この後輩に、困ってます〜ヤンデレ男子に愛されて〜 作:泡沫ヒナ
今日は入学式。
千歳が生徒会長になっての初舞台でもある。
入学式は午後からの予定で、千歳は資料を届けるために
1年生教室に向かっている途中だった。
すると旧校舎に続く渡り廊下でうろうろしている男子生徒が目に入った。
新品の制服に身を包み、落ち着かない様子を見るからに
1年生なのだろう。
何か困っているのかと思い、千歳は声をかけることにした。
「そこのキミ、どうしたの?」
なるべく優しく声をかけたつもりだが、相手は目を見開いて慌てふためいた。
その様子に千歳は少し訝しげに眉をひそめた。
「えっ!あっごめんなさい。えっと、道に迷ってしまって。少し探検してたんですけど……」
千慧は自分の言い訳が苦しいかと思ったが、目の前の彼女はそっか、と一言こぼした。
「教室まで案内しようか?私も用事があるし」
そう言って彼女は千慧の隣に並んで微笑む。
「(すごくいい匂い……)」
綺麗なミルクティー色のロングヘアからふわりと蜂蜜のような香りがして、千慧は少しクラっとしそうになり、
ふるふると首を横に振る。
千慧は、隣に並ぶ千歳をちらっと観察してみる。
綺麗な髪がかかる顔はとても小さく、まつげは長くて、きれいな海のような瞳に釘付けになってしまう。
薄付きのリップなのだろうか、桜色の唇がやさしく口角が上がった。
「(この人の隣りにいると落ち着くなぁ……)」
どうしたの、と千慧の顔を覗き込んでくる仕草ですらキュンと来てしまう。
あぁ、これが「一目ぼれ」というものなのだろう。
彼女の周りがキラキラして見えていた。
「おーい?大丈夫〜?」
千歳が千慧の顔の前で手をひらひらとさせる。
千慧ははっとした様子で我に返った。
僕、もしかしてトリップしてた??
「あぁ、すみません。……ありがとうございます」
とてつもなく申し訳なくなり、自然と顔が下を向く。
千慧の隣を歩く、名前も知らない彼女はこんな僕に親切にしてくれている。
千慧は沈黙に耐えられず、何か話題はないかと足りない脳をフル回転させて全力で探した。
「あの、どこのクラスなんですか?」
考えた結果、何の変哲もないつまらない質問になってしまった。
……というより、自己紹介もまだなのでは?
「ああ、私はキミの一つ上の学年だよ。2年A組」
2年生……?マジで?
千慧は内心焦りながら、それを表面に出さないようにした。あくまでも平静を装ったつもりだったが、思わず声が裏返った。
「えっ?!……先輩だったんですね。ごめんなさい。失礼でしたよね。今日は1年生だけって聞いていたので」
千歳はなるほどね、といった様子で数回うなずき、言葉を紡いだ。
「いや、別に気にしてないよ。生徒会で仕事があって居るだけだから」
それから彼女は何故か僕の顔をじっと見つめる。
考え事をしているようだ。その表情ですら、胸が高鳴っていた。とにかく大人しくしていて欲しいと願う。
「キミ……入学早々、自分の性格のことで悲観してる?もしかして廊下にいたのもそれが原因で教室にも居づらくなったから?」
ギクリ、と背後で衝撃音が鳴った気がした。
ズバリと言い当てられ、千慧は情けない気持ちになった。
ほんの少しの会話でここまで言い当てられられてしまうなんて、彼女は探偵か何かに向いてるかもしれない、と
千慧はただ単純に思う。
「友達って自分から作ろうと思っても、なかなか難しいものじゃないかな。私も初めは友達なんてできなかったよ」
そう言った彼女の横顔はどんなに憂い顔であってもとても綺麗で思わず見とれてしまう。
「むしろ勉強のためならいらないとまで思っていたんだ。いい大学に行って手に職をつけて、親孝行するためだと思えば友達なんて言いらないかなって。実際その考えが原因で理不尽なこともたくさん言われたし、いじめみたいなこともあったけど」
千歳から告げられたのは、普通なら耐えられないようなものだった。色々なものを我慢した結果が今の彼女を構成しているのかもしれない。
しかし彼女はそれを選んだのだからすごいと思う。
「まぁ、その考え方も高校1年生の一学期までだったんだけど」
そう言って笑った彼女の笑顔は何か憑き物が落ちたかのようにスッキリしていた。
「あの……1学期までだった、ってどういうことですか?」
千慧は千歳の言葉の続きが気になってしまい、次の言葉をを求めてしまう。
だけど先輩はいたずらに少し微笑みながら人差し指を唇に当てた。
「もう少し話してあげたかったんだけど、もう教室についちゃったよ?」
そう言われて、見てみれば一年生の教室棟の廊下だった。
「私はA組に用事があるけど、キミのクラスは?」
「僕はB組です。あの、ありがとうございました。お話聞かせてもらえて嬉しかったです」
「いえいえ。今度会ったらまたこの話の続きをしてあげようかな。こんな勝手な身の上話聞いてくれてありがとう。……あぁ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私は神瀬千歳。キミの名前は?」
「僕は、呉宮千慧です。これからよろしくお願いしますね、先輩♡」
そう言って笑った千慧の表情に、千歳は何故か寒気を感じていた。