IS短編集   作:魔法科学は浪漫極振り

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織斑マドカは本作投稿者を殴る権利がある


IS×ガンダムSEED㉑

 夏休みに入った。私とシャルは予定通りアメリカへ帰国し、初日はワシントンD.C.の実家でシャルとパパが顔合わせ、翌日はデトロイトへ向かい、アズラエル・インダストリへの出社、ルージュとウィンダムの整備の依頼など、様々な予定を消化していった。アズラエル・インダストリでシャルが気落ちする出来事があったが、相手がレイ主任なら仕方ないと慰めておいた。

 

 そして来る三日目。今回の帰国の最大目的であるアズラエル理事と面会のアポイントを取ることができた私は単身、アズラエル財閥本社へと足を運ぶ。適切な時間に受付を済ませて指定の階層に辿り着くと学園にも来ていた専属秘書の女性に案内される。場所は広過ぎず狭過ぎない、だが内装にはとんでもなく金がかかっていると分かる、数ある応接室のひとつだ。中では既にアズラエル理事が寛いでいた。

 

 

「本日は貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます。アズラエル理事」

 

「君は会社の売上に多大な貢献してくれましたからね。そのお礼と考えてください」

 

 

 社員とはいえ、一個人に時間を割けるほどアズラエルの持つ時間は安くはない。こうして特別扱いすることは周囲の耳目を集め、私が下手な動きができないようにする無言の圧力でもあるのだ。当然緊張はするが、これくらいの負担は予想の範囲。秘書が双方に紅茶と茶請けの用意を終え、応接室を出たことを確認してから、私は切り出した。

 

 

「私如きでは理事に対して探り合いなど私にはできません。なので率直にお尋ねします。ブルーコスモスの盟主であったムルタ・アズラエル氏は、今後どういう展望を想定しているのですか」

 

「ふむ。僕が君の疑念に答える義務は無いですね」

 

 

 即答。ここに来る時点で向こうも私がアズラエル理事の秘密を掴んでいると分かっていたのだろう。

 

 

「そうですか……」

 

「おや、もう諦めます?」

 

「お答えいただけないなら、篠ノ之束、スペースコロニー、月、ダイダロス。この辺りの情報から自分にできる範囲で探し出してみます」

 

「脅しにもなりませんね」

 

 

 子供の言う陰謀論など、真に受ける人はいない。真剣に向き合ってくれた織斑先生が珍しい存在なのだ。

 

 

「はい。でもそれしか手札がありませんので、諦めて全部ここでベットしました」

 

「ククク……」

 

 

 キッパリとこれはギャンブルだと言い切った私が滑稽だったのか、アズラエル理事が笑い出した。

 

 

「いやぁ、失礼。……バジルール少佐の背中に隠れて怯えていた少女とは思えませんね」

 

「馬鹿は死んでも治らないといいます。以前の私は愚かでしたが、経験は僅かなりとも糧になりました」

 

「今、僕に対面している時点で十分に愚かでは?」

 

「私に何かあれば、それが答えになりますから」

 

 

 私に問題があれば織斑先生にはアズラエル理事が黒だと分かる。シャルを置いてきたのも面倒事に巻き込まない為だ。

 

 

「ふむ、織斑千冬ですか。束博士のお気に入りでなければ第二成功体の織斑一夏諸共、後腐れないように消してしまいたい心情なんですが」

 

「……やはり、先生達の秘密はご存知でしたか」

 

「それはそうです。プロジェクト・モザイカを知って、完全に潰したのは僕ですよ」

 

「そのプロジェクトは篠ノ之束博士の登場で自然消滅したと聞きましたが……」

 

「織斑千冬本人がそう言ったんですか?」

 

「ええ」

 

「はぁ、そんな訳ないでしょう。より上位の天然の逸材が産まれたならそれを踏み台にして、更に上の結果を求めるのがトチ狂った科学者連中の思考回路ってもんです。他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。人の業っていうのは際限ないものですよ? 世界選手になってからは自分の遺伝子情報の処理はしっかりこなしていたようですが、人間の愚かさをまだまだ理解できていないとみえます」

 

 

 紅茶に口をつけて、口元を湿らせたアズラエル理事は話を続けた。

 

 

「織斑千冬と束博士が処理した部分は謂わば黴の表面を拭って外見を綺麗に整えただけ。肝心の根っこは残ったままでしたよ。まぁ、当時はジュニアスクールの年齢だった彼女達ですから、表面の処理ができただけでも十分に異常な成果ではあります。ま、そんな訳で残りは僕が手を下しました。計画の残滓は科学者諸共闇に葬りましたし、プロジェクトの派生であるドイツ軍の遺伝子強化試験体も製造中止、各機関の研究データだって完全抹消済みです。……ああ、織斑のクローンなんてのもいましたね」

 

「クローンですか……?」

 

「ええ、織斑一夏と違って、織斑千冬に拾われなかった哀れな少女ですよ」

 

「その子は今、どうしていますか?」

 

「もう何処にもいませんよ。当初は監視用ナノマシンで制御、有効活用する計画もありましたが、織斑千冬への拘りが強過ぎた。命令に不服従が多く、織斑計画の情報が露見するリスクと天秤にかけて廃棄処分、叶わない望みを抱きながら生き続けるよりはマシな結末でしょう」

 

「……織斑家に、混ざる事はできなかったのですか」

 

「無理です。織斑姉弟は篠ノ之束によって戸籍を数代前まで遡って偽造されていました。誰がどんなに調べても一部の隙も無い完璧な物に仕立て上げられている。だからこそ彼女達はこれまで優れてはいるが、ただの人間とその弟でいられた訳です。そんな環境に織斑姉弟にそっくりな異物を混ぜて御覧なさい。ありとあらゆる方面から奇異の目が集まり、最悪、遺伝子調査で三人の素性がバレますよ」

 

 

 どうしようもない、これは既に終わった話なのだ。私に出来るのは、名前すら知らない少女の冥福を祈ることだけだ。

 

 

「織斑の話はもう十分でしょう。最初の質問に戻りましょう。僕が考える展望でしたか?」

 

 

 センチメンタルに浸っている場合ではない。気をしっかりと持たなければ。

 

 

「最初に言った通り、僕に答える義務はないですが、命懸けの仕事をこなしてもらった義理がありますので、その報酬として僕の活動に不都合の無い範囲で情報をあげましょう。それで良いですか?」

 

「はい、お願いします」

 

「よろしい。交渉成立です。さて、アルスターさん。君と僕以外にコズミック・イラを知る人間はどの程度いて、そもそもどういう人がここに来ていると思います?」

 

「……理事と私以外では技術開発関係に何人かいるのではと予想していますが、数や条件は全くわかりません」

 

「これまで僕が調査したところ、軽く数千は超えています。時代こそバラバラですが、確実です」

 

 

 文字通り桁が違った。まさか一人、二人どころの現象ではなかったとは。

 

 

「で、一番重要な条件。あの世界で戦後、どのような呼び方をされているか知りませんが、記憶持ちの99.9%以上が第二次ヤキン・ドゥーエ戦で死亡したナチュラルです」

 

「あの、決戦で……」

 

「ええ。だから君の知る範囲の人物では、ヤキン戦前に亡くなった君の御父上ジョージ・アルスターや当時、ブルーコスモス所属の士官候補生として軍属にはありましたが戦死を免れたイアン・リー少佐は記憶がないようです」

 

「……残りの0.1%弱の内訳は、コーディネイターですか」

 

「地頭は悪くないですよね、君。ヘリオポリスの最先端工業カレッジに留学していただけはあります」

 

「ありがとうございます」

 

「そうです。この世界の遺伝子工学で生まれたヒトモドキにも極まれながら前世持ちが紛れていることがあります。数が少なくて未だ完全な条件は分かっていませんが、わざわざ条件確認の為に生ゴミを増やす気はありません」

 

 

 情報を得ているということは、その人達はもう……

 

 

「その上で確認です。あの戦闘の最中でプラントの戦争指導者、パトリック・ザラが死んだって知ってました?」

 

「いいえ。私もドミニオンが沈んだ後、すぐに戦死しましたので」

 

「僕も僕の没後、戦闘の終結直前で死んだ人物に出会えたから知れたのですが、どうやらクーデターで死んだようです。八ッ!ざまぁないですね」

 

 

 理事の最期も実質的なクーデターだったようなと言いかけたが、空気を読んで黙る。

 

 

「ともかく、奴はコーディネイター優越思想の提唱者。復讐の為にナチュラル殲滅を掲げた男。この世界に来たら、面倒だと思いません?」

 

「つまり、理事はコーディネイターの前世持ちが生まれる芽を完全に潰したいのですね」

 

「ええ、彼以外にも遺伝子改造の技術や知識を有するコーディネイターが現れて完全にコーディネイター技術を復元したら、せっかくの青き清浄なる世界が再び汚されてしまいます」

 

 

 遺伝子工学の発展による遺伝子改造者の輩出を防ぎ、記憶を持つコーディネイターの復活を恒久的に阻止する。それこそがムルタ・アズラエルの目的。想定していたよりも穏健な手段だと思ってしまうのは、前世のイメージに毒され過ぎたせいだろうか。

 

 

「理事のお考えは理解できました。少なくとも現状は傍観の立場を取りたいと思います」

 

「おや、意外ですね。反対するかと思いましたが」

 

「既に生きている私の知人達を殺すのであれば、頷けません。ですが、まだ生まれていない者に対してまで庇護の手を伸ばすべきだと考える聖人じゃありません」

 

「織斑姉弟やドイツの遺伝子強化試験体ですか」

 

「はい。それと、遺伝子強化試験体ではありません。彼女はラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

 

 そこはハッキリ否定させてもらおう。ラウラはラウラである。

 

 

「ふぅん。あれは君のお気に入りですか?」

 

「彼女はIS学園で出会ってからずっと、大切な友人であり指導教官です」

 

「編入時の状態は感情の処理ができない、一般常識もほぼ通じない。見事なまでの出来損ないだったと聞いてますが」

 

「彼女は教えられていなかっただけです。知らなかっただけです。だから私達は言葉を交わして、少しずつ理解し合うことができたと思っています。ですから、お願いします。ラウラを、一夏を、織斑先生を。私の友人や恩師を見逃してもらえないでしょうか」

 

 

 頭を下げる。誠心誠意の願いを持って。この人の慈悲に縋るしか、今の私にはできないのだ。

 

 

「はぁー。なるほど。なるほどね。顔をあげてください。…………君みたいな人を()()()()()()()()っていうんですかね?」

 

 

 突然理事が不思議なことを言う。私が、コーディネイター? 

 

 

「えっと、私は前も今も間違いなくナチュラルですが……」

 

「ん、口に出してましたか。忘れてください。それでラウラ・ボーデヴィッヒでしたね。ま、更生の余地があるなら僕は存在を容認しましょう」

 

 

 あっさりと認められてしまった。この人、本当にムルタ・アズラエル? 

 

 

「よ、よろしいんですか!?」

 

「元々、質の悪いコーディ共と一緒で能力主義者で暴力的、傲慢な人物だと聞いていたから処分を検討しただけで、従順なら手は出しません。これは織斑姉弟も同様です。ジョージ・グレンの告白みたいな大馬鹿をやらずに生きていくなら、束博士との約定もありますので僕は黙認します」

 

 

 いや、なにかがおかしい。絶対おかしい。だってあのブルーコスモスの盟主が。青き清浄なる世界のためなら核を嬉々とばら撒いてた人が遺伝子改造者の生存を認める……?

 

 そして、おそらく私の顔には驚愕と不安の文字がハッキリと浮かんでいたのだろう。アズラエル理事は眉を顰めながら私の疑念に答えてくれた。

 

 

「ブルーコスモスの盟主が言っても信じられませんか? 結構な人に驚かれるんですけど、僕は前世の会社でもコーディネイターを社員として何百、何千人も雇ってましたからね?」

 

「そ、そうだったんですか!?」

 

「個人的な理由でコーディネイターは嫌いですが、別にその存在全てを否定している訳じゃありません」

 

 

 苦虫を何十匹も一度に嚙み潰したような苦い顔をして過去を思い出しているようだ。

 

 

「前だってコーディ共が世界各地でテロの標的にされて泣きついてきたから、避難先兼職場として宇宙での活動拠点となるプラントを理事国経由で出資した金で作らせて、完成したプラントにテロ被害にあったコーディネイターが住めるように移民の手配だって協力しましたよ。……そしたらアイツらトチ狂ってウチの固定資本であるコロニー群を自分達の土地だ、ナチュラルは搾取するな、独立だ、なんて言い出した挙句、武装占拠したんですよ? 貿易自主権だの食料生産制限に対してケチ付けてきましたけどね、当時の宇宙拠点のインフラの整備やら地球からの物資輸送にかかるコストで金はいくらあっても足りなかったし、プラントが正常稼働して低コストの資材が地球圏内で出回るまではずっとこっちは赤字続き。多少の暴利でも資本の補填と回収が急務だったんです。それをあの黄道同盟の大馬鹿共はこっちを利用するだけ利用して最初から踏み倒す気満々で、おつむの足りない一般コーディ共の感情を誘導して……コホン、失礼、少々熱くなり過ぎました」

 

 

 過熱し始めたアズラエル理事の鬱憤はなんとか鎮静化したが、前世のプラントへの苛立ちは未だに残っているようだ。今のチョロっと聞いた怨嗟だけでもプラントが悪いように聞こえるが、対立意見は一方の話だけで物事を判断すると危ういのだと私は知っている。話半分で聞いておこう。後はアズラエル理事が束博士と何をやっているか聞き出さなくてはならない。

 

 そんな時にノックの音が響いた。アズラエル理事が許可すると秘書が何事か耳打ちする。

 

 

「……話はここまでにしましょう。それと護衛を数名つけます。アズラエル・インダストリの宿舎までは寄り道せずに直帰してくださいね」

 

「あの、何があったんですか?」

 

「テロです。君の義理の妹さんが、襲撃されました」




……遺伝子技術の拡散を危険視するアズラエルが織斑マドカなんていう特大級の爆弾をわざわざ生かしておく理由が欠片も無かったのです。ポジションはカナードっぽくて、初登場時前後は、私は好きでしたよ(過去形)
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