TS転生悪役令嬢は、自分が転生した作品を勘違いした。   作:ソナラ

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86 それぞれの開戦

 ――ミリアです。

 シリアスモードきゅぴんきゅぴん。

 なんと衣装を新しくすることになりました。といっても制服を学生服から軍服に切り替えるだけなのですが、これを着た戦姫は一人前として認識されます。

 今までがそうではなかったのか? 一応今も学生なんですよそもそも! 今回のこれは学生まで全員動員するからです。文字通りの総力戦というわけですね。

 

 まぁ、これに負けたらそもそも人類は破滅なので、総力戦にならざるを得ないわけだけど、それはそれとして一年目の生徒には辛い戦いになるだろうな、と思ったけど。

 

「ミリアちゃん! 私達頑張るよ!」

 

 うおおおおおーーーーーーー!

 とすごい歓声。ちなみに声をかけてくれたのはハツキちゃん。つまりミリア隊の皆さん。歓声を上げるのは同級生の皆さん達、やたら士気が高い。

 

「皆さん頑張ったっすよ! この半年、決戦準備のためにあちこちで戦線を撤退させてたんスけど、そのお手伝いで実戦を経験してきたっすから!」

 

 と、これまたミリア隊のカナちゃん。

 半年、それぞれに色々なことがあったのだろう。考えてみれば、彼女たちだって一介の戦姫。一人前になるために努力するのは必然だ。

 ただ――

 

「……全員、てめぇに感謝してるぜ、ミリア」

 

「アツミちゃん」

 

「てめぇがいたから、てめぇの活躍に負けたくないから、アイツラは努力することを選んだんだ。才能から逃げるんじゃなくってな」

 

 ――逃げてしまっても、きっと誰も責めたりはしないだろう。

 才能は決定的な差になりうる。努力で結果を埋められるのは限られた範囲だ。その範囲を越えられる努力は努力とは言わない、才能である。

 だからこそ、彼女たちは努力の範囲で自分を磨き上げた。

 

「……すごいですね」

 

「すごいのはミリアもだよ。ミリアならできるかもしれない。その想いがアイツラの背を押したんだ」

 

「そうですか……」

 

 ふふ、とちょっとだけ笑みが漏れる。

 と、その時。

 

「おねえちゃーん!」

 

 たゆんたゆんと、ランテちゃんが走ってきた。

 全員の視線が一点に注がれるなか、それに気が付かない天然巨乳美少女ランテちゃんは、私に笑顔で声をかけてくる。

 

「もういっちゃうの?」

 

「はい、急ぐ必要もありますし……準備はバッチリですからね」

 

 ぱんぱん、と新しい制服を叩く。

 これは特別制だ。隊長服だからというのもあるが、これには少し色んな人の想いが詰まっている。だから準備はこれで十分。

 後は世界を救うだけ、というわけだけど。

 

「ランテちゃんも似合ってますよ? その制服」

 

 これまで一人だけ私服で戦い続けてきたランテちゃんも、ついに制服姿だ。ただ、あまりにも一部が大きすぎて学生服をなんとか改造して着る形になってしまったけども。

 ――どうしてか、この姿のランテちゃんには覚えがある。この世界はゲームの世界、つまりこれがランテちゃんのあるべき姿、なのかもしれない。

 

「えへへ……ありがと」

 

「制服に着られるなよ」

 

「しないよぉ! ……で、えっとさ」

 

 何やら、聞きにくいことを聞きたいらしい。

 はてなんだろう。

 

「……シェードちゃんに、挨拶してかないの?」

 

「しましたけど、昨日のうちに」

 

「今この場でだよ! これから大事な戦いがあるのに、一番の親友に挨拶しなくて、お姉ちゃんはそれでいいの!?」

 

「――一番の親友だから、ですよ」

 

 ぽん、とランテちゃんの頭を撫でる。

 ……なんかちょっと背伸びしないと届かないんですけど、また伸びたんですかランテちゃん???

 

「親友だから、言葉は要らないんですよ。お互いに言いたいことも、言うべきことも言わなくたって伝わってます。それに、シェードちゃんは今が一番大事な時期ですから」

 

「――ま、おかげで私も最終決戦前にローゼと話ができないんだけど」

 

 と、更にもうひとり。

 カンナ先生だ。

 

「先生も、見送りに来てくださったんですか?」

 

「アルミア先生から、伝言。と言っても一言だけだけど。“勝って”、ですって」

 

「あはは、アルミアさんにもありがとうとお伝えください」

 

 敬語ではないということはアルミアさんとしての発言だと思う。結局最後までお祖母様とアルミアさんはちょっとしか重ならなかったな。

 重なるまでに数十年経ってるからしょうがないけど。

 

「ローゼセンセも魔導開発か、間に合いそうなんです?」

 

「間に合わせるわよ、絶対にね」

 

「ま、それもそうか」

 

 魔導開発。

 ローゼ先生とシェードちゃん。希代の天才二人は、ある魔導の実用化に向けて最終調整に入っていた。その魔導は、これから私達が……というより、超大型宿痾と対決する戦姫には絶対に必要になる魔導だ。

 それがなければそもそも、あの巨大な主と戦うことはできないだろうから。

 

「とにかく、まぁシェードちゃん達にも宜しくお伝えください」

 

「だな」

 

 ふわり、と私とアツミちゃんが浮き上がる。ここからは私達が二人で行動する。私は黒幕を打倒するために、アツミちゃんはその前に、黒幕がどこにいるかを突き止めるために。調査という点においてアツミちゃんの読心は絶対に欠かせない。

 どこへ向かうかと言えば――

 

「んじゃ――」

 

 

「いってきます!」

 

 

 ――宿痾操手の拠点。

 シードア島だ。

 

 

 <>

 

 

 そういえば、過去ではともかく未来で――つまりシルクさんが暴走した時に転移した時、お祖母様は巻き込まれなかった。

 あまりにも流れた時間が違いすぎて別人判定になったんだと思うんだけど、それはそれとしてお祖母様とアルミアさんの間には決定的な違いがあるのだと思うと、なんというかむず痒くなった。

 

 と、転移を使って思ったのだけど――

 

 

「待ってたよ、ミリアちゃん」

 

 

 アイリスが、目の前にいた。

 転移の気配を察知したのだろう。自分も合わせてやってきて、待ち構えていた。想像に難くない光景である。

 であれば、彼女の意図は聞くまでもないことだ。

 

「……アイリス」

 

 杖を構える。

 同時に、アツミちゃんはパっと離れた。アイリスの顔を驚いたように見ながら。

 

「アイリス、てめぇ」

 

「んふふ、ありがとう、ちゃんと答えてくれて嬉しいよアツミ」

 

 アツミちゃんの行動からして、アイリスの目的は一つだろう。

 

「――一対一でやろう。今度こそ、お互いに手札を全部オープンさせた上で」

 

「……いいですよ。これから先のことを考えると、私一人で貴方を倒せないようでは――世界は救えない」

 

 タイマン。

 アツミちゃんも絡まない――純粋な一騎打ちでケリをつけたいという。

 その目的は解る、けど戦う上で、一応確認しなければならないことはいくらでもある。

 

「……本当にケリをつけなければいけませんか?」

 

「バカだね、私にその気がないことわかりきってる癖に。それに――」

 

「それに?」

 

「――私は人類の敵になることを自分で選んで、人類を殺してきたんだ」

 

 アイリスは、何も握らない手を見る。まだメルクリウスは展開していないから。

 

「人を殺すことを、愉しいと思ったことはない。でも、辛いと思ったこともない。私は人じゃない、最初から宿痾操手として生まれてきたから。私にとって、貴方達は相容れない異種族でしかない」

 

「兄弟は楽しそうでしたし、シルクさんは嫌がっていましたけどね」

 

「お姉ちゃんもあいつらも、元は人間だもん。人間としての感覚があるお姉ちゃんは人殺しを嫌うし、人から進化した自意識のあるあいつらは人を見下していた。何もおかしくないよ」

 

 ――その中で、最初からそうであるよう生み出された完成形は、人をどうとも思っていない。

 確かに、言われてみるとしっくりくる。

 

「でもね、――お姉ちゃんだけは守りたいと思った」

 

「……それは?」

 

「お姉ちゃんは決して望んではいなかったけど、それでもお姉ちゃんだけは、人からこっちに来てくれた存在なんだ。アイツラみたいな人と操手のごちゃまぜじゃない、人でありながら操手になってしまった。そんなお姉ちゃんだけは私の同類なんだ!」

 

 ――アイリスは。

 

「私には同種がいない! 結局はお姉ちゃんだって人間だ! 操手という存在はこの世で私一人だけ!! でも、それはお姉ちゃんだって同じだ!」

 

 一人ぼっちだったんだ。

 兄弟は、兄弟という同種がいる。一人ぼっちではない。

 でも、シルクさんだけは、一人だ。試作型という役割を押し付けられて、一人で生きていくしかなくなった孤独な女の子。

 

 アイリスと、同じだ。

 

「私が守りたいものは、私と私の同類だけ! 他にはなにもいらない!」

 

 アイリスの言葉が、ようやく熱を帯び始めた。

 ようやく、ようやくだ。

 私達と出会って、その信念を口にした時も、私達とともにシルクさんを救出しようとした時も。

 

 その情熱はシルクさんにだけ向けられていたんだ。

 

 だから、

 

「――やっとこっちをみてくれましたね、アイリス」

 

「みるよ、ミリアちゃん。――だってミリアちゃんは、お姉ちゃんを救うことじゃなくて、世界を救うことを選んだんだから」

 

「そうですよ。そして世界を救うことでシルクさんを救います」

 

「だったら、……だったら私は!!」

 

 そうして、

 

 

「私はお姉ちゃんを救うために世界を救う!」

 

 

 メルクリウスが展開された。

 

「安心してよミリアちゃん! 貴方を倒したら、今度はあいつの番だから! 今更人類とか世界とか関係ない、お姉ちゃんを助けるためには、世界を救う以外に方法はない!」

 

 つまりこれは、どちらが世界を救うために戦うかという意地の張り合いだ。

 私が行くか、アイリスが行くか。

 協力――は、ありえない。

 

 私がシルクさんを諦めてしまったから。世界を救うことで彼女を助けるために。

 

 私は世界を選んだ。だから私にとって世界は目的で――

 ――アイリスは、シルクさんを選んだ。だからアイリスさんにとってそれは手段だ。

 

「であれば心配はいらないでしょうね。――私が勝ちますから」

 

 何もかも。

 アイリスだって、黒幕だって。

 

「全て、私が勝って救います」

 

「言ったな! けど、勝つのは私だ!」

 

 メルクリウスを構えて、アイリスは叫ぶ。

 

<命滅機メルクリウス! 宿痾操手アイリス!>

 

「……戦姫! ミリア・ローナフ!」

 

 そうだ。

 これまで、二度私達は激突し、その度に決着をつけずにここまできた。

 だからこれは、最後の戦いにして、初めての決着。

 

 

「――行きます!」

 

「行くよ――!!」

 

 

 私達の、最初で最後の決着が、始まった。

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