TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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47 ミリア、妹を染め上げる。

 ランテは言うまでもなく『魔導戦姫アルテミス』の本来の主人公である。

 天真爛漫、前向きを絵に書いたような如何にも女の子がいっぱい出てきて仲良くする感じの作品の主人公といった性格。

 少し特殊なのは作中最強のおっぱいを有するということ。あまりにもでかすぎてミリア(原作)が抱きしめられて埋もれるイベントがあるくらいだ。

 

 逆にミリアは身長もスリーサイズも全キャラ(アイリス含む)で一番貧相だ。身長はギリギリシェードがほぼ同身長なのだが、そもそも原作のシェードは本編開始前に死亡しているのでいない。

 また、ほぼ、なので若干シェードのほうが高い。

 

 それはそれとして、当然ながら原作でのミリアとランテに学園入学前の接点などない。故郷が若干近いという程度のつながりはあるが、面識はもちろん無いし、ミリアはランテに故郷の話を聞いて初めてそれが近くにあったということを知るくらいだ。

 だが、逆に言えば故郷が近いという程度の接点があれば、この世界のミリアは縁を手繰り寄せることはなんてことない。

 結果として現在、ランテはミリアの妹としてローナフ家で保護されている。

 

 ミリアにしてみれば、胸が大きい以外は大変かわいい大切な妹なのだが、ランテにとっては、ミリアは当然ながら劇物であった。

 

 つまるところ――

 

 

 <>

 

 

 話はミリアの母と邂逅する少し前に遡る。

 

「わわ、すごい。リスって動物だよアツミちゃん」

 

「まじかよ。あっちのあれは?」

 

「カブトムシ……かな? あってる?」

 

「アレはクワガタですね!」

 

 両手を広げて、ハサミのポーズを取るミリア。興味深そうに、アツミとシェードはローナフ家へ向かう間、生い茂る自然とそこに生息する動植物たちを観察していた。

 

 この土地の四季は実際の季節に合わせて、魔導機が自動で気候を変化していく仕組みとなっており、今は夏なので、夏の動植物をあちこちで見ることができる。

 夏特有のセミの鳴き声が絶えず聞こえてくる風景は、間違いなく世界でここにしか存在しないだろう。

 

「ここの自然はすごいんだよ! 本でしか見たこと無いものがいっぱいあって、それが全部生きてるんだ!」

 

 自慢気にランテはアツミとシェードへ話をふる。ここに来るまで、群生している植物などについて、ミリアも解説を入れるが、ほとんどはランテが二人へ説明していた。

 

「ランテちゃんたちが頑張ってくれてるおかげですよ」

 

「えへへ!」

 

 と、ミリアが言うように、この自然を管理しているのはランテとローナフ家に仕える使用人だ。他にも研究者の戦姫が数名いるが、彼女たちもそれに協力している。

 まぁ、戦姫がこのミリア大森林に常駐しているのは、警備という意味合いも強いのだが。

 

 そしてその中でも、ランテは特に大森林の管理において重要な立ち位置にいる、らしい。

 

「ランテちゃんは私が手ずから、昔の自然について教えました。もう五年ほど前になりますが、ここにやってきてそれからずっと、私の代わりに森林の管理を統括してるんです」

 

 その頃にはミリアはケーリュケイオンを再起動させており、自分の記憶を代償にし始めていたので、この森林に直接手を加えることができなくなっていたのだ。

 結果として、幼いゆえに吸収がはやかったランテは、原作主人公ゆえのスペックもあってかミリアの教えを受け継いで、この大森林を管理するに至っている。

 

「おねえちゃんの教え方がうまかったからだよぉ」

 

「えっ」

 

「え?」

 

 ――そして、ランテはミリアの教えを正確に学んだ。故にこんな発言も飛び出してくる。アツミが驚いたようにこぼすと、ランテは不思議そうに首を傾げた。

 

「いやいやいや、無茶言うなよミリアだぞ!? ろくでもねぇ例えを理解できるわけねぇだろ!?」

 

「えー、とってもわかりやすかったもん」

 

「アツミちゃん、慣れれば案外わかってくるよ?」

 

「てめぇもかシェード!!」

 

 しかもシェードまでランテ側だった。アツミは絶叫し、絶望する。なんということだ、この場にはまともな人材が自分しかいない。

 ――いや、自分もまともだと思っているだけなのではないか? 自分が少数派な時点で、この場ではまともなのはランテたちのほうで、可笑しいのは自分ではないか?

 

 助けを求めるように周囲を見渡して、アツミは何やら作業をしている使用人を見つけた。目があった。サムズアップをされた。アツミは使用人の苦労を察して涙を流すのだった。

 

「こほん、とにかくランテちゃんは今や優秀な我が家のハウスキーパーなわけです。グリーンキーパー? まぁどっちでもいいですね!」

 

「いいかなぁ、まぁいいか……」

 

 とにかくランテが優秀だということはアツミにもわかった。

 つまり、彼女もミリアに毒されているのだ。シェードのように、ミリアの影響を受けて覚醒してしまった少女なのだろう。おいたわしや。

 

「あ、ランテちゃんランテちゃん」

 

「なに? シェードおねえちゃん」

 

「あっちのアレは何? 後もう一回シェードおねえちゃんって言って?」

 

「ああアレは……えっと、シェードおねえちゃん?」

 

 ――ズキューン。

 シェードは衝撃を受けてえへえへしながら倒れた。もう彼女はダメかもしれない。

 それはそれとして、シェードが見つけたなにかをランテはみて、

 

「あれは――熊さんだよ」

 

「熊……?」

 

 聞いたこともない動物の名前にアツミは首を傾げながら、シェードが指差したほうを見る。そちらを見れば――

 

「熊は危険な動物だよ! 人よりも大きい背丈を持ってて、力もすっごいの! 魔導が使えないと下手すると死人が出ることだってあるんだから」

 

 ――すさまじい足音とともに、アツミよりももっともっと大柄な、どう考えても危険な動物が迫ってきた。

 熊、ランテの説明通り、魔導なしで相対すれば死を覚悟せざるを得ない猛獣だ。アツミは慌ててランテに問う。

 

「なんでそんなモンがいるんだよ!」

 

「頑張ったよ!」

 

「説明しろー!!」

 

 多分ランテが復元に成功したのだろう。どう考えても色々と可笑しいが、できてしまっているのならしょうがない。いやしょうがなくない。気絶したシェードが危ないのだ!

 

「任せて!」

 

 そこで、ランテが飛び出した。彼女が管理している動物ならば、彼女に任せるのが正解なのだろう。ミリアも楽しそうにそれを見ているので、危険はなさそうだが――

 

 

「どすこーい!」

 

 

 ランテは正面から熊と組み合った。

 

 

「……うん?」

 

 アツミは現実を認識できなかったので、目をこすってから現実に意識を向けた。ランテと熊が相撲をしていた。もう一度目をこすった。

 

「でやあああああ!!」

 

 優勢はランテの方だった。

 一気にクマを持ち上げると、そのままの勢いで地面に叩きつける。

 

 ビターン! とてつもなく痛そうだ。

 

「そこまで! 勝者ランテ山!」

 

「やったー!」

 

 ミリアが謎の判定をして、ランテは飛び上がる。ばいんばいん。

 

「なんだこれ……」

 

 困惑するしかないアツミは、死にかけているシェードを叩き起こしながら、とりあえずさっさと本邸に向かおうと心に決めるのだった。

 

 

 <>

 

 

 その後も、農作物を荒らして逃げた烏になんかすごそうな投球フォーム(ミリアはマサカリ投法と言っていた)で石を投げて烏を撃墜するランテや、ちょっと小腹がすいたと言って木に張り手を叩き込んで、おちてきたきのみを頬張るランテに困惑しながら、アツミたちはなんとかローナフ邸にたどり着いた。

 そして待ち受けていたのが、ランテに勝るとも劣らない驚異的な胸囲を持ちうる強者、ミリアの母クルミだった。

 

「私だけでごめんなさいね。あの人はどうしても本部での仕事が終わらなくって……」

 

「お祖母様だって一日くらいは顔を出せるというのに……」

 

 どうやら、今この家にいるのは、クルミだけらしい。

 他にもアルミア・ローナフが一日だけこっちに来るそうだが、アツミとしては未だ顔を合わせたことのないミリアの祖母、若干緊張してしまう情報だった。

 

「よ、よろしくおねがいしますお母さま、シェードです!」

 

「あら、可愛らしい子ねぇ、話には聞いてますよシェードさん。ミリアと仲良くしてあげてね」

 

 シェードは積極的に挨拶をしている。ところでお母さまという呼び方に何かしらの意図を感じるのはアツミだけだろうか。

 

「……ども、アツミです」

 

 対してアツミは、どう答えていいか解らず、若干ぶっきらぼうな名乗りになってしまった。なんというか、ミリアの母は、如何にもミリアの母といった感じだ。おっとりしていて、掴みどころがない。

 きっとこの人もあっち側なのだろうなぁ、と思いつつ頭を下げる。

 

「そんなに緊張しなくていいのよ、アツミさん」

 

「いえ、そんな……」

 

 と言いながらも、心底で本当に心配してくれているクルミに、どこか申し訳なくなりながらアツミは返す。裏表のない、まっすぐで素敵な人だな、というのがアツミの印象である。

 

「荷物などは使用人が運び込んでくれますから、皆さんは部屋でゆっくりしてください。ここまで長旅で疲れたでしょう?」

 

「そ、そんなことないですよ! それに、できることならお手伝いとかしたいな、って。あはは……」

 

 シェードは随分積極的だ。

 心底からミリアの母に気に入られたいという下心がアツミにだけ透けている。それをわかっているのか、シェードのアツミに対する圧がなんか強かった。

 もちろんアツミは気にしないが、同時に踏み込むこともしない。

 

「じゃあ、そうね。夕飯の準備とか、どう?」

 

「あ、はい! ぜひ!」

 

「そうと決まれば、まずは部屋に案内しないとね。ランテちゃんとは色々話をしたと思うけど、私にも聞かせて?」

 

「っす」

 

 アツミも否はないので、クルミの言葉にうなずく。

 ミリアはさっきからランテと両手をのこのようにしてテシテシしあっているので反応はない。

 

 楽しそうだな、という思考とともに視線を向けてくるシェードを、アツミは睨んでだまらせた。誰があんな真似するか。

 

 そのまま、クルミと話をしながら廊下を歩いて、あてがわれた部屋へと案内される。

 家は西洋風の豪華な建築で、如何にもお貴族様の家だな、と思われる作りをしていて、ドレス姿のクルミも相まって、なんというか物語の中に迷い込んだかのようだったが、あちこちにある調度品が、なんというか独特なセンスだったので、シェードは若干正気度を消失していた。

 ちなみにこの調度品はランテとミリアが暇なときに作って設置したものである。本来のローナフ邸はもう少し質素な感じだった。

 

「じゃあ、夕方になったらお手伝いお願いね?」

 

 クルミがそう言って、離れていく。

 大森林だの、なんかおかしなセンスの調度品だの、アツミの正気を削る事態が頻発したものの、とりあえず一息つけた形だ。

 なんとかアツミが正気を保てたのは、やはりクルミの存在が大きかっただろう。

 

「いや、それにしてもクルミさんは、ミリアの母親とは思えないくらいまともだったな」

 

「なんですかそれー!?」

 

 クルミは、なんというかおっとりしていて、天然っぽい雰囲気はあるものの、非常に常識的で、まともな人間だった。読心でなんとなくアツミはアルミアの人間性を聞いているが、根はアルミアに近いのではないだろうか、といった感じだ。

 

「あはは……あれでも、昔は苦労してたんだよ、クルミ義母さま」

 

「へー、そうなのか? ちょっとのことじゃそうそう動じないような気がするけど」

 

 そんなクルミのことをよく知るランテが、苦笑しながら言う。

 アツミは何気なく、そう問いかけたのだが。

 

 ――それが失敗だった。

 

 

「うん、だって昔は、おねえちゃんがなにかするたびに気絶してたもん、ああやって受け入れられるようになったのは最近かなぁ?」

 

 

「結局てめぇのせいかよ!!」

 

「あー!」

 

 知りたくなかった事実を知って、アツミはミリアの肩をブンブンと揺さぶった。

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