「ハヤトさん、ツバキさんが探していましたよ。整備室に来いとのことです。」
ヒバリの伝言を聞いたとき、悪い予感が確信に変わった。先日の任務での違反をサクヤが知らせたに違いない。恐らく訓練場20周は堅いな、と観念して整備室に出向くとツバキがいつものしかめ面で待っていた。
「急な呼び出しですまない。お前に伝えることがあってな。」
「すいません。今度からちゃんと指示に従いますから10周で勘弁してください。」
ツバキが口を閉じる前に釈明したハヤトは最敬礼の姿勢で微動だにしなかった。だが、
「何のことだ?私は今回の任務の話をしているのだが。」
「え?あ、そうですか…」
どうやら勘違いだったらしい。ひとまず安堵し胸を撫で下ろした。
「…よく分からんがいいだろう。今回は私の判断でお前とコウタでペアを組んでもらうことにした。しかし新米同士でお前たちも不安だろうからな。味方が二人先発しているので支援するのが仕事となる。よろしく頼むぞ。」
そして廃工場エリア-
ハヤトとコウタは合流地点に到着した。
「それにしても汚ねえ場所だな。何か嫌な臭いがすんだけど。」
ハヤトが鼻をつまみながら足元の濁った水溜りを避ける。一方コウタは辺りに散らばるガラクタを物色していた。
「お前何してんだ?ゴミばっか集めやがって。」
「ゴミじゃねえよ。こういうものの中にお宝が眠っているもんなの。後でよこせたって聞かないからな。」
「一生やってろ。…お、あそこだな。」
コウタを置いて進むとミーティングの通り二人の人影が立っており、そのうちの一人が近づいてきた。
「やあ、君が例の新人君かい?噂は聞いてるよ。僕はエリック・デア・フォーゲルバイデ。君もせいぜい僕を見習って人類のため華麗に戦ってくれたまえよ。」
近づいてきたのはグラサンをかけた青年だった。少し風変わりな喋り方だが柔らかな物腰に好感を抱いたハヤトは手を握り自己紹介する。
「伊吹ハヤトです。今日はよろしくおねが-」
「エリック、上だ!」
唐突に響いた警報にハヤトは反射的に退いていた。しかしエリックはその意味を理解できずに身をすくませるばかりだった。直後、さっきまでエリックが立っていた場所にオウガテイルが飛び降り、同時に血雨が降り注いだ。何が起こったのかわからなかった。
「ボーっとするな!」
突然の事態に体が麻痺してしまったハヤトを尻目にもう一人の男が助走の勢いを借りてオウガテイルを切り捨てる。オウガテイルは倒れたが、横たわっていたのはそれだけではなかった。
「どうして…」
悲鳴は聞こえなかった。四肢を力なく伸ばした遺体は首から上が繋がっていなかったからだ。さっきまでエリックだったそれは今は何の返答もよこさない屍となってしまった。
「言っておくがここではこんなことは日常茶飯事だ。気にする必要はない。」
どれくらいそうしていたのかフード姿の男が口を開いた。まるで仲間の死を肯定するかのような物言いにハヤトは反感が湧いた。
「待てよ、そんな言い方ねえだろ。人が死んだんだぞ。早くアナグラに伝えねえと…」
「やめろ、時間の無駄だ。獲物が逃げちまう。」
「てめえ…」
空気が爆発寸前になりかけたときコウタが駆けつけた。
「おーい、何か声が聞こえたんだけどどうかした…うわ!?どうしたんだよこれ!?」
場違いな呑気さを振りまいたのも一瞬、口元を手で押さえ吐き気をこらえる素振りを見せるがナハトは答える気にはなれなかった。
「よくある事故だ。大したことじゃない。」
代わりにフードの男が事の顛末を説明した。
「ハヤトの言うとおりだろ。アンタだってマニュアルで戦死者の扱いについては…」
「じゃあお前は敵が目の前にいるのに死体を背負って逃げ切れるのか?」
もっともな意見に封殺されコウタが押し黙る。
「それとオレはアンタじゃなくてソーマだ。別に覚えなくていい。とにかく死にたくなければオレには関わるな。」
一方的に打ち切り、ソーマは索敵に向かった。
「何なんだよアイツ…」
静まり返った殺人現場でコウタの弱々しい文句がこだました。
あとから聞いたのだがソーマにはいくつかの特徴があった。第一に単独行動を好む。第二に人と群れない。そして第三に恐ろしく--強かった。
「そっちに行ったぞ!」
ハヤトが叫ぶ。状況は面白くなかった。対象のアラガミを討伐した途端、2体のコンゴウが出現したのだ。戦闘中の神経に原因を考察する余裕はなく、ハヤトはとりあえず現実を認めたがそれで対処しきれるわけではなかった。片方のコンゴウがコウタ目掛けて空気弾を発射する。コウタは辛うじて回避し牽制の弾幕を張る。一方、ソーマはもう片方を一人で相手取り荒々しい攻撃を加えていた。単独で任務をこなすだけあって、黒い神機を軽々と持ち上げ振り下ろす姿は巨大な鎌を携える死神のようだった。こちらはと言えばハヤトが前衛、コウタが後衛の二人がかりで何とか持ちこたえている有様で、改めて経験の差を思い知らされる。しばらくコウタの銃撃に気をとられていたコンゴウが突如標的をこっちに変えて突進してきた。咄嗟に方向転換したが腕を引っかけられて無様にひっくり返り尻餅をついてしまった。
「くっそ…!」
悪態をつきながら立ち上がってお返しとばかりに尻尾を切り落とす。痛みに耐え切れなかったのかコンゴウが地面に倒れたのでそのまま噛み付き神機を解放させた。
「コウタ、渡すぞ!」
そして神機で生成されたアラガミバレットを味方に撃ち込む。するとコウタの神機が黒いオーラに包まれ、リンクバーストに成功したことを伝えた。
「おっしゃあ!」
体のオラクル反応が高まったことでコウタがさらに激しく連射する。その隙に再度捕食しエネルギーを確保したハヤトは次のバレットをソーマに与えた。
「…!?」
突然の援護に困惑したソーマは一度振り返り、きつく睨み付けてきたがすぐに敵に向き直った。ハヤトも満足げにほくそ笑むと起き上がったコンゴウに再び剣を構えて突っ込んだ。振りかぶった拳を屈んでかわし、腕に神機を突き立て振り払う。腱が断裂したのかコンゴウは垂れ下がった片腕を庇い後退した。すかさず反転し追撃しようと追いすがったがくるりと正対したコンゴウのパイプは何かを溜め込んだかのように膨らんでいた。誘い出されたと分かったときにはもう遅く、ハヤトの体はザイゴートの倍近い威力の空気の塊を正面から浴びて宙を舞っていた。このままうまく着地できなければコンクリの地面に叩きつけられるはずだったが幸か不幸か池の中に落ち、ダメージを増やすことは回避された。が、代わりに汚染水をたっぷりとかぶり何とか体を引き上げたハヤトに表情はなかった。
「コウタ、少し下がってくれ。コイツはオレが仕留める。」
そこからのハヤトの暴れぶりは凄まじかった。コンゴウの傷ついた腕をちぎれるまで執拗に狙い、うずくまった体を動けなくなるまで切りつけた。あまりの猛攻にコウタは銃撃をやめ、ソーマも思わず見入ってしまった。そして1体目が力尽きるともう1体に向かい--
「やあ、調子はどうかな。と言ってもいいわけはないか。散々な目にあったようだからね。」
執務室の椅子に座るシックザールが困った笑いを浮かべていた。あの後、迎えが来るまで怒り狂ったハヤトはこのときの不機嫌そのもので眉間の皺が緩む気配はなく、
「いえ。」
と、ぶっきらぼうに返した。
「そうか。まああえて聞かずに置こう。さて、疲れているところ申し訳ないんだが聞きたいことがあってね。確か君には保護者の方がいたはずだが写真とかは持ってないかな?住民の登録データが一部紛失してしまい大至急修正しなければならないんだ。」
データが登録されてないと配給や支援が受けられなくなる恐れがある。現在極東支部には多くの住民が移り住んでおり、不法居住者の犯罪防止が急務となっていた。
「今取ってきます。」
自室に戻りターミナルに保存したアルバムから適当なものを見繕いシックザールに手渡す。ハヤトが退室するとシックザールはそれを端末に読み込ませひとつの写真と照合した。結果は思ったとおりだった。
「やはり貴方だったか。」
シックザールの口が吊り上がり冷ややかな笑いが部屋の中を漂った。
執務室を後にしたハヤトは何となくロビーに足が動いた。昇降台から降りるとリンドウが手招きするのが見えた。
「よう、お疲れさん。今日は大変だったらしいな。まあ座れよ。」
テーブルにはビール缶が並べられているところからすると彼も仕事明けらしくだらしなく椅子にもたれかかっていた。
「本当ッスよ。あのフードの奴なんか『あんな助けは必要なかった。余計なことをするな。』ですよ。自分を何だと思ってやがんだ。」
愚痴りながら買ってきたジュースを飲み干す。帰りの途中でも一悶着あったせいか、水浸しになった怒りは消え去っていた。
「ソーマか。アイツは昔から取っ付きにくいところがあるからな。そのせいで誤解されることもあるがオレはアイツほど優しい奴はいないと思っている。まあ気長にやればいいさ。」
苦笑しながらタバコをふかすリンドウはアルコールで上気した顔をどこか別の場所を眺めるように目を細めていた。あんな奴の一体どこが優しいのだろうか。ますますわけが分からずリンドウと同じ方向に首を巡らすと同僚の女性職員と目が合った。池の噂はすぐに広まったらしく女性職人はクスリと笑って踵を返した。
コウタとの共闘を書くまでが面倒で無理やり組み込みました。すいません…。