魔法少女があらわれた! 作:ミ゙ヅヅヅ
モブA視点
私がこの学校がおかしいと悟ったのは、入学式の日だった。私は、もともとは岩本小──
そして、中学校もそのまま、地元の中学に通うのだと思っていた。
しかし、市町村の廃置分合により私は、羽根尾町立朱鷺中学校に通うこととなった。
町が違う。
それはとても大きな問題だ。知り合いなんて当然居ない。どんな所かも知らない町に組み込まれたのだ。私は不安と、少しの期待とで心がこんがらがった。
そして、いざ入学式の日。教室に入ると私は愕然とした。
髪がカラフルなのだ。
もう一度言う。
髪がカラフルなのだ。
訳が分からなかった。見たところ、赤系統の髪の生徒が4割、青系統の髪の生徒が3割、緑やら黄色やらの髪の毛の生徒が3割ほど。何処かの物語でしか見たことのないような光景だったのだ。
勿論、大抵は薄く色づいているので余り目立ってはいない。私はカルチャーショックを受けたような感覚だった。
先に言っておく。私の髪の色は黒で、目の色も当然のように黒だ。まさかこんな私が髪の色でクラスのマイノリティになるとは思っても居なかった。
そうだ。彼ら彼女らは髪の色だけでなく、目の色までカラフルなのだ。流石にオッドアイは居なかったが、軽く外国に来ているような感覚に襲われた。いや、顔自体は日本人顔なのだが。日本人顔でその髪色が自然ってどう言う訳だよ。
私は目を凝らす。私と同じように髪色などで困惑している生徒を探して。そこで分かった事実が一つ。誰もがこの髪色に対して当然だと思っていることだった。
この町はどうなっているのか。それしか頭に浮かばない。
少し気を抜くと、この光景が当然のように思えてしまう。毒されている。感覚が麻痺しているのだ。
教師が教室に入ってきた。予想していたことだが、彼も髪色は銀色と色がついていた。
彼はちょっとした自己紹介をすると、入学式の流れについて説明をする。
……。
普通に有能そうな担任で何とも言えない。何でヤンキーっぽい見た目してそんなに真面目なのか。
ここで私はハッとした。
もしかして、ここ。キャラクターの濃い人たちが集まっているのでは?天啓のような発想だった。
◆◆
「それでねー。私は兄貴に言ってやったんだよ」
この中学に入学してから数週間。私は情報収集に励んだ。一先ず過去数年、十数年の中学のデータを調べあげた。
この学校がこのようなことになった、一つの起点は十八年前だということが分かった。正確には二十五年から数人居たらしいが。
だから何だ、と言われたら何とも言えないが、その時期に何かが起こったと推察出来る。
「あれ、聞こえてる?大丈夫?」
「へ……あー、うん。ちょっとボーっとしていた」
彼女と話していたのにボーっとしていた。
彼女の名前は井東和水と言うらしく、この学校でも珍しい普通の髪の持ち主だ。普通の髪と言っても茶髪気味だが、このぐらいなら前の小学校でもよく見かける色だ。
どうやら、他の生徒もみんな地毛らしいのだ。校則にも、
髪を染めるべからず
と、記されている。普通の校則なのだが、この学校でそれを掲げられても違和感しか抱かない。みんな平然としているけど。
もしこのクラスに不良が居たとするならば何色に染めるのだろうか。黒になるのかな。それだと白髪染めにしか感じないが。
「それでお兄さんだっけ?仲良いよね」
「喧嘩しかしてないけどね。いや、喧嘩と言ってもそこまで大掛かりなことはしないけど」
彼女、井東和水には特徴が一つある。それは影の薄さだ。入学式の日、このクラスの人はキャラが濃いという推論を立てた。それはある程度は正しかった。彼女も影が薄いと言うキャラであるのだろう。
他の人も同じような感じだった。その中でも、クラスの中で一番キャラが濃いのは誰かとなると、彌永五夢と伊波恋だろう。髪の濃さからして他のクラスメイトとは一線を画している。
そんな、彼女たちの正体は魔法少女だ。いや、魔法少女の正体と言った方が良い。
正体を知った理由は単純明快。変身シーンを見たからだ。ついでにそのとき初めて魔法少女の存在も知った。
現状、このクラスで一番の濃い人物だと思う。
「でさ、巨大状態なのに木の子取って来た兄貴にリアルパンチかました訳よ」
話を聞いていないウチにバイオレンスな話になっていた。
「木の子程度で!」
「積年の怨みだよ。天誅って感じ」
どうやら兄と仲が良いのは間違いだった気がする。
「ねえ、和水。この学校って派手な人多くない?」
「派手……言われて見ると、多い気がするかも。私みたいな茶髪もあんまり居ないし、ましてや黒髪なんて殆ど居ないしね」
殆ど。一応、私以外にも黒髪は居るには居る。但し、瞳の色が赤色と、何やら嫌な予感がしたので話し掛けていないが。
B組だったら、まだ普通っぽい見た目の生徒は居るのだが、A組は私と彼女ぐらいだ。まあ、彼女は彼女でキャラ立ちはしていると思うが。本当に意識しないと直ぐに消えるし。
「ねえ、和水。もしかして忍者修行とか昔したことある?」
「ないよ?!」
「それか、認識阻害の特殊能力持ちとか」
「何で私をファンタジーな存在にしたがるのかな?!」
噓だ。
魔法少女なんてものが存在しているのだから、そのぐらいあってもおかしくないのに。私自身感覚が鋭い方だ。魔法少女の変身シーンを見れたのだって、私の勘が異様に鋭いからだし。
しかし、そんな私でも彼女の存在が、結構な頻度で稀薄に見える。
コイツ絶対、主要人物やぞ。
◆◆
「アナタ達の好きにはさせない!」
「出たな、魔法少女。この攻撃を喰らえ」
また、戦ってる……。何でこうも遭遇率が高いのか。
今、私の目の前には綺羅びやかなドレスを着た二人の少女と、赤髪のイケメンが対峙している姿がある。何で、私の目の前で戦うのかなあ。
いや、それはまあ良いのだ。私は現在、物陰に上手く隠れられているから、気づかれていないし。
一番の問題は、頭に付けてる髪飾りがピカリと光っていることだ。
噓だろ、お前。それ、魔法少女に変身するためのアイテムやん。気軽にモブ少女の元に現れんなよ。私は、即座に髪飾りを取って、ポケットに仕舞った。ソレが変身アイテムなのは、あの二人の変身シーンで知ってるんだよ。
それにしても、いやな事実を知って仕舞った。
平凡詐欺のモブじゃなくて、マジでモブ顔してるのに、あんな魔法少女に混ざれるか。心もそこまで清くないし。
「あっ、魔法少女の無双すげえ」
目を離している内に魔法少女の無双が始まった。……と言うか、相手側が弱いのか?いや、相手側も相手側で、何か虹色の水晶のようなものを回収して逃げてった。赤髪凄い。
「と言うか、早くここから離れてくれないかな」
ポケットの中の髪留めが物凄く輝いているのですが。って、うえ。頭の中に、変身しなさいって響いてくる。こいつ、直接脳内に……。
私と髪留めの攻防をしている間に、魔法少女たちは離れていった。
取りあえず、家に帰ろう。そう思い、私は物陰から出て帰路へ就いた。
出てきた人
モブA
危うく魔法少女にされそうだった人。髪留めはあの後、直ぐに棄てました。
赤髪のイケメン
魔法少女に負けまくっている人。