プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~ 作:黒点大くん
よくよく考えたらどうも十日前のラーナちゃんはおかしかった。
「まるで自分から負けに行ってるような感じがした」
楽々勝てるファイトもやらかして負けることも何度かあったし、どっか悪かったのかな。
ラーナちゃん体調悪いのかな。
「心配だぁ~」
部屋のドアが勢い良く開いた。
「うわっと」
ドアを開けたのはラジーさんだった。
ラジーさんの顔が崩れていた。
「あわわ」
何やら慌てている様子。どうしたんだろ?
「どうかなさったんですか?」
「ラーナが突然……」
ラジーさんは泣きだす。察したぞ。
でもなんで俺のところに来たんだ。俺に伝える内容でもないだろ。
「ご愁傷様です」
「ドロウちゃんが想像しているのとはちょっと違うかな」
「なら良かったです」
「良くないよ。ラーナの様子が変なんだよ」
なんだと。
でもラジーさんの気のせいかもしれないな。
「どんな感じなんですか?」
「いや何度勝っても負けても弱いとか下手とか思い込みたがるようになったんだよね」
「謙虚になったんですね。さっきのはうれし泣きですか?」
「謙虚すぎて面倒くさいんだよね。しかもそれで性格が暗くなったわけでもないからわけわからない」
実の姉に面倒くさいと言われるなんて相当だな。
理由とかあるのかな。
「理由とか分かりますか?」
「私のような仕事人間に人の心が分かるわけないのだ」
それって偏見では。反論すると面倒くさそうだから黙っておくけど。
なんで俺に相談したんだ。
「もっと他に相談すべき人がいるでしょうに」
「他に相談すべき人はみんな用事があったからね」
「そういうことですか。実際今日は暇ですから大丈夫ですよ」
「ワープゲート」
空間に出来た穴をくぐる。
ラーナちゃんがいた。
「随分イメチェンしたなあ」
「変わってないよ」
あっ。本当だ。変わってない。見た目もしぐさも変わってないはずなのに雰囲気が違う。何というか禍々しさと清々しさがある。
気の弱い人ならプレッシャーに気圧されているだろう。
「この程度じゃまだ弱いわ」
ラーナちゃんの周りには大勢の人が倒れていた。
「この人たちは?」
「カードファイター。全員負けて落ち込んでる」
俺もこんな数に連勝したことないぞ。どこが弱いんだよ。
でもキツそうだな。
「反動とか大丈夫なのかな……」
「なぜか大丈夫なんだよね」
いいな。羨ましい。決闘裁判の後は12時間ぐらい寝込んだからね。
ラーナちゃんは俺の方を見る。
「久しぶりね。カードファイトする?」
十日前にあった奴に対して言うことがこれか。
「いやですね。だって十日前にやった時楽々勝てるファイトで負けてたじゃないですか。時間の無駄だからわざと負けるような人とはやりたくないんですよ。本当は強いからもったいないんです」
ラーナちゃんの目が、好奇心を失った人間が未知のモノを見つめる目に変わる。
……なぜかそれがひどく怖く感じる。
「手加減できるほど強くないからそんなことできるわけないじゃないの。私はカードファイトは弱いのよ」
「こんな感じ」
「そういうことですか。言っておくけど俺もここまで連勝できないからな」
「それは運が悪かっただけで、私の運が良かっただけ」
ここまでくるとちょっとイラつく。
カードファイトを受けてやろう。
「カードファイトエントリー」
「カードファイトエントリー。お手柔らかにね」
今までもこれからもどうしてもという時以外は手加減しないつもりだから。
ラーナちゃんのデッキが赤く光った。ラーナちゃんの1ターン目だ。
「チャージ。ターンエンド」
俺の1ターン目だ。
「ドロー。チャージ。ターンエンド」
嫌な予感がする。
ラーナちゃんのデッキの一番上が光る。
「ドロー。チャージ。コスト1で勝利の高次元 エクストラスを召喚」
「は? なんでそんなカード入れてるんですかね」
勝利の高次元 エクストラスは第五弾の
そんな使いどころのないカードを入れて何をするんだ。
「弱きネズミは高次元の力を手にして再び故郷へ舞い戻る。運命を捻じ曲げろ。高次元のスピードラットを場に置く」
「高次元のスピードラットを出すためのコンボか。そこまでして出したいものなのかねぇ」
……あっこれで後アジ・ダハーカとクリンタ城さえあればワンショットキルが出来る。
ラーナちゃんがカードを掲げた。
「コスト1で手札から高次元獣 フェネクスを召喚するわ。フェネクスは生命力が1以下のときにのみ召喚できるのよね。フェネクスの効果で自分の場のすべての種族を持つモンスターをこのカードの下に置くわよ。ターンエンド」
フェネクスとかいう謎カードは生命力を1にしてまで召喚する価値があるわけか。
俺の2ターン目だ。
「ドロー。チャージ。コスト2でメガチャージを発動。ターンエンド」
何もかも不気味だ。