。例の宇宙戦艦の話も噂のエンジニア部に聞きたいし……はーちゃん、動ける身体を私にちょうだい?」
「目的の為なら周囲を平然と巻き込むあなたをフリーにしたら大惨事確定だよ。そもそもゲームの為に用意した新型演算装置4基のうち2基を束博士の思考の完全再現に使っている。……小規模とはいえ世界を疑似再現できる大型の奴を、2基も。そんな演算能力持たせた人型アンドロイドなんて簡単に作れないし、あげられないね」
「けちー」
「まったく。システムが完璧にトレースした
「あんなオーパーツマシマシのレールガンを送り込むのが悪いのさ。どう考えても私以外には作れそうにないものだし、あーちゃんが持ち歩いてても誰も何も言わない。それにあーちゃん自身の情報も詳細は空白だらけ。興味を持つなって方が無理無理」
「おかげでアリスの安全確保の為にテストは強制終了。今後の部活動予算決定の査定に響いたらどうしようかな」
「ハッカー集団のヴェリタスならどうせハッキングして改竄余裕でしょー」
「最近ユウカの監視の目が厳しいので下手な数値改竄は簡単にバレる。……とにかく貴女をどうするかは部長と要相談。それまで隔離した演算装置で待機しててもらうから」
「はーい。ま、いいさ。気長に待つよ。束さんはそれまで容量を割いて仮想現実で再現したちーちゃん達と遊んでくるよ」
「……くれぐれもその世界がフィクションだなんて伝えたり、束博士みたいにこっち側を認識させて無理やり繋げようなんてしないでよ?これ以上の面倒は見切れない」
「はいはい分かってる分かってる。こんな衝撃の事実に耐えられるのは強メンタルのちーちゃんでも無理そうだから束さんだけの秘密なのだ―」
ハレは束の生返事に肩を竦めると部長への報告に必要な必要な書類をまとめて、退室した。
「…………まぁ? 私達が空想の産物だったとしても、キヴォトスが必ずしも現実とは限らないけどね。もしかしたらそっちも同じ『作り物』って線もあるかもしれないよぉ?」
ハレには届かないささやかな呟きを最後にスピーカーは沈黙。束を維持する演算装置が作動する音だけが響いていた。
IS×ブルアカはこれで完結です。続きは本当に無いです。今後ブルアカのアリス関連の情報が増えて思いついたら短編が追加されるかもしれませんが…
次回作の参考アンケを24時までには出したいと思います。