クラスリーグマッチは各学年のクラス代表達が勝敗をかけて戦う学校の定例行事。私とセシリアは1組のクラスメイト達と共に観客席で初戦から2組の凰鈴音と試合をする一夏を応援に来ていた。それにしても応援への熱の入りようがクラス代表決定戦の時とは全く違う。おそらく優勝したクラスに支給される学食デザートの半年フリーパスが理由だと思うのだが、これを罠だと理解している女子はいったい何人いるのか。
「フリーパスの響きはいいけど、本気でIS乗りを目指すならほとんど使えないわよ、あれ」
「身体が資本ですもの。暴飲暴食なんてもってのほかですわ」
「もしくは食べても太らない体質持ち限定」
チラリと数個隣の観客席に座って友人達と談笑している布仏本音が視野に入るが、こちらの視線に気付いているのかいないのか。普段通りに本人はポヤポヤしている。
「これだからブルジョワは……! たとえ利用が数回で終わったとしてもタダ券であることの魅力だと分からないのね!」
「そうだそうだ!」
「今度お茶会に誘ってください! オナシャス!」
……そういう意図は無かったけど、私達が金銭面に頓着していないのは確かだ。それにしてもお茶会。つまり女子会かぁ。たまには良いかな。
「じゃ、セシリア。主催よろしくー」
「私ですの!?」
実は私はパパが主催する社交に参加したことはあっても個人で招いたことが無い。だから今回は本物のお貴族様に全部お任せしよう。いつか私が人を招くことになった時の参考にさせてもらおうと思う。
「い、いいでしょう! オルコット家流の持て成しをご用意いたしますわ!」
「やりました」
「マカロンを要求する!」
「こういう時、手土産とかいるのかな……?」
「麩菓子ならあるよ!」
先程まであれほど熱心だった一夏への応援よりもセシリア主催の女子会に話がスライドしていく。流れるように話題が切り替わるのが女子トーク。
そんな他愛もない会話で時間を潰していると、一夏と凰さんの両名がアリーナに現れた。ルージュのハイパーセンサーで凰さんを見てみる。
……中国の代表候補としてのプライドを加味しても、あれは好いた男に見せる顔では無い。
どうせ一夏が怒らせるような何かを言ったのだろう。これが一夏が実力差を埋める為の盤外戦術なら末恐ろしいが、基本的にただの天然鈍感によるものだから質が悪い。
アリーナの観客席は十数分前までの穏やかな空気が完全に消し飛んでいた。
二人の試合に学園外から割って入った謎のIS。安全の為にアリーナに張られたシールドバリバリアーは並大抵の火力では貫通できないようになっているはずだ。それなのに、アレは苦も無く突破してきた。どう考えても異常だ。どこかの軍用ISだろうか。実際、強固なはずの学園のセキュリティシステムがクラッキングを受けて観客席の生徒達が避難できず、救援要員である教員達も未だ現場に到着できていない。
アリーナにいた一夏と凰さんが注意を引いて時間稼ぎをしているからなんとかなっているが、アレが避難口に密集している生徒を狙い出したら被害は拡大するだろう。
私はルージュを展開して対艦刀のシュベルトゲベールを呼び出すと即座に電子ロックを解除。同じくブルー・ティアーズを展開したセシリアへ預けた。
「それで隔壁を破って皆を避難させて。その後は可能ならそのままピット経由で一夏達の援護に向かって!」
「フレイさんはどうされますの!」
「私は戦闘じゃ役に立たない。盾替わりくらいはできるから、避難が終わるまであのアンノウンの行動を警戒しておくわ」
シールドを構えて、アンノウンの一挙一動に警戒を向ける。
それにアレの主兵装が光学兵器なら、私が持つあのストライカーが役に立つ。
箒の大馬鹿! 剣道馬鹿! この状況で中継室へ向かって何をするのかと思えば! ジープでザフトのMSを追っかけたカガリ・ユラ・アスハ並みに馬鹿じゃないの!?
案の定、中継室の機材で戦闘中の一夏に活を入れるというぶっ飛んだ行動をとったものだから、アンノウンは一夏と凰さんを放置して箒をターゲッティングしたようだ。
私もすぐさま中継室に飛び込み、驚く箒を無理やり抱きかかえる。そのままアンノウンに背を向けて、三つ目のストライカーを呼び出した。
「『
ルージュの背面にオリーブグリーンの亀の甲羅を彷彿とさせる六角形の大型ストライカーパックが出現し、即座に両側の可動装甲が背中側へ可動する。アンノウンが照射した光学兵器はフォビドゥンストライカーの可動装甲表面を滑るように逸れて全て上空へと飛んでいった。一夏達が攻勢をかけ始めたのか、敵からの追撃が無いことを確認し、箒を抱えたままの私はスラスターを全力で吹かせて避難口へ逃げ込んだ。
無理を言ってフォビドゥンストライカーを預かってて本当に良かった。
……これはドミニオンに所属していた『生体CPU』と呼ばれていた青年三人組の一人が乗っていたMS、フォビドゥンがベースになっている
最大の特性はエネルギー偏向装甲『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』。対ビーム防御システムであり、バックパック両側の可動装甲の表面に発生させた磁場で光学兵器を歪曲させて自機への命中を避ける。あくまで対ビーム用なので実体兵器の歪曲はできないけど、このパッケージの装甲にはトランスフェイズシフト装甲も試験的に施されているため、シールドとして実体兵器を防御する事も可能。実に万能な盾だが、欠点としてエネルギーの消費量は他のストライカーを使った時の三倍近い。
武装はバックパック両側に設置された可動式レールガン『エクツァーン』と誘導プラズマ砲『フレスベルグ』。
どちらの武装も背中のストライカー本体を頭頂部にスライド移動させてしか使えない武装だ。フレスベルグはシュマイディッヒ・パンツァーの技術を応用したもので、エクツァーン砲身に設置された誘導装置の磁場干渉によって、ビームの軌道を自在に偏向する事ができる。
……偏向はできるが、私には大雑把に右や左に逸れる程度が限界だ。つまりほぼ初見殺しにしか使えず、エクツァーンも身体ごと相手に向けなければ射角がとれないので扱いが難しい、つまり私はこの二つの武装は全く使いこなせていない。それでもこれを選んだのは守る為の、破格の防御性能の盾が欲しかったからだ。
それと、この装備にはひとつ気になっていることがある。ルージュは私のデッサンが元になっているが、この装備に関しては私が防御重視のストライカーを希望して、紹介されるまでその存在すら知らなかった。
……つまり、あの機体の名前とデザイン、コンセプトをアズラエル社のIS開発事業に流した人物は、私と同じ
安全圏まで逃げ延びた私達は状況を確認する。……どうやらアンノウンは既に無力化されたそうだ。
箒を地上に降ろして、私もルージュを解除。トリィが肩に乗ったところで箒が無事かどうか確認する。
「箒、庇ってはいたけど、どこも怪我はしてないわね?」
「あ、ああ。大丈夫だ、ありがとうフレイ」
「そう。じゃあ問題無いわ、ね!」
危険が去って気が抜けていたのか、薄く笑みを浮かべている箒の横っ面を思いっきり引っ叩いてやった。トリィが振り落とされそうになって空を飛んだが今は気にしない。そして、まさか私がいきなり殴るとは思ってなかったのだろう。普段は芯の強い箒が目を白黒させている。
「な……なん……」
「アンタ! 死にたいの!?」
私が介入しなければ、あの蛮行の代価は彼女の命で支払われていたかもしれないのだ。
……箒も自分の行為と私の言った意味をようやく理解できたのだろう。顔色は良くない。
「ちが……私、は……」
「何よ」
「私、は……いち、一夏に、なにも、できないのがい、嫌で」
「一夏達の集中力を乱しただけじゃない」
「でも私はッ!」
「気持ちだけで一体何が守れるのよ!」
「……っ!」
震えて、今にも泣きだしそうな箒を私は力いっぱい抱きしめた。
「フ、フレイ?」
「生きててよかった」
守れた。本当に良かった。ISを手に取って、本当に良かった。だから、箒にはちゃんと伝えておきたい。自分がやったことの深刻さを。
「死んだら、もう会えないのよ」
「そ、そんなことは知っている……」
「いいえ、全く解ってないわ。アンタはまだ残される側の気持ちなんて全く考えてないもの」
残された私は酷く、死にたくなるくらい後悔した。
「アンタがあそこで死んだら一夏は後悔を一生引きずったはずよ。あの時もっと早く動いて箒の盾になれていたら、もっと敵を早く倒せていたらって」
『彼』は私が死んだ後どうなったのか。自分を責めていなければいいけれど、誰かに責任を転嫁出来ない優し過ぎる性格だ。あの戦争で荒んだ彼の心を癒せる人がいてくれることを切に願う。
「……箒はさ。一夏に薄暗い感情で自分のことをずっと想って生きてもらいたい?」
箒は首を何度も振って否定した後、弱々しく言葉を紡いだ。
「……このまま、少しだけ、胸を借りてもいいか」
「怖かったわよね。はい、おいでー」
「お、同い年だぞ。子供扱いするな……」
ふふん、私は泣く子をあやすのが得意なのだ。
という訳でフォビドゥンのバックパックがストライカーになりました。