TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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35 襲来

 ――突如としてそれは襲ってきた。

 というよりも、私が地下の宿痾をまるごとチンしたところで何かに耐えかねたかのように、それは襲いかかってきた。

 はて、白々しい? なんのことでしょう。このミリアにはわかりかねますねぇ。

 

「こいつは……」

 

「なんだって、こんなところに!」

 

 皆さんが慌てる中、私はケーくんを取り出して構える。先生たちも既に動き出しており、光のバイクで走り出す。二人乗りのカンナローゼ号(私命名)は今日も絶好調だ。

 

「――全員集合、私の側から離れないでください。相手は――宿痾の主です!」

 

 超巨大。

 空を覆うかというほどの大きさの主が、私達を見下ろしていた。

 

 周囲には、無数の宿痾。小型から、中型まで。宿痾災害(アポカリプス)の名にふさわしい光景に、反応は様々だ。

 シェードちゃんは迷いなく、周囲の子たちを引っ張りながら私の後ろに回る。アツミちゃんはそこまでの余裕はなかったか、なんとか私の後ろに入り込んでから、ほうけているナツキちゃんとカナちゃんを呼び寄せていた。

 全員が一箇所に集まったところで、先生が小型、中型を轢き殺しながら戦場を駆けている。一本線が引かれれば、そこには無数の宿痾の残骸が転がって、宿痾はまるでボロ雑巾のように切り飛ばされていく。

 

 とはいえ主はそちらには興味がないようで、私を見下ろしたまま動きを見せていない。

 主の姿は影絵の猫といったような感じで、ペラペラな猫ちゃんです。にゃーごにゃご。

 主の姿は個体差があります。初陣実習で戦った主がスタンダードで、虫型の巨人といった感じ。セントラルアテナで戦った六体の主は、一言で言えば怪獣。四足のしいて言えばカメレオンが近い感じの姿で、これは猫にゃんにゃん。

 猫パンチをお見舞いするしかありません。

 

「シェードちゃんっ!」

 

「うん!」

 

 私が手を伸ばし、シェードちゃんがそれを手に取る。二人の頭に猫耳が生えて、急に生えてきた猫耳にアワアワするシェードちゃんをよそに、私は急速チャージした対主砲をぶっ放す。

 

「てにゃー!」

 

「にゃんでー!?」

 

 叫び、叩きつけた一撃は、しかし――躱された。

 放ったところが不自然に歪んで、水と油という表現がぴったりな程に、するりと猫主はそれを回避してしまったのです。にゃんですとー!?

 

 そのまま、猫主はするりと滑るように体を動かして、こちらに突っ込んでくる。

 二発、三発とうっても躱される。まるで直撃の瞬間におかしなところへ引っ張られている操り人形のよう。

 

「むううー可憐に腕押ししてくれやがりましてー!」

 

「何いってんだ……?」

 

 ともあれ、これはもう確定だと思う。

 どこをどう切り取っても、相手は自分の意志で動ける挙動ではない。誰かに引っ張られているんだ。

 

「……さっきもいったけどよ、こりゃアレだろ、()()よな?」

 

「…………多分」

 

 アツミちゃんの言葉に、シェードちゃんは少しだけおどおどしながら答えてる。私としても否はない。こっちへ体当たりしてきた猫主を杖ではたき落としつつ、反撃に叩き込もうとした対主砲が上方向に急制動されて躱されながら、思う。

 これは――

 

「……宿痾操手、ですね」

 

 宿痾操手。

 宿痾たちの黒幕。それがこの主を操っているのだ。こんな場所に突如として現れるのもそうだけど、わざわざ宿痾が存在するはずのない地下に宿痾を配置する辺り。

 でも、わざわざ操手が地下を彫り抜いて施設に宿痾を放り込んだんだろうか、そんな手間、あの横柄なイケメンの仲間がするかなぁ?

 

「ハツキちゃん。探知はどう?」

 

「……ダメ、何もわからない」

 

 シェードちゃんの問いは不発。どうやらそもそも、宿痾操手の反応がどういうものかわからないらしい。そりゃそうだ、人類は宿痾操手の存在を認識したことは一度しかないのだから。

 そもそもハツキちゃんたちは現場にいないし。無理無茶無謀もいいところ。

 

「せんせぇ! 主の動きをなんとか止められないですか!?」

 

「これだけの数の宿痾に囲まれてる状態で主に手を出したら、それ以外の宿痾に蜂の巣にされるわよ!」

 

 カンナ先生の返事は芳しくない。

 そしてもちろん、私は猫主を捉えられていにゃい。ハツキちゃんたちも空振り。となると、こっからどうするかは中々難しいところです。

 

 この中で、一番順調なのはカンナ先生たちでしょう。しかし、だからこそそれを止めるために猫主が動きを変える可能性がある。とすると、まずこれをなんとかする必要がある。

 だけど、そのために猫主を討伐すると、操手が撤退してしまうかもしれない。

 

 場所はわからないけれど、なんとなく操手がこれを様子見にしようとしていることは解る。だからヘタな深追いはしないだろう、ということも。

 

「おい、この主を討伐すれば敵は撤退すんだろ!? だったら主を討伐すればいいだろ、ここで決着をつけるつもりか!? こっちには向こうの能力以外の情報はねーんだぞ!」

 

 そこで、アツミちゃんが叫ぶ。

 彼女の考えは慎重論みたいだ。アツミちゃんはどうも、ハツキちゃんたちがここにいることを危惧しているみたい。場数を踏めていない状態で、強敵とぶつかりたくないんだと思う。

 でも、

 

「それだと、向こうに情報を与えただけで終わっちゃうんですよ。現状、人類と宿痾操手の戦争において、イニシアチブは向こうにあるんです」

 

「急にまともな思考になってんじゃねぇ!!」

 

「なんですとー!?」

 

 猫耳がピクピクっとなる。いや、そんなことより、ことことより!

 

「向こうがいつ攻めてくるかわからない以上、攻めてきた時のリアクションはすっごく大事なんです! せめて、姿かたちでも掴まないと!」

 

 もしも、相手の姿がわからない場合、相手の能力が“収奪”である以上、知らない間にとんでもないものが奪われてしまうかもしれないのだ。

 

「逆に、相手が姿を知られたから、今の肉体を捨てる可能性もある。そうなったら、その肉体の元の持ち主はどうなる!?」

 

「だからこそ――ここで倒すんです!」

 

 いい切って、それでもまだなお、何かをいいたげにするアツミちゃんを振り払うように、私は一気に対主砲をぶっぱなす。ノーチャージ故に、いくら放っても準備にはお釣りが来る。

 もちろん、それでも当たるわけではないけれど――

 

 その時だった。

 

「――ローゼセンセ!?」

 

 アツミちゃんが、空を見上げた。

 耳元を抑えて、何かを聞き取るようにしている。これは――

 

「な、なになに!?」

 

「読心で声が飛んできたんだ。内容は……」

 

 驚くルミちゃんに、アツミちゃんはこそこそとそれを伝える。私にも内容は伝わって、そうして理解した。ローゼ先生が伝えた情報は主以外の宿痾を討伐するのに必要な時間だった。

 約三分。驚異的な数字。

 

 同じ数を一分で片付けたとかいわれても、それはそれ、なんだけど。

 ともかくローゼ先生はこういいたいのだ。三分でなんとかしろ、と。ヘタに殲滅が成功すれば、主はローゼ先生たちを強襲するかもしれないので、殲滅にかかる時間までの間に、私達は猫主を討伐しつつ、宿痾操手の居場所を特定しなきゃいけない。

 

 かなり忙しいけれど、そこでシェードちゃんがアツミちゃんに問いかけた。

 

「ねぇアツミちゃん、アツミちゃんの読心って心の声を音として聞き取るんだよね?」

 

「……あ? ああ、そうだけど?」

 

 耳を抑えたままの様子から、シェードちゃんはそれを思いついたようだ。私もなんとなく、その問いかけから察したけど、周りはそうもいかない。

 

「じゃあ、アツミちゃんの読心って簡単に言えば“相手の思考を音として読み取って聞き取る”特異なんだ」

 

「……んん?? いや、そうかもしれないけど、もう少しわかりやすくだな」

 

「つまり、ですよ!」

 

 私は一気にケーリュケイオンを巨大化させる。当たらないなら、当たる距離の大きさの剣を作ればいい。単純な理屈!

 

「“音を拾う”特性を持つ読心は探知の一種。索敵の魔法ってことです!」

 

「……まさか」

 

「ハツキちゃんたちは、アツミちゃんの読心を()()()()()、負担を最小限にして」

 

「う、うん……? えっと、とりあえずやってみる!」

 

 ハツキちゃんがうなずいて、三人は私の指示通りにアツミちゃんへと手を触れる。アツミちゃんが読み取った心の声を、探知という形でサーチしていく。

 特異はあくまで魔法の一種だから、互換性が存在するんだ。

 

「……お願いできますか? アツミちゃん」

 

「…………チッ」

 

 アツミちゃんは、舌打ちをしながらも三人の手を受け取って、魔法を起動させる。そうすると、四人の顔が一斉に険しいものになる。

 

「だ、大丈夫?」

 

「……宿痾の声がうるさすぎて、集中できねぇ」

 

 予想外の結果だった。宿痾にも意志があって、何かしらの会話が可能なのは私も知っている。ある程度その考えを読むことはできるが。

 まさか、内心はそれほどまでに苛烈な雄叫びを上げているのだろうか。

 

「精度を()()()()()()()ことはできますか? 宿痾だけを減らして、別の部分にリソースを集中させるような……」

 

「できれば今にでもやってるっつの!」

 

 話している間にも、時間はすぎる。三分、長いようで短く、そして長い長い三分間だ。

 中型以下の宿痾はもはやほとんどのこっていない。幸い今の所猫主はこちらの攻撃を回避するので精一杯だが、いつそれが暴走するかは定かではない。

 

 だが、だったら――

 

「ハツキちゃんたちは集中! 宿痾をここから一斉に排除する瞬間、少しでも沈黙が生まれるはずです。そこで必ず敵の居場所を掴むんです!」

 

「…………!」

 

 アツミちゃんは、大きく目を見開いている。

 

「それって、つまり……猫主も同時に退治するってことにゃよね……?」

 

「シェードちゃん!」

 

「にゃい!!」

 

 ごくりと息を呑み、それから呼びかけられて飛び上がる。しっぽがピンと天を貫く。私はそんなシェードにゃんに、あるものを突き出した。

 

「これ、お願いします」

 

「え……ケーリュケイオン!?」

 

 そう、ケーくんをシェードちゃんに託す。何も難しいことはない、ケーくんは私にしか使えないけれど、()()()()()()()()()()()()()。つまり、シェードにゃんに託したいのは照準だ。

 私は――別のモノを、同時に狙う。

 

「……わかった!」

 

 無言で杖を突き出す私に、意図を察したのかシェードちゃんは杖を握って、動き回る猫主へとそれを向ける。先程まで放たれていた対主砲が停止することで、一気に戦場は動く。

 ――そんな中、アツミちゃんは私の言葉なき言葉を容易に察したシェードちゃんへ、不思議そうな目を向けていた。

 

 先生たちは変わらぬ勢いで宿痾を殲滅していく。それはカウントダウンだ。私達が動きを止めたことで猫主は自由になるが、警戒からか動きを見せない。いや、動きを見せたら即座に私の魔法が牽制するから動けない。

 魔法は自動で放たれるように設定した。一応、主の装甲を貫通できるが倒せない程度の威力。主は無視できないので、警戒を強めるしかない。

 

 その間、私は集中。

 この静寂は十秒も持たないだろう。十秒もすれば猫主は方針を決めて突っ込んでくる。先生か、私達かは解らないが。

 

 しかし、実際の静寂は十秒にすら満たない。なぜなら、先生たちはもう五秒後には宿痾を殲滅するからだ。

 

 だから、五秒の沈黙。

 五秒で集中を最大まで高める。チャンスは一瞬。私からケーくんを預かり、私の手を添えながら照準を合わせるシェードちゃんも、ごくりと唾を飲む。

 

 やがて、それは、

 

「これで――」

 

「――最後!」

 

 先生たちの叫びとともに訪れた。

 

 

「今です! 皆さん!!」

 

 

 叫び、私は目を見開く。集中は最大限まで高まって、その集中に続くようにシェードちゃんが対主砲を放つ。轟雷一閃。天を衝く柱は、回避しようとした猫主の移動した先に“置かれて”いた。

 風穴を空けて、主が動かなくなる。

 周囲に宿痾の姿はなくなって、アツミちゃんが視線を鋭くしながら、マナを最大まで発露させる。

 

 そして、

 

「ミリア!!」

 

 叫び、同時。

 

 

「そ、こ、かあああああああああああ!!」

 

 

 私は、用意していた二発目の対宿痾砲を放つ。狙いは、隠れた宿痾操手。

 

 手応えは……ない!

 だけど!

 

「逃がすか!!」

 

 私はシェードちゃんの手をとって、猫耳デバイスを光の翼へと変換させる。それはブースター。円環理論でマナを確保する場合、私はシェードちゃんを抱えて移動する必要がある。

 だから、足を使わず、手を使わず。背中に配置したブースターを翼のように使用して、飛び回ることが最善と言えた。

 シェードちゃんを抱えながら、最高速で飛翔。杖を構えた私に――

 

 

<み、つ、け、た、なあああああ!!>

 

 

 甲高い少女の、人ならざる声音が響き渡った。

 同時に、飛び出した私へ向けて、それとほとんど変わらない速度で、そいつは突っ込んでくる。

 

 激突。

 

 私は飛び出してすぐ、皆が私を視界に収められる位置で、そいつとぶつかった。

 杖と槍のようなものをぶつけあって、激しく火花を散らす。

 そいつは、青髪のイケメンだった。こないだのせこいイケメンよりは幼い雰囲気、しかし妖艶というか、どことなく年不相応な色気をもった、それはもう見るからに妖しいイケメンだった。

 

 こいつが、

 

「――宿痾操手!」

 

 叫ぶ。

 ニヤリ、と青髪は笑みを浮かべて、それから互いに相手を吹き飛ばして距離をとった。

 

<はじめまして戦姫! ミリア・ローナフといったね! ああ、なんとも憎らしいその顔に、ようやく苦渋を飲ませる時が来た!>

 

「随分と口が回るイケメンですね!」

 

<イケメン? 何を言ってるんだ。……まぁいい。そうだミリア、人は名前という代物で個体を区別するらしいな>

 

「……何か?」

 

<いやいや、面倒なことをすると思っただけだ。しかし――ここはその面倒な慣わしに倣って見ようと思ってね? 何でかって? 簡単さ!>

 

 イケメンはそれはもう大げさに手を広げて、私――ではなく、その後ろの一人の少女を見据えた。

 

 その少女は――彼女は、

 

 

<あいたかったよ、アツミ! キミの大事な親友が! クロアがこうして会いに来たんだ!!>

 

 

 ――アツミちゃんは、怯えていた。

 

 頭を抱えて、苦しみながら。

 

 目の前にいる少女に、

 

 

「おまえ、は――だれだ? なんでアタシを……知っている?」

 

 

 恐怖と未知と、それから衝撃でもって。

 

 クロアと名乗ったイケメンを、見上げていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………元カレ!? もしかして寝取られ展開ですか!?

 ……………………ふんぎゃー!!!

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