一組は三組に一人くらい代表候補生と専用機を分けてやりなさいよ
乱入してきたISは無人機だったそうだ。どこの所属かは不明となっているが、希少なISコアを使い捨てる覚悟で無人機を作れる人間なんてこの世に一人だけだろう。
篠ノ之束。箒の実姉であり、ISの生みの親。つまり、箒は姉に殺されかけた訳だ。彼女が無人機をどんな意図で送り込んできたか知らないが、話に聞く限り、まともな人間性は持ち合わせているとは思えない。前世での経験上、相手を詳しく知らずに他者を拒絶したくはないが、少なくとも家族に銃を向ける人物が善人だと、私は思いたくない。
ところでこの無人機乱入事件だが情報の拡散を防ぐ為、関係者各位に箝口令が敷かれた。その結果、箒の行動や私とセシリアが緊急事態とはいえ許可なくISを起動した問題も同時に無かった扱いにされた。それでいいのかIS学園と思わなくもないが、どうやら欧州から学園に対して強い横槍があったようで、今はこれ以上騒ぎを大きくしたくないのだろう。
なんで私がそんなことを私が知っているかって?
それは一組に欧州出身の二人の編入生が入ってきたからだ。フランスからは今更出てきた第二の男性IS操縦者シャルル・デュノア。ドイツからは一夏を嫌う軍人のラウラ・ボーデヴィッヒ。どちらも各国の代表候補生とのことだが、流石に二人も同時に同じクラスへ受け入れるのはおかしいでしょう。これに裏を感じるなという方が無理。
私はこの二人が凄く気になっている。惚れたとかそういう話じゃない。デュノア君は常に作ったような笑顔だし、ボーデヴィッヒさんは自己紹介で一夏の頬をビンタしてから孤立気味。どことなく、度重なる戦闘でささくれだっていた頃の『彼』を思い出すからだろうか。
……それにしても私、セシリアの一件以来他人の事ばかり見ている気がするわ。世話焼きだったミリアリアもこんな感じだったのかしら。
どう見ても女の子よ、デュノア君。時折見せる女性的な所作の取り繕い方が酷い。最初は性同一性障害の線も考えたけど流石に身体のラインまでは誤魔化しが効かない。どんなにひょろく見えても男と女の身体は違うのだと私は知っている。性別詐称が同性という理由で寮が同室になることを狙った一夏狙いのハニートラップだとしても、フランスは何を考えてあの子を送り込んだのやら。もっと男性的で場慣れした子はいくらでも候補がいるはずだ。……他になにか目的があるのだろうか。織斑先生にデュノア君改めデュノアさんについてこっそり聞いてみたのだが、午前中で気付いたことに驚かれた。私としてはむしろなぜ他の生徒達は誰も気付いていないのかが不思議でしょうがない。
「フランスとデュノア社についてこちらから情報を探っているところだ。騒ぎ立ててくれるなよ」
学園側は彼女のことを知った上で泳がせている、と。そう言われては仕方ないのでデュノアさんは様子見、もう一人の問題児に向き合うとしよう。
探していたボーデヴィッヒさんは食堂で一人昼食をとっていた。席は込み合っているにも拘わらず、彼女の周りには誰もいない。軍人特有の刺々しい雰囲気を醸し出している為、普通の女学生には近寄りがたいのだろう。ま、私は前を含めて軍人には縁が多いので気にしないで突っ込むとしましょう。
「ボーデヴィッヒさん、ちょっといいかしら」
「……なんだ貴様は」
「クラスメイトのフレイ・アルスターよ。一緒に食事でもどうかと思って」
「必要性を見出せんな」
うーん、完全に心を締め切っているわね。ここは立場の方から切り出そう。
「あら、ドイツは代表候補生の社交性に一切評価を置かないのかしら?」
代表候補生は文字通り国家の顔だ。IS操作の実力が最優先とはいえ、交流の場での愛想や行儀はとても重要な要素だ。一夏の一件を除けば、彼女の言動や行動から軍人の中でも厳格で真面目な性格だと分かる。故に彼女は自分が編入されるクラスにどのような人間がいるか事前に下調べをしているだろう。そして当然、その中には私のプロフィールも混じっている。
「チッ……なにが目的だ」
「あなたと話がしたいだけよ」
「アメリカ外務事務次官の娘はドイツ軍の機密でも聞き出したいのか?」
「いらないわよそんなモノ。好きなこと、嫌いなこと。なんだっていいわ。あなたがどういう人なのか興味があるだけ」
一瞬虚を突かれたようだが、ボーデヴィッヒさんはすぐに私を睨みつけてくる。でもあんまり怖くない。同じ銀髪の軍人ならザフトの捕虜になった時に遭遇したオカッパ頭の方が余程怖かったわ。
「ハッ! やはりIS学園はぬるま湯だな。お気楽な学生気分か」
「そりゃあ実際、私もあなたも学生ですもの」
「……やはり織斑教官にこんな場所は相応しくない」
授業でも思ったが彼女は織斑先生のことだけは認めている節がある。
「どうしてそこまで織斑先生を評価するのかしら」
「教官がいたからこそ、今の私があるからだ。……教官に直談判してくる。貴様との戯れは終わりだ」
最後に感情を載せた言葉を吐いた彼女は昼食のトレイを片付け、食堂から立ち去った。こっちも根が深そうだ。とりあえずボーデヴィッヒさんには明日以降も声をかけて友好的に接していこう。
「眠たそうね」
「ふぇ……? あ、ああ……大丈夫だよ。アルスターさん。時差ボケ……だから……」
翌日、デュノアさんは随分と眠たげだった。おそらく寝付けなかったのだろう。一夏と箒の寮室は箒が移動となって、代わりにデュノアさんが入ることになった。一夏と箒は顔見知りということもあって、そこまで気を張ることは無かっただろうが、彼女の場合は性別を隠した状態でまだ知り合ったばかりの異性と同室になった。身バレの恐怖やフランスやデュノア社から与えられているであろう何かしらの任務を考えると昨夜は穏やかに寝る事すら出来ていないはずだ。辛うじて授業は終えたが、どう見ても限界寸前の相貌だった。
「デュノア君、この後、ちょっと付き合ってもらえない?」
私が声をかけると周りの女子から大胆だの、遂に動いただのと騒ぎ出すがここは無視しよう。今は彼女だ。
「ご、ごめんね。僕、この後一夏とISの訓練をする約束があって……」
「そんな状態で出来る訳ないでしょ。今日はセシリアだけに任せなさい。良いわね、一夏」
「お、おう。俺は大丈夫だぞ」
「それと寮室の鍵も貸して」
「……なんでだ?」
「いいから、渡す」
有無を言わさず一夏から鍵を預かった私はそのままデュノアさんを引っ張るように寮へと向かい、二人の寮室に到着。一夏から強引に預かった鍵をデュノアさんに手渡した。
「え……えっと、これはどういうこと?」
「これでこの部屋には誰も入れない。
「その為に、僕を……?」
「ええ。ゆっくりおやすみなさい」
「あ、ありがとう……」
私が退室後、内側から鍵がかかる。……やはり十分に頭が働いていなかったのだろう。先程の会話は私が彼女の正体を知っていると宣言したも同じだというのに、何も言わなかった。それから数時間後、一夏とセシリアの訓練を眺めている最中にデュノアさんから連絡があったが、一夏を呼んでも良いという内容ではなく、私一人に部屋へ来てほしいというものだった。
再度訪れた寮室で、ベッドに腰かけた状態のデュノアさんは不安そうな顔で私を見上げていた。仮眠をとって、思考がようやく先程の会話に追いついたとみえる。
「……アルスターさんは僕のこと、知っているの?」
「知ってるも何も昔あったことがあるじゃない」
「へ……?」
「一人称が私から僕に代わっててビックリしたわよ。性別だってあの時は女の子だったのに男だって紹介されてるし……」
「う、ぅええぇ!? ぼ、僕は覚えてないよ! え、えぇ!? 想定外だよ! これどうすればいいの!?」
「鎌かけよ?」
「──ッ!?」
間抜けは見つかったようね。
「あーあ、もうバレちゃった。……アルスターさんは僕を、どうするの?」
「どうするって?」
「だって個人情報を偽造して、学園に来たんだよ? もう、どうしようもないよ」
「そうね。このままだとフランスへ強制送還。良くて一生塀の中、悪ければ全部の罪を被せられた上でデュノア社から口封じ……ってところ?」
「……嘘」
口封じ。デュノアさんも可能性としては恐らく考えていたのだろう。ただ、心のどこかで実の父親が子供を殺す訳が無いと思い込んでいたのだろう。私に示唆されて、それが現実味を帯びてきた。だから、これまで積もり積もった彼女の感情が一気に吐き出されるのも必然だった。
「仕方なかったんだ! 僕はデュノア社長の愛人の子供で! 二年前に母さんが死んで、急に現れた今まで会ったことも無い父親に拾われたと思ったら会社でIS開発の為に飼い殺し! 今度は性別を偽って一夏本人や一夏の専用機の情報を手に入れてこいって! それに失敗したらもう僕は用済みってこと!? ……もう、ヤダよ。母さん、私疲れたよ……」
現実に絶望し、項垂れてしまったデュノアさんにはとりあえず復帰してもらおう。別に私は彼女をそのまま突き出すつもりは無いのだから。
「じゃ、吐き出すものは吐き出せたみたいだし、これからの話をしましょうか」
「これ、から……?」
「そう、デュノア君……いえ、デュノアさんが今後どう生きたいかね」
椅子に腰かけて指を三本、彼女に見せるように立てる。
「私が思い付く選択肢は三つね」
「ひとつ、素直にフランスへ帰る。実質敵地だからリスクは高く、命は無事でも当分自由は無いかな」
「ふたつ、現状維持。IS学園の特記事項を名目に三年間はフランスからの召還命令は無視できる。三年の間に今後の身の振り方を検討することが可能よ。ただ、これはあくまで原則だから、フランスやデュノア社がなりふり構わずで来られると完全に逃げ道が無くなる可能性があるわ」
「みっつ、亡命。フランスを捨てて他国に逃げる。数は少ないけど、国や企業から無茶振りされて国を捨てて亡命を選ぶ学生もいたらしいわ。基本的にはこれまでの人生とお別れしないといけないのが欠点ね」
私がそうやって案を並べていく間にデュノアさんも幾分か落ち着いたようだ。
「なんだか聞いていると亡命以外選択肢が無い気がするんだけど……」
「そんなことは無いわ。私がパッと思いついたのがこれくらいってだけで、あなたが選ぼうと思えば選択肢なんていくつでもあるはずよ」
「僕が……選ぶ?」
「そ、自分でしっかり考えて選んでね。他人に自分の運命の選択を委ねると……」
────鍵を持ってるわ! 私……戦争を終わらせるための鍵! だから……だからお願い!
────あの人……これで戦争は終わるって言ったのに!
「……結末はロクでもないって相場が決まってるんだから」
なんかデュノアさんが引いてるんだけど、私そんなに怖い顔してた? ……とりあえず織斑先生に相談、あとで同室の一夏にも伝えておきましょう。彼なら傷心中の彼女に手を出すこともないだろう。
シャルロットは原作から離れた運命を辿ってもらおうと考えてます。