TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。 作:ソナラ
この世界は魔導の存在故に、文明は結構維持されていたりする。
といっても、現在の人類に便利なものがのこっているだけで、それ以外のものはだいたいが本の中に記録されているだけだ。
文明はのこっていても、文化はのこっていない。そんな感じが近いかも。
ミリアです! シェードちゃんアマテラス事件から少し、シェードちゃんたちも荷物を整えて、長期休暇も始まるということで、学園を離れます。
方法は列車を使うことにしました。自分たちで飛んでいってもいいのですが、旅というのは風情が大事です。行きは時間をかけてでも雰囲気を楽しむのがいいかなと思いました。
まぁ、演習の時は飛んで移動するから、休暇のときくらいという気持ちもあるのだけど。
さてそんなわけで列車で用意したお弁当を食べている。この列車は全席個室で、寝台列車という感じです。なんとなく古めかしい雰囲気の木造列車。大陸横断鉄道っていうと、なんとなくそのイメージが伝わるかもしれない。
「んー、お弁当おいしーね」
「まぁ弁当もミリアたちの料理に変わりはねぇんだけどな」
いいながらもアツミちゃんは美味しそう。私も結構満足の行く出来でご満悦だ。
「にしても……相変わらず外はなんもねぇな」
いいながら、アツミちゃんは窓から外の景色を眺めている。実際見てみると、外は荒涼としていて、人が生きていけるような土地ではないとひと目で解る。
魔法がなければ私達はどうなっていたことか。
「喉乾いたー」
いいながらシェードちゃんは魔法でパネルを呼び出して、何かを注文する。すると数分もせずに部屋の受け取り口になってる部分からかこっとジュース入りのコップがでてくる。
便利な話で、これも全て魔法で行っている。
この列車自体、運行は魔法が全自動でやってくれるのだからすごい話だ。
現在の人類の生活は、そのほとんどが魔法によって成立している。食事をつくるのも、その素材を用意するのも、魔法によって自動化されていて、食事やこういう列車での移動にお金が必要ない時代だ。
代わりに、そういった生活を送るための産業に必要な人員を割くことはできないので、食事はつねに魔法によって創られた食材を使う。
手料理をつくるという人も、今の世代だとろくにいないのではないだろうか。ギリギリ私達のお母さんたちの世代に、料理ができる人がいるくらい。
シェードちゃんのお母さんとか、料理ができるらしい。
それを当たり前にしなければ生きていけない世界。
それを当たり前にすることを強いられた人類。
はて、もしも人類が開放された時、私達はどうやって文化を取り戻していくんだろう。とはいえ、魔導機をつくるのにも手間はかかるし、ゆっくりと開拓をしながらじわじわ世界に広がっていくのかなぁ。
「ん、おい見ろ」
「なになに?」
「そろそろですかね?」
アツミちゃんが呼びかけて、私達は窓の外を見る。そこは他の場所とは違い、いろいろな木々や自然の広がる、どこかのどかな場所だった。
「噂には聞いてたが、ありゃあ見てると絶景に思えるな」
「そうだねぇ……アレが――」
ふふん、と私は胸を張る。
「ミリア大森林」
何故かアツミちゃんにこづかれました。
なんで!?
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ミリア大森林。
簡単に言うと私が幼い頃からコツコツと育て初めた自然が形になった、現在人類の生存圏で唯一、百年以上前の生態系と自然を有する特殊な場所で、ローナフ家の実家がある。
大森林とはいっても、日本の自然豊かな山奥くらいの自然で、要するに観光に最適な自然の豊かさって感じ。ちなみに正式にはローナフ大森林と呼ばれているので、私がやったというのはなんとかごまかせている。
ところでこの間本部に行ったら、そろそろミリア大森林にしてもいいんじゃないか、って会議が行われてたんですけど、平和っていいものですね!
現実逃避ではありません!
「すげぇな……これ全部本物の自然ってやつか」
「初陣実習で言ったところも、そこそこ木とか色々あったけど……なんていうか雰囲気が全然違うね」
外は自然があっても、生態系が死んでいておかしな生物が跋扈しています。クビが二つあるモグラとか、ちょっと精神にくるものもあります。
ですが、ここに宿る自然は私が一から復元した人類が文化を保っていた頃のもの。
「しかも、ここ数年は私の手が入ってないんですよ。あくまで自然の力とそれを管理してくれる皆さんの手によって成り立っているんです」
「ケーリュケイオンの代償のせい?」
「正直、今の私はかつての生物が本当にこういう生物だったのか覚えてませんからね!」
「自慢するには悲壮感が洒落になってねぇ!」
今、私が生物を復元すると下手すると外のゲコゲコ鳴き出すセミと同じものができてしまいかねないので、あくまでケーリュケイオンを再起動させる前の状態を維持してもらうに留めている。
この場所には、ローナフ家とローナフに仕える使用人の皆さんが暮らしている。
最近だと、自然の観察とかを目的とした研究畑の人も住み着いて、使用人さんたちと一緒に自然の保護をしてたりするけど、まぁ外部の人であることに違いはない。
で、私達は列車から降りて、自然を観察しているところなのだけど――
「おねえちゃーん!」
元気な女の子の声が聞こてきた。
すぐにそれが誰かを察した私が、彼女の名前を呼ぶ。
「ランテちゃん!」
ランテちゃん。
私の“義理”の妹であり――
「よおこそー! よくおいでくださいましたー!」
それはもう、すごい戦闘力の持ち主でした。
シェードちゃんを更にすごくした感じのお胸に全員の視線が注がれています。
「……妹?」
「どこを見て言ってますかアツミちゃん!」
茶褐色のボリューミーな長髪と、それはもうすごい勢いで主張するおっぱい。ぼいーんぼいんぼいん。身長はアツミちゃん(平均ちょっと上)より少し小さいくらい。平均ちょっと下くらい?
私の顔が胸に埋もれる位置にあります! シェードちゃんは同じくらいなので、結構これが違うんですよ存在感とか!
黒いちょっとカチっとしたイメージのワンピースをまとったランテちゃんが、私達をお出迎えしてくれた。
「はい、えっとじゃあ改めまして。ランテっていいます。よろしくおねがいします!」
「うおお、声がたけぇ……ミリアの妹って感じだなこいつ……」
アツミちゃんが頭を抱えながら何だか納得するように言っている。えへへそうでしょう、似ているってよく言われるんですよ。
何故か毎回頭を抱えられますけど、なぜでしょう。
「……アツミだ、ミリアとは学園で同じ部隊に所属させて貰ってる。まぁ、友人……なんだろうな」
「疑問符!」
「よろしくおねがいしまーす!」
ランテちゃんは常に明るくて、まっすぐな子だ。私とは少し雰囲気が違って、私はうねうねしているけどランテちゃんはずっとぱーっとしている。
「……ミリアのやつはその場の雰囲気にテンションが流されるが、こいつは常にこのテンションってことか」
「分かりやすい説明をありがとうございます!」
「ます!」
二人で声を合わせるとアツミちゃんは更にぶつぶつと、妹……妹か……といった感じでこぼし始めました。何なんでしょう、なんなんでしょう!!
そして、
「ランテちゃん」
ふと、シェードちゃんがオーラをまといながら声をかけた。
ゴクリ……ついにこの時が来てしまいました。なんだか分かりませんが、シェードちゃんは実家に挨拶に行くと決まってから、毎日少しずつオーラを練り上げていたのです。
果たしてこのオーラが比喩表現なのか、それともマジで魔法で練り上げているのか、わからないくらいにすごいオーラです。
「あなたは……」
「はじめまして、シェードといいます。ミリアちゃんの一番の親友だよ」
ゴゴゴゴゴゴ。
一番のところを強調したシェードちゃんに、ゴクリと私はつばを飲みます。アツミちゃんはなんかすごいうげーって顔。
あの顔は遠巻きに楽しんでいる顔なので、巻き込まれない限りはアレで問題ない。
「……!」
その時、ランテちゃんは何かを理解したように、オーラを噴出させた。なんですかそのスキル!? お姉ちゃん知りませんよ!?
「……!!」
シェードちゃんも更にオーラを強くして、まるで竜虎相打つっていった感じです。すごいシーンです、見開き1ページどどんって感じです。
ぎゃおー!!
そして、
一瞬の空白の後、ランテちゃんが口を開いた。
「えへへ、じゃあよろしくね、シェード
ドギャーン!!
「――!!!!!」
シェードちゃんに電流走る。
一瞬、その顔がなんか恐ろしい子って顔になった後――
「うん、私がお姉ちゃんだよ! お母さんでもいいよ、ランテちゃん!」
がば。
むぎゅっ(謎の擬音)。
二人はガシッと抱き合った。うおおすごい光景。
「えへへ、お姉ちゃん……うへへ……」
「……シェードはもうだめだ」
「なむなむ」
「シェードお姉ちゃん!?」
抱きついたままシェードちゃんは崩れ落ちた。ああ、おっぱいにシェードちゃんが埋もれていくぅ、これこのまま取り込まれてしまうやつでは?
「おねえちゃん、ど、ど、どうしよう!」
「落ち着いてください、シェードちゃんは大分こっち側なので大丈夫です!」
「自覚あんのかてめぇ」
私をひっぱたきながら、アツミちゃんが前に出る。
むきゃー!!
「いいかシェード」
アツミちゃんに秘策ありといった様子で、アツミちゃんはそっとシェードちゃんの耳元に近づいて、
「この後、ミリアの親に挨拶すんだぞ、ここで死んでいいのか」
「さぁ、ミリアちゃんちはどっち!?」
――即座にシェードちゃんは復活した。
シェードちゃんそれでいいんですか!?
「きゃっ。あはは、お姉ちゃんたちおもしろーい!」
「ランテちゃん、私はいつでも貴方のお姉ちゃんだからね!」
母性とは、シェードちゃんを突き動かす衝動のことをさす……はわわ。
「んじゃ、案内頼むぞー、荷物は任せていいんだったか」
「はい。私達は手ぶらで大丈夫です」
いいながら、私はランテちゃんとともに、ローナフ邸を目指すのだった。
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そして、たどり着いたローナフ邸で待っていたのは――
「はじめましてー、クルミといいます。ミリアちゃんとランテちゃんの母です。よろしくねぇー」
ぼいん。
て擬音がよく似合う、私のお母様でした。
「……なんでてめぇのほうが実子なんだ?」
「よりにもよってなんてことをいいますかー!?」
アツミちゃんは失礼さんでした。ぷんぷん。
ランテ>ローゼ>シェード>姉>アツミ>カンナ>アイリス=ミリア