TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。 作:ソナラ
私にだって、苦手なことくらいあります。
コミュニケーションが苦手です。自分を伝えることでしか、相手と仲良くなる方法を私は知りません。でもそれが、決定的につたわっていなければ、私はそもそもコミュニケーションを取る以前の問題で。
私は人とは違うから。
そんなことを思ったこともありました。というより、思おうとしたこともありました。周りが私を理解してくれないから、それ以外に理由が思いつかなかったから。
でも、人と違ったって、思いを伝えることはできるのです。
かあさまが私のことをわかろうとしなかったのは、かあさまが重責で視野が狭くなっていたから。そして私がそれを解らなかったから。
どちらが悪いかと言えば、どちらも。原因があったのは、多分かあさま。
解決してくれたのは、私でもかあさまでもない人でした。
お祖母様ならきっと理由もわかって、解決もできたのでしょうけれど、何でもお祖母様が解決したのでは意味がないと思っていたようで――
――ランテちゃん。
月光の狩人という特異を有する、ちょっと特別だけど、どこまでも普通な女の子。ランテちゃんが特別なのは、才能と意志。それ以外は、どこにでもいて、でもしっかりした子なんだと思います。
そんなランテちゃんは、おかあさまにまっすぐ、私の考えを理解するよう諭してくれました。おかあさまは最初はぎこちなかったですけど、少しずつ私の行動に笑顔を浮かべてくれるようになって。
そうして、私達はうちとけたんです。
時間はかかってしまったけれど、私が戦姫になるよりも前に打ち解けることができたのは、ランテちゃんのおかげだと思います。
そして今、
私はまた、絶対にわかり会えない相手と相対しました。
宿痾操手“アイリス”。操手の親玉とでも言うべき存在であり、一人のために愛を独占するべく戦う少女。そのためならば、人類を殲滅したって構わないと言い張る彼女を、私は許容することができません。
だとしたら、私は彼女に対してどうすればよいのでしょう。
彼女にも救いの手を差し伸べるべきなのですか? 大切な人たちを殺すかもしれない人を、私は許容するべきなのでしょうか。
いえ、そんなことはありません。私は自分の意志で救う人を選びます。悪とは、傲慢とはそういうことです。それに、たとえ私が許しても、他の人が許す保証もない。
ただ――
それだけで彼女のすべてを拒否すべきなのか、私はまだその結論が出ていないのでした。
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「――ミリアちゃん!」
無数の私猫で人文字を描いていた私に、シェードちゃんの声が響く。
視線を向けて、即座に辺りに浮かんでいた猫の私をかき消す。必要がなくなったからだ。
「やっぱり来たか、律儀だねぇ、三人とも。何の役にも立たないのに!」
「どうかな!?」
そう言ってシェードちゃんは力強く笑みを浮かべる。アイリスは勝ち誇ったように言うけれど、実際のところアイリスの思う通りには行かない。
「――じゃあ、その律儀さで死んじゃいなよっ!
宿痾を握りつぶして、アイリスがそれを発動するけれど、残念。
「効かねぇってんだよ!」
「そう――」
そうして、シェードちゃんたちは限界突破を無視して、私の横に立った。“それ”を身にまといながら。
「ミリアちゃんの金の玉に、それは通用しない!」
「いやその言い方はやめてもらっていいですか!?」
金の玉じゃないですよ!
そう、今シェードちゃんたちは金色の光に包まれていた。私がシェードちゃんやアスミル隊を守るときにつかった防御魔法。
これはアイリスの限界突破すら防ぐことができる。私だとケーリュケイオンを使わないと遠隔パルスで飛ばせないから、シェードちゃんたちに使えなかったけれど、
シェードちゃんたちが自力でそれを使えるようになってしまえばいいのだ。
……っていうか完全に金色の光に覆われていて中が見えない! 金の玉じゃないんですってば!!
「それ……ミリアちゃんのっ! どういうことかな!?」
「ミリアちゃんの魔導は、ミリアちゃんだけの特権じゃないってこと!
「な――」
さすがのアイリスも絶句したようだ。アイリスは私に対して油断していないけど、他の子たちには流石に油断するらしい。人類に私と同じことができる人がいるなんて、これっぽっちも思っていないのだ。
でも、シェードちゃんはやってのけた。
これまで、シェードちゃんは色々と魔法を創っていた。それはシェードちゃんの才能が開花したということでもあるけれど、同時に
ソレが今、実戦で使われている。完成したのだ。
「流石にまだ燃費が悪すぎて、二人がかりで円環させないと使えないけど――」
「――こいつがあれば、てめぇの攻撃も受けれるだろうよ」
「あ、なたたちは――! ふざけないでよ!」
即座に、アイリスは無数の宿痾を取り出し、そのいくつかを針を一閃して砕きつつ。
「
――これは、不味いと私は構え直す。
「アイリスは限界突破を自分に使いました。あれは相手へのデバフだけでなく――」
「遅いっ!」
そして、先程よりも圧倒的に“疾い”速度で、私達を斬りつける。
「きゃっ、あああ!」
金色の光は弾き飛ばされ、私は正面から攻撃を受け止めるが、大きく後退させられる。
「それだけじゃないよぉ!」
直後。
無数の宿痾が一斉に私達へ襲いかかった。
「ぬ、ううううううう!」
私も金色の光を展開させて防御する。これまで使ってこなかった防御札、それをここで切らされた。向こうも本気になったということだ。
「ははははは! どうしたの!? 反撃しなよ! あの子たちは自分の身は自分で守れるんだよ!? だったら貴方が本気を出さない理由がないじゃない!」
「……にゃああああ!!」
叫んで、金色の光を払いつつ杖を振るう。全力を込めた一撃は、しかし拮抗にとどまった。襲いかかる宿痾は吹き飛ばしたけれど、数はまだまだ無数にいる。
そのまま、私は一気に動き回った。宿痾を置き去りにしつつ、追いかけてくるアイリスだけを相手にする。時折宿痾が先回りするけれど、その程度ならなんてことはない。
まだ戦える。
それに――
「――ミリアちゃん!」
シェードちゃんが叫び、私は即座に目を閉じる。
「これでも喰らえや!」
直後、周囲に凄まじい光が溢れた。
「目潰しっ!!」
アイリスが叫びながら遠くへ飛び退くのが、光が止んだ直後の私の視界に映った。そのまま高速で食らいつく。音でしかこちらが近づいてくるのを判断できないのか、アイリスは受け身だった。
そこに、
「こいつもくらえ!」
大きな爆発が起こる!
音も視界もシェードちゃんとアツミちゃんが奪って、私がここにきてようやく――
「たああああああああああっ!」
自分から、アイリスに一太刀を叩き込んだ。
「まだまだっ!」
ほとんど直感で防ぐしかなかっただろうに、アイリスは攻撃を弾いてみせた。強引な大ぶりと、弾かれたことにより、お互い隙が生まれる。そこにアイリスは宿痾と砲撃を、私は吠えながらマナの弾丸を生み出す。
「くらええええっ!」
爆発。
正面で着弾した両者の一撃が、私達を大きく吹き飛ばす。互いに大きなダメージはないが、無傷とは行かない。服を焦がしながら、空中でにらみ合う。
そんな私の横にシェードちゃんとアツミちゃんが並んで、向かい合う。
「やってくれるじゃん! こっちが奥の手まで出して、それでも互角。……ちょっと認識を改めるよ、貴方の仲間は強いね。ミリアちゃん」
「そっちこそ、一人でよく私達についてこれますね。まさか弾かれるとは思いませんでしたよ」
「戦闘経験……だよっ!」
再び限界突破で自分を強化しながら、アイリスは突っ込んでくる。
私達はソレを受けながら、互角に相手取る。スペックでは向こうが上かもしれないが、アツミちゃんとシェードちゃんのサポートは的確だ。十分遅れは取らない戦いを演じることができている。
「アツミちゃんの読心は妨害してるはずなのに、どうしてこうも名前を呼ぶだけで相手の意図を察せれるかなぁ?」
「わからないでしょうね、愛を一人にしか向けたことのない人に。その愛も、心の底からの愛かどうかわからない人に!」
「……っ! 言ったな!!」
アイリスが、二本の針をあわせて巨大にして、突撃する。
空いた片方の手で宿痾を踏み潰しながら、そのたびに速度を彼女は上げる。どの速度で突っ込んでくるかわからない、ここからは読み合いになるっ!
「けどねぇ、これでお互いに底は見えた。連携してもなお、今の私と同格ってことは、もう一つ隠し玉があれば、貴方達は負ける!」
「そんなものがあれば、ですけどねっ!」
「――
そう言って、
「あるんだ、だからこれで決着!」
アイリスは、何かの種のようなものを取り出した。
「……ふたりとも!」
猛烈な嫌な予感。
あれが何かはわからないが、あれこそがアイリスの持つ最後の手札であることは解る。だから、ここで対応を間違えればこちらが負ける。
そして、私が取れる手は――
「……遅い!」
「なんだってんだよ、それは!」
「ふふ、バカだなぁアツミちゃん」
アイリスは勝ち誇ったように笑って、
「貴方の読心がどうやって妨害されてるか考えてもみなよ」
そう、宣言する。
「……まさかっ!」
「そう、これも同じことなの! 行くよ――」
――考える。
どうする? どうする? どうする!? 私にできることは、私がここで打つべき手は、勝敗を分ける手になる。シェードちゃんたちに頼る!? いや、もう意思疎通を取る時間もない。
だったら――
「――
――!!
ここだ!!
「――――
あの種は、メルクリウスの代償だ。だったら、起こることは間違いなく現在の改変。ソレ以外に起こらない。だったら私の方が早い!
というよりも、そもそもメルクリウスとケーリュケイオンの機能は、どう考えてもケーリュケイオンの方が上だ。何故かは、まぁ置いといて――
「……ケーリュケイオンは使えないはずだよ!」
「やってみれば、解る!」
ニヤリ、と笑う。
ここでケリをつける。
私は、その時のために
「――
「
二つの奇跡がぶつかり合って、
――勝敗の天秤が、傾いた。