TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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53 ミリア、宿痾の主と対峙する。

 ランテは、特別な存在だ。

 ゲームにおける、主人公という立場がそれを補強する。そうでなくとも、彼女の性格は、生き方は他人とは違うものだ。

 

 この終わってしまった世界で、花を愛でることを趣味にする人間はそこそこいる。

 花は人を癒やし、安らぎを与える。鉢植えの中で命を芽吹かせ、咲き誇る姿はまるで今の自分達のようだ。世界を救うことなんてできないと、心の底ではわかっている。

 だから、箱庭の中だけで輝く花に、人々は今日の夢を乗せる。

 

 明日なんてなくても良い。

 ただ今日という世界に、美しい一輪の花が咲けばいい。

 

 そこに誰かが介入する余地はない。人は他人に意識を割けるほどの余裕はない。

 故にこの世界の人は花を育て愛でるのだ。

 

 それを、花畑にしようなんて思う人間は、この世のどこにもいなかった。

 

 そんな世界で、一人だけ花畑を願う少女が居た。

 ランテはそんな少女だったのだ。

 

 なぜ? と言われるとランテは自分でも首を傾げる。その思いに根源はない。生まれた時からぼんやりと、そうしなくてはならない、そうした方がいいと思い続けてきた。

 その思いに突き動かされて、誰にも理解されなくていい、自分だけが願いを信じて進めばいい。

 

 そう思って、ランテという少女は生きてきた。

 

 そんな少女に奇跡が宿る。

 月光の狩人。宿痾と呼ばれる災厄を滅ぼして、闇夜を照らす月となるべき特異中の特異。

 

 それこそが、この世界に与えられた最後の希望。少女という贄によって世界を救う、一本の楔。銀の弾丸。それが自分に宿っていると知った時――

 

 

 ――きっとランテは笑みを浮かべる。

 

 

 ああ、私はこのために生まれてきたのだと。

 花畑をつくれるならば、そこに私はいなくていい。

 

 そうして気付くのだ。

 

 少女が花畑という願いを抱くのは、他人のためだ。多くの人が目にするために、花を束ねて夢へと変える。それが少女の願いであった。

 

 だから、彼女は進んで命を捧げる。

 

 女神は少女に祝福と呪いを与えた。

 

 彼女に待っているのは――犠牲という名の破滅のみ。

 

 しかしそこに、救いという名の誰かの未来があるのなら、

 

 

 月光の狩人は銀の弾丸をためらわない。

 

 

 <>

 

 

 だが、

 

 

「――――再生機(リザレクションズ)ッ!!」

 

 

 ―――――――だが!

 

 

「――――ケーリュケイオンッッ!!」

 

 

 この世界に、それを望まぬ悪が一人いた。

 

 

「――――限界突破(コード・オーバードーズ)ッッッ!!」

 

 

 ワガママで、

 

 

 奔放で、

 

 

 けれども誰よりも幸せを望む。

 

 

「――――この特異を、今すぐ止めてください、ケーリュケイオンッッッッ!!」

 

 

 ――ミリアという少女が、そこに居た。

 

 

 ランテが主と相対したことで、彼女の中にあるオドをマナへと変換する器官は定められた運命のように誤作動を起こす。

 結果、周囲は昼であったはずなのに、一瞬にして闇に覆われて、空には月が浮かんでいた。

 それと同じ青白い光を放ち、ランテの身体は歪んだマナを解き放とうとする。

 

 止める手段はない、特異の排出は人体の自然現象。絶対の摂理、故に、代償を求めて奇跡を起こす、そんな杖の力が必要だ。

 

 ミリアは一切ためらわなかった。

 これは、ダメだ。

 

 この特異だけは、絶対に起動させてはいけない。

 

 希望の如き月光の一撃は、けれど終焉の引き金だ。

 たとえケーリュケイオンが同種の犠牲によって成り立つ奇跡だとしても、ランテのそれは決してケーリュケイオンのような道具ではない。

 

 ケーリュケイオンは、選ぶことができるのだ。握る人間が、願ったからこそ起動する。願わなければ眠り続けるそれ故に、その希望には選択肢がある。

 だが、ランテのそれは違う。生まれた時から強制されて、押し付けられた奇跡にすぎない。そんなもの、一体誰が望んで起動する。

 ランテがたとえ望んだとしても、それは望むしか彼女には許されていないからだ。

 

「――それは、それだけは……ダメです!!」

 

 ――ミリアの言葉とともに、ランテから放たれていた光が停止する。

 ミリアにはしっかりとそれが見えた。マナの動きだ。特異とは、一種の魔導。だから、やろうと思えばその特異は模倣することができる。

 通常とは違う動作を起こすがゆえに、その内容は複雑怪奇。

 たとえば現代のミリアは、未だにアツミの読心を模倣することはできない。

 

 だがこの時、ミリアは理解したのだ、自分の作り上げようとしていた対主魔導と、ランテの特異には共通点がある。そこから、自分の魔導の問題点、そして改善点をミリアは見出したのだ。

 目の前で展開していた特異が、百からゼロへと逆再生していくがゆえに。

 そして同時に、その特異が完全に発動すれば、代償としてランテの寿命が数年消耗することも――

 

「……誰が彼女に、そんな業を背負わせたんだか知りませんが」

 

 静かに、ミリアは怒りを込めて杖を掲げる。ランテはゆっくりと意識を取り戻しつつあった。月は太陽へと切り替わり、元の快晴が戻ってくる。

 

 晴れ渡る空のもと、気を取り直したミリアが、主に向けて宣戦布告するのだ。

 

 

「私が悪役令嬢(ミリア)である限り、私の気に入らない犠牲は、許しません!」

 

 

 その日、決定的に世界の歴史は歪んだ。

 ミリアという異物によって、

 

 学園戦姫アルテミスは、まったく違う何かへと、変貌を初めたのだ。

 

 

 <>

 

 

「――それが、私とおねえちゃんの出会い、かな」

 

「……そっかぁ」

 

「変わんねぇな、あいつ」

 

 ランテの口から、改めてミリアとの出会いを聞いた二人は、納得するようにうなずいていた。相変わらずのように、ミリアは気に入らない不幸を蹴り飛ばしているらしい。

 あの時も、そしてまた、あの時もそうであったように。

 

「ふたりとも、おねえちゃんに助けてもらったんだよね?」

 

「……そうだね、私はミリアちゃんに、友情を教えてもらったよ」

 

 シェードは、あの時ミリアが差し伸べてくれた手を思い出す。

 ミリアがかけた言葉は、“これからもよろしく”。それは、これからを――()()()()()()()()()()()()()を疑わないミリアらしい言葉だったと思う。

 

「アタシは……気に入らねぇ悪を、アイツはアイツの悪でぶっ飛ばしてくれたんだ」

 

 アツミは、あの時ミリアがやってくれたことを思い出す。

 ミリアがしたことは、とってもとても単純で。アツミが気に入らないと思う、アツミの前に立ちはだかる理不尽を、真正面からぶん殴った、それだけのこと。

 

「じゃあさ、ふたりとも思うよね?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「えへへ……うん」

 

 三人の意志は一致していた。

 それぞれに視線を交わし合って、うなずき合う。

 最後にランテが、二人に対して口を開いた。

 

「私は、ずっと私の命で誰かが救えるなら、それでもいいと思ってたんだと思う。私が願う花畑に、私はいなくていいんだって」

 

 ――だから、ミリアに声をかけられた時、ランテはとてもとても驚いた。

 そんなこと無理だと、一度は断ろうとすら思った。でも、ミリアは疑わなかったのだ。

 

「おねえちゃんは、私も花だって言ってくれたんだ。花は一面に咲き誇る。その中に私っていう花もいないと、花畑は完成しないんだって」

 

 華やぐような笑顔で、そういった。

 その時のことを、ランテは今も覚えている。

 

 シェードが、言葉によって救われたように。

 

 アツミが、拳によって壁を打ち破ったように。

 

 ランテもまた、ミリアの笑顔によって夢を見た。

 

 その夢は、今も三人の胸の中にある。

 

「だから――」

 

 三人は、誰からともなく口にする。

 

 

「おねえちゃんが困っていたら、今度は私達がそれを助けよう」

 

 

 堅い覚悟と、意志でもって。

 

「……えへへ、話が長くなっちゃったかな?」

 

「別に話しながら足が止まってたわけじゃねぇし、いいだろ」

 

 そうやって、三人は笑いながら川を進む。ミリアはこの先にいるはずだ、早く追いついて、川遊びの続きをしよう。きっと明日も、楽しくなるのだから。

 

 

 <>

 

 

 ――ああ、だから。

 彼女たちは思わない。

 明日をつくるのは、結局の所ミリアであるということを。そんなミリアと、真逆の意思でもって明日を作ろうとするものがいれば、明日なんてものは容易にわからなくなるのだと。

 

 その事実を、彼女たちは知らない。

 

 ――彼女たちが進む先に、ミリアと対をなす、災厄と呼ぶべき怪物が待っているということを。

 

 彼女たちは、まだ知らない。

 

 確かにミリアは一人ではすべてを救えない。だが、だとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。ミリアの戦いに、その最大出力に、未だついていける人類はいない。

 そもそも、対抗できるものだって一人しかいない。

 

 人、と評するべきかすらわからない怪物が、

 

 対抗しうる存在とミリアが相対した時、果たしてミリアを助けたい者たちに、果たして何ができるのか。

 

 これからきっと、ミリアは世界を救う。そのときに、彼女以外の者たちは、一体どのような行動を起こすのか。

 

「それじゃあ――」

 

 ――そして、そんな彼女たちの思いをよそに、“彼女”は笑う。

 

「ちょっとだけ、お話しようか、ミリアちゃん」

 

「……ご自由に、どうぞ」

 

 アイリスは、まるでミリアを皿の上に置いたかのように満面の笑みを浮かべて、ミリアへと呼びかける。その心中はいかほどか、読心の使えない――そもそも、使えたところで読めるともわからないが――ミリアには察することも不可能だ。

 

 だから、アイリスの言葉を、ミリアは聞き逃さぬように集中する。

 

「私には夢があるんだよ。ミリアちゃんがそうであるように――」

 

 アイリスは、笑みを浮かべて、

 

 そして、口にするのだ。

 

 ――かくして、ミリアは宿痾の“主”と対決する。

 

 その、行方は――

 アイリスの狙いは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と“お姉ちゃん”の、愛の巣をつくること!!」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私とお姉ちゃんだけの愛の天国を作りたいの! あ、お姉ちゃんっていうのはね!! 私と同じ宿痾操手でね! とってもとってもかわいいの! ミリアちゃんの妹ちゃんだって負けてないけど私のお姉ちゃんは世界一カワイイよ、可愛すぎてちょっといじめたくなっちゃうのが玉に瑕。ああでも私以外がいじめたら許さない、あのバカどもはそこがわかってなかったんだよね、えへへお姉ちゃんは私が抱きしめるとすっごくいい顔になるんだへへへへ、えへへへへへへへ」

 

 …………ミリアは、宿痾の“主”と対決するッ!!

 

「いい感じに締めようとしないでくれますか!?」

 

「もう、ちゃんと聞いてよミリアちゃん!」

 

 するったらするの!!!!!!!!!!!!

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