IS×戦場のヴァルキュリア①
第二回モンド・グロッソ開催地に決定したドイツは国家全体で大いに沸きあがっていた。
……だが当事者であるはずのドイツの国家代表と代表候補生達に笑顔は無い。原因は突如通達されたIS用演習場への召集命令とその理由に苛立ちを隠せずにいたからだ。
『新規の代表候補の紹介とそれを踏まえた国家代表の再選定』
彼女達は血と汗に塗れ、数多のライバル達を蹴落として今の立場を勝ち取った。特に国家代表は第一回モンド・グロッソに出場し、部門優勝を果たした『ヴァルキリー』と呼ばれる精鋭だ。前回の総合優勝者・日本代表の織斑千冬へのリベンジマッチを果たす為に徹底的に自身を鍛え上げ、織斑が得意とする格闘部門や近接部門でも勝利を奪う腹積もりである。
それが一人のドイツ軍高官の横やりで白紙に戻されたのだからたまったものではない。
「ベルホルト・グレゴール中将だったか。こんなふざけた茶番を仕組んだのは」
「……ええ。世界大戦直後の生まれですが、その苛烈さはナチスの武装親衛隊将校を彷彿させると噂されていますね」
「今更そんなアンティークがしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」
「大方、昨今の女尊男卑主義の蔓延で肩身が狭くなったんで最後に一山当てようってところじゃない?」
「大人しく老後の生活でも心配していればいいのに。これだから男は馬鹿よね」
クスクスと候補生達の笑い合う声が響くが国家代表はその輪に加わらず、じっと入口を睨んでいる。
……数分後、ドイツIS委員会の役員とその後ろに続く新しい代表候補と思われる一人の女が演習場に現れた。
癖のひとつも無い銀糸の長髪、艶のある白く滑らかな肌、男も女も魅了するであろうハッキリとした肢体はノースリーブの黒の軍服風の衣装で覆われている。顔も精巧な西洋人形のように整い、中でも赤い瞳は煌めくルビーを彷彿とさせ、じっと見ていると引き込まれそうになる魔性を秘めていた。
自分達と同じ人とは思えぬ天上人にあてられた代表候補達は彼女が声を発するまで、息継ぎすら忘れていたことに気付いていなかった。
「セルベリア・ブレスだ。IS競技大会の代表候補としてこの場に参上したが……私にドイツという国への愛国心は欠片も無く、ISというものにも一切価値を見出していない。だが私の目的の為にはモンド・グロッソという舞台での絶対なる勝利と名声が必要だ。故に諸君等にはドイツ代表の座を明け渡してもらう」
あまりにふざけた宣戦布告であった。先程まで見惚れていた彼女達も顔を朱に染めてセルベリアを罵倒した。
「何様のつもりだ!」
「爺に抱かれて調子に乗ったか売女!」
「
「
世界共通語である日本語とドイツ語で罵詈雑言のオンパレードが絶え間なく垂れ流されるが、彼女は顔色一つ変えずにたった一人、一言も発さず沈黙を続ける国家代表に視線を向けていた。
「強いのか?」
ようやく開いた国家代表の口から出てきたのはセルベリアへの一言の問いであった。彼女にとって重要なのは出自でも、優れた容姿でも、気高い愛国心でも、確たる信念でもない。
強さ。お前は前回優勝者・織斑千冬を打倒し、勝利できるのか。その一点だけが代表の座を奪わんとする彼女に対して必要な確認であった。
「言葉は不要だろう」
セルベリアはそれだけ告げると集団から距離をとって自身に与えられたISを展開した。
……それはISと呼べる代物では無かった。螺旋がそのまま形となったかのような異形の蒼き大槍と円盾が最初に目に付くが機械的な部分は肩と腰、脚部にかろうじて推進の為のスラスターが取り付けてあるだけの代物であった。
「まとめて相手をしよう。来い」
第二回モンド・グロッソ選手情報
ドイツ国家代表 セルベリア・ブレス
年齢 22歳
身長 175cm
体重 50kg
出身地 ドイツ軍より削除要請があり情報抹消済み
経歴 同上
特筆事項
・IS適性『S』
・単一仕様能力所持者
能力名称『ヴァルキュリア』。現時点で判明している効果は蒼い炎が全身を覆い、発動中はあらゆる攻撃に対して絶対的耐性を得る。検証試験ではMBTの主砲を正面から弾き返したとされるが、いずれにせよ並みの武装ではその防御力を突破することは困難だろう。
以下、本文で書くと書きたい部分に辿り着くまでが冗長になると判断した為、後書きで解説することにした裏設定
ベルホルト・グレゴール中将
原作『戦場のヴァルキュリア』に登場した東ヨーロッパ帝国連合の将校である。
ファウゼンで戦死後、生前の記憶を持ったままIS世界のドイツへ転生。しかし世界地図や歴史には前世と類似した部分が散見されたものの、忠誠を誓った帝国は姿形が一切なく、失意のまま出身国のドイツで前世と同じく職業軍人を目指す。
ドイツ陸軍で中将まで登り詰めたが『白騎士事件』後、IS絶対神話や女尊男卑思想の蔓延に加えてIS操縦者達に前世の同僚であった女傑ほどの才も価値を見出せずに無関心を貫いた結果、大将への道は閉ざされた。
第二回モンド・グロッソの開催地を巡って世界が蠢く中、小旅行で前世におけるギルランダイオ要塞が重なる地を訪れたところ、当時の姿のままヴァルキュリアの槍と盾を携えたセルベリアを発見し、保護。
彼女から前世での死後の経緯を伝え聞き、自軍の敗戦を察する。その後、セルベリアの願いを叶える為に第二回モンド・グロッソの選考へ横やりをいれて彼女を押し込んだ。