全力でお兄さまを遂行する!!   作:鉄の字

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カレンチャン「お兄ちゃん♡」

作者「ッ!?ッッ!?ッッッ!?!?!?」



勧誘

 

トレセン学園の校舎の最上階。

その一番端に位置する部屋に『理事長室』がある。

 

豪快な口調と振る舞いが特徴なちびっ子理事長────秋川やよいは常日頃持ち歩いている扇子をこれまた豪快に開いた。

因みに扇子には『マジかよ』と書かれている。

 

「驚愕ッ!ここ数年、ウマ娘を担当しなかった君がわざわざウマ娘を指名しに来るとは!!」

 

その視線の先には来賓用のソファにふてぶてしく座り、紅茶を飲んでいるトレーナー(不審者)がいた。

学園のトップにであり、担当ウマ娘の指名をお願いする理事長の前でもあるのにトレーナーはその不遜の態度を崩さずふっ、と口角を上げた。

 

「何も驚く事は無い。俺はライスシャワーの兄で、ライスシャワーは俺の妹だからな。兄と妹は惹かれ合う。当然の真理だ」

 

「寒気ッ!もしかしなくても不審者だな!」

 

「脹相トレーナー、出口はあちらですよ?」

 

さも同然のように語るトレーナーに謎の悪寒に襲われる理事長。

そんな理事長から不審者を遠ざける為に音も無く理事長秘書である駿川たずなが背後に現れる。

 

コイツ、本当はウマ娘何じゃないのか?

 

そう思ってしまうトレーナーは肩に置かれたたずなの手を優しく取りどけようと────何故か動かないのでとりあえずそのままにしておく。

 

「駿川秘書、それには及ばない。話はすぐに済むからな」

 

「うむ!その事なんだが────」

 

「皆まで言うな、理事長。他のトレーナーがライスシャワーにスカウトしてしまうかもしれない。そう言いたいのだな」

 

言い淀む理事長に絶対的自信を顔に貼り付けたトレーナーは紅茶をソーサの上に置く。

 

「だが、これは確信だ。あのシンボリルドルフに『絶対』の文字があるかの如く!俺とライスシャワーは絶対に組む!そう、正に運命(デスティニー)!!」

 

「傾聴ッ!今年から選考会でしかスカウトできない決まりにしたのだ!!」

 

「……………………何………だと………?」

 

突然のカミングアウトにトレーナーの口があんぐりと開く。

 

「一時期ずた袋にウマ娘を拉致して無理矢理チームに入れるトレーナーとウマ娘が居たからな!ウマ娘にもトレーナーやチームを決める権利がある!それ故、スカウトは選考会の中で行われる事にした!!」

 

「…………………………」

 

「話は以上です。改めて出口はあちらですよ、脹相トレーナー?」

 

目のハイライトが無くなり、まるでFXで有り金全部溶かした人の顔をしているトレーナーを見て申し訳なく感じる理事長だったが、たずなはヒョイっとトレーナーを担ぎ上げるとまるでボールを投げるかの如く理事長室から退去させられた。

 

「……………やはりウマ娘じゃないのか、あの秘書」

 

バタン、と閉められたドアの音を聞きながら天井を仰ぐトレーナーはポツリと寂しく呟いた。

 

 

 

 

 

時間は過ぎ、昼休憩。

『オグリが来たぞおおお!!!来たぞおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』と騒がしい食堂を横切り、ハイパーモードみたいに輝くモルモットとすれ違いながら目的の場所へと着いた。

 

噴水となっている三女神の像の足下でトレーナーは一人のウマ娘に事の顛末を話す。

 

「────と言うわけだ」

 

その芦毛のウマ娘────ゴールドシップはそこで釣りをしながら話半分に聞いていた。

竿を巧みに操るのが無駄に腹立つ。

 

「マジかよ。ゴルゴムぜってぇ許さねぇ」

 

聞いてるのか聞いてないのかよく分からない返事をするゴールドシップ。

『十五匹目フィーーーッシュ!!!』と叫んで釣り上げたのは何故か人参だった。

座っている所が噴水だと再確認したトレーナーはチラリとゴールドシップの足下に目を向ける。

 

「所でゴルシ。お前の足下にあるずた袋は何だ?」

 

「あー、これは甲子園で負けた時に砂を持って帰る為の袋。常識だろ?」

 

「そうか?………そうかもな」

 

大体の元凶が分かった気がしたトレーナーだったが、面倒くらいので無理矢理納得した。

 

このゴールドシップはトレーナーの数少ない話し相手。

因みにゴールドシップはトレーナーが受け持つウマ娘ではない。

 

実はこのトレーナー、五年程担当ウマ娘を受け持っていなかったのだ。

 

理由は単純に『つまらない』。

 

文面だけ見ればウマ娘達に失礼だろうと思うが、この男の場合、自身の魂と彼女達の魂が合わなかっただけである。

ぶっちゃけ迷惑な話である。

 

そんなトレーナーだが、トレセン学園に籍を置けるのはそれ迄に行われた実績が優秀であるからだ。

 

ある時はとある七冠ウマ娘のトレーナーを担当したり、またある時はサブトレーナーとして陰ながら『怪物』と呼ばれたウマ娘とトレーナー支えたりと残した実績は数知れない。

 

「三日後、選抜レースらしい。それまでライスシャワーに会えないとは………兄妹に悪どいトレーナーの毒牙にかからないか心配だ」

 

ここで特大ブーメランが見えた人の目は正常だろう。

 

「別にスカウトが禁止なだけで会うのは大丈夫なんじゃねぇの?」

 

「やはり天才だったか………!」

 

「ゴルシちゃんは何時でもてぇん才ウマ娘よ………!」

 

へへっ、と鼻の下を指で擦りながら照れるゴールドシップ。

それ名案とばかりに立ち上がるトレーナーはゴールドシップに礼を告げるとウマ娘でも驚く速さで校舎へと駆け出した。

 

 

 

 

数分後、とあるウマ娘の名を叫ぶ不審者が校舎内を走り回る事件が発生。

理事長秘書による無言の正拳突きで対処され、『ライスシャワーのお兄ちゃん』を名乗る不審者(トレーナー)は一ヶ月の自宅謹慎を言い渡された。

 

 

 

 

 

一ヶ月後、トレーナーは練習場の観客席に座っていた。

未だにズキズキと痛む腹を抑えながらターフに集まるウマ娘達を眺める。

 

「やはり、ライスシャワーは居ないか………」

 

ウマ娘達の中に一際大きい黒いウマ耳が見えない。

一ヶ月と言う期間、ライスシャワーの実力を見れば、既にスカウトされているだろう。

妹が兄と一緒にいるのは恥ずかしいと言う照れ隠しで別のチームに入るのは仕方ない。

それで下手に騒ぎ立てるのはライスシャワー、更に彼女の友人に迷惑をかけてしまう。

 

そして、あの緑の悪魔に腹パンされてしまう。

 

仕方ない、と腰を上げた時、選考会を見ていたトレーナー達の話が耳に入った。

 

「むぅ………ライスシャワー………実力は確かなのですが、レースに出ないとは………」

 

「入学試験では何とかレースに出て一着だったが、メンタルが弱いと言う評価らしい。そうなるとレース以前の問題だな………」

 

普段なら右から左へ受け流す内容だったが、ライスシャワーの事なら話は別だ。

首をギュイン、とトレーナー達がいる方へ傾けるとその二人に話しかける。

 

「その話は本当か?」

 

「あ、貴方は………!」

 

振り返り、トレーナーの顔を見た瞬間、二人は顔を引き攣らせた。

その事について小一時間問い詰めたいが、今はライスシャワーが優先だ。

 

「俺の事は後でいい。ライスシャワーが選考会に出てないのは本当なんだな?」

 

「は、はい………係の者が理由を聞きに行ったのですが、聞けずじまいで………」

 

「そうか。情報、感謝する」

 

短くそれだけ告げるとトレーナーはレース場を後にする。

その変わった後頭部を見ながら二人のトレーナーはヒソヒソ話をする。

 

「あの人、前にたずなさんに内蔵潰れる程の正拳食らってましたよね………何で平気なんだろ………」

 

「いや、人がぶっ飛ぶ威力の拳を出して『残念でしたね』って謎発言するたずなさんもハンパねぇだろ」

 

 

 

 

 

トレーナーはライスシャワーを探したが、あの特徴的な跳ねた黒髪を見つけた時には辺りは暗くなっていた。

 

彼女はトレセン学園名物である中央が空洞になっている切り株の近くにいた。

レースに負けたらその悔しさをその穴に向けて叫ぶのがこの学園の定番である。

そして、ライスシャワーもその穴に向かって叫んでいた。

 

「ふぇぇええん!!!ライスのばか!ばか!ばかっ!!頑張るって決めたのに………!何で!何で………!」

 

切り株の前でへたり込み、紫の瞳を涙で潤ませている。

その痛々しい姿を見たトレーナーは直ぐに駆け寄る。

 

「ライスシャワー」

 

「………ふぇ?………ひっ!?あの時の不審者!!」

 

「待ってくれ、ライスシャワー」

 

突然背後から話しかけられたライスシャワーは涙目で後ろを振り返ると、そこに居た不審者の姿を見て逃げ出そうとする。

相変わらず照れ屋な子だ、と180°的外れな事を思いながらトレーナーはライスシャワーを呼び止めた。

 

少し屈み相手に怯えられない様に目線を合わせる。

 

「少し、話をしないか?」

 

 

 

 

 

大きい切り株に並んで座る二人。

微妙に距離を置かれているのは近づくと不幸が起こしてしまうからか、目の前に不審者がいるからだろうか。

近くの自販機で買ってきたカフェオレを彼女の隣に置く。

 

ライスシャワーはおずおずとカフェオレを手に持つとチビチビと飲み始めた。

可愛い。

 

暫く二人の間に静寂が流れ、トレーナーが口を開く。

 

「まだ選抜レースに出ていないみたいだな」

 

「ライス、ダメな子なんだ………皆、レースに出てるのにライスだけ怖がって動けないんだもん………」

 

「お前がダメなら俺はもっとダメな奴だ。俺は今まで様々な失敗をして来た。判断を誤らなければたった三度の敗北も宿敵との敗北も味わわせなかったかもしれない」

 

目を瞑り思い返すのは悔しさに顔を歪めた彼女達の姿だった。

それでも彼女達は自身を慕い、信じてついてきてくれた。

そんな彼女達に応えるべくトレーナーも努力を惜しまなかった。

 

「それでも俺は進んで来た。だから分かる。お前も変わろうと思い練習してきたんだとな」

 

「ッ………どうして、分かるの?」

 

「靴の擦り減り具合、ジャージの汚れを見れば察せる。相当な練習量………努力の証だな」

 

「それでも、走れなければ意味ないよね………」

 

「ライスシャワー、お前は走る事が嫌いか?」

 

「ううん、大好き………でも、でも………」

 

そうだ。

走る事が嫌いなウマ娘なんか居ない。

走る事こそが彼女達の本能なのだから。

 

この小さなウマ娘が何に恐れているのかは分からない。

だが、一歩踏み出す事が出来ない彼女に俺は前に立ち、彼女の手を引かなければ彼女は走れないままだ。

 

トレーナーは切り株から立ち上がるとライスシャワーの前に膝をつき目線を合わせる。

 

「ライスシャワー、お前をスカウトさせて欲しい」

 

「ど、どうして!?ライスは、レースに出れない!迷惑かけちゃう!不幸になっちゃう!!なのに………」

 

「兄に迷惑をかけるのは当たり前だ。先に行くのが怖いなら君が歩く道は、俺が作ってやる。ライスシャワー、お前はただ選び走り続けろ」

 

俺はこの子の兄として前を進む。

良くも悪くも俺はこの子の手本となり、この子が俺の後ろを、または俺とは別の道を歩ける様にならなければならない。

 

「何で………ライスなんかの為にそこまで………」

 

「兄だからさ。九人兄弟(+ライスシャワー)のな」

 

両手を口に当て涙を流し小さな体を震わせるウマ娘。

 

あの入学式で感じた感覚。

アレは間違いではない。

 

血が叫んでいた。

血が呼んでいた。

血が教えてくれた。

 

この子は兄妹であると。

 

「本当に、本当にライスでいいの?」

 

「ああ、お前がいい。お前だからこそスカウトしたんだ」

 

ならば、俺は全力でお兄ちゃんを────

 

「凄い………本当のお兄さま、みたい………」

 

否ッ!

 

────全力でお兄さまを遂行する!!

 

「えっと………じゃあ、よろしくお願いします、トレーナーさん!」

 

「ああ、俺はお兄さまだ」

 

「やっぱり話が通じない………」

 

 




カレンチャンもいつか登場させたいと思います
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