「あっ、……えと、こんにちは。銃一さん」
魔法少女の戦いを見た後、一度自宅へと帰る途中の所で、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると一人の少女が立っていた。
俺は、少なからず動揺する。向こうから話し掛けてくるなんて、今までなかったからだ。
何か心情の変化でもあったのだろうか。
「こんにちは、れんちゃん。何処かからの帰り道?」
俺は平静を保ちながらそう尋ねる。
「は、はい。友達と遊んだ、帰りなんです」
「……うん。そうなんだ」
先程から何故か、彼女の顔を見ていると何かを思い出しそうになる。
でも、そのことを考えようとすると頭の中で、何かがその思考を妨げてくるような感覚がする。昨日会ったときには感じられなかった感覚だ。
違和感を覚えながらも、今はそれを気にしないでおく。深く考える意味もないし、それについて考えると何だか、頭が痛くなってきたからだ。
そんなことを考えている間に、彼女は一度深呼吸をする。
「じ、実は昨日。兄に注意させられまして。あ、あんな対応を取ったら失礼だ、と」
彼女の言葉に、む……と考えさせられる。
なるほど。鏡が、俺と彼女の話す機会を設けようと工作してくれたのだと悟った。
彼女の件は、悪の組織の件で一杯一杯になっていたため、すっかり忘れて仕舞っていた。
そうか。フォローをしてくれたのか。話を聞き出すにしても、直接話す方が遙かに簡単だし助かった。ん
「大丈夫、気にしてないよ。でも、折角だかられんちゃんとはゆっくり話して見たいね」
取り敢えず二人きりで話す場を作ることに尽力する。
「え、あ。私とですか?……は、はい」
語調が弱くなる。しかし、その言葉はハッキリと聞こえた。このあと、連絡先を交換するなり、悩み事を聞くなりどうとでもなるだろう。一先ず、連絡先でも渡そうか。
そう思うと俺は、メモ帳に連絡先を書きその
「これ連絡先。俺の連絡先知らなかったよね」
「え、ええ?!」
ここまで来たら、多少強引にいってもいけるハズだ。
と、言うか強引に言わないと受け取って貰えないかも知れないし。
とかく、今は彼女が以前言った、嫌っていないという発言を信じてアタックあるのみである。
「え、いめ……。いぁなんで」
彼女は小さな言葉で呟く。聞こえているには聞こえているが、早口で舌が回っていないため上手く聞き取れない。
「そ、それじゃあ。取り敢えず、一緒に、歩きましょう。それが、いいです」
彼女は顔を赤くして答える。……赤く?先ほどまで蒼かったのに何で。急速に血流が戻って赤くなったって所か。
いや、そんなことより彼女の発言だ。これは俺に取っても都合が良い。
俺は彼女の言葉に
「銃一さん、さ、行きましょ。え、ね」
彼女はそう言うと積極的に俺の手を引いて前へと進む。今までの行動が噓みたいだ。
彼女は俺の手の先だけを引っ張る。彼女の手は妙に汗ばんでいて少し滑る。いや、もしかしたら俺の手が汗ばんでいるのかも知れない。
嫌われているかも知れない彼女と話すのに、多少なりとも緊張していたのだ。
でも今は、彼女が手を引いてくれているのもあり、そこまで嫌われてはいないというのが分かる。少し安心だ。
だが、なぜ今は普通に話せているのだろうか。
「それにしても、偶然ですね。どうしてこんな所へ?」
彼女は今までの吃りっぷりが噓のようにスラスラと喋る。表情も明るめで楽しそうだ。一体全体どうしたの言うのか。皆目見当がつかない。
しかし好都合だ。それに無理に聞いて又ぎこちなくなるのも遣る瀬ない。
彼女の質問に答える。
「バイト帰りだよ。れんちゃんは友達と遊んでたんだっけ」
噓を吐く。悪の組織の仕事の帰り……なんて言える訳がないのでしょうがない。書類上はあの組織の表向きの会社に雇われたことになっているが、昨日の今日で就職したと言うのも怪しい。
結果、アルバイトを続けていると言うしかない。
彼女はへえー、と相槌を打つと俺の質問に答える。
「友達……。そうですそうです。友達の家この近くにあるんですよ」
「へえ。友達ってどんな子なのかな」
自然に聞けた。俺は心の中で満足気に呟く。
妹の話だと彼女と仲の良い友達が一人居たはずだ。妹自身は話し掛けれてないが。
「どんな子、ですか。彼女、いつむちゃんと言うのですが、中々に可愛い子ですよ」
後ろからバタンと大きな音が聞こえる。何だと振り返ると何も居ない。
何の音だったのか。
「人のことを思って行動する、何か善性の固まりみたいな子で」
又もや後ろから、音が鳴る。先程より小さな音。それは小刻みに震えているような音で。
どうせ、ネコか何かだろう。深く考えないことにする。それより彼女の友達の話だ。
「彼女と、仲良くなった切っ掛けとかって?」
追求する。万一、不良仲間とかだったら目も当てられないからだ。聞いてる限りだとそれはなさそうだが。
「ん、そうだね。ちょっとしたチームの仲間かな」
チーム。少しボカされた感覚だ。学校の班が一緒とかならボカす必要がないだろうし、何のチームなのか。
「れんちゃんは最近、悩みとかない?」
この攻め方では何も聞き出せないと悟り、直接悩みを聞くことにした。
このぐらいの質問なら日常会話のウチだろう。彼女も特段疑問に思わず答えようとしている。
しかし、
「悩みですか。今は全くないですよ」
彼女はきっぱりとそう言う。見たところ噓は吐いてなさそうだ。ここで、追求するのは怪しすぎる。悪手だ。
俺はどうしようかと悩んで彼女を見つめる。
大きな瞳に童顔で、小さな背に青っぽい髪。
ジッと、その特徴的な青っぽい髪を眺める。髪は背中まで届くぐらいの長さに切られており、前髪はキチンと整えられている。
(どうも、この髪を見ると何かを思い出しそうになる)
ふと、彼女の髪をもう一度見ると、三日月をモチーフにした髪飾りを付けているのに気がついた。
「あっ」
ちょっと待てよと思う。
あの髪飾り何処かで見たことがある。それは何処か、答えは魔法少女の髪に……だ。
アレは確かに、魔法少女が付けていた物だった。そんな思考が頭を
俺は彼女にことわりを入れて携帯を開く。先程撮った動画を開くためだ。彼女に見られないように慎重に……だ。
魔法少女の水色の方の姿を見る。何だか雰囲気が違うが、顔がとても似ている。いや、似ているどころではなくそのままだ。そして、極めつけは髪飾り。今、彼女が付けているものと全く同じである。
彼女を見る。確かに似ている。どうしてこんなに似ているのに、気が付かなかったのだろうか。
彼女は十中八九、魔法少女だ。
ゴクリと唾を呑み込む。よもやこんな事態になろうとは。そもそも、何故今の今まで気が付かなかったのだろう。魔法的な力が掛かっているのだろうか。
「ど、どうしたのですか、銃一さん。何か気になることでも、あるんですか」
長く見つめていたからだろうか。彼女の吃りが少し戻ってきている。
しかし、気になることか。
俺は彼女の手首を摑んで言った。
「キミのことが気になっているんだよ」
ここで彼女を逃してはならないと思った。
コイツ、言葉選び最悪では。