TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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75 時空解説アイリス

 ――やっほ、アイリスだよミリアちゃんたち。

 この記憶を読み取っているってことは、きっとミリアちゃんたちは、ちゃんと過去に転移できたんだよね。それならよかった。いや、あそこで死んでくれてもよかったんだけど、お姉ちゃんは救ってもらわなきゃいけないから、ちょっとくらいは私の役に立ってよね。

 

「相変わらずだな、おい」

 

「アイリスらしいといえば、らしいと思いますけどね」

 

 ちょっと、聞こえてるよふたりとも。

 本体には届かないけど、私だって記憶の中のアイリスなんだから、会話だってできちゃうし、そっちの悪口だって聞こえちゃうんだから。

 

「……考えましたね。この方法なら、必要な情報以外貴方は喋らないってことですし」

 

 急に褒めないでよ、照れる。

 

「ぶっとばすぞ」

 

 できるものならやってみれば? 貴方程度じゃ、即返り討ちだと思うけどね、アツミ。

 こほん。

 じゃ、怒りたいけど事実だから怒れないアツミと、それをなだめるミリアちゃんのために教えてあげるよ。どこから聞きたい?

 

「……貴方、私のことを知っていたんですよね?」

 

 うん。

 過去で会ったことがあるから。貴方達にとっては未来だと思うけど。

 なんとなくお察しの通り、私は貴方と過去に出会ったことがあるの。私からしてみると五十年以上前、貴方達にとっては明日の話かもね?

 だから当然、貴方達が現れることも、貴方達がどういう存在かも知ってる。

 どうして過去に来たのかは解らなかったけど、ほとんど偶発的な事故だったなんてねぇ。

 

「解っていたのなら、その未来を変えようと思わなかったのですか?」

 

 思ったよ? でも私はミリアちゃんと違って、自分でできることには限界があるの。だからやることを『ミリアちゃんと戦って勝つ』ことに決めてたんだけど、それは失敗に終わった。

 ミリアちゃんとは直接戦って、ある程度手札も知ってたのにね? だから私は純粋に自分の力不足で、未来を変えることができなかっただけ。

 

 でもね、そもそも実際に変えられるとは思ってなかったの。

 ミリアちゃんたちも感じてるでしょ?

 

「……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。自分たちが過去に飛んでも、意味がないんじゃないか。

 結論から言うよ。

 

 

 過去は変えられない。その推論は大正解。

 

 

「……っ」

 

「……詳しく、お願いします」

 

 まずね、この世界において、過去っていうのは定まったものなの。ううん、過去だけじゃない。この世界の歴史は、運命は、知ることができないってだけで絶対に変わらない。

 だから過去に転移して、未来を変えたと思っても、それは最初から過去に転移することが決まってて、その決められた事実を貴方達が遂行してるだけ。

 

 だから、貴方達は過去で私と対決するし、その結果、私は貴方達を知ることになる。

 

「……結果は、どうなったのですか?」

 

 知らなーい。ほんとに知らないよ? いつのまにかいなくなってたから、私の攻撃で跡形もなく消えちゃったのか、別のところで死んじゃったのか。

 それとも未来に帰っていったのか。

 私にはわからないの。

 

「ほんとに過去を変えられねぇのかよ。例えばもしここで、ミリアが死ねば未来は絶対に変わるだろ」

 

「物騒すぎませんか!?」

 

 物騒だねぇ。

 それに、もしもの話は意味ないよ。絶対にやらないもん。

 やったとしても、それはやった世界がこことは別に存在するだけなの。

 

「……どういうことだ」

 

 アツミちゃんにはピンと来ないかも知れないけど、人類が滅ぶ前の創作でこういう時間転移って題材は結構扱われてたの。

 その中で、時間を変えることに対する解釈は色々あるけど、中でもあるのが、過去を変えたら、過去を変えたという未来が存在する別の世界が生まれる、ってやつ。

 

「パラレルワールドですね!」

 

「パラ……なんだ?」

 

 私達のいるAっていう世界から過去にいってもそこはBっていうよく似た別の世界で、Bっていう世界の過去が変わっただけで、Aの世界が変わるわけじゃないってこと。

 この世界の場合はもっと単純で、移動できるのはAっていう世界だけだけど、そもそもAっていう世界ではその時間旅行は既に決まってる事実、ってこと。

 

「よくわかんねぇが、とにかく私達が過去にいることも、既に決まったことで、何をしても未来に影響はないっていいてぇんだな?」

 

 そうだねぇ。

 少なくとも、私はミリアちゃんを殺そうとしたけど、ミリアちゃんは過去へと渡った。ここまでの運命は、きっとすべて定まったものだったんだ。

 もしかしたら、私がミリアちゃんを殺せた世界もどこかにあるかもしれないけど、それはこの世界の私には何の関係も無いんだよね。

 

「……どうして、そんなことが解るんですか?」

 

 え? 私にそれ聞いちゃう? ミリアちゃんだってなんとなく解ってるくせに。別に難しいことはなにもないよ、この世界にしかない、ある存在がそれを決めてるってだけ。

 

「……」

 

「それで、わざわざそれを教えるだけのためにこれを寄越したのか?」

 

 まさか。

 といっても、私が貴方達にしてほしいことは一つだけ。お姉ちゃんを救うこと。それ以外のことはなーんにも望んでないんだから、教えることもまた、一つだけ。

 

「もったいぶるなよ」

 

 これは仮説なんだけど。

 確かに過去は変えられないかもしれない。でも、未来はどう? 未来は変えられるかもしれない。ううん、正確に言えば()()()()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 

「ああ?」

 

 分かんないんだよ、過去のことはともかく、未来のことは。

 だから、たとえば――

 

「――過去で私達が細工をして、未来に戻った後でその細工を使えばいい」

 

 正解。

 確かに過去は変わらないかも知れないけど、過去から未来に影響を与えることは不可能じゃないと私は思ってる。

 

 私達は未来のことがわからないから、たとえ未来が決まっていたとしても、その未来が訪れるまでの行動には意味がある。

 簡単に言うとおっきい箱があったとして、その箱の中身がわからないとする。

 本当はその箱の中には何も入ってないんだけど、ある時点からある時点までそれを誰も確認してなかったら、その箱の中の未来は決定しない。

 だから、過去に戻って箱の中に何かを入れて、戻った後の時点で箱の中身をあけて中身を確認したら、それは未来を変えたってことにならないかな?

 

「もっと端的に言え」

 

 ロマンが解ってないなアツミは!

 今、過去にいるミリアちゃんが、過去でお姉ちゃんに細工して、ミリアちゃんたちが過去から戻ってきた時点で発動する魔導を用意する!

 これでいい!?

 

「とりあえず問題は三つだな。この時代のアイリスを掻い潜る必要がある。そしてトリスメギストスもだ。シルクは……まぁなんとでもなるだろ」

 

 そうだね。

 

「アイリスにすらなんとでもなると思われてるシルクさん……」

 

「そもそも、アタシ達はこの時代のシルクがどこにいるかもしらねぇよ。お前が教えてくれんのか?」

 

 ……まぁ、そこは仕方ないと思う。

 お姉ちゃんを助けるためには、どうしたってそれは教えなきゃいけないわけだし。

 ただし、私は私の利益になることしかしないから、条件があるよ。私がその記憶を貴方達に教えるのは、この時代の私をどうにかした後だよ。

 

「どうにか、と言われましても」

 

 ――私、戦場で貴方達に出会ったの。

 そして逃げられた。だから、タイムラグがあるの。私がそこから私の家に戻るまでの時間。その間にお姉ちゃんをどうにかして。

 

「時間はある、ってことか。じゃあ解った、それでいい」

 

「私もそう思います。ただ――」

 

 ただ?

 

 

「貴方の思惑通りにことが進まなくても、怒らないでくださいね?」

 

 

 …………

 

「貴方はいいました。過去で細工をして、未来で行動を起こせば未来は不確かだと」

 

 言ったね。

 

「であれば、私たちが人類を救うために、こっそり策を弄しても、貴方は文句を言ってはいけませんよ」

 

 ……言えるわけないよ。

 私はケーリュケイオンに選ばれなかった。であるなら、ケーリュケイオンは貴方達のその行動を想定して過去に飛ばしてるってことになるから。

 私には、それを止める方法がないの。

 

「代わりに」

 

 代わりに?

 

 

「シルクさんを助ける方法は、必ず見つけてきます」

 

 

 ――そんなこと。

 言われなくたって解ってる。

 ミリアちゃんなら、きっとやってのけるだろうって。悔しいけれど、貴方なら絶対に何かしてくれるって私も思っちゃってるもん。

 

 だから――

 

 お姉ちゃんを助けて。

 

「――助けて、そして世界も救います。ええ、約束しますとも」

 

 そこまではいってない!

 ほんっと、ミリアちゃんはずるい。

 

「てめぇが言うなや!」

 

 ――じゃあね、祈ってるから。

 

「……そうですね、世界の平和でも祈ってください」

 

 もう、ばーか。

 ――行ってらっしゃい、人類の救世主。

 ついでにお姉ちゃんも救っちゃえ。

 

 

 ――そうして、私の記憶は眠りについた。

 ミリアちゃんたちは覚悟を決めて、この世界、この時代――そして、時間という敵に、向かい合ったのだ。

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