プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~   作:黒点大くん

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九十二枚目 とにかくく辞めさせたい

 場がすっきりした。

「こんなところだな。やっぱりザコか」

「相性が悪かった」

「もうちょっと攻撃できるデッキにしろよ……」

 だってにわとりがアタッカーとしては強いもん。準アタッカーが見つけにくいんだよね。

 

 経営コンサルタントがお嬢様を見た。

「ご覧になりましたか?」

「ええ。今の試合はとても良かったですの」

「それは良かったです」

 経営コンサルタントが俺に近寄る。

 

 経営コンサルタントは俺にこそこそ話しかけてくる。

「そう言えば負けたらお嬢様の先生をやめる約束をしていましたよね」

「してない」

「してたじゃないですか。白を切るんですか?」

「カードファイターとはカードファイトで決着を付ければいいと思いますとは言いました。しかし負けたら辞めるなんて言ってないです」

 経営コンサルタントは少し考え込んで何かに気が付いたような顔をした。

 

 経営コンサルタントは立ち上がった。

「お嬢様。この人の郷里の母は大けがをしたらしいです。昨日この手紙が届きましたよ」

「たかが一日勤めただけで手紙をもらえるんですのね」

「仕事柄様々な伝手がありますからね」

 力技に出たか。親がケガしてるのに帰らない人間を薄情な人間と思わない人なんてほとんどいないからな。居づらくして追い出す魂胆だろうね。抗議しても薄情者である証拠が増えるだけなので何も言えん。

 

 経営コンサルタントは懐から手紙を出した。経営コンサルタントから手紙を受け取って開く。

「そんなわけあるかい。あの人俺に手紙を出すような人じゃねえもん」

 知らんけど。だって俺の母親は俺が中学校を卒業する前に若い男の人と一緒に消えたもんね。本当に手紙が届いていても仮病だと思う。仮病の母じゃねえの。

 

 お嬢様は下を向いた。

「そうでしたのね」 

「さっきのはラストバトルという訳です。郷里に帰って介護に集中するらしいですからね」

 郷里に帰れるなら帰りたいが、この姿で帰っても分からないだろう。

 

 経営コンサルタントは分かりやすくため息をつく。

「先輩への尊敬の念を込めて実力者を探しましたよ」

「たかが一日しか仕事してないけどな」

「たかが一日でも尊敬の念は芽生えるというものです。尊敬するのに時間は関係ないです」

 いいこと言ってるけど辞めさせたいだけだろ。手紙をよく読むと、男の筆跡だった。なるほどなあ。

 

 手紙を裏返した。

「筆跡が明らかに男性のそれなんですけど」

「気のせいですよ。筆跡なんてぱっと見ただけでわかる物じゃないですからね。これ女性が書いたものなので、男性の筆跡になるなんてありえないんですよ。そんなに自分の母親が嫌いなのですか?」

「薄情ですわよ。アメラもマイスも一年に一度は里帰りをしているんですの。里帰りと思って帰りなさい」

 涙声になっている。そんなに悲しいのか。

 

 カシヨを見る。

「あきらめろ。なぜか知らんがどうしても辞めさせたいようだからな」

「仕方がない」

 何で止めさせたいんだろう。

 

 経営コンサルタントはカシヨを見つめる。

「そこの緑覆面をお嬢様のカードファイトの教師として雇いたいんですよ。家を持っているからどこぞの誰かさんみたいに無駄飯ぐらいにはならなさそうです」

「どこぞの誰かさんとはどなたのことですの?」

「何でもないんです。何でもないんですよ」

 どこぞの誰かさんって本人の前でいうのか。おこ。

 

 カシヨは首を横に振る。

「やめておけ。俺のカードファイトのやり方は誰にも真似できない。俺をカードファイトの教師として雇うのはやめておいた方がいい。徒手空拳と剣術と礼儀作法ぐらいしか満足に教えられるものはないぞ。礼儀作法も護衛術も教えてくれる人はいるだろう」

「実力は確かですからね。服はまともなものを着ればいいんです」

「このファッションセンスが分からないとはな。そんな奴と仕事はできねえ」

 実家との確執が嫌なだけだろ。

 

 カシヨは窓を開けてから飛び降りた。

「侵入したわけじゃないんだから正面から帰れよな」

 お嬢様は耐え切れなくなったのか部屋から出る。廊下から泣き声が聞こえた。

 

 経営コンサルタントは懐からカードを出す。

「現れろ。盗賊ゴブリン。そいつを始末しろ」

「そんなのアリかよ」

 デッキを構える。

「無駄ですよ。マーメイドバブルショット」

 高速で飛んできた泡にデッキが飛ばされた。仕方がないので窓から飛び降りる。

 

 ぐゃばぁ。手がいたぁい。

「折れてなさそうだけどこれはまずいな」

 ネコみたいに着地して衝撃を和らげようと思ったが、無理だった。素人が真似していいものじゃなかったのだ。

 

 デッキを拾うと盗賊ゴブリンが窓を飛び出してきた。

「ぐあああ」

 盗賊ゴブリンがナイフを振り回した。

「あぶねえじゃねえか。振り回すのをやめろ」

 そもそも危ない目に合わせるのが目的なのか。俺のことがそんなに嫌いなんだね。

 

 柵を上って何とか屋敷の敷地内から出る。

「げえ。にわとりを召……ぐえ」

 倒れてるってことは盗賊ゴブリンに転ばされたんだな。

「まずいな」

 盗賊ゴブリンが俺にのしかかってナイフを振り下ろそうとしている。

「へっ。こちとら一回死んでるんだよなあ」

 クソォ。アイツ許さねえ。

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