IS短編集   作:魔法科学は浪漫極振り

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ちょっとグレゴールの性格が柔らかい気がする。前世含めると100年近く生きてるし、性格にも変化が起きてるってことで…


IS×戦場のヴァルキュリア②

 出場選手控室で織斑千冬はモンドグロッソ最終競技・総合部門における決勝相手の情報を精査していた。

 

 自分と同じIS適性Sを叩き出し、単一仕様能力を発現しているというドイツ代表セルベリア・ブレス。大会以前の情報は殆どなく、国家代表の資格を得るために前国家代表を含めた代表候補全員を単身で返り討ちにしたという逸話だけが広まっている。既に実施された各部門でも高いバランスで得点を獲得し、いくつかの部門で優勝を果たしていた。その中で不得手だと分かったのは飛行部門くらいだ。

 

 残す総合部門。つまりは一対一の真っ向勝負が始まって使用し始めた『ヴァルキュリア』という単一仕様能力は特に厄介で、発動中は絶対防御が発動する生身の部分へ直撃を受けようともシールドエネルギーの減少値が目に見えて激減する。それと同時に装備した螺旋の槍はただの近接武装ではなくなり、青い光を纏い、それを撃ち出してくる。

 

 この槍の光は常時渦を巻いており、回転速度を上がると貫通性の高い砲撃を撃ち出せるようだ。また火力は劣るが機関銃のように絶え間ない弾幕をバラまくことも可能。しかもエネルギーの消費効率が極端に優れているのか、エネルギー切れや弾切れを起こしたことがこれまでの戦闘で一度も無い。

 

 盾は普段は取り回しの良い円形の小盾だが本人の意思で大盾サイズに可変する。しかもこの盾はバズーカやアンチマテリアルライフルなどの大型火器の猛攻を正面から防ぎ切る強度も持つ。フランス代表が打ち込んだ盾殺しと呼ばれるパイルバンカーですらセルベリア本人を衝撃で吹き飛ばしただけで盾に傷一つついていなかった時は会場が騒然としていた。

 

 欠点は槍と盾を持っている時でないと発動しないこと。……ブラフの可能性もあるので頭から信じ込んではいけないが、もっとも能力を発揮できるのはあの槍と盾を持って発動した時なのだろう。それと槍が大型なので超至近距離では取り回しが悪い点だ。ただ、インファイトに弱いと考えたイタリア代表のアリーシャがお得意の近接戦闘でセルベリアと殴り合い、しのぎを削ったがついぞ有効打を与え切れずに敗北した。

 

 ここまでの試合で得られた情報を羅列したが本当に規格外だ。特に燃費が悪いなどというデメリットさえ無い点が羨ましすぎる。あまりに破格の性能故に各国から不正を疑われ、途中でIS委員会が彼女が使うISの計器類にチェックを入れたが問題は一切出なかった。もっとも単一仕様能力というのはISが生み出すブラックボックスの塊みたいなものだ。運営委員会の調査でその全てを理解することなど不可能だろう。

 

 そしてなによりも厄介なのが本人が非常に実戦慣れしており、強引な攻めは受け切り、甘い守りは的確に突いてくる、誘いには安易に乗ってこない。噂では彼女を推したグレゴール将軍の秘蔵っ子だの、ドイツ軍特殊部隊のトップエースだの言われているが……彼女の正体など勝敗には何の影響も無い。こちらが勝つ手段があるとすれば、あの戦い上手を出し抜いて千冬のIS暮桜が発現した単一仕様能力『零落白夜』であの防御力を突破し有効打を与えることができるのか。そこに全てがかかっていた。

 

 

 千冬の持つ最強の剣『零落白夜』とセルベリアの最硬の盾『ヴァルキュリア』。有名な故事になぞらえて二人の勝敗を語る者も少なくない。

 

 

「私はあの女に勝てるか……?」

 

 

 無意識に自らが呟いた一言に千冬は驚き、笑ってしまった。

 

 

「弱音か。久しぶりに口に出した気がするな」

 

 

 織斑千冬はその高過ぎる実力から基本的には他者に挑まれる立場であり、自らが挑むということは実に珍しい感覚であった。親友である篠ノ之束は加減抜きで付き合えるがあくまで彼女との過激なやり取り行為はじゃれ合いの範疇である。そして、これまで戦ってきたモンド・グロッソの強豪達は実力も伯仲しており、全力で挑むに値する理想的な好敵手達であった。

 

 しかしセルベリア・ブレスという女傑は異質に過ぎる。突如出現した乗り越えるべき壁。千冬にとってそう形容すべき相手だと判断した。

 

 

「一夏も見ている。無様は晒せんな」

 

 

 戦意を新たにし、間もなく訪れる強敵との戦の舞台に思いを馳せる。そんな時だ。彼女の連絡用端末に一本の凶報が届いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑千冬が決勝を辞退……?」

 

 

 セルベリアは前世の同胞であり、現在は彼女の庇護者となっているベルホルト・グレゴールから対戦相手である千冬の大会辞退とその理由が伝えられた。

 

 

「織斑の実弟が何者かに誘拐された。彼奴は世界大会を捨てて、その救出に向かう。ドイツ軍には誘拐犯の情報収集を含めた様々な支援が求められているようだな」

 

 

 大会関係者の誘拐。絶対あってはならない問題の発生に、大会の裏側でドイツと日本の人員は奔走していた。グレゴールが詳細を知ったのもそうして浮足立ったところから漏れ出た情報であった。

 

 

「ドイツ軍はどう動く」

 

 

「私の管轄ではない故、仔細は知らぬ。だが他国の要人からの要請だ。応じて、それなりの見返りは要求するだろう。……これで貴様は不戦勝。優勝の称号はドイツのものだな」

 

 

「そうか」

 

 

 セルベリアの返答は短く固かったが、その声音には感情が十分に乗っていた。

 

 

「不服か」

 

 

「……前世の死者がこちらに訪れているのであればマクシミリアン殿下もまたいずれこちらを訪れる可能性がある。モンド・グロッソの優勝で私の名を世に知らしめれば何処におられようと私の存在に気付いてもらえる。……だが半端では駄目だ。私は前世で敗北し、殿下の期待に応えられなかった! だからこそ、ここでは、今度こそ最強でなければならない! 殿下に最後の時まで信頼される価値を取り戻さねば意味が無い。不戦勝での最強の座など殿下が認められる筈がない!」

 

 

 かつてのセルベリアとグレゴールは腹の内を晒し合う間柄では無かった。セルベリアは自らを救い出した準皇太子マクシミリアンに絶対の忠誠を誓い、彼の目的である母を殺した帝国への復讐を果たす算段を補佐していた。それに対してグレゴールはマクシミリアンが暴挙に出ないように帝国から付けられた監視役であり、ヴァルキュリアの力にも懐疑的だった彼はセルベリアに対しても良い感情を持ってはいなかった。

 

 つまりは潜在的な敵同士だった訳だが、この世界に帝国は存在せず、前世やマクシミリアンを知るのは現状二人のみ。彼女がかつての後悔の念を吐露してしまうのも致し方ないことだった。そしてグレゴールもまた、セルベリアの主に捨て駒とされてなお朽ちぬ忠誠心だけは正当に評価していた。

 

 

「ふん、ならば貴様も出場辞退をIS委員会に打診しろ」

 

 

「なに……?」

 

 

「このままではドイツが利を得過ぎる。犯人が何者かまでは知らぬが誘拐騒動をドイツが裏で手を回したと思われたくはない」

 

 

「……だから辞退して帳尻を合わせろと、そういうことか」

 

 

「それもあるが、なにより決勝出場者が両名とも出場辞退は運営のIS委員会にとって痛手だろう。既に消化した三位決定戦を事実上の決勝扱いにするなど出来るはずもない。だから奴等に無理やりにでも時間を稼がせればよい」

 

 

 既に決勝戦の時間までさほどの時間は無い。それをどうにか引き延ばして体裁を整えろというのだ。IS委員会が聞けば悲鳴をあげそうな話である。

 

 

「迅速に事件を解決し、決勝を正式に行えば国益に叶い、貴様も最も良い形で終えられる。ただそれだけのことよ。……貴様にも動いてもらうぞ、セルベリア」

 

 

 その後グレゴールは自身の手勢を動員し、先行していたドイツ軍に合流させた。本来であれば指揮系統の混乱が予想されるところだがグレゴールが早々に指揮権を現場の指揮官へ移譲を行うことで僅か十分で開催都市周辺の包囲網を完成させ、テロリストが潜伏していると思われる各エリアへ陸戦隊を派遣した。セルベリアもまた目標のひとつ、会場にほど近い候補地のひとつへと向かったのである。




セルベリア・ブレス

原作『戦場のヴァルキュリア』より登場。

古代ヴァルキュリア人の末裔。準皇太子マクシミリアンの忠実な配下であったが敗戦の末に敵の主力部隊を道連れとした自爆を命じる形で切り捨てられた。

命を賭した自爆で死亡したはずであったが気付けばナジアル会戦後に失った筈のヴァルキュリアの槍と盾を持ってIS世界を彷徨っていたところをグレゴールに発見される。

理由はどうあれ、あの世界の死者がこの世界を訪れるのであれば、いずれマクシミリアン本人もこの世界を訪れる可能性があると考え、己の存在を世界に知らしめるという一点の為だけにモンド・グロッソへの参戦を決心した。

使用するISはIS適性試験用の簡易機体のもので特筆すべき点は無かったが、拡張領域に『ラグナイト』と呼ばれるこの世界に存在しない特殊鉱石から作り出されたヴァルキュリアの槍と盾というオーパーツを登録したことで一転、現行機最強格へと跳ね上がった。特に可変する盾はのちに『展開装甲』という概念を生み出す要因となった。

また本機は正式な名称が付けられておらず、メンテナンスを担当するスタッフから愛称として『ネームレス』と呼ばれているが、その名前に思うところがあるのかセルベリアが一瞬だけ眉をひそめたという。
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