プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~   作:黒点大くん

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百二十九枚目 オメン

 河原でランチョンマットを広げて、ドーナッツを食らう。この仮面は口のところだけ分離できる仕様なんですよ。

「名役者に乾杯」

「元暗黒邪教怒労蛮苦団一の変装の達人で自分がない奴と言われていたからな」

 自分が無いから忠誠心もない。改めて考えれば、彼女?彼?はとても便利な人です。でも一つ治してほしい癖があるんですよね。

 

 自分がない奴は姿を変えました。

「ドロウさんですね。そう言えばあの人に金貨十枚で私の開発した武器を売りましたね。魔法の望遠鏡で見てましたよ」

「ダメでしたか?」

「良かったですよ。なぜならあの武器はいずれ世界中に広めようと思っていましたからね。彼女があれを使う度宣伝になり、いずれ誰も彼もがあの武器を欲しがるようになります。そのタイミングで設計図を売りさばいて儲けます。さすれば私の目標に一歩近づくのですよ」

 儲けだけを考えて商売するなど愚の骨頂。本物の商売人は儲け以外にも考えているのです。

 

 今度はアカネさんですか。前触れもなく姿が変わるのは心臓に悪いのでやめてほしいんですよね。この癖は治してほしいと思います。

「それならよかったぜ」

「ダメなことしてたらあなた大変なことになっていましたよ」

 得難い人ですが、まあ大きな失敗をした時は仕方ないです。

 

 自分がない奴にデッキを返してもらいました。

「あの演技は本当に素晴らしかったですよ。特に私の顔を知らなかったがゆえに、ありもしない身の上話を作れるアドリブ力。あなたは舞台役者とか脚本家の方が向いていますよ」

「嬉しい。でもカードハンターの適性があった方がよかった」

 ただそれ以上に他人に飼いならされることに向いていますが。まあうれしそうなのでそんなこと言わない方がいいでしょうね。余計なことを言って築いてきた関係をあっという間に崩す意味はないです。

 

 ドーナッツを食べ終えて、口直しにサンドイッチを食らう。

「フフフ。ここまで来るのに本当に長かったですね。この先はもっと長いですよね」

「よくわからないがそういうことだろうな」

 二十年前に昼飯代を稼ぐために罪も無き善良な一家をカードハンターに襲わせて、全財産を巻き上げてからここまで悪逆非道の坂を下っていきました。

 

 学んだことはただ一つしかありません。それは真面目に生きるなんて愚か者のすることだということです。恥ずかしながら二十年前までは私は愚か者だったのです。

「道の途中でも振り返りはするものですね。フフフ」

「振り返りだなんていい身分だな。お前のせいで人生を悪い方面に変えさせられたかわいそうな奴はいっぱいいるのによ。罪悪感を持て」

 ドロウさんですか。彼女はどれほど調べてもなんとなく分からないところがあるので、少し不気味ですね。人なのに雑草のように勝手に生えてきたような不気味さがありますよ。

 

 ドーナッツもサンドイッチも無いですね。箱もランチョンマットも捨てておきましょう。空の弁当箱なんて持っていても邪魔です。

「罪悪感ですか。あれはとっくに悪魔に売り渡しましたよ」 

「そういうことだと思いました。あなたはそういう人ですからね」

「そういう風に思われていたなんて。哀しいですね」

 自分のない奴は酷い物を見たと言いたげに視線を向けました。演技が大根すぎでしたね。役者でもないのに演技して大根演技をさらすのは各方面に対して無礼ですよね。

 

 叫び声が聞こえました。ここら一帯では商売できないので、助ける意味がないんですよね。叫び声の主は本当に不幸でしたね。

「貴方はもう帰っていいですよ。ドロウさんからもらった金貨十枚が報酬です」

「なるほど。けちくさいな。でも報酬の金貨十枚はもらったからいいか」

「そうです。その切り替えが重要なのです」

 自分がない奴は消えました。自分のない奴は使い勝手がとてもよろしい。

 

 清流で何度も口をゆすいでから、仮面の口部分を付けました。

「さてと行きますか」

 商売柄同じところでのんびりしていられません。

「どこにいくんだ?」

 いつの間に大人数に囲まれていました。ナイフの先に赤黒いものが付いてるひともいますね。

 心当たりはたくさんあります。例えばカードハンターや、デスコロシアムの関係者、そして私の同業者。

「何のようですか?」

「トバクファイトでお前の身ぐるみをはぐ者だよ」

「合法盗賊団みたいなものですね。とても分かりやすくて助かります」

 心当たりの内のどれでもないということですね。まずは一安心。心当たりの内のどれかならば、凄く面倒でした。

 

 でも合法盗賊団も面倒なんです。私は叩くまでもなくホコリまみれで、合法盗賊団は一応キレイですから。通報すると腕が後ろに回ってしまいます。

「早くしろ」

 デッキを構えました。

「「トバクファイトエントリー」」

 早めに終わらせましょう。

 

 早めに終わらせました。

「たいしたことないですね。命までもらえれば、この後の被害者も出ないのですが。そうですね。そのナイフでももらいましょうか」

「くれてやるよ」

 刺されそうになりましたが、避けてナイフを奪い首筋に刺し返しました。

 

 あっ。

「うっかりしてしまいました」

 大勢の人は逃げました。仲間を見捨てるとは。

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