TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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12 私には、大切なトモダチがいる。

 本当にギリギリって感じでした。

 なにか一つ足りなければ、完全勝利は無理だっただろうというところです。勝利するだけならば簡単なのに、完全勝利を目指すとやばい難易度になるの良くないと思います。

 

 まず、事の起こりは遠足にやってきたその直後、私が感じ取れるギリギリ圏内で宿痾くんたちと、アスミル隊の皆さんがどんぱちやっていたのが、そもそもの原因。

 これがただの宿痾くんたちの群れだったら、アスミル隊の人たちはローゼ先生曰く、防衛隊としては非常に生存能力が高いらしいので、なんとかなったと思うけれど、主がいたせいでその芽はなくなった。

 

 主は戦ってみると解るけど、一般の戦姫だとどれだけ火力を上げても装甲を貫けない。というか、なんか普通じゃ抜けないバリアみたいなものを張ってるらしい。

 それをふっとばす秘密兵器がアルテミスシリンダーというんだと、お祖母様が昔いっていた。

 

 要は同じことを魔法でもできるようにすればいいので、ちょっと他の人には使えないけど、自分なら使えるくらいの魔法をケーくん(杖の名前)にぶちこんで、使ってみた。

 流石に遠くからむんむんする状態だと使えないので、アスミル隊のところまで行って杖を回収しなければいけないんだけど、ゴールデンボールアタック(ローゼ先生が命名)をするには、残念ながら私のオドとかが足りない。

 

 なので理想は光の玉でアスミル隊の皆さんを守護し続けて、宿痾くんたちが飽きるのを待つことだった。

 宿痾くんたちは低俗で飽きっぽいので、暫くすればどこかに行ってくれるだろうという判断だった、なのに夜が更けてもハッスルしていて、流石にこれは不味いかなぁ、と思いつつ明日になってもハッスルしてたら先生に相談しようと思ってました。

 なんで相談しないのかと言えば、極力主の事は周りに話さないように、と言われていたからなのだけど。とはいえにっちもさっちも行かなくなったら気にしなくてもいい、と言われていたので有事だったために、あの場では普通に討伐しましたが。

 

 とにかく、ことを動かせたのはシェードちゃんが、偶然宿痾たちがいる方向に散歩に行ってくれたため。更には私が宿痾くんたちをボコってる間、アスミル隊とシェードちゃんを守ってくれるローゼ先生が来てくれて、なんとか完全勝利をもぎ取れました。

 ほんと、一人じゃちょっとどうにもならなかったです。

 というか円環理論がなかったら、あんなサクッと対宿痾の主魔法は使えませんからね。チャージがいるんですよあれ、本来なら。

 

 ともあれ、シェードちゃんのところに突っ込んだ段階では、本当に無策だったので、そこからこうして転がったのは幸運というほかないし、何よりシェードちゃんの本音を聞くことが出来た。

 言うことなしの大勝利、なのだけど――

 

 ――疲れました!

 

 それはシェードちゃんもローゼ先生も同じだったみたいで――

 

 

 三人して、太陽が天に上がるまで起きれなかった結果、遠足の予定は全て狂いまくることになるのでした。

 

 

 <>

 

 

「それで? 宿痾とバトってたってのか? 冗談はミリアの食い過ぎで膨れた腹だけにしろよな」

 

「誰がぷにぷにでだらしないお腹の持ち主ですか!」

 

「ダイエットしろや」

 

 戦姫はダイエット必要ないんですけどー!?

 叫びながら、しかし寝坊してどれだけ騒がれても起きなかったのは私達三人なので、何も言えない。シェードちゃんとローゼ先生と一緒に、正座しながらアツミちゃんに怒られているのが、現在の私達。

 

「つーか、いくら変態だからって教師は起きろや、仮にも戦場経験者だろうがよ」

 

「ご、ごめん未だにちょっと頭いたいから、少し安静にさせて……」

 

「……いやほんとに何があったんだよ」

 

 顔を真っ青にしながら、変態のはずなのに極めて常識的に体調不良を訴えかけるローゼへ、アツミはそれはもう怪訝な顔を私に向けた。

 なんで私のせいってことにされるんですか!?

 

「うるせぇ、てめぇ以外いねぇだろうがよ!」

 

「なんで人の心を読めるんですか!!」

 

「てめぇがわかり易すぎるだけだろ!?」

 

 そんな! 私は七面鳥のミリアと呼ばれるほど鉄面皮だというのに。

 

「それは鴨撃ちと言われてるんじゃないかな?」

 

「キシャア!」

 

 喧嘩を売ってきた先生を威嚇する。

 私はとってもクールで知的な美少女なんです。

 

「まってアツミちゃん! ミリアちゃんは悪くないの!」

 

 そこで、先程までだまってたシェードちゃんが立ち上がった。

 

「急にどうしたシェード」

 

 アツミちゃんの視線が、なにか心配したような感じでシェードちゃんに向けられる。どうして私達とは露骨に反応が違うんですか!

 

「悪いのは、夜に一人で外に出た私だよ! ミリアちゃんはそれを助けてくれただけ!」

 

「そこから何があったら教師まで含めて全員まとめてこの時間までぶっ倒れるなんてことになるんだよ……」

 

「それは……」

 

 呆れた様子のアツミに、シェードちゃんはどこか浮ついた様子で応える。

 あれ? なんか現状シェードちゃんが一番様子がおかしくない?

 

 

「――恋、だよ……」

 

 

 うっとりとした様子で、恥ずかしげもなくシェードちゃんは言った。……昨夜のアレは気の所為じゃなかったんですね……

 シェードちゃんどこで恋に恋しちゃったんですか?

 

「あぁ?」

 

 アツミちゃんもすごい顔をしてます。困惑と、あとバカバカしいものを見る顔。

 

「恋ってすごいんだよ、アツミ。心に無限の勇気を与えてくれて、明日に無数の未来を教えてくれる。恋があれば、人って前にすすめるんだよね」

 

「てめぇ一人に限定しろや、アタシを巻き込むんじゃねぇ!」

 

「アツミだって、いつかわかるときが来るよ!」

 

「少なくとも今はわかりたくねぇよ!!」

 

 いつかはいつか、今は今、アツミちゃんの言うことも尤もではありました。

 というか、アツミちゃんのシェードちゃんを見る目線が私達を見る目と同じ目をしてきています。シェードちゃんがこっち側に来ている――!?

 

「どうしちまったんだよシェード……お前までミリアたちの方に行っちまうのかよ……いや、ミリアに躊躇わずに声をかけれる時点で最初からあっち側だった、つぅことか……」

 

 アツミちゃんはとても嘆き悲しんでいる。

 そこまで悲しむことないんじゃないかな、と思わなくもないですが、口に出したところで話がややこしくなるだけということを、天才の私は知っています。

 

「アハハ、シェードちゃんはちょっと人生がまるっとひっくり返ってしまうような経験をしちゃったの。その現実感のなさに、正気を失うのも無理はないわ」

 

「……ってことは、てめぇらの言ってることは真実ってことかよ」

 

「信じる基準そこですか!?」

 

「見てていたたまれないぜ……」

 

「あはは、うふふ……」

 

 目をキラキラさせながら、浮ついた様子で笑うシェードちゃんは、確かになんか危険域って感じだった。多分これは、一夜経っても疲れが取れない感じ何だと思う。

 

「落ち着け、落ち着けシェード、よーくきけ?」

 

「うん? どうしたのアツミ?」

 

「まず、その感情は本当に恋か? いや、てめぇの気持ちを否定するつもりはないけどよ」

 

「恋だよ! まさしく、この気持ちこそ恋なんだ!」

 

「じゃあそれでいいや」

 

 そこは諦めの早いアツミちゃんだった。

 

「で、それはいいんだけどよ、一般的に恋っていうのがどういう状況で使われるか知ってるか?」

 

「大切な人と想いを通わせるときの言葉だよね?」

 

「そーだな、間違ってない。それも一つの正解だろうさ。だがよぉ、アタシが思うに、恋って言葉は一対一で、互いのパートナーに対して使う言葉だ」

 

「私とミリアちゃんは一心同体のパートナーなんだよ?」

 

「うん」

 

 素でアツミちゃんはうなずいた。

 いやでも、そう言ってくれると私としてもちょっとうれしい。胸がドキドキする、これが……恋?

 

 うーん、ちょっと違う。これはきっと――

 

「そのことはいいんだって、否定はしねぇ。けど考えてもみろ?」

 

「うん」

 

「恋をするってことは、下手すりゃ相手の子供がほしいってことだぜ? 別にアタシは戦姫なら女同士の恋愛を否定はしねぇけどよ」

 

「うん」

 

「てめぇは今、高らかに宣言してんだよ」

 

「……うん?」

 

 ふと、そこでシェードちゃんはなにかに行き着いたように、クビを傾げる。うう、なんだか色々あっつくなってきました。

 

 

「――恋するそいつの子供がほしい。それ自体は別にいいが、それを高らかに宣言するのは恥ィだろ」

 

 

 うう、照れます。

 恥ずかしいです……

 

「……………………」

 

 シェードちゃんの顔色が、急速に赤らんだものから、普段のものへと変わって、それから青ざめていきます。青ざめてから、またいつものに戻って、今度はてっぺんからつま先まで赤くなりました。

 

 そのままうずくまって――

 

 

「……ここからいなくなりたい」

 

 

 ぽつりと、シェードちゃんは零しました。

 

「正気に戻ったならよかったよ」

 

 対してアツミちゃんは、真っ向からそれを切り捨てて、この場の混沌は色々と決着が付いた……らしい。

 あの、ところでそろそろ正座を解いてもいいですかね! 足がしび、しびれ――

 

 

 あああああああ!!!!

 

 

 <>

 

 

「さっさとてめぇらも来いよ!」

 

 うずくまるシェードちゃん、足がしびれて倒れ伏した私。二人を残して、アツミちゃんたちは帰還することにしたみたいです。

 私達がぐーすかぴーしている間に、諸々の片付けを済ませてくれたアツミちゃんたちには頭が上がりません。

 

 なお、ローゼ先生はなんとか痛む頭を押さえながら、アツミちゃんたちに付いていった。

 流石に生徒達だけで行動はさせれないという、監督役最後の意地だと思う。

 

 そして、私とシェードちゃんだけが、その場に残されました。

 

 ……結果、雰囲気がなんだか怪しくなってます。

 これ、やたら甘酸っぱいですよ!

 

「え、えっと!」

 

「あ、あの!」

 

 二人して、言葉をハモらせて、それがなんか更に空気を気まずくして。

 お見合いじゃないんですから、初デートのベッドの上じゃないんですから! ところで、これを口に出すと周りからすごい目で見られた後、洗脳とかされてるんじゃないか疑われる気がするのですが、なぜでしょう。

 

 さておき。

 

「……えっと、ミリアちゃんからどうぞ?」

 

「いやいやシェードちゃんこそ……ってしていると、永遠に話が続かないので、言いますね」

 

「…………うん」

 

 そう言って、少しだけ深く息を吸って、

 

 

「シェードちゃん、ありがとうございました!」

 

 

 言いたかったことを、やっと言えた。

 

「ふぇ?」

 

 それを、シェードちゃんは思ってもみなかった、という様子で。

 でも、私からすれば、それはとても自然なこと。だって――

 

「これまでのことと、これからのこと、全部ひっくるめて、言っておこうと思って」

 

 シェードちゃんがいたから、私の学園生活は始まったんだから。

 友達、この世界では伝わらない言葉だけれど、それを受け取って、受け止めて、答えてくれた人がいて、私は一人じゃなくなった。

 

 私は、ミリア・ローナフとして、シェードちゃんの隣を歩けることを、誇りに思う。

 

 それは、わざわざ口にすると、なんだかよそよそしくなってしまうから、一度だけ、この機会に感謝だけを伝えるのだ。

 

「……そんなの、私だってそうだよ。でもね、ミリアちゃん」

 

「なんですか?」

 

「私、まだまだ足りないよ?」

 

「……? えっと」

 

 小首をかしげて、シェードちゃんの言っていることの意味を考える。足りないって、なんだろう。満足してない、ってことだろうか、これからもよろしくってことだろうか。

 

 考えていると、シェードちゃんは立ち上がった。

 そして、笑いながら手を差し出す。私を抱き起こすために。

 

「私ね――ミリアちゃんのこと、もっともっと大好きになりたいの。そしたら、感謝なんてしてられないくらい、私達の思いって、いっぱいになると思う」

 

「…………あう」

 

 ちょっと,恥ずかしい。

 

 シェードちゃんは、どうしてこうも、ためらいなく人の心に踏み込んでこれるんだろう。

 勇気を持って、更に積極的になったシェードちゃんは、更に無敵になった気がする。

 

 それが、どうしようもなく嬉しくてたまらない。

 

「だから――」

 

 私は、そんなシェードちゃんの手をとって。

 笑いながらそれに答えるのだ。

 

 

「これからもよろしくね、ミリアちゃん」

 

 

「はい、シェードちゃん」

 

 

 きっとそれが、私達の未来につながっていると、信じられるから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あだ!?」

 

「ミリアちゃーん!?」

 

 ――なお、足のしびれはまだ取れてませんでした。




以上で、最初の章は終了となります。
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ここまで読んでいただき、面白いと思ってくださった方は、評価、お気に入り、感想等々残していただけますと幸いです。
次回から新章、カンナ、ローゼの教師組の話となります。
今後もよろしくお願いいたします。

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