魔法少女があらわれた!   作:ミ゙ヅヅヅ

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第2話って実質初投稿だよね


2話

 伊波(いなみ)(あき)は俺の小、中学時代の友達である。

 

 

 高校を卒業してから早数ヶ月。

 

 

 数ヶ月ともなれば自然と同窓生との交流もなくなる時期である。少なくとも俺の場合はそうだった。メール・電話不精なのが原因なのか高校で仲がよかった友達とは連絡が途絶(とだ)え音信不通状態だ。

 兎に角、たった数ヶ月しか経ってない状態でこの(ざま)だ。いや俺自身、基本的には人付き合いが悪い方なのだが。

 

 そんな状況の中、中学から……もっと詳しく言えば小学時代からの付き合いの友人が残っているのは驚嘆の限りだ。

 

 高校受験時、県でも成績の上の方の高校に入学することとなった彼と、県内では中位から下位上部をさ迷う地元高へと通うことになった俺。ここで彼とは(たもと)を分かつこととなると思っていた。

 

 

 実際、彼の他にいた友達とは連絡を取らなくなって久しい。しかし彼だけは例外的に関係が続いていた。何の因果かは分からないが、事実関係は続いているのだ。もしかしたら、無意識の内に彼のことを気にかけていたのかもしれない。そう考える程のインパクトが彼にあるのは事実だ。

 彼の見た目は、低い背に太りも瘦やせもしていない筋肉質の身体。長い黒髪に丸っこい黒目、顔立ちが少し童顔(どうがん)。外見に関しては、特に変わったところはない。

 

 しかし、彼の性格の話になると話は一変。変わってくる。

 

 

 一見すると、彼は人畜無害(じんちくむがい)な外見通り、ゆったりとした感じで穏やかな性格に見える。話し方から仕草までそういう風に振る舞っている。だがしかし。それだけ今話したのは一見の話。言うなれば外ヅラという奴だ。

 

 

 一応、おっとりと見えるのも優しくみえるのも彼の性格の一部であり、決して上辺のモノではないと思う。しかし、彼の根底の(さが)のことを説明をするに当たっては少し……どころか大幅に足りない。

 

 

 彼、伊波鏡は無鉄砲なのだ。

 

 

 無鉄砲というと俺は、夏目漱石を思い出してしまう。

 

 

 同級生に(はや)し立てられ二階から飛び降りたり、友人に西洋ナイフを自慢してみれば煽り返され指を切り落とそうとしたり。残念ながら、彼の根底の性格はあんな感じだ。

 『坊っちゃん』みたいに、煽られ結構な高さから地面にダイブすること三回。西洋ナイフ……ではないが、カッターナイフでの切り傷なら数十ヶ所。よくよく探せば今でも痕は残ってるだろう。

 

 中々ハードなことをやってのける奴だ。

 

 どの話も最初は、皮の性格、穏やかな……和やかなエピソードから始まる。そして中盤以降から急に一転。物語はハードなモノへと豹変(ひようへん)波瀾(はらん)が巻き起こる。起承転結ではあるが、そこに存在する転が強烈過ぎるのだ。

 そして、質が悪いのは彼自身、自分が難儀な性格を持っていることに気づいている素振(そぶ)りは見せないことだ。見た目で性格が判らない分、無鉄砲よりもう暴発銃のようなものだ。

 

 穏やかな性格と無鉄砲って共存するんだな、と幼心ながら感じたものだ。破綻(はたん)なく両極の性質が共存出来るものだなあ、と。

 

 しかしアレだ。『清純派グラドル』なんて言葉もあるぐらいだし、そこは問題ないだろう。

 

 

 

 そんな彼……伊波鏡のことを説明した理由は単純明快。今朝(けさ)遊びに行くと宣った友達の正体が彼であるからだ。

 

 

 

 

◆◆

 

 

「それで、一体どうしたんだ?家まで呼び出して。外でも良かっただろうに」

 

 

 鏡の家に着いてすぐ、開幕早々俺はそう言い放った。数週間ぶりに連絡があり、どうしたのだろうか……と思ってメールを確認したところ

 

『明日家にきてくれ』

 

 ……という内容のメールだったのだ。

 

 

 別に遊ぶだけなら良いのだが、何をするのか連絡しても頑なに答えてくれなかったのだ。その時点で何かあるな……と思ったのだが、どうせ家に居てもやることがないなと思い面白半分でやって来たのだ。

 

 

「理由明かせないとか言ってたけど、一体なにがあったんだ?」

 

 

 俺は少し口早に訊ねる。

 

 面倒な頼み事とか頼まれなければ良いなぁ、と思いながらも鏡を見る。鏡は俺の様子に苦笑しつつもソファに座るように促し、テーブルに並べられてた菓子類の袋を開ける。

 

 

「相談したいことがあってね」

 

「ふーん、相談ねえ……。まあ、そのぐらいなら。たまに俺の方からも頼りにさせて貰ってる訳だし」

 

「本当にいつもありがとう」

 

 

 鏡は俺の言葉にすかさず反応して応える。こういう相談事はお互い様だし、いくらでも乗っても良い。

 

 

「それで相談事なんだけど、ウチの妹のことなんだ」

 

「妹……れんちゃんのこと?」

 

 

 れんちゃんとは彼の妹の名前だ。

 

 

「いつぐらいから気になってるんだ?」

 

「えっと、四月中頃辺りからかな」

 

 

 入学シーズンの頃か。

 

 

「れんちゃんって、確か春に中学に入学したばっかだったよな。ただ中学生になって大人びただけ、とかじゃないよな」

 

 彼の妹である伊波れんの年齢的には丁度中学生になったばかりだと思い出しそう言った。

 

 

「それなら良いんだけど……いや、どうも気掛かりなことがあってね」

 

「気掛かり?」

 

「……うん。証拠とかなくて勘なんだけど、何かおっきい事隠してるような感じがするんだよねー、って」

 

 

 鏡は首を傾げながらそう言った。俺の家の妹の方もこの春から中学生になり、多分気の所為だが言動に落ち着きが見えてきた気がする。多分気の所為だが。

 しかし、伊波()では違うようだ。

 

 

「大きな事か……。隠し事の一つや二つぐらいあってもおかしくはないけど。具体的に何があったの?」

 

 

 俺がそう言うと、彼は少し考える素振りを見せたあと語り出した。

 

 

「最近帰りが遅いのと、電話か何か頻繁に話し声が聞こえるのと……他にはそれを聞くと何か言い(ども)る素振りを見せたことかな」

 

「帰りが遅い……、大体何時ぐらい?」

 

「五時終わりぐらいかな」

 

 

 物凄く遅い……とも言い切れないぐらいの時間帯。うーん、それなりの時間には帰ってくると。でも学校が終わる時間的にはもっと速くてもおかしくない。部活とかかな?

 

 

「何か部活とかやってないの?それか運動クラブに所属してるとか」

 

「文化部に入ったって言ってたよ。でも頻度は週二ってらしいし」

 

 

 部活なしでその時間帯……。確かにそれはおかしい……かな?友達と遊んでいると言えばそれまでにも思うが。電話に関しても電話好きで通せるし。怪しいと言えば、何かに言い吃る様子か。でも、彼女の性格からすると……。

 

 

「多分、何かはあるんだろうね」

 

「やっぱりそう思うでしょ。だから相談に乗って貰おうと思って。ほら、こういうの得意じゃん」

 

「……不本意ながらな」

 

 

 鏡が何かしでかした時にとばっちりを喰らうのは大抵周りの奴らだ。鏡の外ヅラからは、彼が騒ぎをしでかした張本人に見えなくいつも処罰を免れる。中学時代になってようやく、俺はそれに気づき、先回りして事態の収拾に努めるようになったのだ。だから、問題収拾能力は高い。

 

 ……言ってて、本当に不本意だ。

 

 

「まあ、心配しないで。悪いことをやってる素振りはないから」

 

「そりゃそうだと思うけど……れんちゃんかあ」

 

「うーん……でも今頼れるの銃一しかいないしね」

 

 

 鏡は言う。まあ、俺しかいないのだったら(やぶさ)かでもないのだが。そんなことを考えていると、玄関の扉から鍵穴を弄る音が聞こえた。丁度良いれんちゃんが帰ってきたところなのだろう。

 

 しばらく経ってから、ガチャリと家のドアが開いた音が響く。

 

 

──ガタンッ、……とっとっとっ──

 

 

 

 その音はこちらに近づいてくる。暫く経ってから、リビングの扉が開く。ピョコンと幼く邪気無(あどけな)い表情をした少女が顔を覗かせた。目をぱちぱちと(しばた)かせながら部屋を覗き込み、小さな口を開く。

 

 

「お兄ちゃん、ただいまー?誰か人呼んだの……?話し声少し聞こえたんだけど」

 

 

 可愛らしい声が部屋に響く。疑問符を付けたような高い声。彼女はそのままリビングに入ってこようとして……

 

 

「お邪魔してるよ?久しぶりだね、れんちゃん」

 

 

 ……俺の姿を見て、動きが止まった。ぴしりと彼女の身体が硬直する。その顔は啞然という言葉が似合う表情だった。目は大きく見開いて、小さな口は微妙に開いた状態で固まった。

 

 

「おかえり、れん……固まってるが大丈夫かー?銃一(じゆういち)くんだよー」

 

「……!こ……こん、こんにちは!おひさし振りです、どうも」

 

 

 鏡の声にピクッと身体を揺らして反応すると、硬直が少し解けたようにゆっくりと喋り出す。顔色が少し蒼い。お久し振り、という言葉の通り俺と彼女、伊波れんと会ったのはもう随分と昔のことだ。小学生の時から鏡と親睦があったのだが、彼女とは余り話をすることが出来ていない。

 

 彼女が幼稚園年中ぐらいのときに初めて会ったのだから、会った回数自体は多いのだが。

 

 

 しかしながら、何度話しても毎度彼女はこのような調子なのだ。

 

 

「まあ元より、れんは人見知りするタイプだからね。慣れて貰うしかどうしようもないけど」

 

 

 と、鏡は昔言っていたが慣れの兆しがまったく見えない。

 

 

「やっぱり銃一の顔が怖いからじゃない?悪人ヅラだし」

 

「悪人ヅラ言うな」

 

「彫ってない刺青を幻視出来るし」

 

「そこまで怖い?」

 

「うん。お化け屋敷みたいに、逆に病みつきになる感じ?」

 

「人の顔をお化け屋敷に例えるな」

 

 

 冗談だったのか鏡はすぐに、ゴメンゴメンと笑いながら謝る。俺としても元より怒ってなかったので、恨言(うらみごと)を少し吐いて機嫌を直す。

 それにしても、本当にれんちゃんは俺に慣れない。自分で言うのは辛いが、この悪人ヅラに対して警戒を抱いている……って言うのは、確かだと思う。思うが、手は打ってきているつもりなのだ。

 

 (はた)から見てお笑いな和水を見ならった方が良いかな。

 

 

「てか、相談って言っても、この調子じゃどうしようもないと思うけど」

 

「大丈夫だよ。家で話してる限りでは銃一のこと嫌ってはないみたいだし」

 

 

 本当か、と思う。鏡と小声で相談する。思うようにはならない。

 彼女は口を開けて小さく言う。

 

 

「ええと、銃一(かねかず)さん。……今日は、どうしたんですか」

 

「実は今日の朝、あきに呼ばれてね。ゲームでもしようって」

 

「ゲーム。そうなんですか」

 

 

 れんちゃんは上擦ったような声で応える。結構緊張しているようだ。

 

 

「うー、えっと。勉強があるから、わたしはこれで……部屋に戻り……ます」

 

「あ、うん。またね」

 

 

 れんちゃんは俺に軽く一礼してリビングの扉を開ける

と部屋を出て、そそくさと階段をのぼってゆく。

 

「……」

 

「……」

 

「なあ、あき……」

 

「大丈夫、言いたいことは何となくわかるから」

 

 

 これムリだよね……という疑念、いや確信で二人の頭の中はいっぱいだった。これは俺のことを嫌って……少なくとも苦手に思っている。

 

 

「……嫌われてはないんだよな」

 

「うん。多分、本人がそう言ってたし。照れ隠しの可能性も、1(パーミリアド)ぐらいの確率であると思うよ」

 

「万分率!照れ隠しだとしても、屈折しすぎだし」

 

 

 思い付いたように鏡が言った。しかし、万分率か。金利の変動ぐらいでしか見たことないな。

 

 

「あっ……ほら!階段のぼる前、顔少し赤くなってたよ」

 

「思い出したように虚言吐くんじゃねえ。話してる最中顔少し青かったんだが」

 

 

 好きな人の前だと私、顔蒼ざめちゃうんです。きゅるりん☆みたいなのは聞いたことがない。

 

 

 

「まあともかく、れんちゃんのことを調べれば良いんだや」

 

「なるべくれんを説得して、探れる場を設けさせようとは思うけどね」

 

「直接探れた方が楽だし頼むよ」

 

 

 でも、また尾行とか聞き込みとかするのか。何だかんだで騒動に巻き込まれるのは楽しく感じてくるようになったけど、やっぱり後始末は面倒くさい。どうせ鏡のことだ。厄介な案件になるに違いない。厄介の芽は早めに摘み取るべし。

 

 俺はそう決意して鏡の家を出た。

 






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