当然、その結果として原作から乖離していきます。
あれから織斑先生を含めて今後を相談した結果、フランスに対する学園側の準備が整うまでシャルル・デュノア、いえシャルロット・デュノアは男子を演じておくことになった。当然、異性への変装はこれまで通りの辛い活動ではあるけど、周りの全員が潜在的な敵であった頃に比べれば私や織斑先生に山田先生、素性を明かした一夏にもフォローを入れてもらえることになったので、だいぶ楽にはなったようだ。特に私とシャルロットは年の近い同性ということで相談事や女子特有の必要物資の類を融通したりと積極的に交流している。
問題は変装中のシャルロットと私がよく会話をするようになった為、周囲の女子達は私達が付き合い始めたと勘違いし、シャルロット本人も女子避けが楽になるからと積極的に関係を仄めかす言い訳を使うものだから貴重な男子を独占しているという八つ当たり的なヘイトが私に飛んでくるようになり、巻き添えを嫌った友人達も私を避け始めた。IS学園は国際問題に発展しかねないイジメ問題こそ厳しく取り締まるが、周囲にハブられる程度の事には干渉してこない。
「ごめんね、まさかここまで影響があるとは思わなくて……」
「別に良いわよ。いろんな人との交流に使っていた時間を他のことに使うだけだから」
寮室でシャルロットが謝ってきたが、私としては特に気にしていない。むしろ今は個人の時間が増えて都合がいいとさえ思っている。
「それってドイツの代表候補生のこと? 最近お昼休みはいつも一緒にいるよね」
「ええ。不愛想で無関心、鉄仮面みたいに感情を動かさなかったけど、最近甘味好きっていう糸口が見えてきて、ちょっと攻略が楽しくなってきたわ」
ボーデヴィッヒさんは普段嗜好品の購入を控えているのか、甘さ重視の菓子類を差し入れると授業についてや一般的な雑談程度は付き合ってくれるようになった。餌付けしているみたいだが、織斑先生に対する固執や一夏への敵意の原因は聞けていない。聞いてはいない。だって誰しも心の奥には他人に触れられたくないモノを持っているはずだから。
「セシリアにも聞いたけどさ、フレイはとっても面倒見がいいよね」
「……そうね、なんだか放っておけないのよねぇ」
「僕、もしお姉ちゃんがいるならフレイみたいな優しい人がいいなぁ」
「織斑先生に怒られるわよ」
「ち、違うよ!? 織斑先生が駄目とかそういうのじゃなくて……」
織斑先生の一夏への愛の鞭の数々を見てきたシャルロットは無意識に比較対象にしていたのだろう。慌てて取り繕うが本心は隠しきれてない。
「……ねぇ、フレイ。僕が亡命を選ぶとしてさ、亡命先がアメリカだとどうなるかな」
「アメリカなら昔から亡命者の受け入れをやっているから大丈夫だと思うわよ。ただシャルロットはまだ未成年でIS関係者だから、安全面を考慮すると国家施設への預かりか政府や軍の関係者に身元引受人になってもらう形に落ち着くかしらね」
「受け入れ先は……選べる?」
「パパに頼めば多少は融通が効くと思うけど、どこか希望先があるのかしら」
「……僕、アルスター家が良いなって言ったら怒る?」
聞き間違えかしら。
「今、ウチに来たいって言った?」
「うん……駄目かな」
冗談かと思ったが本人は真剣みたい。
「……断る前に理由が聞きたいわ」
「母さんが死んでから、優しくされたの、初めてだったんだ……」
私が口を挟まない事を確認して、シャルロットは独白を続ける。
「一人になった僕を拾った父さんは僕に対して事務的な会話だけで個人的な言葉もかけてくれない。会社を主導している義理の母からは毛嫌いされて、社員はそんな母の逆鱗に触れたくないから僕に業務以上の接触はしなかった」
「二年間そんな生活を続けて、今度はスパイとしてIS学園に送られた。周りに誰も味方がいない状況で疲れていた僕にフレイが気遣ってくれたのは本当に嬉しかった」
「その後だって、やろうと思えば僕を利用してアメリカやアズラエル社に利益を出させることだって出来たはずなのに、フレイは僕に選択する権利を委ねてくれた」
「……優しさは乾いた心にとって猛毒なんだって理解できたよ。絶対に、二度と手放したくないって考えてる」
……私はまた失敗したのだろうか。自分の心と現状の違いに苦しんでいた『彼』を、私は自分の復讐のために仮初の優しさで依存させた。今回はあの時のような邪な気持ちが無かったとはいえ、シャルロットの心に私への依存心を芽生えさせてしまったのは間違いない。
──私が居るわ。
──大丈夫。私の想いが……貴方を守るから……
──戦って……戦って……戦って死ぬの。でなきゃ許さない……
かつての記憶が心を苛む。顔には出さない。今はシャルロットの話に集中する。
「……それにね。あれからずっと考えてたんだ。父さんはなんで僕をここに送り出したんだろうって。男装なんてすぐに露見するのに、デュノア社だけで実行することもできた筈なのに、フランス政府やIS委員会まで巻き込んで事を大きくして……。確信は、無いんだ。だけど、たぶん父さんは……」
シャルロットが推測を語る前に寮室の扉がノックされる。シャルロットが急いで衣服を整えて出るとそこには織斑先生がいた。
「デュノア、すまないが緊急だ。今、部屋には他に誰かいるか」
「私がいます。先生」
「アルスターか。……あの一件はお前が関わっているのか?」
「何のことですか……?」
部屋に入ってきた織斑先生に疑われたが、何に対してか、私にはまったく検討がつかない。意味が解っていない私のことを先生はまだ疑っているみたいだ。本当になんなんだろうか。
「……もしかして、父さんがフランスで何かしたんですか?」
今までじっとしていたシャルロットが話に割ってきた。
「……どうしてそう思う」
「さっきまでフレイと話してたんです。父さんがこんな無茶な計画立てた理由」
シャルロット自身もまだ信じ切れてはいないのだろう、その理由とは。
「……僕を、フランスから逃がす為じゃないかって」
「これで契約成立です。社員達をよろしくお願いします」
「勿論。不当な解雇や労働環境の悪化などはさせませんよ。約定を守らないビジネスマンなんて業界では誰からも信用されませんからね」
「そうですな。……娘は、シャルロットはどうしているでしょうか」
「僕の情報網では亡命を検討しているらしいですよ。年齢の割に物事の流れをよく理解できているようで将来も期待が持てますね。彼女がアメリカを亡命先に選ぶようなら僕も個人的な追加投資を検討しましょう」
「ありがとうございます。アズラエル氏」
「なに、僕も妻子持ちですから子を想うお気持ちはよく分かります。それに今後フランスの軍需やラファールのライセンス生産で得られる莫大な利益を考えれば、女子一人の生涯年収程度の出費なんて安いものです」
「……結局私は妻の顔色ばかり窺って、一度として娘に親らしいことの一つできませんでしたが、あの子の命が狙われたことでようやく反抗する決意も固まりました。娘が、シャルロットが幸せになる為にデュノアの名とそれに群がる連中が邪魔ならば、それを払ってやることが私の父親としてしてやれる最初で最後の仕事です。……では、これで失礼いたします」
「ええ、さようならアルベール・デュノア。残りの一生は牢の中でしょうが、僕はあなたの決断を高く評価しますとも」
デュノア社社長アルベール・デュノアが突如フランス政府やIS委員会との癒着を含めた様々な裏取引の情報と共に警察へ出頭。彼の妻であり裏取引の多くに関与していたロゼンダ・デュノアを筆頭にデュノア社の上層部とそれに連なる政府関係者や委員会の役員達が緊急逮捕されることとなった。フランスが上から下への大騒動に巻き込まれる中、上層部が軒並み消え去ったデュノア社は混乱の間隙を縫って速やかにアズラエル財閥へ吸収合併された。以後旧デュノア社はアズラエル財閥の子会社としてこれまで通りフランス軍需を担っていくこととなる。
フランスの大騒動から早数日。朝のSHRにて。
「ええと、それでは自己紹介をお願いします……」
山田先生に声をかけられた金髪の少女が壇上にあがり、一部を除いて呆然とするクラスメイト達の前で自己紹介を始める。
「シャルル・デュノア改め……
シャルロット・アルスターです! よろしくお願いします!」
愛する娘の為にデュノア社とフランスを巻き込んだ盛大な自爆ショーを披露したアルベールパッパ。シャルロットは父親の想いを胸に亡命。アルスター家の養子になりましたとさ。
デュノア夫妻には悪いけど、原作の和解の流れにまったく納得できなかったんだよね…