GODEATER EVOLVE   作:マルハン

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第6話 死別

極東支部に来てから驚くことは度々あったが中でも一番は殉死者への弔いがなかったことだった。エリックの死後、ツバキにより訃報とともに通例の2階級特進をとられたあとはしばらく重苦しいムードだったもののエリックの名を口にする者はいなくなった。理由としてはゴッドイーターの高い戦死率のせいで金も時間もかかる葬式を頻繁に行う余裕がないこととなってしまったことは仕方がないという一種の諦観が根付いているからであった。薄情とは言えない。自分に降りかかった火の粉は自分で払うしかない。分かってはいるものの納得しきれないハヤトは任務から帰還し食事までの他愛ない空白を過ごしていた。

 

「それでさ~妹が言うんだよ。『お兄ちゃんのお仕事見てみたい』って。」

 

コウタがいつもの身の上話を繰り広げていた。すっかり先日の事故を払拭したようだ。

 

「母さんもオレが帰ってくるだびにご馳走作ってるんだよ。大げさなんだよね、うちの家族って。」

 

「お前ってマジで家族LOVEだよな。もう5回は聞いたよ、その話。」

 

ドリンクで飢えをしのぎながら嘆息する。

 

「あれ、そうだっけ?まあいいじゃん、悪いわけじゃないんだし。ハヤトだって家族はいるんだろ?」

 

「いるにはいるんだけどなぁ…。」

 

リョウマとは家出したきり会ってなかった。何度か行こうとしたがいざとなると変に緊張してしまうのだ。結局それに甘んじて戻ることはしなかった。そういえば何でじいさんはフェンリルに対してあんなに頑固なんだろう。それに抗議デモに参加するところを見た覚えがないので原因も分からない。思わず思索にふけっているとサクヤがロビーに現れた。

 

「サクヤさん、お疲れ様です!」

 

コウタが間髪入れず席を譲る。相変わらずの早さだ。

 

「お疲れ様、何を話してたの?」

 

サクヤの質問に乗じてハヤトは仲直りの方法を尋ねてみた。

 

「なるほどね。そうだなあ、やっぱりプレゼントがいいと思うわよ。」

 

「プレゼントッスか…。」

 

意外と簡単な答えに苦笑してしまう。

 

「あら、効果抜群なのよ。人の好みにもよるけど。」

 

好みといわれてもリョウマはあまり物を欲しがるタイプではない。たまに菓子を買ってくる程度だ。

 

「それに買うなら今のうちね。私も新しい服が欲しいんだけど最近は物価が再上昇してきたみたいだから。」

 

ここでコウタが口を挟む。

 

「そういやハヤトっていつも制服だよな。ポリシーでもあんの?」

 

「いや、仕事するときは何となくこれかなと思ってさ。」

 

半分は嘘だった。適合試験の際に係員に服がボロいからと着替えさせられたのをそのままにしたまでだ。サクヤがまじまじと顔を覗き込み告げる。

 

「ハヤトもたまにはオシャレしてみたら?素材は悪くないんだけどなあ。」

 

返答に困っているとコウタが腕をつかんでどこかに連れて行こうと引っ張った。

 

「何だよ?」

 

「善は急げって言うだろ。ついでにおじいさんのプレゼントも買えば安上がりだよ。」

 

「だけど今は金が…」

 

『緊急警報、緊急警報!アラガミが装甲壁を突破、D-13地区に侵入しました。至急迎撃してください。繰り返します。アラガミが…』

 

唐突に鳴り響いたサイレンがアナグラを伝播した。だがそれ以上にハヤトの意識を捉えたのは別のことだった。腕を振り払い、一目散に扉をくぐる。後ろからコウタの声が聞こえたが貸す耳は持たずハヤトは整備場に急いだ。

 

 

リョウマは波のようになだれ込む避難民を掻き分け管制塔に向かっていた。アラガミが侵入してきた?有り得ない。この辺りの壁は自分のプログラムで構成した最新の情報をハッキングで書き換えたはずだ。しかし現状は同時に3箇所に襲撃があったことを如実に伝えていた。さらに自宅のハッキング装置が何者かに破壊され、残された手段は直接壁にソースを入力するしかない。密かに合成した偽装フェロモンを服用し壁の一端にそびえる鉄塔を見据えたリョウマに目の前で1台のジープが止まった。不審に思いながら通り過ぎようとしたが、ドアが開き一人の人物が進路を塞いだ。目と目が合った瞬間、こうなるまでの経緯がすべて明らかとなりリョウマは前に進むことを忘れた。

 

「君か…。」

 

返事はなかった。今までのツケの清算に現れた人物は黙ってリョウマを見つめ続けた。

 

 

ハヤトはアクセルを目一杯踏み込みジープを走らせていた。現場に近づくに連れて残骸も増えてくる。その中に焼け焦げたベビーカーを見たハヤトはゾッとした気持ちを紛らわして通信機を取り出した。リョウマは常にお手製のトランシーバーを持ち歩いていたからそれにかければ安否を確認できるはずだ。

 

「じいさん!」

 

大声で呼びかけるが返ってくるのは雑音ばかりでほとんど役に立たず、つい投げ出しそうになったときに微妙な音の変化を聞いた。音量を上げ耳をそばだててみる。

 

『だから…っている…だ。君は昔から…断が性急過ぎ…と。人類が絶滅に瀕して…る現在、我々にで…るのは今の状況を守…ことだ。それを君は…』

 

会話をしているのか言葉が途切れる。その後通信機から乾いた笑いが発した。

 

『残念だがそれは…理だ。あの子は君の…い通りにはならない。理屈ではなく…情で動く奴だ。私さえ測りかねているよ。得体の知れ…奴さ。』

 

再び沈黙が訪れ少しの間を挟み、

 

『やめておけ。後悔するぞ。』

 

と続いた声にハヤトはヒヤリとした。リョウマの息が激しくなりノイズに混じって冷たい空気が滲み出る。誰かは分からないが相手が決定的な何かを仕出かすのを感じられた。

 

『誰もそんなことは…んでいない。アイーシャだって…』

 

そこまで言いかけたとき火薬の破裂音が弾けた。銃声だ、と直感したハヤトは緩めかけたアクセルを全開にして居住区を駆け抜けた。

 

 

虚ろな様子で歩く足取りは端からすれば酔っ払いに見えたかもしれない。リョウマ自身それを望んだが腹から這い上がる激痛は現実を忘れさせてくれなかった。力を振り絞り何とか自宅までたどり着きはしたが残された時間は少ない。そもそも腹に銃弾をめり込ませた老人がこんなところにいること自体が間違いだ。それでも自分にはやることがある。可能な限り保存した研究データを破壊し、然るべき人間に望みを託さなければならない。霞みかけた意識に克をいれ、足がもつれて倒れこみながら地下室に入ったリョウマは悲鳴を上げる体に鞭を打ち端末に震える指でひとつのアドレスを打ち込み、送信ボタンを押した。後はメモリーを破壊したら終わりだ。転がっていたハンマーを引き寄せ叩き付けた瞬間、轟音とともに天井が崩れ落ちた。咄嗟に出ようとしたが傷ついた体では叶わず上半身を残して瓦礫に埋もれてしまった。あまりにもあっけない死に自嘲の笑みがこぼれる。これが結末か。これが裏切り者にふさわしい最期か。衝撃でバカになった目が頭上に降り注ぐ破片をぼんやりと見つめ、閉じる。直後リョウマに突き刺さるはずだったそれは硬い音を立てて地面に転がった。再び目を開けると神機の盾を拡げたハヤトが驚きを含んだ目でこちらを見返していた。

 

「ハヤト…。」

 

周りのことなどどうでも良かった。死に際にこんな夢を見られるなら命も捨てたものではない。奇跡の如く再会した家族を守るかのように炎が周囲を取り囲んだ。

 

 

爆発音がした方向に到着すると家はすでに燃えていた。まさかと思い意を決して入るとリョウマは半分土砂に埋もれた形で横たわっていた。煤で汚れた顔は青黒く変色し、苦しげに上下する腹からは血が滲み出ていたが、目だけは笑っていた。何故だ?何故こんなときに笑っている?訳が分からず見つめていると、

 

「久しぶりだな。少しはマシな顔になったじゃないか。」

 

笑ったままリョウマが呟いた。

 

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ。今出してやっから…」

 

神機を地面に突き刺し瓦礫をどけようと力をこめる。

 

「無駄だ。もう間に合わん。足も潰れているようだ。」

 

「だから言うなって!怪我人は大人しくしてろ!」

 

「ハヤト、聞け。」

 

不意に澄んだ声が伝わり持ち上がった手がやんわりとハヤトの腕を払った。

 

「お前に謝らなければならない。やはりお前の中から忌まわしい因果を消し去ることはできなかった。すまないと思っている。」

 

「急に何言ってんだ。いいから黙って…」

 

「お前のことはいつも聞いていた。お前が信頼している仲間のことも。皆いい人たちばかりだ。これからお前にはたくさんの味方ができるだろう。敵もできる。何事も成し遂げられるのが当たり前となり、失敗したらここぞとばかりに責め立てられるかもしれない。だがそれは力を与えられた者の責務だ。その力は時にその者自身を苦しめる。だが、お前には果たさなければならない責任がある。お前は私を恨むだろうな。何もしてやれず、こんな重荷まで…。だから生きろ。理不尽に逆らえ。絶望に潰されるな。それが人が人たる証だ。」

 

突然、獣のうめきが聞こえ、いつの間にか聞き入っていたハヤトは頭をそらした瞬間、外に突き飛ばされた。すぐに駆け寄ろうとしたがリョウマの鋭い眼光がそれを許さない。だがその顔はこれ以上ないほど優しく微笑んでいた。

 

「お前は私を許さなくていい。だがこれからどうなろうと私はお前をー」

 

「じいさんっ!」

 

刹那、形を保つのに限界を迎えた家屋が崩れ残骸がリョウマに落下し、さらに舞った炎がそれを押し包んだ。あっという間の出来事にハヤトは呆然と立ち尽くしていた。涙は流れなかった。流すには思い出が足りなかったからだ。お前をー何だ?まだアンタのことを何も聞いていない。一緒に酒を飲んでもいない。いくら悔やんでも次の機会は永遠に来ず、捌け口の見当たらない激情だけが募っていく。二度目のうめきが聞こえ、周りを見渡すと似たような光景が映った。足を失ってうずくまる者、胎児のように縮こまる者。無数の死体が軒を連ね文字通り地獄絵図を描いていた。こんな死は認められない。こんなのは人の死に方じゃない。ふと視界の隅に巨大な影が入り込んできた。翼の生えた虎と形容すべきそれは逃げ遅れた住民を捜しては喰らい、己の腹を満たしている。途端、奥底から未知の物質が湧き出しハヤトの頭を支配した。排除しなければ。ただ一つの思いを胸に神機を引き抜き、ハヤトは地を蹴った。

 

 

次に目覚めたのは簡易ベッドの上だった。まだ朦朧とした意識のまま上体を起こすと包帯に覆われた部分が痛みを訴え肉の感覚を蘇らせる。

 

「お目覚めかい?」

 

傍らに座って本を読んでいた榊が気づき、嬉しそうに微笑んだ。

 

「博士、ここは?オレ、どうなって…」

 

「心配しなくていい。アナグラの医務室だよ。君は丸一日眠ってたんだ。」

 

質問に一つずつ答えながら榊は水を差し出した。

 

「ほんと、驚いたよ。君が急に飛び出したって聞いてリンドウ君を向かわせたら辺り一面血の海だったそうじゃないか。」

 

その中に倒れていた自分を見つけたリンドウは救護が来るまでアラガミから守ってくれたらしい。

 

「君は優秀な人材だが、貴重な新型ということを忘れてもらっては困る。今回は大目に見るけど次からは自重するように。あ、そうそう。」

 

退室仕掛けた榊がベッドの下から一つの段ボール箱を取り出した。

 

「君が出た後届けられたものだ。差出人は不明。気が向いたら開けてみてくれ。」

 

そう言い残すと榊は今度こそ部屋を出た。早速開いてみると中身は石灰色のジャケットだった。昔ある店を通りかかったとき目に付いた服だ。あのときはリョウマにせがんだが高価だったので買ってもらえなかったのを思い出す。不器用め。どうして早く出さなかったんだ。リョウマの困った表情が浮かんだ途端、抑え切れないうねりが生まれハヤトは声を殺して泣いた。

 

 

同時刻、リンドウは支部長室に来ていた。机には肘を突いたシックザールがこちらを見据えている。

 

「珍しいじゃないか。急に話がしたいだなんて。」

 

「単刀直入に聞きたいんですよ。例の新入りのことです。」

 

「ほう、ハヤト君か。中々優秀らしいじゃないか。」

 

「自分もこの前まではそう思ってたんですがね。今回の防衛任務、アイツ一人でヴァジュラを一体、シユウを二体討伐したなんて聞いたら優秀だけで済む話とは考えられないんですよ。支部長、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」

 

シックザールはわずかに眉をひそめると

 

「君の推測は正しい。彼は特別なんだよ。」

 

「そりゃ新型ですから…」

 

「違う。」

 

リンドウの言葉を語意を強めて遮る。

 

「才能や資質の話をしているのではない。彼は生まれ持っての戦士なんだ。」

 

そう言うとシックザールは手元の端末を操作し、スクロールした画面をリンドウに向けた。

 

「これは…!」

 

「救世主だよ、彼は。あるいは怪物…。」

 

このときリンドウは真実を見た。




なんだかオリジナル展開が多くなってきたような…(汗)
時々見たことあるなと思うシーンがあるかもしれませんが目をつぶっていただければ幸いです。
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