魔法少女があらわれた! 作:ミ゙ヅヅヅ
伊波恋視点
私は井東銃一が好きだ。
いや、好きどころじゃない。大好きだ。
彼と初めて対面したのは幼稚園年中あたりだ。丁度彼が小学五年生の時だろうか。
幼児の時の記憶なんて殆ど覚えていないが、不思議と彼に関する出来事なら鮮明に思い出せるのだ。
その日は土曜日で幼稚園も休み、リビングでお兄ちゃんと遊んでいた。
遊んでいた、と言っても私が思い出せる限りでは会話をしていただけだが。所謂マセた子供だった。テレビで
今思い返しても割と大人っぽく話せていたと思う。少なくとも園児らしからぬ会話能力であった。別に天才とかそういうのではない。けれど、しっかりとした思考能力は持っていたぐらいには大人らしかった。
そうして過ごしていると、突然家のインターホンが鳴った。家への来客を示す音だ。幼ながらに玄関のベルが鳴るとお客さんが来る!と理解していたのか私は玄関へと駆けて行った。
流石に小学生の兄より早く移動することは出来ず先に兄が扉を開けた。
開いたドアから現れた少年に私の心臓はドクリと鼓動した。
軽くパニック状態に陥った。身体の動きを止め考えることを
心臓の鼓動がドクンドクンと速まるのが感じ取れた。額には汗をかき、目頭には水滴が溜まるのを感じ取れた。
呼吸をするのが難しい感じる。
まるで……全力で外を走り回った後のような感覚だった。
「
兄が何かを言う。
「ああ、そうさせて貰うよ。……って、もしかしてそこに居る子って前に言ってた妹?」
「うん、そうだよ。ほら、れん挨拶を」
「……ひゃ、はい。れん……です」
「アキの友達の
何とか言葉を返すことに成功した。しかし少し
「あれ?れん……顔色少し悪くない?若干蒼く」
「い、いや。何でもないの。気にしないで」
「そう?それなら良いけど」
見栄を張る。少しでも大人で居たいという心理ゆえだろう。幼い子は変なことに意地を張るものなのだ。
しかし、蒼くなってた?あの後確認した時には……いや、聞き間違えだろう。もしくは覚え違い。一先ず置いておこう。
私は彼、銃一さんが玄関を上がってリビングに行くのに着いて行く。心臓はドクドクと鼓動を速める。
胃がギュルりとした感覚がした。思わず腹に手を当てる。何事もない。
リビングに着いて銃一さんとお兄ちゃんが話しているのを聞いて、彼がよくこの家に遊びに来ていたということが判明した。
私が寝てたとか、幼稚園に行っていたとか、部屋で本を読んでいたとか、偶然鉢合わせて居なかっただけなのが分かった。彼が来ていたのは、頻度的に月二のぐらいのペースだけど。
私はこの場において、どうしたら良いのか分からなくなり子供部屋に戻った。玩具やら本やらが置いてある遊び部屋。
ママの化粧台とかも置いてあるから私だけの部屋という訳ではないが、ほぼほぼ私の部屋と言っても過言ではなかった。
彼の顔を見ていると何やら体感したことのない、未知の感情になったのだ。顔が何かヒュッとして、心臓がドクドクと動き、汗が少し流れる。震えも少しした。まるで、夜トイレに行く時のような?
何だかドッとしたのだ。上手く言葉に言い表せない。
ふと、ママの化粧台が目に入り見つめる。そのときの私の顔は赤く紅潮していたのだ。
「──ッッ?!」
えっ?どういうこと?何で顔が火照って赤いの?
大いに動揺した。
顔が赤く紅潮するなんて、まるで絵本に出てきた王子と話してるときの女の子、小説で読んだ恋する少女のようではないか。
相手が好きで恋しくて愛おしくて……愛している状況だ。
絵本のお姫様の言葉。気がついたら貴方のことを考えている、貴方を想うだけでわたしの心臓はドキドキと鼓動する。
相手のことを四六時中考えている……相手のことが好きだという感情の条件である。今の私の頭の中から彼の顔が離れない。……と言うことは私は好きなのか?
いやいや、短絡的すぎるだろう。ただただ頭から離れないだけだ。しかし、今の状況に合う表現がそれしか思い浮かばない。
胸に手を当てて考える。ドクドクドクと心臓は速く鼓動しているのが感ぜられる。これはドキドキという感情、感覚なのか?
再び鏡を見る。相変わらず赤く、そして紅く紅潮している。
私は……、彼のことが……好き、なのか?
ココロにしっくりとくるような感覚がする。そうだ。これが一目惚れという奴ではないだろうか。いやはや、好きという感覚を経験したことがなかったから焦ってしまった。
そうか、私は彼が好きなのだ。
兄がよく話してた友達って言うのが彼だとしたら、お兄ちゃんの話してる感じ優しくて、良い人なのは確実だ。
そ、それに……、よくよく思い返してみると、彼の私に掛けてくれた言葉は柔らかくて好ましいかった気がする。
発汗や震えは緊張から来ていると考えると矛盾はない……筈?
兎に角、これが私の銃一さんとの初めての邂逅、幼い恋心の誕生であった。
その時の感情は恋に恋する何とやら……ぐらいの感情だったのかも知れないが、その後も出逢う度に、私の銃一さんへの想いは強くなっていった。
何もないときにふと思い浮かんではによによと口をだらけさせてしまうぐらいに。
そんな、私の初めての恋……初恋にして今も想い続けている彼が……。
◆ ◆ ◆
「れんちゃん昨日から元気ないね」
友達のいつむちゃんが私にそう言った。そう、確かに昨日から私に元気はない。しかし
「あー、気づいてた?ハハ、実は気が落込むことがあってね」
気が落込むこと。即ち彼との会話で思いっ切り逃げてしまったことだ。いつもなら事前に来ることが分かっていたから心の準備を整えてから対応なり、なんなり出来るのだが今日は突然だったのだ。
お兄ちゃんに後で聞いたら凄い落込みようだった。謝りに行ってきた方が良いよと言われた。何やら兄の言葉が少し道化じみていたが、逃げた私に非があるのは勿論である。
逃げた、というより心臓がドキドキし過ぎて耐えられなくなって離れただけなんだ。しかし、それも相手に伝わらなかったら、客観的に失礼過ぎる。彼の気を悪くしてしまった。
そんなこんなで少し落込み気味なのだ。
「ま、失敗することだってあるし元気出して行こうよ。魔法少女なんだしさ」
そうなのだ。私の特徴として挙げられることがある。それはテレビでよくあるような魔法少女という存在に選ばれたことだ。昨日だって魔法的パワーで戦ってきた後だ。
精霊に助けを求められて、そして窮地に追いやられた友達と救うために魔法少女になってからどれくらい経ったのだろうか。言っても余り時間は経ってないけど、私の周りでは様々なことが起きた。
その一つとして魔法少女仲間というものが出来た。それが彼女、いつむちゃんで私より数週間ぐらい早く精霊に選ばれたらしい。意見が合わないこともあるけど、今ではすっかり仲良しだ。
彼女は言う。
「それにどうせれんちゃんが落込むって言えば恋愛話のことなんだろうし、わたしからは言えることないし」
「え!何で分かったの?!」
驚く程の洞察力を持っていつむちゃんが言い当ててきた。
「いや、何でって好きな人いるぐらい皆んな知ってるよ。誰か……となると分からないけど、アレだけ分かり易ければ普通見当がつくよ」
「そう……なのかな。……うん。恋愛のことだよ。好きな人が、居るの」
「それで何か失敗した訳ね」
「う……うん」
「でも私は色恋とかまだ経験したことないしなあ。仲の良い友達レベルで収まってるし」
いつむちゃんはボーイッシュでかっこよくて、オマケにかわいい。でも、恋愛となると途端に頼りなくなる。頼りないと言えば私も同類だけど。
「ともかく、何か失敗して謝りたいと思ってるんだろ。なら当たって砕けろだ。勇気出して謝るしかない」
「その勇気が出なくて困ってるんだよ」
「とにかくやるっきゃない。何か面白い展開になるかも知れないし。私も後ろから見守ってあげるから」
「ほんと?本当に。私のために。本当にありがとう」
「友達が困ってるのに何もしてられないのはアレだからね。後ろからでも付添いがいるって思えば勇気も少しぐらいは出るだろ」
何だか勇気が少し出てきた。お兄ちゃんが銃一さんと会えるようにセッティングもしてくれているのだここは一つ頑張って話をしてみよう。
◆ ◆ ◆
「もう一度言う。れんちゃんのことが気になるんだ」
と、言うことで話していたのだが。途中から訳の分からない展開となった。あれ?夢じゃなかったの?どういうことだ。
心拍数が一気に上がる。
は、え……ちょっと、待って。
何が起こっているのだ。彼が私のことが気になる。私が気になるのではなくて、彼が?
なにこの状況は。え、私が銃一さんに気になるんじゃなくて……いや、気に、へぇ?!
れんちゃんのことが気になる、そうはっきりと聞こえた。魔法少女の強化された聴力をしてはっきりと聞こえた。
魔法少女になったとき様々な能力を得た。
この聴力もその一つ。集中していれば結構遠くの音さえも明瞭に聞き取れる。そして、このチカラの本領の一つにリピート機能というのがあるのだ。
脳内で過去に聞いた言葉を再生出来るのだ。
何か間違いがないか、もう一度リフレインしてみる。
『れんちゃんのことが気になるんだ』
……もう一度
『れんちゃんのことが気になるんだ』
……後一回
『れんちゃんのことが気になるんだ』
……
『気になるんだ』
顔が一気に紅潮するのが感じられる。
鼻に血液が集中して鼻血が出そうだ。
いや、ちょっと待つのだ、井波れん。相手は
彼の表情を見た限り真剣そのものでそんな軽い話しではないように思えるが……が、しっかりと訊ねてから判断するべきだろう。
私は意を決して、銃一さんに言う。
「それは……、一体どういう……い、みで言ったのです、か?」
緊張からか吃る。いや、普段からだ。先ほどまでは自分の都合の良い展開に夢だと思って喋れていただけだ。
彼を前にすると上手く言葉が出ないのは何時も通りだ。息がキュッとしまり、胃がキュルキュルと痛くなり心拍数が上がる。震えがでて汗が落ちる。これは恋だ。
彼の返答を待つ。
彼は暫く言葉を詰まらせてから漸く、言葉を出した。
「今、れんちゃんが想っていることで合ってるよ」
「えぇ?!」
まさかの返答。想っていること。私が銃一さんが好きなことはとっくにバレていた?確かに彼とだけ上手く話せてなかったりと露骨に好きなんじゃないかと思わせるパーツは有ったように思える。しかし、バレていたとは。
……いや、バレていたのだろう。
彼女、いつむちゃんにもバレていたではないか。彼ぐらいになるとそのぐらい分かるものなのだろう。だが、一応確認をしておく。
「そ、そ……それはす、好きってことで……意味のアレです、か」
なけなしの勇気を振り絞って訊ねる。消え入りそうなか細い声。でも、何とか出せた声だ。
そんなことを考えていたら、彼はそっと私の方へと近寄ってきた。
(って、ええ?!何でこの人、私の頭に顔寄せてるの?!)
驚きの声が心の中に響く。
心拍数が上がるのが感じられる。心臓ヤバいんじゃないか、と思えてくるぐらいの心拍数だ。魔法少女って心臓とかも強化されているのだろうか。
そんなことを考えていると、銃一さんは少し具合の悪そうな表情をして私に言う。
「少し、ええと……れんちゃん、付き合ってくれないかな?……あっ、返事はメールとかでも良いから」
交際の申込みかな?
……
いや、いや。
よく考えなくてもこれって交際の申込みだよね。『付き合って』これが交際の申込みじゃなければ何と言うのか。
付添いのお願いなんてものでは流石にないだろう。創作物の読み過ぎだ。そんな紛らわしいことはない筈。
でも、私は石橋を叩いて渡る派だ。いや、寧ろ叩いて壊す派だ。ここはしっかりと訊ねて置くべきだ。
「銃一さん、それって、アレですか?さっきも言った……通りの意味ですか」
好きという意味なのかもう一度訊ねる。
「ん?……うん、そうだよ」
当たってた!もしかして……やはり、交際、の申入れであっているのか。それならば私の答えは一つしかない。
「お、お……お願いします。付き合わせて、くださぃ。ください」
「じゃあ、宜しくね」
銃一さんはそう言うとこの場を立ち去って行く。
「……」
言いたいことは本当に色々あるんだけど……やばい倒れそうだ。
後ろから『やばい、物凄い恋愛話だ。付き合うってえ?え?』とか聞こえてくる。取りあえず何が起きたか、