プレイしていたVRカードゲームの世界にTS転生したらしい ~カードゲーマーは異世界でもカードから離れられない~ 作:黒点大くん
三日後に盗賊ゴブリンが小包と赤褐色の何かが付いた靴を一足持ち帰って来た。靴の中に赤く染まった髪の束も入ってる。
「この靴はあの少女が履いてたやつですね。よくやってくれました」
この靴と髪を暖炉で燃やして小包を床に置いてから盗賊ゴブリンをカードにしまった。これで一人実力者が減った。
小包を開けると中にはこの領地の無能な人間リストがありました。領地の管理をさせて徹底的に荒らすかな。
「この盗賊ゴブリンは有能ですね。次はカードの教師探しですか。まさかあのカードハンターが逃げ出すとは思わなかったですね。まあこれといって問題ありませんけどね」
ちょっと実力のある奴を適当に連れてくか。さすがに無能じゃバレる。
あのカードファイターもうまい具合に始末できましたし、今日はハッピーデーですね。
「男爵ですか。良いタイミングですね」
腕につけたミルオクルパラサイトを見るとビルクス男爵から連絡が来ていた。
「イリコムよ。無事なのだろうな」
「ビルクス男爵。その名前で呼ぶのはやめてください。今は経営コンサルタントのカゾエと言うことになっているんですからね」
「おっとそうだった」
ビルクス男爵はこの国を仮想敵国にしている国の貴族だからね。常識的に考えて大っぴらには話せないよね。
椅子に座って書類を書き進める。
「それにしてもこの国は良い国です。私のようなスパイが入りやすいのですから。その上お給金も祖国の何倍もありますしね」
「面白くもない不快なだけのジョークを言うのはやめろ。悪い癖だ。貴様が行った理由は分かっているんだろうな」
「敵国の貴族付き凄腕カードファイターをちまちま始末する秘密裏の国家プロジェクト ノーブルガーディアンデリートプロジェクト……略してNGDPのためですよね」
腕がよくなければNGDPの標的にならなかったのに。
ミルオクルパラサイトから机をたたく音が聞こえる。
「ああそうだ。失敗は許されないぞ」
「ノーブルも潰そうと考えてるんですよ。今もなるべく無能そうな人を遠くの領地の担当に回しているところです。こういうのを異世界のことわざで獅子身中の虫って言うんですよね」
このプロジェクトに参加している人はもっとたくさんいる。祖国がこの国ならば嘆いていただろうね。
ミルオクルパラサイトから嘲るような笑いが聞こえた。
「分かっているではないか。成功しなければ我が国の発展はないものと思え。あと慎重に行けよ」
「承知しております」
慎重さは大事。
ミルオクルパラサイトから大きなため息が聞こえてくる。
「そうだ。我が国は獲物を弱らせて食らわなければ何もできない弱い国なのだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」
「我が国はなぜか国民同士による度重なるメイクファイトで優秀な人材を失ってしまって土地も雑草すら生えぬ土地ばかりになってしまったのが、今も響いてますからね」
トゥルーファイトの上位の戦いであるメイクファイト……そのファイト中に起きたことはすべて
「カードファイターをカードファイトで倒さずに直接始末するのは良心が痛みますねえ。しかしこれも祖国のためですから」
「貴様には祖国への忠誠も痛む良心がないだろ」
「男爵も酷いですね。ないわけないじゃないですか。では切りますよ」
ミルオクルパラサイトの通信を切られた。
お嬢様が入ってくる。マズい。今の話を聞かれてたらやりにくくなる。身分の高さゆえに始末するわけにもいかない。
「お嬢様どうしましたか?」
「ドロウはもう行ったのですね」
この様子だと聞いていないみたいだな。この部屋が防音で助かった。今までの会話は聞かれてたらマズかったからな。
命拾いしたな。こっちが。
「もう行きましたよ」
「そうなのですね。薄情でなくてよかったです」
行くは行くでも地獄に行ったんだよなぁ。しばらく会えないぞ。
お嬢様が手をうちわのようにする。
「ところで夏なのに暖炉使ってどうしたんですの?」
「この部屋はちょっと寒かったんですよ。寒がりなのでこのぐらい熱くないと仕事に集中できないんです」
「そうですのね。体調に気を付けてくださいね」
ちょっと熱すぎた。今回は奇策を使いましたが、証拠隠滅はやはり魔物に食べさせるのが一番だなあ。普段とは違うことをやりたくなることってあるけど、やはりセオリーが一番。
書類を処理する。
「この部屋から即刻立ち去るべきです。何しろただでさえ暑いのに暖炉で熱くなってますから、常人なら茹でますよ」
「フフフ。茹でるは冗談だと思いますが、そうしますわ」
お嬢様は部屋から出た。
これでやりやすくなったぞ。
「ククク……良心が痛みますねえ」
痛む良心がないわけじゃないんです。ただ痛みよりも背徳感による幸福が圧倒的なだけなのです。それに祖国への忠誠も一応ありますよ。忠誠がなかったらとっくのとうに見限ってます。
「まあ背徳感とご褒美が無ければ悪事なんてやってられませんからね」
この二つがあれば人間は悪事なんて簡単にやっちゃうんだけどさ。