IS短編集   作:魔法科学は浪漫極振り

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今回はちょっと強引な流れかも。筆者の実力不足ですみません。


IS×ガンダムSEED⑩

「つ、疲れたぁ……」

 

 連日続くボーデヴィッヒさんの訓練は軍隊式ということもあって実にハードだ。疲労困憊である。もうなにもしたくない、うごきたくない。ふらふらになりながらも近くの休憩所に腰かける。珍しくボーデヴィッヒさんが近場の自販機から飲料を買ってきてくれ……待って、お汁粉!? 絶対物珍しさで買ったでしょ! スポーツ飲料とは言わないからせめて水かお茶をお願いします! 

 

 

「うわ、しかもあったかい……なんでこの時期にこんなのがあるの。どうするのよこれ……」

 

「アルスター、どうして貴様はそこまで追いすがろうとする」

 

 

 暖かいお汁粉をどう処理するか悩んでいると同じくお汁粉の缶を握ったボーデヴィッヒさんから問い質された。

 

 

「ん? どういうこと?」

 

「私が貴様に用意した訓練課程は意図的にノルマを増やしている。正規の軍人でも音をあげる奴もいるだろう」

 

 

 本職の軍人って凄いなと思いながら必死についてきていたがオーバーワーク気味だった訳か。前世でまともな訓練を受けていたら分かっただろうけど、所詮付け焼刃未満のなんちゃって軍属だったから……。

 

 

「何がお前をそこまで駆り立てるのか。私はそこが気になっている」

 

 

 私に興味を持ってくれたのは嬉しいわね。じゃあちょっとこっちも踏み込んでみましょうか。

 

 

「教えても良いわよ。代わりにあなたが織斑姉弟に拘る理由を教えてくれるならね」

 

「良いだろう」

 

「えっ、いいの?」

 

 

 絶対断られると思ったのに。

 

 

「ただし、貴様の動機に納得したら、だ。その時は私も教えてやろう」

 

「分かったわ」

 

「……自分で言うのもなんだが、こちらが一方的に破棄できる不平等な条件だぞ?」

 

「それでも可能性はあるんでしょう? だったら教えてあげる」

 

 

 甘ったるいお汁粉で無理やり口元を湿らせて、私は過去を語る。

 

 

「昔の私はね、とっても弱かったの。弱くて、惨めで、自分の境遇を嘆いてその状況を作った奴等が許せなかった。……だからそいつらを殺す為に一人の男を利用したわ」

 

 

 私からどんな話が出てくるかと思えばいきなり殺人という重過ぎる内容が出てきたせいか、ボーデヴィッヒさんも珍しく引いている。

 

 

「……奴等ということは複数か。利用した男は強かったのか?」

 

「ええ、とっても。たった一人で何人も相手をして、何度も戦って生き残った。でも誰よりも繊細な心の持ち主だったわ」

 

「繊細? 女の為にそれ以外の誰かを何人も殺せる人間がか?」

 

「そうよ。ずっと自分を責めて……泣いていたわ」

 

「……ふん、自分で戦いを選んでおきながら、軟弱な奴だな」

 

「どんなに戦えたって、強くたって、結局はただの一人の『人間』よ。当時の私はそれを理解していなかった」

 

 

 ──なによ! 同情してんの!? アンタが! 私に? 

 

 ──辛いのはアンタの方でしょ!? 可哀相なのはアンタの方でしょ!? 

 

 ──戦って辛くて……守れなくて辛くて……すぐ泣いて……だから……だから! 

 

 ──なのに! なのになんで私が! アンタに同情されなきゃなんないのよ! 

 

 

「彼は私が原因で何度も人を殺すことになったのに、一度だって私を責めなかった。むしろ私の境遇さえ自分の責任だって背負い込んで、そのまま……」

 

「……どうした」

 

「死に別れたわ」

 

「……そうか」

 

 

 ボーデヴィッヒさんは『彼』が死んだのだと思っているだろう。実際に死んだのは私だが、言ったところで仕方ない。

 

 

「あとはひたすら後悔の連続よ。私の歪んだエゴの押し付けで彼の生き方まで狂わせてしまった。もう、謝ることすら出来ない。だから決めたの。私はこの後悔を抱えて、彼のように多くの事は成せないけど、自分の力の届く範囲で大切な人達を守っていこうって」

 

 

 セシリアは他の生徒達に受け入れられた。箒は凶弾から直接守れた。シャルロットはアルスターに居場所を作ってあげられた。ボーデヴィッヒさんは……これからだ。

 

 

「これが私が必死に頑張る理由よ。満足した?」

 

「……正直なところ、貴様に私の腹の内を曝け出す気は無かった。 だが貴様がボロボロになりながらも私の訓練に付き合う姿は……織斑教官の立場で昔の自分を見ているようだった。……だから、これはほんの気まぐれだ」

 

 

 ボーデヴィッヒさんは今まで人前で外したことになかった眼帯を外す。その中にあった左目は金色の輝きを放っていた。

 

 

「私は産まれながらの軍人だった。軍の為に戦い、軍の為に死ぬ。そう運命付けられた私は常に最高水準の成果を収めてきた。しかしISとの適合性向上の為に行ったナノマシンの移植手術が失敗し、能力を制御出来ずに軍人としても能力まで劣化してしまった。もはや不要と切り捨てられることすら覚悟した」

 

 

 左目にそっと手を翳して、思い出を手繰り寄せているようだ。

 

 

「それを覆してくれたのがドイツ軍に一年限定で赴任した教官だ。教官の力が無ければ私はここにはいない。一時、落ちこぼれとすら呼ばれた私が軍でIS部隊を預かるまでに成長できたのだ、尊敬しない訳がない。いや……もはや教官を信仰対象として崇拝していると言っても過言ではなかった」

 

 

 絶望からの救済。織斑先生への執着はそこから来ているのだとすぐ理解できた。

 

 

「先程エゴの押し付けと言っていたな。ああそうだ、今の私はそれだ。教官に私の導として常に前を歩いてほしい。IS学園の教師など勿体無い。強く、凛々しく、孤高でいてもらいたい。そんな教官に認めてもらいたい。教官のような強い人間になって、いつかは並び立ちたい。……そう、思っていた」

 

 

 同じ『人間』に向けるには高過ぎる理想と願望の押し付け。口にしてどれだけ自分が利己的だったのか気付き、皮肉気に笑っていた。

 

 

「私が織斑一夏を嫌う理由は教官の栄光に影を落としたからだ。そして、奴との接触で教官が見せる私の理想とかけ離れた姿もまた許せなかった。……しかし冷静に考えてみれば、前者は奴がいなければ私は教官と出会うことすら無く、落ちこぼれのままだったろう。後者も私の理想が優先で、教官の意思など微塵も考慮していない。……改めて整理すると矛盾や暴論だらけだな、私の動機は」

 

 

 一通り腹の中にあった感情を吐き出せたおかげか。ボーデヴィッヒさんは自分の心で蟠っていた負の感情にある程度整理がついたようだ。先程まで肌で感じるほど張り詰めていた分厚い心の壁はいつの間にか薄まっていた。

 

 

「……教官は、いつまでも独り立ちできない私を疎ましく思っているのだろうな」

 

「さぁ。私と違って先生とは直接話せるんだから本人に聞けばいいじゃない」

 

「そうか……そうだな」

 

「一夏にも謝る?」

 

「む……教官ならともかく、奴に正面から頭を下げるのは癪だ。……よし、タッグマッチで地に這わせてから謝るか」

 

「それ、謝る気が微塵も感じられないわよ」

 

 

 ニヤリと笑うボーデヴィッヒさんの顔は、実にいい表情だった。

 

 

「なぁ、アルスター。私は教官のように成れるだろうか」

 

「無理でしょ」

 

「そこは絶対に成れると応援すべきところではないか……?」

 

「織斑先生、打鉄用のISブレードを生身で振り回せるらしいのよね。アンタできる?」

 

「…………私には無理だな」

 

「何事も線引きと諦めが肝心よ?」

 

「そうだな、うん」

 

 

 二人で温くなったお汁粉を片付けた後、寮への帰路に着く。

 

 

「しかし良かったのか? 外務事務次官の娘が殺人教唆をした証言など」

 

「あら、別にドイツに流してくれてもいいわよー? 欠片も情報が出て来ずに情報部から大目玉喰らうだろうけど」

 

「な……作り話だったのか!?」

 

「いいえ、実際にあったことよ。でも、あったことが無かったことになるなんて、世の中にはよくあることでしょう?」

 

「……そうか」

 

「嘘だと思う?」

 

「いや、あの時のお前の目は本物だった。信じてやろう」

 

「それはどうも。……あ、そうそう。優勝したら一夏と付き合う権利が貰えるらしいわよ」

 

「なに? 貴様、織斑一夏に気でもあったのか」

 

「違う違う。もし私達が優勝したら買い物の荷物持ちでもしてもらいましょう。ボーデヴィッヒさんもいい加減ドイツの軍服と学園の制服以外の私服は持っておいた方が良いわよ? ドレスコードだって急に用意するのは大変だし、どうせ臨海学校で必要な物も揃えないといけないんだから、試合後の休日一日使ってレゾナンスで買い物しましょうよ」

 

「ふむ、いいだろう。奴に持たせる重量のある品でも考えて……思考を割くのも面倒だな。適当にトレーニング用のダンベルでも買うか」

 

 

 きっと、私と冗談や軽口を言い合う今のボーデヴィッヒさんをクラスメイトが見たら驚くだろう。そう思えてしまう程、数十分前までの彼女とは別人みたいだった。完全に吹っ切れた、とは言えないだろうが今後はなんとか自分の感情と折り合いを付けて生きて欲しい。

 

 

「しっかり休めよ、明日からも厳しくするぞ、アルスター……いや、フレイ」

 

「ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。ラウラ教官殿」

 

 

 学年別タッグトーナメントはもうすぐだ。




本作のラウラは事あるごとにフレイから自身の立場を諭された結果、自己紹介時のビンタ以降、過激な問題行動はしていないです。
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