IS短編集   作:魔法科学は浪漫極振り

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戦わないと言った(言ってない)な。あれは嘘だ。
苦手な戦闘シーンです。期待はしないでご覧ください


IS×戦場のヴァルキュリア③

「クソがッ! なにがISで陽動するからその隙に撤収しろだ! 抜け道一つありゃしねぇぞ!」

 

 

 織斑一夏を誘拐した亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』に所属する小隊長である彼はこの作戦が最初から気に入らなかった。最近になって幹部に昇格し、モノクローム・アバターを指揮する立場になったスコール・ミューゼルという女も、そいつの直属の部下であり陽動役を請け負ったはずのオータムも何もかもがだ。

 

 亡国機業は第二次世界大戦中に設立された秘密結社だ。その設立目的は戦争や紛争を裏から操作することによって、利益とする死の商人。つまり軍需産業企業による連合体である。

 

 ある国に長距離ミサイルを売れば、その仮想敵国にはミサイル迎撃システムを売り込む。有形無形様々な商品を得て買い手は満足し、彼等は儲けられる。実にWin-Winの関係であった。

 

 その状況が一転した。インフィニット・ストラトスという既存の兵器類を凌駕する存在が全てを塗り替えた。

 

 世界はISを求めた。軍艦や戦闘機、ミサイルの数を揃えるより一機のISが必要とされた。だが元となるISコアは総数が限られる。

 

 無論亡国機業もIS事業には手を出したがこれまで大口の顧客だった大国は軍事費をISに注ぎ込み、IS以前の武器は需要が減り、ISの届かない小国に売るにしてもたかが知れている。だから彼等は自分達の利益の為にブラック・オプスを行う独自の部隊モノクローム・アバターを作ることにした。

 

 当初、人員はISの台頭で切り捨てられた傭兵や男の軍人を雇い、武装は売れ残った武器を与えられた。売れ残りと言ってもあくまでISに対応していないだけで世界水準で見ても最高品質は保証され、集った仲間達も最高だった。だがISの強奪や横流しによってモノクローム・アバターにもISが混じるようになってくると様子が変化してきた。かつて自分達の居場所を奪ったISが再びテリトリーを犯し始めてきた。割り切った連中もいたが、彼は未だにISという存在への妬みや恨みが燻っていた。

 

 そんな折に今回の作戦が立案された。

 

 ISを作り出した篠ノ之束の出身国、白騎士に守られた地、第一回モンド・グロッソでの優勝者のいる国、ISを学ぶ学舎の設立地。文字通り世界の中心的存在へと変貌しつつある日本の一強状態が続くことは今後の介入が困難になるとして、亡国機業にとって歓迎できない話であった。

 

 故に第二回モンド・グロッソでの日本の連勝阻止を目的として織斑千冬の関係者つまりは織斑一夏を誘拐した。

 

 彼は馴染みの部隊員を連れて織斑一夏を大会会場から近い廃工場の拠点に監禁し、潜伏していた。予定ではオータムが展開中のドイツ軍を釣りだした後に穴が開いた包囲網から撤退するはずだったが、ドイツ軍に追加動員された陸戦隊の動きが早く、出来たばかりの包囲網の穴を塞いでしまい、身動きが取れなくなってしまった。

 

 撤退支援を要請したが現状待機の指示のみが伝えられた。この状況で待機など詰みではないか。つまりこの部隊はいけ好かないIS使いの女(スコール・ミューゼル)から切り捨てられたのだと判断した。

 

 仲間と自分の命、そして作戦放棄のデメリット。諸々を考えた末、彼は今後も脅迫のネタとして利用できる織斑一夏はここに放置し、持ち運べない装備を捨て、撤退することを決めた。足枷さえ無くなれば上手くいくだろう。実際に上手くいく可能性は高かった。

 

 ……屋根を突き破って飛び込んできた蒼い光さえなければ、だが。

 

 

 

 

「当たりを引いたか」

 

 

 生体反応を避けつつ飛び込んだ先には武装した男が四名、口と手に枷を付けられて拘束された少年が一人。誘拐された織斑一夏だ。きっと助けに来るのは姉だと思っていたのだろう。姉の対戦相手であるはずのセルベリアが来て驚いているようだ。即座にIS経由で情報を伝達し、男達と対峙する。

 

 

「お、おいおいおい。なんでアンタがここにいる。決勝はどうしたよ、ヴァルキュリアさんよ」

 

「その決勝が無くなりそうだったのでな。手早く片付けにきたぞ」

 

 

 セルベリアが一歩踏み出したところで男達は各々が持つ銃を一夏に向けた。

 

 

「動くんじゃねぇよ」

 

「……既にグレゴールの部隊がこの廃工場を取り囲んでいる。無駄な抵抗は止めて投降しろ」

 

 

 グレゴールは敵に対して容赦が無い。早々に降伏しなければ命の保証はできない為、セルベリアの降伏勧告は彼女なりの慈悲であった。

 

 

「うるせぇって言ってんだよ!」

 

 

 もっとも、今の彼にはセルベリアの余裕ぶった態度が気に入らなかった。燻っていた感情が溢れて止まらない。

 

 

「どいつもこいつもIS使えりゃ偉いってか! 俺達には一山いくら程度の価値すら無いってか! 上から目線も大概にしやがれ!」

 

 

 セルベリアは厄介だと感じた。感情が爆発して理性的に動けなくなる兵士は帝国軍にもいたし、その暴走の結末はたいてい碌なことにならない。この場合は人質の織斑一夏の身が危ういだろう。だから、人質の保護を最優先にすると決めた。これまでISという超兵器で包み隠していた本来の力を使うことにした。

 

 

「そんなにISが嫌いか」

 

「ああ、大っ嫌いだね! 全部粉々にぶっ壊してやりてぇよ!」

 

「なら壊すといい」

 

「は?」

 

「私のISをくれてやろう。受け取れ」

 

 

 待機状態にしたISをリーダーの男に放る。

 

 この暴挙はセルベリアの一挙一動を警戒していたテロリスト四人の視線を一瞬とはいえ宙を舞う待機状態のISへと向けさせるに十分だった。

 

 ……それで十分だった。セルベリアはヴァルキュリアの力を活性化させて蒼い炎を纏うと一瞬でトップスピードへと至り、一夏の近くにいるテロリストを顔が陥没するほどの勢いで殴り飛ばした。そして一夏を強引に抱き込むと、そのまま手近な遮蔽物に飛び込んだ。咄嗟に胸元で抱きしめる形になった為、一夏は息苦しそうだが人質は無事保護できた。

 

 

「な……は……? な、なんでIS無しで単一仕様能力が……」

 

 

「貴様が知る必要は無い。それより時間切れだぞ」

 

 

「一夏ぁ!」

 

 

 直後、セルベリアから連絡を受けた織斑千冬の突撃を受けて残っていたテロリストも十秒と持たずに全員沈黙した。

 

 

 

 

 

 

「撤収するわ」

 

「おいおいマジかよ。このままだとどう考えても作戦失敗だろ」

 

 現場から戻ったオータムが作戦指揮所で慌てて撤収作業を行う隊員と電文を睨みつけるスコールに声をかける。

 

「グレゴール中将が動いた。殲滅戦がお得意の老人相手に悠長していると今は無事な手駒まで狩られてしまう。これ以上は無理よ」

 

「幹部連中は何も言わなかったのか」

 

「何人かに小言を言われたけど、結局は作戦中断の許可が下りたわ。ただ……」

 

 スコールは先程まで睨んでいた電文をオータムに手渡した。オータムはそれを読んでもさっぱり意味が分からない。

 

「なんだこれ?」

 

「さぁ? それが届いたから撤収が許されたのよ。どういった意味かは新入りの幹部には教えてくれなかったわ」

 

 

《ヴァルキュリアの末裔に幸あれ》

 

 

 その一文の意味が理解できる者はこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 第二回モンド・グロッソ総合部門決勝は()()()()()()()()により二時間遅れで開催された。

 

 日本代表・織斑千冬のIS暮桜、ドイツ代表・セルベリア・ブレスのISネームレスが静かに対峙する中、外野であるはずの観客達は長らく待たされたこともあって爆発しそうな程の熱を醸し出している。

 

 

「感謝はしている。だが試合は本気で行かせてもらう」

 

「最強を下さねば意味は無い。加減など不要。全力で来い」

 

 

 試合前の僅かなやり取り。読唇術で二人の会話を読み取ったところで意味するところは当事者にしか分からないだろう。

 

 そして試合開始のシグナルが鳴り響く。

 

 武装が雪片という近接戦闘用の刀剣しか持たない暮桜を使う千冬に待ちの概念は無い。得意の瞬時加速でゼロ発進加速からトップスピードに至り、インファイトに持ち込むべく突撃する。

 

 対するセルベリアは蒼い炎を纏い、リーチの長い槍を自身の体の延長のように巧みに動かして槍の先端で千冬の初撃を弾き返す。

 

 激突の衝撃で前進は止められたが距離は離されない、離さない。異常に燃費の良いセルベリアの『ヴァルキュリア』を超えるには『零落白夜』の一撃に可能な限りのエネルギーを込めねばならない千冬が勝機を得る道はひとつ。超短期決戦。それしか無いのだ。この戦いは千冬が速攻で攻め切れるか、セルベリアが守り切れるかの戦いでもあった。

 

 千冬は距離を更に縮めるべく、公式の場ではこれまで一度も使わなかった……正確には成功率の低さと反動を考慮すると使えないと判断して封印していた技術を本番で強行した。

 

 

「ぐ……あぁッ!!」

 

 

 肩部、腰部、脚部、背面とスラスター各部ごとに瞬時加速を行う――後に個別連続瞬時加速という名称が付けられる――離れ業で槍の放つ螺旋の光に沿うように、自身を駒の如く回転させながらするりと内側へと踏み込んだ。当然無茶苦茶な変則的機動は使用者にかかるGが凄まじく、ISに守られているはずの千冬の全身が悲鳴をあげるが努めて無視した。

 

 セルベリアはこの動きに対して僅かに対処が遅れた。千冬が強引な捨て身で攻め込んできたこともだが、彼女の回転しながら突撃してくる機動が、かつてナジアルで対峙し敗北を喫したヴァルキュリアの少女(アリシア・メルキオット)とダブって見えてしまったのだ。

 

 隙を察した千冬が雪片で切り込むが、セルベリアは盾での咄嗟の防御が間に合い、痛打とはならなかった。そのまま盾で押し返して距離をとろうとしたところで違和感に気付いた。

 

 

「ッ……!?」

 

 

 軽過ぎた。既に千冬は攻撃を終えて次の攻撃の為に身を引いていた。

 

 零拍子。篠ノ之流古武術裏奥義。 相手が一拍子目で動くより前に、素早く動き出す技である。

 

 千冬の持つ雪片の刀身が光を放っている。

 

 既に槍の内側、盾を持つ腕は押し出しの為に伸びきったセルベリアに千冬が発動した『零落白夜』が迫る。

 

『零落白夜』は発動範囲に触れたエネルギーを消す効果がある。それがヴァルキュリア人の持つ力にどのような作用があるかは全く不明だが、脳裏に敗北の文字が浮かぶ。

 

 

「負けられるものかぁぁ!!」

 

「……ッ!?」

 

 

 土壇場の爆発力は戦闘種族としてのヴァルキュリア人の本能によるものか。彼女は盾を最大拡張させて千冬の動きを僅かに阻害、同時に唯一の武器である槍を手放し、迫りくる雪片の刀身を空いた素手で横殴りにした。

 

『零落白夜』に接触した影響でシールドエネルギーが激減するが切り裂かれた訳ではなかった為、致命傷にはならなかった。ヴァルキュリアの力もまた消えてはいない。

 

 千冬の猛攻を紙一重で防ぎ切ったセルベリアは必殺の一撃を弾かれて態勢を崩した千冬の顔面に対し、螺旋を描くように回転を始めた盾を振り抜いた。

 

 シールドバッシュ。先の一撃に全力を込めていた暮桜はこの一撃でシールドエネルギーが枯渇した。

 

 

 

 第二回モンド・グロッソ優勝者。二代目ブリュンヒルデが決定した瞬間である。




後日談という名のおまけを予定
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