TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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前話予約時間を間違えました。
ストックには余裕があるので急遽今日も更新します。次回は通常通り七時のはずです


78 セントラルアテナ

 ――それから、私達は行動を起こしました。

 できることは限られています、私達が加わっているこの集団は、後少しで目的地にあるセントラルアテナへと到達するそうなのですから。

 アイリスの発言からして、アイリスはそこで待ち構えているだろう、そこでアイリスを突破してしまえば、私達はそのままシルクさんのもとへ向かうことになる。

 

 そうなれば、きっとこの世界における私達の役割はおしまいだ。

 ケーくんを調べてわかった。私達はこの時代に、予め決められた期間転移するようになっている。これはつまり私達には過去ですべきことがあり、それが終われば自然と未来へ戻ることができる、ということだ。

 まぁその前に死亡するかもしれないけど、正直向こうが初見という状態でアイリスに負けることはないと思う。秘策もあるし。

 

 ともあれ、その数日の間にできることと言えば、環境の改善と未来で構築された魔導技術の継承だ。当たり前の話だけど、私達がこうして教えることは既に決められたこの世界の歴史だ。

 そういう意味で、タイムパラドックスとかを気にしなくていいのは利点。どれだけ教えても、私達の時代まで人類が宿痾を押し返すことができないのは難点。

 

 それに、一つ考えもあった。

 この世界における時間転移っていうのは、そこまでジョーカーになり得る行為ではない。だとしたら、時間転移で世界を救う必要はあまりないのではないか。

 これまで言っていることと矛盾しているように思えるが、原因は昨日のシェードちゃんとの会話だ。

 

「魔導ってすごく万能なんだよ。できないことって言えば、それこそ死者を蘇らせるくらいで、それ以外のことは何でもできる。逆に、なんで死者を蘇らせることができないのかってくらい」

 

「めちゃくちゃ大きく出ましたね……」

 

「最近ローゼ先生とレポートを通してやり取りして気付いたことなんだけどね。マナで変化を起こすと、その事象って永続するんだよ。ミリアちゃん大森林が一番わかり易いけど」

 

 あの大森林は、自然の再生こそ魔法でやってるけど、それ以降の維持はほとんど人の手によるものだ。せいぜい、農作業の道具が魔導機ってくらい。

 

「他にも、魔導ってマナへのオドからの変換率が異常に高くて、他が効率悪すぎるからやらないけど、一応オド以外でもマナへの変換ってできるから」

 

「誰でも使える対宿痾用の拳銃とかありますよね。足止めにしか使えない豆鉄砲ですけど。無いよりは絶対いいです」

 

 そこで、とシェードちゃんは口にする。

 

「だからね、私ずっと、一つのことを疑問に思ってるの」

 

「……それは?」

 

 そうやって語るシェードちゃんはどこか楽しげで――そして、何かを心配するようでもあった。

 

 

「マナって、どうして人を蘇生できないんだろう、って」

 

 

 ――マナを用いれば、新たな生命の創造も、人の治療も衣食住の確保も、何だってできる。

 それこそ、やろうと思えば、時間を越えることだってできた。

 

 だったら、どうして命を蘇らせることはできないのか。

 

「それこそが、マナっていう存在の鍵とも言えるんじゃないかな。少なくともそれは、倫理的な問題とか、道徳的な問題なんかじゃ絶対にない」

 

 ――絶対に、そうでなければならない理由があるのだと、シェードちゃんは難しい顔で言うのだった。

 

 

 <>

 

 

 そういうわけで、私達はお世話になっているキャンプの生活改善をしながら過ごしている。

 キャンプはゆっくりではあるけど移動を続けていて、しばらくすれば目的地にたどり着く。そんな状況ではあるけれど、ランテちゃんはその中で八面六臂に活躍した。

 具体的に言うと、いまやこのキャンプはランテちゃん教が最大宗派になっている。アイドルか教祖か、はたまた天使か女神か。

 ラーンテ! ラーンテ!

 

 てなもんで。

 私達の技術はランテちゃんのおかげで一気にキャンプへ普及した。セントラルアテナにたどり着くことさえできれば、私達の時代に負けないくらいの生活基準で生活できるくらい。

 特にシェードちゃんの魔法はすごい。ローゼ先生も、シェードちゃんと同じくらいの頃には魔法をいくつか開発していたと言うけれど、今のローゼ先生についていけるシェードちゃんはそれ以上のなにかとしか言いようのない天才だ。

 

 私も魔法の開発はするけど、それを他人に教えることは不可能と言ってもいいので、シェードちゃんのそれは人ができる最高峰の魔法と言ってもいいかもしれない。

 どうしてそこまでできるのかと言われて、シェードちゃんは、

 

「目指してるものがあるからだよ」

 

 と言っていたけれど。

 何を目指しているのかは、さっぱり教えてくれなかった。

 

 そういうわけで、一気にキャンプの生活を改善できたわけだけど。

 私はアルミアさんに呼び出されていた。シェードちゃんに膝枕された状態で、頭に氷を乗せたアルミアさんが、そこにいた。

 

 

「貴方達、おかしい」

 

 

 ビシっと、私に対してそういい切った。

 いきなりなんですか!

 

「なんでソレを私に言うんですか! 正直、今のキャンプで一番やばいのはランテちゃんとシェードちゃんのはずですよ!」

 

「貴方が代表だから。それに……貴方だから」

 

 流石に文句を言ってやろうというと、いつものように返された。シェードちゃんは……あ、アルミアさんの頭をなでながら凄まじい勢いでなにか魔法を作ってる。

 っていうか普通に作るときより作るスピード早くないですか? 赤ちゃんを甘やかすとシェードちゃんの作業スピードが上がる……?

 

「ミリア・ローナフ」

 

「は、はい」

 

 一度シェードちゃんの赤ちゃん集中術に気がついてしまうと、私はそちらに意識が行って仕方なくなってしまうが、アルミアさんは構わず告げてくる。

 

「貴方達は私の知らない戦姫。だから、私の知らない技術を用いることは理解できる」

 

「はい」

 

「けれど、貴方達の場合は“底”が見えない。そこが問題」

 

 そこだけに。

 ってそうじゃない。

 

 あ、シェードちゃんがツボに入ってる。嘘ですよねシェードちゃん……?

 

「貴方達は、どこまでできる? ここにいる人達をセントラルアテナに導いて、その先は?」

 

「その先?」

 

「端的に言う」

 

 その時、アルミアさんの衣服が光を帯びた。

 

 

「――貴方達は、世界を救えるんじゃないの?」

 

 

 直後、アルミアさんの衣服が園児服になった。

 ……え?

 

「…………あの?」

 

「よし、できた!」

 

「できたじゃないですよ!? 今すごく真面目な話してますよねシェードちゃん!?」

 

「……」

 

 アルミアさんが自分の衣服を眺めて、それから、

 

「答えて」

 

「スルーした!?」

 

 心が壊れてるってそういうことですか!? いや流石にスルーしていいやつじゃないですよ!? 明らかに今シェードちゃんがなにか理不尽な存在に一歩近づきましたよ!?

 

「答えて」

 

「……ん、こほん」

 

 もはやアルミアさんは、問答無用という様子で促してくる。これは答えるしかないだろう。いや答えたくないわけじゃないけど。

 

「不可能ではないですよ。ランテちゃんも、アツミちゃんも頼りになる仲間ですし、シェードちゃんは見てのとおりです」

 

 明らかにアルミアさんの頭を撫でる手が高速化し始めているシェードちゃんを眺めつつ、私は続ける。

 

「ただ、私達が宿痾を殲滅したとき、私達以外の四人が残っているかどうかが問題です。宿痾だって意志がありますし、狡猾です。私達がいなくなってる間に、別の場所を襲撃して人類を消耗させていくでしょうね」

 

「……セントラルアテナがあれば、守りきれる」

 

 ふむ?

 

「セントラルアテナは、この世界の魔導の始まり。あそこから魔導機は排出され、私達は戦姫になった。他にも、セントラルアテナには大地の浄化能力もある。――あそこが、私達の最後の希望」

 

 セントラルアテナ。

 私達の時代に続く、人類の最後の希望。アルテミスシリンダーを格納し、人類の代表たちが集まる統治機構であり、そして何より人類が生存圏を確保するための最大にして最高の手段。

 

「私は、そこに人々を少しでも集めたい。そこで、少しでも人類を維持したい。貴方達がいれば、それも可能」

 

「セントラルアテナを、随分と信頼するんですね」

 

「私は、この世で私自身が誰よりも信じられない。信じられるのは、セントラルアテナだけ」

 

 そりゃあ確かに、セントラルアテナは私達の時代においても信頼できる防壁だ。でも、アルミアさんの言葉は、盲信にも近い言葉に思えた。

 それに、

 

「――――私には、アレしか無い」

 

 ……お祖母様の姿と、今のアルミアさんは重ならない。

 

「私には、アレしか残されてない。アレがなくなったら、私が私でいられない」

 

「……あそこには、何かが眠っているのですか?」

 

 墓標。

 ――アルテミスシリンダーを、かつてシェードちゃんはそう評した。

 けれど、墓標というのは言ってしまえば。

 

 ――そもそも、セントラルアテナすらも、大きな墓標と言えるのではないか?

 

「眠っている。否――眠らせた」

 

「……」

 

「私が、やったんだ」

 

 縮こまるように、園児服のアルミアさんは蹲って言った。

 か細い声で、今にも消えてしまいそうな声で。

 

 ――今のアルミアさんは、私の知っているお祖母様とは違う。あまりにも、壊れすぎている。歪みすぎている。それは、致命的なまでにアルミアさんの心に巣食っているということだ。

 

 そんな心を、救うことなんてできるだろうか。

 難しい、と誰もが思うだろう。

 

「――違いますよ」

 

 でも、私は違うと思った。

 

 アルミアさんとお祖母様の間には、大きな違いがある。

 それは、二人がつながらないと言う意味ではない。

 

 

 二人は繋げることができる、という意味だ。

 

 

「それは違います。全然、これっぽっちも正しくない」

 

 私は、シェードちゃんを見た。

 大切な親友の顔を、ここまで付いてきてくれた仲間の顔を見る。

 

「私が救ってみせます、見せて差し上げます」

 

「……何を」

 

 ああ、だから。

 

 

「この世界に、救いはあるってことですよ」

 

 

 私がアルミア・ローナフを繋げる。

 心を“停めて”しまった少女と、私を優しく育ててくれた――大切なお祖母様の存在を。

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