プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~   作:黒点大くん

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六十一枚目 クビ

 あれから十日後俺はいきなり職を失った。偶然帰っていた雇用主であるピンハネル伯爵に理由を聞いてみた。

「いきなり辞めさせられては納得がいきません。仕事はやっていると思いますが」

 なおほとんどの仕事を身代わりがやっていた模様。まあ今はそんなこと言わなくてもいいか。

 

 いやそれはないか。そんな理由だったら俺は怒る。

「順を追って説明しよう。まず私の弟が悪事を働いていたんだ」

「悪事を働くような偉い人なのによくもみ消しませんでしたね」

「まあ悪事の結果があんな派手に現れてしまっては金と権力がどれほどあろうとも隠し切れないからな。その悪事が史上まれにみる悪事だから恐ろしい。何しろ被害者は広範囲に存在しており、この問題はまだ解決していないのだからな」

 無法地帯ねえ。この世界に転生した時間のほとんどを無法地帯で過ごしていたから、シンパシーを感じる。

 

 ピンハネル伯爵は人差し指を立てた。

「私の弟は私よりも何倍も優秀だった。だから私に仕えるのが嫌だったのだろう。突如家出したのだ。風のうわさでは小さな国なら一つ買える程の豪商になったらしい」

「話の要領が見えないんですけど。いつになったら本題に入るんですか?」

「弟は暗黒邪教怒労蛮苦団を使ってカードを集めて荒稼ぎしていたんだ」

 え? 本題どころの話ではなくなったぞ。割と本題がどうでもよくなってきた。

 

 要は弟さんが悪い組織の黒幕で困ってるってことかな。

「あっさりと正体が分かったんですけど」

「とある警備兵のおかげであっさりと正体が知れ渡ったのだ」

 ハナメデルのことだな。 

「それがクビとどうつながるんですか?」

 風評被害で収入が少なくなって雇う余裕がなくなったとか……そういうのかな。

 

 ピンハネル伯爵は息を吐いた。

「この地を支配したかった貴族たちが際限なく押し寄せてくるだろう。この家に生まれたものが大悪事を働いた本人であるからな」

「状況が吞み込めないんですけど」

「この国というかこの周辺の国家は同じ者に仕える同僚は味方とは限らないのだ。攻め込んでカードファイトで勝てば領地を奪えるからな。ただ正当性がないと攻め込めない。だが幸運なことに今回のことで十年は戦える正当性が見つかったのだ。こうなれば攻め込まれ放題だろう」

「味方とは限らないって言ってるのにフラム伯爵家とは仲いいですよね」

「フラム伯爵家と我が家の関係がただ少し異常なだけなんだ」

 味方同士の小競り合いで己の領地を広げるなんてまるで戦国時代みたい。

 

 この戦国時代とクビがどうつながるんだ。

「各地の貴族所属のカードファイターが来て、負かした側のカードファイターを物のように扱おうとする連中が現れるかもしれない。そうなってほしくないからクビにしたのだ」

 お人よしだなあ。俺をクビにしてもこの人に何のメリットもないだろ。

 

 それに俺のことも考えてくれている。ほとんど会ったこともない奴を信用してくれるなんてありがたいけど、心配になる。

「負ける前提で話すなんて酷いですね。全員倒してやりますよ。とはいうもののカードハンターには負け、フィールドファイト大会でも見苦しい順位でしたので信用はできないと思いますがね。お前は使えねえから要らねえと素直にそうおっしゃってください」

 お世話になった人の破滅をできるだけ邪魔したい人間だから。今からそういう人間になったから。

 

 ピンハネル伯爵は首を横に振る。

「なるほど。これから起こる戦いに身を沈めるというのだな」

「ええそうですけど。なんでそんな大げさな言い方なんですかね。あと一人じゃ対応できないと思ったら、もう一人雇ってくださいって言いますからね」

 デッキを構えた。

 

 ピンハネル伯爵はため息をついた。

「さっそく二日後にカードファイト用教会に」

「はい。わかりました」

 今さりげなく流したけど、そんなものがあるのか。カードジョブオンラインにはそんなものなかったぞ。

 

 二日経過した。

「はえー。天井が高いですね」

 天井が高いこと以外は想像よりも質素なことぐらいしか言うことがなかった。教会って言われたからてっきりゴシック的な何かを想像してたよ。実際はただの体育館並みに広くて天井が高いだけの建物なんだよね。

 

 テンガロンハットを深くかぶってつばで目を隠した男がやって来た。ひげとのどぼとけが見えてるし体格ががっちりしている。

「お前が今回の相手か。またあったな。実力はフラムとピンハネル両家のお嬢様のお墨付きだったわけだ」

「あんたみたいなやつ俺は知らないぞ」

「知らなくて当然だろうな。かく言う俺もお前を映像越しにしか見ていないからな」

 誰なんだこいつ。フィールドファイト大会の様子を見てたことは間違いなさそうだけれど……

 

 決闘の場に移動した。男のデッキが赤く光った。

「立会人は私……このカードファイト用教会の所持者であるクラルスタが務めさせていただきます」

「俺のデッキが火を噴くぜ」

「なら俺のデッキは火を完全に消し去ってやるぜ」

「「カードファイトエントリー」」

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