魔法少女があらわれた! 作:ミ゙ヅヅヅ
多分初投稿です。
特撮ヒーローや魔法少女アニメを見ている時、ふと悪役側に感情移入してしまう事はあるだろうか。正義の味方に絶対的な力を以て対立し、時には共闘し、そして最期には華やかに散る。
勿論、当時放送されていた特撮ヒーローの悪役がどのような立ち位置であったのかによるが、カッコいいと思っていた人は多いのではないか。
やはり悪役には華がある。
しかし、もう一度考えてみよう。
皆が一度は
『そんな訳ない』
誰も好き好んで下っ端の雑魚なんかに成りたくないだろう。特殊な性癖を持っていない限り、それはないだろう。そもそもの前提条件として、そんなアニメや特撮みたいな悪の組織なんて存在しないし、存在しても入りたくない。
あれは、遊びとしての悪役への憧憬であって、悪と冠するだけにそれなりの報いがあるものだ。リアルでは近づきたくない。
小中学に高校と、徳を積んだ……とは言えないが、悪いことを特にしていない自分には、
何故俺がこのような話をしているかというと……
今日就職した企業は悪の組織だったからだ。
「いや、ありえないだろ」
俺こと
「はぁ……とりあえず落ち着いて整理しよう」
ため息を吐く。混乱していて、上手く今の状況を把握出来ていないのだ。そこで俺は、今日の自分の行動を整理し直す。
「うーん、やっぱり記憶の混濁が激しくて混乱してる」
色々と衝撃的なことが多かった
「一から考え直すか……」
仕方がない、と一息つくと今日一日の行動を詳しく思い返す。
◆◆
七月の初めの土曜日。
天気の良い清々しい朝。窓から射し込む陽の光、窓の外から聞こえる小鳥が
高校を卒業し、そのまま内定していた企業に入社したのも束の間、上層部が不祥事を起こし会社が傾きそのまま倒産した。本当に一瞬の出来事だった。
そして現在は、次の仕事を探す合間の繋ぎでバイト状態だ。つい先日までの連続バイトの
「と言っても、そろそろ起きないとな」
倒産というイレギュラーな出来事でのフリーターなので同情の余地はある……と思いたいが、自堕落に過ごすのは
布団から出るのは辛い……というのが本音なのだが。
変温動物は寒くなったら動きを止めるし、恒温動物の熊だって冬眠をする。なら人間の俺だって、何処かの時期で動きを止めたって良いのではないか。
そんなことを考えるが、どうこう言ったって状況が変わる訳でもない。それに、ダラダラしていたら俺への評価が下がってしまうだろう。自宅内ヒエラルキーには代えられないのだ。
仕方なく俺は布団から出る。
時計を見る。
時刻は午前9時半。いつもだったらとっくの前に起こされている時間だ。休みだから起こさないでくれたのだろうか。
身支度を済ませ、洗面所まで直行する。階段は自室の側なので洗面所まですぐだ。
わが家の構造としては、二階に子供部屋と書斎、そして物置部屋が設置されており、トイレやキッチン、風呂に洗面所などは一階に設置されている。両親の部屋もまた一階にある。住んでるところが田舎だからか家も広めだ。
その分、家は古いのだが。
そんなことを思いつつ、洗面所に辿り着く。
身体を伸ばし、少し高めの棚に置かれている歯ブラシを
率直に言えば悪人ヅラだ。
この面の所為で面接は数度落ちたことか。自分ではそこまで思わないのだが、何度もそのような評価をされているのである程度正しいのだろう。
鏡を見ながら、ある程度髪を整える。寝癖が付きやすい髪だから丁重に。蛇口を捻る。水が溢れるように洗面器に放出するのが見えた。
リビングへと続く廊下を進む。古い家だから、床がキイキイと
リビングの扉を開く。普段なら母が挨拶の一つや二つかけてくるのだが、今日は挨拶どころか物音が少しもしなかった。リビングには妹が一人、黙々と食事を
(何だ、この空気は?)
リビングに入るのが戸惑われる。このまま気づかれないように逃げようとしたが、妹はリビングの扉を開く音に少し反応して顔を上げた。仕方ないので俺は恐る恐る、彼女に声をかけた。
「……お、おはよう」
「おはよー。……かねかず今起きたんだ」
口調は普通だ。この空気は気の所為だったのか。俺は応える。
「ついさっきな。……母さんはどこいんの?」
「いないよ」
妹が朝食のトーストか何かを
少し怖い。
空気を払拭するために今度は明るめに言う。
「……どっか出掛けるとか言ってたっけ?昨日帰るの遅かったから、何も聞いてないな」
これは前述したバイトのことだ。昨日は結構長く働いていた。帰って来たときには当然のように親は寝ていた。
「なあ、父さんも今日は休み「お父さんとお母さんはいないよ」……おう」
妹は食い気味に言い切った。彼女の態度に俺は困惑しながらも返事を返す。
彼女、
彼女の外見は、俺と同じく茶髪気味の髪に小さな顔。目は凜々しく、そして鼻は筋が通っている。一応パーツパーツでは俺とほぼ同じなのだが、全体的にみると可愛らしい顔になっている。
世界の不思議だ。
……今の彼女は可愛いと言うより怖いのだが。
「なあ、和水ちゃん。今回は何日ぐらいだと思う?」
俺は彼女の態度から何となく、今の状況を察して声を出した。その声に、彼女はため息を吐いて答えた。
「……朝みた調子だったら二日。休みがどうのとか言ってたから、最悪四日」
「あの
どうしようもないモノを語るような口調で呟く。
「私が朝起きた時、妙にウキウキしてた両親を見逃したのが悪かった。それで目を離した隙には
「子供置いて二人旅行?」
「下の
「然るべきところに訴えたら勝てる奴だな」
ネグレクト的な奴で。いや、まあ社会人になった俺を信頼して出て行ったと言う捉え方もあるか。多分何も考えずに旅行に行っているだけだが。
スマホを取り出して何か連絡が来てなかったか確認する。メールに着信一件。父親からだ。文面は
『旅行にいく。雫の登校日までには帰る。食費は立て替えといてくれ。では』
と書いてある。クソ野郎だ。
文脈的に分かると思うが雫は一番下の妹の名前だ。三人兄弟だから妹などはこれ以上いない。雫は今小学四年生だ。彼女が通ってる小学校というと……と少し考えると、次の月曜日が創立記念日なのを思い出す。これで二泊の三日の旅と確定した訳だ。完全に
「どうせなら妹ちゃんも置いてけって感じだよ。
「もとはと言えば、俺たちが旅行嫌がったことから始まるんだけどな……」
それを抜いても両親の下の妹への贔屭は強いのは確かなのだが。まだ小さい子と言うのはあるが、明確に下の子と、俺・和水との区別が激しい。もはや差別だ。俺たちの両親は旅行が大好きだ。二人のスケジュールが合えば、音も立てずに
そして、特筆すべきはその頻度の多さだ。少ない時でも
仕事はどうしたんだ。そんなに旅行に行って金はどうするんだ!……とツッコミどころを感じる。
「かねかず、こうなったら私たちも旅行いこう。きっと楽しい」
和水は訳の分からないことを宣う始末だ。多分
しかし、和水との二人旅行は色々と問題ある。
「何言ってんだ。行くわけないだろ。もし行くなら俺は下の妹と行く。その方がきっと楽しい」
第一の理由としては多分下の妹と行った方が楽しいからだ。無邪気だから観光のし甲斐があると思う。和水は俺の言葉に愕然として突っかかる。
「それ、上の妹の前で断言しちゃう?!……妹をこんなにも
「妹を無いが代にする兄まじだ。それにしづなら後で両親に請求できるし」
「ちょっと、まって!もしかしなくても私と行ったらお金出ないの?そして雫と行けば旅費出んの?」
「まあ……」
雫に甘いし出るよな……と俺は考える。彼女は叫ぶ。
「一体何がこの格差を生んでいるんだ!?」
「……人望の差?」
「的確にココロを
和水の大きな声が部屋で
人望の差とか言ったが、一応弁明の為言っておくと、決して和水の人格が酷い訳ではない。ただ、下の子と比べるには
和水は
「でも、人望だったらかねかずだって同じようなもんじゃん。いつものように置いてかれてるし」
「ぐうの音も……いやまあ、そりゃ和水だけ置いてくのは世間体的に、流石にまずいってのもあるだろうし。基本セットで置いてかれるからな」
観覧車とか人数制限とかで家族を二つのグループに分ける時は真っ先に俺と和水は
「そだ。どうせ皆んな家にいないんだったら、友達でも家に呼ぼうかな?呼んで大丈夫?」
「……見栄を張ることは」
「いるよ!私にも」
「人見知り拗らせて忍びを
俺の
「〝忍び〟いうな!わたしだって存在感が薄いだけで好き好んで窮めてる訳ではないんじゃい」
と何だか哀しい言葉を返す。本当にリアクション良いな。芸人にでも成れそうだ。まあ、事実はともあれ友達を呼ぶのは大歓迎である。
赤飯炊いた方が良いかな?
「昼辺りから友達ん
「赤飯って……いやそもそも、かねかず
和水は心底信じられないといった表情をしながらいう。
「何なのって、今でも交流あるのは両手で数えられる程度だぞ」
「どうやら
「下限て……。何震えた声で言ってんだよ……」
心做しか先ほどより目の色が暗くなり、声も少し震えて聞こえた。
「ともかく、友達の家に行くから留守番は頼んだ」
俺は家を出るまで何しようかと考えながら部屋に戻ることにした。