TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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24 ワンショットキル

「り、理事長……宿痾です! 小型の宿痾がエレベーターの中に!」

 

「わかっています。ミリアさんは……」

 

 地下、アルミアとシェードは下方で宿痾の主と戦うミリアを見る。

 

「ふんぎゃー!!」

 

 六対の宿痾の主が団子になって突っ込んできたのを、必死にせき止めている。アレはなんというか、大道芸か何かではないだろうか、と思いつつも増援は期待できない。

 

「しかし、このサイズなら……そうですね」

 

「アルミア理事長……?」

 

「普段ならばあまり褒められたことではありませんが、今はそうも言ってられません。シェードさん。これから、私の言う通りに動いていただけますか?」

 

「そ、それって……?」

 

()()()()()()()()()()全て私の指示通りに、です。できますか?」

 

「……! はい!」

 

 アルミア・ローナフ。すなわち伝説と呼ばれた始まりの戦姫。彼女の指示に従うということは、彼女の意思で動くということ。それは確かに戦姫の健全な成長にはあまりよろしく無いかもしれない。

 しかし、シェードはそれを不健全にするつもりはない。

 願ってもない機会、成長のチャンスだ。だから、シェードはそれを全て糧とするべく。

 

「お願いします、理事長!」

 

「参りましょう。如何に前線を退いたとて、私は戦姫の端くれ。この程度、たやすく蹴散らせるということを、見せ付けてあげましょう」

 

 シェードとアルミアは、戦闘を開始した。

 

 

 <>

 

 

 シェードちゃんとお祖母様が頑張っています。私だって、負けるわけにはいかない。相手は宿痾の主六体。流石に一度に相手するのは難しく、綱引きチャンピオンのハズの私が一方的に押し切られてしまった。

 とはいえ、それでも戦闘は続く。

 

 やたらめったらに飛び回りながら、主くんたちを誘導している。

 宿痾の主と全開状態の私だと、私のほうが若干速いのだけど、若干だと容易に別の主くんに追いつかれてしまう。なので、必要なのは敵を撹乱すること。

 そうして、時間をかせぐことの二つ。

 

 先程から私が何をしているかと言えば、単純に言えば時間稼ぎなのだから。

 

「のおおおお、チャージは、チャージはまだですか! あと数分必要ですねはーい!」

 

 自分でそんなふうに叫んで確かめながら、シェードちゃんたちの様子を確認しつつ主くんたちを翻弄する。ハッキリ言って、どちらが有利ということはない。主くんたちはこっちの装甲を抜けないが、こちらは主くんをチャージぶっぱ以外で倒せない。

 ただ、一方的に嬲られると、よってたかって襲われることになるので、そうなるともはやこっちは戦闘どころではなくなってしまう。こう、バレーボールのボールみたいになります。ぽーんぽーん。

 

 結果、チャージに必要以上の時間がかかって、地上への救援が遅れてしまい詰む、なんてことになりかねないので、攻撃を回避することは必須。

 

 なのですが――そもそもまずチャージが終わりません。

 まーだーでーすーかー!

 

 とりあえずシェードちゃんたちの様子を見ながら、飛び回る。万が一にでもこちらの戦闘がエレベーターにダメージを与えるとシェードちゃんたちが危ないので、そこだけは気をつけよう。

 アルテミスシリンダーはそもそも現在私達が戦闘している高度には存在しないので大丈夫でしょう。

 

 なお、シェードちゃんたちの方にも小型の宿痾くんが何匹か潜り込んでいます。先程お祖母様が地上に通信していたので、それを傍受されたのかと思われる。

 とにかく敵の親玉――あのイケメンは厄介だ。こちらは観測できない上に、向こうはジャミングしないと盗聴とかしてくる。

 

 もちろんジャミングをすれば内容は隠せるけど、ジャミングをしていることはバレてしまうので、地下にしかジャミングができませんでした。

 あと会議室。

 

 そもそも盗聴とかするあたり、結構ずるいですよねあのイケメン。

 ともかく、こちらは向こうの盗聴のせいで細かい相談が一切できない状態。お祖母様はツーと言えばカーと言ってくださるのですが、他の人はそうも行かない。

 

 現状、相談ができるのは自然な流れで地下につれてきたシェードちゃんだけ。

 会議室は人が多くてどこから漏れるか分からなかったので、ここでしか相談が出来ないわけで。

 

 結果、地上に関してはお祖母様とシェードちゃんにほとんど託すこととなりました。

 私もいち早く敵を撃破して、さっさと地上に行ければいいのですけどね。

 

「ミリアちゃん!」

 

 シェードちゃんが呼びかけてくれた。見れば小型宿痾くんたちを撃破して、エレベーターは地下から消えようとしている。あそこまで行けば、もはや大丈夫でしょう。

 

「負けないで、絶対だよミリアちゃん!」

 

「ふふん、お任せください、シェードちゃん」

 

 親指グッ、シェードちゃんも返してくれた。うおー、やる気万全!!

 そうしてシェードちゃんとお祖母様はこの場を離脱。これであとはこいつらを撃破するだけ――なのですが。

 

「あっ、今身体が反転してました!」

 

 これじゃあ親指グッ、ではなく地獄に落ちろです!

 うわああああやってしいまいましたああああああああ!!

 

 

 チーン。

 

 

 あ、チャージが終わった。

 

 

 <>

 

 

「……ミリアさんの魔導機、ケーリュケイオンはミリアさんの実力を一つ上の段階へと引き上げています」

 

 ぽつり、とアルミアはそう語りだす。

 それはアルミアが話したいと言っていた二つのうちの一つだろう。シェードはふと、集中していた意識を少しだけそちらに向ける。

 

「え、と……はい。ミリアちゃんは魔導機なしだと、実力はカンナ先生と同じくらい……と言っていました」

 

「通常の魔導機でも、もちろんミリアさんは凄まじい能力を誇ります。ただ、通常の魔導機だと、宿痾の主を討伐するのにもっと時間がかかるでしょうね」

 

 つまり、ミリアの強さの秘訣はケーリュケイオンにも存在するということだ。

 とはいえケーリュケイオンなしで主を討伐できるので、人類にとっては福音に違いないのだけれども、それでも程度の違いは存在するわけで。

 

「ケーリュケイオンには、奇跡を形にする力がある。それはアルテミスシリンダーという、宿痾の主を討伐する力にもなります。ですが――」

 

「ですが……?」

 

「奇跡には、代償がつきものという話を、シェードさんはご存知ですか?」

 

 ――代償。

 きいたことが、あるようなないような話。本の中でよんだ物語で、そんなフレーズが登場したことがあるだろうか。

 とはいえ、ピンと来るものはあった。

 シェードは下を見る。エレベーターの更に下。地下に眠る、六本の柱。

 

「……アルテミスシリンダー、ですか?」

 

 アルミアはそれを墓標と言っていた。

 そして同時に、アルテミスシリンダーこそがその奇跡の結果であった、とも。

 つまるところ、そこから想像できる答えは――

 

 アルミアはうなずいた。

 

 

「アルテミスシリンダーは、戦姫たちを生贄としてケーリュケイオンによって生み出されたのです」

 

 

 そう言葉にした時、シェードはようやく――アルミアの人間性を見た気がした。

 なぜならば彼女は、それを口にする時――歯噛みをしていたからだ。悔しげに、顔を歪めていたからだ。苦渋の決断であっただろうことは、想像に難くない。

 

「……じゃあ、まさか」

 

「…………ケーリュケイオンが奇跡を起こすのに必要な代償は、それが世界にとってどれだけ貴重であるかによって、起こせる奇跡が決まります」

 

 シェードの推測に、肯定するようにアルミアは答える。

 そうだ。ミリアはケーリュケイオンを再起動した。であれば、その代償は? ――一体どれほどの代償を支払えば、一度奇跡を失った杖に、また奇跡を宿すことができるというのだ?

 

 ――シェードは、ミリアを思った。

 

 あの少女は、果たして何を――

 

 

 アルミアは、それを口にする。

 

 

 それは、シェードに余りある衝撃を与えた。その、内容は――

 

 

 <>

 

 

「――今です!」

 

 気を取り直した私は、くいっと腕を引く。それと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。足に魔法でヒモを取り付けておいたのだ。

 そして不意にそれを引っ張って、バランスを崩し、空中で彼等を踏ん張れなくしてから、更に強い力で引っ張る。

 こうすることで――

 

「宿痾の主一斉直列……完成です!」

 

 ――主くんたちが、一列にならびました。グランドクロス!!

 

 そのまま、チャージを終えたケーくんをかざす。

 

「さて、大暴れしていただいたところ、恐縮ですが! 貴方達にはここで消えていただきます!」

 

 即座に光は集まって、そして溢れ出す。

 既にチャージは終えているから、これは発射態勢を整えるというだけなのですが、モーションというのは大事です、最悪周りに味方が居た場合、このモーションで発射を告げる必要がありますからね。

 

「ふっとべ!!」

 

 そして、必殺の一撃を放った。

 

 

 ――直後、直列した主くんの一匹が、他の主くんを蹴っ飛ばして無理やりその直列を脱出した

 

 

「あー!?」

 

 結果、五体の主くんが一斉に斉射に貫かれ、動かなくなる。

 ううんマーベラス、ですがパーフェクトではありません! 一匹のがしてしまいました!!

 

「こっからまた時間をかけてチャージする余裕はないですよ!?」

 

 主くんは、生存本能に従って、仲間を犠牲にして生き残ったのでしょう。そして、一体残ったところで、もう一度私がチャージを完了させればなぶり殺される。結果は何も変わりません、ですが、時間はかかります。

 そして、その間に何かがあった、では困るのです。

 

 故に――

 

「ここは、致し方有りませんね」

 

 私は、切り札を切ることを決めました。

 

「再生機ケーリュケイオン。“限界突破(コード:オーバードーズ)”!!」

 

 それは、ケーくんが有する、特別な機能。

 すなわち、()()()()()()()()()()()()()()を犠牲に、その代償に見合った奇跡を起こす機能。いかにも主人公が代償付きでパワーアップするための機能を、私は惜しげもなく起動させる。

 

「さぁ、行きますよケーくん。私の捧げる代償は――!」

 

 勢いよく、叫ぶ。

 その代償は、すなわち――

 

 

 <>

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

「……ヒツジと牛の鳴き声の区別です」

 

「えっと」

 

 ……???

 シェードはそれはもうクビを傾げた。

 何を言っているのだろう、と。アルミアもまた、言ってから大きくため息をついた。確かにその鳴き声が区別つかないと大変だろうけれど、果たしてそれがケーリュケイオンの再起動に見合う代償なのか?

 疑問に思わずにはいられない。

 

「……シェードさんは、ヒツジと牛の鳴き声を聞いたことは?」

 

「えっと……知ってます、けど」

 

「知っている。では有りません。()()()()()()()()()()()()です」

 

「――あ」

 

 それは、ない。

 一応、ミリアのコック帽がモーとないていたことはあるが、アレだって実物ではない。そして、そのことを思い出して、さらに思い至る。

 

 ミリアはあの牛の鳴き声がするコック帽を、()()()()()()()()()()と言っていた。どう考えても牛なのに。

 まさか、それはそういうことだというのか?

 

 いや、いやいやいや。

 

「諦めてくださいシェードさん、これは現実です」

 

「そうですかぁ……」

 

 でも、考えてみれば確かに。

 

「……もしも、世界でそれを実際に聞いたことがあるのがミリアちゃんだけだとしたら、それはとんでもない価値、ですよね」

 

「…………そういうことです」

 

 この世界が滅びて、人類以外の種がいなくなり――変革した世界に、牛はいない。変なミミズとかはいるが、ヒツジはいない。

 だから、今この世界にヒツジと牛の鳴き声を本当に聞いたことのあるものはいない。

 故にもしその鳴き声を知っていれば、それは世界で唯一と言ってもいい事実だ。だから、ケーリュケイオンはその代償を、世界で最も価値のあることだと判断してしまった――

 

「……ズルもいいところじゃないですか!? そもそもミリアちゃんはその鳴き声をどこで知ったんですか!?」

 

「わかりません。私だって、ヒツジや牛の鳴き声は聞いたことが有りませんから――」

 

「……ミリアちゃんって、本当に何者なんでしょうね」

 

「何者であろうと――」

 

 シェードの言葉に、アルミアはポツリと零す。

 そう、何者であろうと、関係はない。

 

「何者であれ、ミリアさんはミリアさんです。それに、ある意味ズルのような思考で奇跡の代償を突くのは、ミリアさんだからこそできることだと、思いませんか?」

 

「……ですね」

 

 ミリアは、ときに人の想像の限界を越えてくる。

 それは、正直ミリアがどんな知識を有していようと関係はない。どこから来たものであろうと、関係ない。ミリアだからできることなのだ。

 

 だからこそ――

 

 

「だからこそ、ミリアちゃんは多くの人の希望になり得るんですね」

 

 

 そう、シェードは理解するのだった。

 

 

 <>

 

 

「どおおおりゃあああああ!」

 

 私は、最後の主くんを吹き飛ばし、空を見上げた。

 ああ、捧げた代償は大きかったです。信号機の青色を青と言い張れなくなるなんて、なんと酷い代償なのでしょう。私にはあれ緑に見えるんですが実際どうなんですかね。

 

 さて――

 

「……こっちは片付きましたよ、先生」

 

 私は、地上でイケメンと激闘を繰り広げているであろう、カンナ先生とローズ先生に思いを馳せるのだった。


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