トーナメント終了後、私はラウラにとても怒られた。格上相手とはいえ自分が指導した訓練生があっさりと負けたことが許せなかったのだろう。試合のデータを参照して翌朝には新しいトレーニングメニューを作り上げてきた。あまりの熱意に震えてしまうが、私も実力を伸ばしたいとは常々思っていたので渡りに船とばかりにお願いしたのだが、いつの間にかシャルとセシリアまで一緒に訓練を行う話になっていた。……ラウラ、その背後に山と積まれた高級菓子と織斑先生のプロマイドの数々はなんだろうか。
四人でのトレーニングだが、早々に延期が決定した。というのも、IS委員会とドイツの在日大使、ラウラの上官にあたるドイツ陸軍将校、シュヴァルツェア・レーゲンの開発スタッフ等が揃ってIS学園を訪れたのだ。どうやらラウラのレーゲンには本人も知らない内に非合法な機能が実装されていた事実が判明したらしく、直ちにIS委員会の監視下で機体の総点検、問題機能の除去を行う必要があるらしい。ラウラは軍部からの命令もあり、国際的中立施設であるIS学園内で行われたレーゲンの解析作業に通常授業返上で連日、全面的な協力を行っていた。
数日の作業を終え、日常へ戻ってきたラウラは随分と不機嫌そうであった。おそらくレーゲンに組み込まれていたシステムが彼女の琴線に触れる代物だったのだろう。流石に機密情報を聞き出す訳にもいかず、せめて彼女の気分転換になればと以前約束していたショッピングに誘い、IS学園近くの大型ショッピングモール『レゾナンス』へと繰り出した。勿論セシリアとシャルも一緒だ。ラウラはこういった民間施設の利用が初めてなのか、普段は軍人気質で周囲に当たりが強い彼女もまるで借りてきた猫のように大人しい。せっかくの機会なので、三人がかりで彼女を徹底的にコーディネートしていく。特にシャルはラウラの着せ替えがお気に召したらしく、寮で着る猫型の着ぐるみパジャマなどの趣味品にまで手を出していた。
「む……ぅ……。私にこういうひらひらとした衣服が似合うとは思えんのだが……」
制服から買ってあげたばかりのレースがふんだんに使用された薄手のワンピースに着替えさせたラウラはだいぶ落ち着かない様子だが、それを脱ぐなんてとんでもない。
「ラウラは十分可愛いよ」
「そうですわ。女性社会でも上流の私達があなたなら着こなせると判断しましたのよ? 実際、例の副長さんにも好評だったのでしょう?」
「友人ができたことを報告した時以上に声に歓びが溢れていたぞ。リリーがどうとか……」
「……改めて言っておくけど、あの人が言ったことはそのまま鵜吞みにせず、私達に確認するか、一度インターネットで情報精査しなさい。いいわね?」
「あ、ああ……?」
ラウラの所属する部隊の副官は日本の少女漫画が好きらしい。趣味は人それぞれだから良いとして、そこで得た知識を一般常識として、この軍事方面以外の知識に乏しい少女に教え込むのはやめてほしい。IS学園には姉妹制度や寮同室の約束なんてものは無いのだ。
四人であれこれとウィンドウショッピングを楽しんでいるところで、デート中だった一夏と凰さんに遭遇してしまった。これだけならその場で軽く挨拶して終わりだが、一夏が私達にわざわざ声をかけるものだから凰さんの機嫌は急降下。……流石にデート中、他の女に声をかける神経が分からない。そう思って一夏に意図を問い質したら、なんと彼はこれが凰さんとのデートだという認識すら持っていなかったのだ。
そもそもなぜ二人が休日に揃って出掛けているかと言えば、トーナメントで優勝すれば一夏と付き合えるという例の噂が原因だ。優勝を手にした凰さんはさっそく一夏と付き合える権利を行使すべく本人のもとを訪れたそうだが、残念ながらこの権利、実態は凰さんが想定していた無条件で一夏と彼氏彼女の間柄に成れるといった代物ではなく、箒と一夏が交わした買い物へ付き合う約束を聞いた誰かが流した噂に大量の尾鰭がくっついた末の産物だったとか。凰さんは落胆したものの、実質的なデートの権利と割り切って休日を一夏と二人きりで過ごす切っ掛けに利用したそうだ。そこまでは良かったのだが、彼女は誘う際に照れ隠しで一夏はただの荷物持ちだと言い放ってしまったらしく、朴念仁の一夏はその言葉を疑いすらせず信じ込んでいた。素直になれないと大損をするという典型的事例である。
一夏にこれはデートだと認知させ、二人と別れた私達は買い物を終えて帰寮。念の為、様子見に箒のもとを訪れたが、こちらもたいそう不機嫌そうにしていた。自分の約束を利用して他の女子が惚れた男と出歩いているのは面白くなかったのだろう。とりあえず、人を誘うことに権利や条件など無いのだから何度だって二人きりでの外出を約束すればいいとだけアドバイスはしておいた。あの三人の恋愛事情が今後どうなるかは分からないが、周りを巻き込まない程度に収まってほしい。
それからデートから戻ってきた一夏へようやくラウラが謝罪を決意したり、凰さんにデートの軌道修正のお礼を言われて互いに名前で呼び合うようになったりして、臨海学校前の日常は過ぎていった。
臨海学校前日にシャルの新しい専用機と試験用のストライカーパックが送り届けられた。機体名はウィンダム
今回シャルロットが担当するストライカーパックはエールストライカーより小回りは効かないが速度そのものは上である空戦用『ジェットストライカー』、遠距離砲撃用の『ドッペルホルン連装無反動砲』、そして前世でフラガ大尉…じゃなくて少佐が宇宙で使っていたMA『メビウスゼロ』がそのまま武器になったかのような姿の第三世代級装備『ガンバレルストライカー』の三つ。シャルは初期化と最適化を行いながら担当者から各武装の説明を受けているようだ。
私にも一つ届いている。あまり有効に使えていなかったソードストライカーをアズラエル・インダストリの職員へ返却し、新しいストライカーを確認する。
「『フィックスド・フライト・ユニット』……?」
「はい、通称FFユニット。空戦特化の第三世代級高機動型ストライカーです。フライト・フォームでの直線加速なら最高速度はマッハ2に到達します」
「マッハ2って時速2400km相当……!? き、競技用にしては随分と速過ぎないですか……?」
「……ここだけの話なんですが、このストライカー。アメリカの軍用ISコンペで負けた装備なんですよ」
「え、軍用……?」
職員の声はとても小さいが、ルージュのハイパーセンサーはしっかりと音を拾っている。チラリとシャルを見るが、今はガンバレルストライカーの起動テスト中でそちらに集中していた。どうやら私にだけ聞かせる為にタイミングを伺っていたようだ。
「対抗馬は高機動スラスターと広域殲滅用の特殊射撃武装を取り付けた第三世代ISの新規開発計画。こっちは実績ある第二世代ISに空戦に特化した第三世代級装備を後付けして高い機動性と空中戦闘能力を付与するプランだったんですが……前者はどうやら他国との共同開発を盾にして随分と阿漕な取引が行われたらしく、ついぞこの装備は正式採用に至れなかったんですが、上層部の意向で細々と開発は続けられていたって訳ですよ」
「……それ、私に言ってよかったんですか?」
「上からの指示で持ってきましたが、元軍事用のこいつを任せる以上は多少の事情を把握しておいてもらわないと、フレイさんの身も危ないのですよ。普段は競技用として性能にリミッターを設定しておきます。注意事項ですが、機密保持の為にも装備は適当に遺棄しないでください。 何らかの理由で回収が不可能なら最悪その場で破壊しても構いません。データだけは死んでも持ち帰ってくださいね」
「わ、わかりました……」
私の新しい力、FFユニットの注意事項を真剣に聞きながらも厄介事が起こりそうな嫌な予感を感じずにはいられなかった。
無事お役目を終えたソードストライカーには祖国へお帰りいただいた。…セシリアに任せて非常扉を壊したことと、ブーメランでビームコンフューズもどきしただけじゃんとか言ってはいけない。
軍用ISも開発プランのコンペくらいあるよね→福音の対抗馬ポジション設定でFFユニット登場。
勿論、あの武装も付いてますが凡人のフレイには当然使いこなせません。どうしても彼女に使わせたいならnitro積まなきゃ…
シャルのガンバレルストライカーはAI補助ありの有線操作ということもあってセシリアのビットより圧倒的に敷居が低くなってます。イギリスの量産ISの理想像を横から奪っていくスタイル。