けど私が書くヤンデレは途中で薄れちゃうんだ……。
ボクの朝は、トレーナーと共に始まる。目覚ましにセットしているトレーナーの声でボクは夢の世界から目を覚ます。
『おいテイオー、起きろ。おいテイオー、起きろ』
「んっ……ふわぁ……えへへ、おはようトレーナー」
写真立てのトレーナーにキスをしてベッドから出る。この写真はトレーナーがボクのトレーニングメニューを考えている時に撮ったもので、とっても真剣な顔をしているんだ。つまりそれだけボクが大事に想われているってことだよね。
本当なら部屋全体をトレーナーで埋めつくしたいんだけどここはボクだけの部屋じゃないからね。ボクのトレーナーに対する愛をマヤノ*1に押し付けるのは良くないっていうのはちゃんと理解しているつもりだよ。
まあ、トレーナーのいい所なんてボクだけが知っていればいいんだけどさ。
練習着に着替えてまだベッドで「もう食べられないよ〜」と寝言を漏らすマヤノを起こさないように部屋を出る。さあ今日もトレーナーがボクのために考えてくれた朝のトレーニングを始めよう。
ウマ娘
プリティーダービー
トレーニングを終えれば次は授業を受けるためたトレセン学園へ向かわないといけない。ボクも有名になったからかな、道中よく声をかけられるんだよね。サインとか握手とか求められることもよくあるんだけど遅刻すると悪いからそういうのは休日か忙しくない日だけって決めてるんだ。
まあこれもトレーナーのお願いなんだけどね。ちょっと前にサインと握手を頼まれすぎたせいで遅刻する事が多くなっちゃってさ、トレーナーに相談したら「そういうのは余裕をもって学園に来れる日か休みの日だけにしとけ」って言われたんだ。それからはずっとそうしてるんだよ。
ボクはトレーナーとの約束を破ったりなんかしないからね!
走っているうちに学園の校門が見えてきた。校門前に立っているたづなさん*2に挨拶をする。
「おっはよー!」
「はい。おはようございますテイオーさん」
いつもあそこにいるけど、一体どれくらい朝早くからいるんだろうね?
たづなさんと挨拶を交わしたら教室に向かう。もうそこそこの生徒が教室にいてあの子も席に着いていた。
「おはよー、ダブルターボ!」
「だから私はツインターボ!!」
この反応が可愛いんだよね、ツインターボ*3って。
他愛のない会話をしていると先生が教室に入ってくる。授業が始まるみたいだ。早く走りたいな〜。あと早くトレーナーに会いたい!
そんなことを考えていればいつの間にか授業は終わっていて、次はランチ! お気に入りのカツ親子丼を頼んで空いている席を探す。
「あ、テイオー。良かったら一緒に食べない?」
「ネイチャ! いいのー? ありがとう!」
ナイスネイチャ*4が手招きしてくれたので有難く正面の席に座らせてもらう。やっぱり食堂のご飯は美味しいなぁ。
「そう言えばテイオー」
「なあにぃ?」
「アンタのトレーナー、昨日たづなさんと街を歩いてたけどデートでもしてたの?」
ボクの手から滑り落ちた茶碗の音がやけに響いた。
ウマ娘
プリティーダービー
「はっ、はっ、はっ!」
フォームなんて気にせず兎に角走る。途中誰かに何度か名前を呼ばれたけどそんなの気にしている暇はない。階段を下りて、中庭に出る。昼食を食べている生徒が何事かと食事の手を止めてボクのことを見てくるけど勿論気にしている暇はない。
ボクたちのミーティングルームが見えた。ドアを開けるのも面倒くさいと思って、蹴り破った。中でカップ麺を啜っていたトレーナーが驚いて椅子から転げ落ちる。辛うじてカップ麺は無事だった。
「うおおお!!? な、なんだぁ!? ゴルシか!? ゴルシてめぇってテ、テイオー?」
「はぁー……はぁー……」
普段のボクならあの程度の距離、全力で走っても息が切れることはないのに……トレーナーが絡むと山の天気みたいにコンディションが変わる。今はかみなり雨だ。
「おいおいどうしたテイオー。汗びっしょりじゃないか」
トレーナーがボクのことを心配して駆け寄ってくれる。ああ、やっぱりトレーナーはボクのことを一番に考えたくれている。たづなさんとデートしていたなんてきっとネイチャの見間違いなんだ。
ハンカチで汗を吹いてくれるトレーナーの手を握る。
「ん? どうしたテイオー」
「ねぇ、トレーナー……ネイチャが言ってたんだけど、昨日トレーナーがたづなさんと、デ──で、出かけていたって……嘘だよね? 違うよね?」
「昨日? んー……」
嘘に決まってる。きっとネイチャが見間違えたんだ。そうに決まってる。
そう信じてたボクの願いはトレーナーの明るい声で砕かれた。
「ああ、あの時か! 確かにたづなさんとデートしてたな!」
「…………は?」
今、なんて言った? デート?
誰と誰が? ……たづなさんと、トレーナーが?
うそ……ウソウソ、嘘! 嘘だ! ボクのトレーナーが、ボク以外とデートするなんて──
思考の沼に引きずり込まれていたボクはトレーナーの声で引っ張り出される。
「まあデートは冗談なんだけどさ。ただテーピングやスポーツドリンクの買い出しを手伝って貰ってただけ──」
「トレーナー」
笑っているトレーナーの肩を強く掴む。鼻と鼻が触れ合うくらいにまで顔を近づける。
「て、テイオー?」
「その冗談、全く面白くないよ」
「お、おお、そうか。す、すまん」
「いいよ。ボクのトレーナーだもん、特別に許してあげる」
そう、ボクのトレーナーなんだもん。当たり前だよね、ボク以外とデートするなんて有り得ないもんね。えへへ、ボクってばうっかりうっかり。
「あ、そうだトレーナー。今日ボクとデートしよーよ」
「今日か!?」
「うん!」
「いやでも、なぁ。今日も練習あるんだぞ?」
あ、そうだった。レースも近いし練習をサボるわけにも行かないし……。
ボクがうーんうーんと悩んでいるとトレーナーが苦笑してボクの頭を撫でてくれた。トレーナーの大っきい手のひら、暖かくて心地よくて、自然と目元が緩くなるのが分かる。気持ちいぃ……ずっと撫でて欲しいよぉ……。
「そんな顔すんなって! 今度の休みに行こうぜ」
「ホント!?」
「もちろん。嘘つく意味なんてないだろ?」
「やったー! トレーナーだーい好き!!」
どさくさに紛れて抱きつく。こういう感じじゃないと抱きつくことなんて出来ないんだもん……。でも、トレーナーに抱きついていると安心するんだよね。胸はドキドキーってしてるんだけど、心はポカポカして暖かいんだ。
ねえトレーナー、トレーナーもそうだったら嬉しいな。
少しだけ抱きしめる力を強くした。トレーナーは『グエッ』て呻き声を上げたけど、優しく頭を撫でてくれた。
ずっとこうしててくれたら幸せなんだけどな……。
ウマ娘
プリティーダービー
そして待ちに待った週末! やっとトレーナーとデートに行けるんだ! 普段はしないおめかしをして待ち合わせ場所に向かう。待ちきれなくて30分も早く着いちゃったけど、待つのもデートの醍醐味だもんね!
って思ってたら待ち合わせ場所にはもうトレーナーがいたんだ。
「おっ、テイオー。早いな」
「トレーナーこそ! そんなにボクとのデートが楽しみだったのー?」
冗談めかして言ってみるけどボクの本心だよ。……トレーナーもそうだったら嬉しいな。
「ああー。何だかんだ女の子とデートするなんて初めてだからさ。楽しみで眠れなかったんだよな」
「……ピエッ!?」
「それにテイオーみたいな可愛い女の子を待たせる訳には行けないしな」
「……ピエッピエッ!?」
かわっ、可愛い!? ボクが!? トレーナーがボクのことを可愛いって……。
「どうしたテイオー、いきなりホッペ抓ったりして」
「ふぃ、ふぃや、ゆめひゃにゃいのはにゃって」
「なんて?」
……痛いし夢じゃない。トレーナーはボクのことを可愛いって思ってるんだ……それにデートするのも初めてって言ってた……楽しみで眠れなかったって言ってた……。
どうしようもなく緩む頬を抑えてトレーナーを見る。ボクの行動が不思議なのか首を傾げている。
「ほら、時間がもったいないし行こうぜ」
「うっ、うん!」
差し出されたトレーナーの手を掴んでしっかり握る。どうしよう、今、ボク、すっごい幸せ!!
その日は一日中店を歩き回った。服屋に行ってトレーナーに服を選んでもらったり、ウマ娘専門のスポーツショップに行ってタオルやシューズを選んでもらったり、文具店に行ってトレーナーが使うメモ帳やペンを買い揃えたり、他にも色んなお店を回ったんだ!
まるで夢のような時間だったよ! ずぅっとこの時間が続けばいいのにって、何度も思った。
でも、トレーナーはボクだけのトレーナーじゃない。明日からはみんなのトレーナーに戻っちゃう。
……嫌だなぁ。トレーナーがみんなに振り回されているのを見るとオモシロいけど、面白くない。トレーナーを振り回していいのはボクだけだって、そんなことを思っちゃうボクが嫌で仕方がない。
トレーナーと同じくらいみんなのことも好きなのに……。
「どうしたテイオー? ぼーっとして、疲れたか?」
「へ? ううん、なんでもないよ! ほら! こーんなダンスだって出来るもーん!」
本当はちょっぴり疲れてる。けどトレーナーに心配をかけたくないから元気ってことをアピールするためにボクの得意なステップを見せてあげた。
「──って、わわ!?」
「うおっと!? おいおい、やっぱり疲れてるんじゃないか」
足をもつれてしまって倒れそうになったところをトレーナーが抱きとめてくれた。トレーナーの体温がボクに移って、体も心も温泉に入っているみたいにポカポカする。きっと、ボクの顔は真っ赤っかになってるんだろうなって、鏡を見なくてもわかる。
「ん? テイオー顔赤いぞ。どれどれ……少し熱いな」
「ピエッ!?」
トレーナーが自分のおでこをボクのおでこにくっ付けて熱を測っている。目の前にトレーナーの顔が、ドアップで写っている。トレーナーのいい匂いがボクに移りそう、ボクの心臓の音、すっごくうるさい。聞こえてないよね……?
「どんどん熱くなってるな……ほれ、乗れテイオー」
「……ふえ?」
「おぶってやるから乗れ。寮までそんなに距離離れてないしな」
ボクの目の前でトレーナーが背中を見せてしゃがみこむ。お、おんぶなんてしたらホントにボクの心臓の音聞こえちゃうんじゃ……。
「どうした? ほら、早く乗れって」
「ピエ……ピエェ……」
トレーナーの大っきい背中に身体を預けた。
ウマ娘
プリティーダービー
ゆらゆらと心地よいリズムで揺れる。トレーナーとこんなに密着することなんて無いから今日一番ドキドキしている。ねぇトレーナー、トレーナーもドキドキしているのかな? それとも、何とも思っていないのかな……? もしそうなら、少し悲しいな。
少しだけ、少しだけトレーナーに掴まる力を強くする。決して落ちないように、決して、離されないように。
「どうした?」
優しい声色。この声を聞くと不思議と心が落ち着くんだ。ねぇトレーナー、知ってる? ボク、トレーナーの声が大好きなんだよ。
ボクがレースで1位を取った時に聞こえる、トレーナーの嬉しそうな声も──
ボクが無理な練習をして、怪我をした時に叱ってくれたトレーナーの怒った声も──
ボクがレースに負けて、泣いている時に励ましてくれる哀しそうな声も──
ボクが退屈しない練習メニューを考えて、それを教えてくれている時の楽しそうな声も──
全部、ぜーんぶ、大好きなんだよ?
声だけじゃないよ? 「良くやった!」って褒めてボクの頭を撫でてくれるおっきい手の平も、
ボクが泣いている時に優しく包み込んでくれるたくましい腕も、
ボクが怪我しそうな時に駆けつけてくれる心配性な足も、
今こうやってボクのことを背負ってくれている優しい背中も、
全部含めて、トレーナーが大好きなんだよ。
教科書なんかには載っていないこの気持ち、これが恋ってことはとっくに気づいてるんだ。
ねぇトレーナー、トレーナーは……ボクのこと、好き?
「おっ、あのハニードリンクの屋台。確かテイオーが好きな店だよな?」
「……」
「テイオー?」
「…………ふえ? なぁにトレーナー?」
しまった。トレーナーのことを考えてたら話を聞きそびれちゃった。ごめんねトレーナー、って謝ったら笑って許してくれた。
ああ……その笑顔も好きなんだよね。
「ほら、よく歌ってるじゃないか。ハチミーハチミーハチミー、ハチミーを舐めるとーって」
「……ぷぷっ、トレーナーが歌うとへんなのー」
「んなっ! まあ確かにオッサンが歌うとちっとキツイもんがあるけどさ。飲むか? 奢ってやるぞー」
「いいの?」
はちみつドリンクは美味しいけど少しお高い。ボクがいつも頼む『はちみつ硬め濃いめ多め』も1000円もするんだもん。でもちゃんと値段以上の価値はあるんだけどね。
「その代わり俺にも一口くれよ。飲んだことないんだよなー、ハチミー」
「いいよー。ん? あれれ?」
あれ? トレーナー今なんて言った?
おぶられながらいつものお店の前についた。店員さんが微笑ましそうな目でボクたちを見てきて少し恥ずかしかった……。そう言えばここに来るまでの間も色んな人に見られてたな。うぅ〜思い出したらもっと恥ずかしくなってきた……。
羞恥に悶えているボクを連れて近くのベンチに下ろされる。その後トレーナーがはちみつドリンクを渡してくれた。
「ほれテイオー」
「ありがとー、トレーナー」
早速一口。うーん、美味しい! やっぱり硬め濃いめ多めだよね!
ストローから口を離して感想を述べる。美味しいものは美味しいって言わないと食べ物に失礼だって、トレーナーが言ってたんだ。
「んぅー、おーいしー!」
「そんなになのか。どれ一口」
ズココ、と音がする。音の発生源に目を向けるとトレーナーがストローを咥えてはちみつドリンクを飲んでいた。
トレーナーが、ボクの使っていた、ストローを咥えて。
「おお、本当だ。値段なだけあるな、ウメェやこれ」
「なっ、なな何してんのトレーナー!?」
「なんだよー。一口くれよって言ったら許してくれただろ?」
「いっ、言ったっけ? いや、トレーナーが買ってくれたやつだし、いいんだけどさ……」
トレーナーが口をつけたストローを注視する。だってこれ、これにボクが口をつけたら、か、間接キスに……!
「どした? 飲まないのか?」
「の、のの飲むよ!」
ゴクリ、って唾液を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。恐る恐るストローに口をつける。
別にやましいことをしているわけじゃないのに、さっきから手汗が凄い。心臓の音も今日1番響いている。
「美味いかテイオー」
「ピエッ、うっ、うん……」
味なんて分かんないよー!
ウマ娘
プリティーダービー
はちみつドリンクを飲み終わったらデートも終盤。というかほぼ終わりなんだけど……今はトレーナーの背中に揺られながら寮に向かっている。
「今日はありがと! トレーナー!」
「おーう。こっちも楽しかったからな、こっちこそありがとな」
トレーナーも楽しんでくれたんだ。良かった……トレーナーもボクと同じ気持ちだったんだ。
なら、好きって気持ちも……?
トレーナーもボクのことが、好き、なのかな。
ずっと気になっていた。
生唾を飲み込む。
「ね、ねえトレーナー」
「んー?」
トレーナーの顔は正面を向いたまま、こっちを向かれたらこの続きを言えそうになかったから、そこは安心。
「あの、あのさっ、トレーナーって、ボクのこと……」
「あら、テイオーとトレーナーじゃありませんの」
ドッキーン! まっ、マックイーン!? なんでここに!!? ビックリした! すっごいビックリしたよ!!
顔を上げてみればそこには私服姿のマックイーン*5がいた。手に持っているドーナツの箱を見るからに、駅前のスイーツパラダイスに行ってたんだろうなー。
「おっマックイーン。スイパラ帰りか」
「んなっ!? 何故知っているのですか!?」
「手に持ってるもん見れば分かるって」
トレーナーとマックイーンが仲良く話している光景を見て、きっとボクの目は濁っているんだろうなって思う。だって、トレーナーがボク以外の子と話しているのを見ると、凄くムカムカするんだもん。今もほら、ムカムカイライラが止まらない。
マックイーンは友達なのに……友達に対してもこんな風に思っちゃうボクって、やっぱりいけない子だよね……。
トレーナーもこんなボクより、マックイーンの方が好きなんじゃ……?
だってマックイーンって髪の毛サラサラだし、お嬢様だし、可愛いし……ボクが勝てる要素ないもん……。
そんなことを考えてたらトレーナーとマックイーンの話は終わっていた。言い争って乱れた髪を整えてふう、と息を吐いたマックイーンが踵を返す。
「全く……では私はこれで失礼しますわ。テイオーも、また明日」
「あ、うん。ばいばーいマックイーン!」
「気をつけて帰れよー」
手をヒラヒラと振って見送ったあと、また歩来はじめる。もう寮は目と鼻の先。3分もしないうちに着いちゃう。
さっきはマックイーンに遮られちゃったけど、次こそは……!
「と、トレーナー」
「うん? どうした」
「えっと……その、トレーナーって、ぼ、ボクのことさ……」
「うおーいトレーナーとテイオーじゃんか!」
んがっ、今度はゴールドシップぅ!? もう! なんで今日に限ってこんなに人と会うのさー!!
ゴールドシップ*6に恨めしい視線を送るけどゴールドシップはボクの視線なんて気づいてないのかベラベラと他愛のない話をしている。なんの話なのか全く分からないけど、楽しそうだ。
「そんでさー、寮の中でゴルちゃん号走らせてたら怒られてさー。でもトレーナーだったら分かるだろ? アタシは不可能を可能にする女だってさ」
「んなこと可能にしなくていい!! はあ〜、まーた怒られるんじゃねぇか……」
「なんだその顔? 京都の外回りコースを3コーナー前から仕掛けた奴を見たような顔してるぞ」
「どんな顔だよ!」
「その顔だっての!」
……楽しそうだなぁ。トレーナーは怒ったような口調だけど顔は笑っている。ゴールドシップもそれを分かっているからふざけた感じで話してるんだ。
ゴールドシップは背が高くてスタイルがいい。マックイーンと似ている白くてサラサラの綺麗な髪の毛だし、トレーナーも話していて楽しそう。
ボクと話すよりゴールドシップと話してる方が、楽しいのかな……?
「んっじゃ、お前らまったなー!」
「あっ! おい待ちやがれゴルシィ!! たっくあの野郎……」
そんなことを考えてたらゴールドシップはいつの間にか走り去って行った。ゴルちゃん号もしっかり持っていってる。元気だなあ。
「さて、と。到着だ」
「あっ……」
もう寮に着いちゃった。二人のせいだよぉもう!
トレーナーの背から降ろされて地面に足をつける。疲れは特に感じてなくて、明日からのトレーニングにも十分励めそう。
「今日は楽しかったかテイオー?」
「うん……」
「それにしては表情が暗いじゃないか。無理させちまってたか?」
「ちっ、違うよぉ! 楽しかった! とぉってもっ! 楽しかったよ!! ただ、その……トレーナーとお別れするのが、寂しくて……」
ボクがそう言うとトレーナーは目を丸くしたあとクツクツと笑った。そしてボクの頭に手を伸ばして撫でてくれた。優しく、髪を梳くように撫でられる気持ちよさにウットリと目を細める。
「お前は撫でられるのが本当に好きだな」
それはトレーナーが撫でてくれるからだよ。トレーナーじゃなきゃダメなんだ。トレーナーだから、ボクは撫でられているんだよ? トレーナー以外にはこんなことさせないんだから。
ボクの頭を撫でながらトレーナーは話を続ける。
「お別れって言ってもまた明日会うだろ? そんな寂しがり屋だったか?」
「……だって、だってだってぇ!」
「うおっと、おいおい。本当にどうしたんだ?」
自然とあふれてきた涙を隠すためにトレーナーに抱きついて顔を埋める。
寂しいよ……寂しいに決まってるじゃん! 出来ることなら一日中ずっとトレーナーとくっついていたいもん! トレーナーが他の子と話しているのを見るのは嫌なの……他のこと楽しそう笑いあっているのを見るのも嫌なんだよぉ……。
「テイオー?」
「トレーナー……」
ダメだ。口が勝手に動く。頭で止めようと思っても上手く考えられない。トレーナーへの想いが、溢れて、零れて、止めきれない。
「ボク、トレーナーのことが好き」
──言っちゃった。
一度口に出したら、もう抑えられない。ダムが決壊したようにボクの口から想いが流れてきた。
「好き、好き、大好き。大好きで大好きで仕方がないんだよぉ……トレーナーが他の子と話しているのを見ると、胸がモヤモヤするし……くっついているのを見るとうがーってなってイライラする……ねぇトレーナー、トレーナーは、ボクのことが…………好き……?」
トレーナーは何も言わない。ボクはトレーナーのお腹に顔を埋めているからトレーナーがどんな顔をしているのか分からない。
困ってるかな、それとも喜んでるのかな……?
「テイオー」
普段と変わらない優しい声で名前を呼ばれる。ビックリして体が震えちゃったけど、怒る雰囲気じゃないのは分かっている。
「テイオー、顔を見せてくれ」
「……」
恐る恐るお腹から顔を離して、トレーナーの顔を見る。トレーナーは、ボクを褒めてくれる時と同じ顔をしている。優しい優しい陽だまりのような笑顔でボクの目を見つめていた。
「テイオー」
名前を呼ばれて体が固まる。そうだ、ボクはさっきトレーナーに告白したんだ。好きだって、大好きで仕方がないんだって。
じゃあこれからボクはトレーナーの返事を聞かされるの? どっち、どっちなんだろう。
バクバクとうるさい心臓の音だけが聞こえる。トレーナーの口が開いて、開いて──
「俺も好きだぞ」
その瞬間、世界が止まった気がした。風が止んで、音がなくなって、ボクとトレーナー……2人だけの世界になった、気がした。
「ほ、ほほホント?」
「ああ、本当だ」
「本当に本当? 夢じゃない?」
「夢じゃないぞ。つねってやろうか」
「ピェッ!? 痛い!」
トレーナーがボクのほっぺをつねってくれた。確かに痛かった。
痛いってことは夢じゃない。夢じゃない!? トレーナーがボクのことを好きって、これって両思い!? えっ!? ええー!?
「はわわわわ! 大変だー大変だ!」
「こらこら落ち着けって。ほら」
「あう、うう〜……」
抱きしめられてまた頭を撫でられる。これじゃあ逆効果だよ〜!
後ろから抱きしめられているからか、トレーナーの心音がボクの耳に伝わってくる。ドックンドックン忙しなく動く心臓は、ボクの心臓と同じように慌ててるみたいだった。
「トレーナーも、ドキドキしてるの?」
「そりゃ当たり前だ。好きな女から告白されて両思いになったんだから。お前、俺のアピールに全然気づかないから何とも想われてないんじゃないかって思ってたんだぜ?」
「えええー!?」
「言っとくけどな、テイオー。確かにチームの皆も大事に思っているが、一番大事に想っているのはお前なんだぞ」
「ええええー!?」
さっきから驚いてばっかりで口が塞がらないよぉ!
というか、これって……ボクとトレーナー、恋人同士になったの? ボクはトレーナーの……彼女になれたの……?
「ねえトレーナー、ボクってトレーナーの……か、かっ彼女?」
「おう、俺はお前の彼氏だな」
「ピエッ!?」
「あっはっは。っと、もうこんな時間か……」
だ、ダメだ〜、顔が熱くて頭がパンクしそう……! さっきから自爆しかしてないよボク!
夕日も傾き始めて反対側の空が暗くなってきている。もうトレーナーは宿舎に帰られないといかない時間だ。
折角恋人同士になったのに、恋人っぽいことなんにも出来てないよぉ……。
恋人っぽいこと……チュウ、とか……? ほっぺじゃなくて、く、口に?
「トレーナー、そのぉ……」
「どうした?」
おずおずと話しかけるとトレーナーは柔らかい笑みを浮かべて答えてくれる。ここで言わなきゃテイオーの名前が廃る……! 告白できたんだからチュウのひとつやふたつくらいおねだり出来るもん!
「ボクっ、と、ボクにちゅっ、ちゅ、ちゅちゅっ!」
「ネズミのモノマネか?」
「ちっ、ちがわい! だからボクと! チュウをして! って、言って……あうぅ……」
「チュウって……お前は本当に可愛いな」
「かわっ! んむ──」
そう言ってトレーナーはボクの唇に自分の唇を重ねてくれた。突然の事で反応できなかったボクは、視界いっぱいに映るトレーナーの顔を眺めることしか出来なかった。
ファーストキスはほんのりと甘いはちみつの味だった、気がする。
どれくらいの時間チュウをしてたんだろう。10秒、1分? もしかしたらもっと長かったかもしれない。幸せな気持ちで胸いっぱいで、頭の中も幸せで満たされていた。
トレーナーが口を離す。きっと今のボクは変な顔になってると思う。
「ピエッ、ぴえ、ピエッ」
「壊れたたまごっちみたいになってるぞテイオー」
「ピエッ、だって、トレーナーが急にするから!」
「して欲しいって言ったのはテイオーだろ?」
うぅ〜! そうだけど〜!!
嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで頭の中がこんがらがってくる。さっきまで幸せで染まりきっていたのにボクの頭は凄い単純みたいだ。
って、なんだかトレーナーの態度もぎこちない。よく見てみるとトレーナーの耳はボクの顔みたいに真っ赤になっていた。きっと夕日のせいじゃない。ボクとチュウをしたから……赤くなったんだ。
「トレーナー! だぁーい好き!!」
「おうわっ!? だから突然に抱きついてくるなって!」
「そう言って〜、耳が赤いのは分かってるんだからねっ!」
「お前なんて耳だけじゃなく顔まで真っ赤だろ!」
いつもと同じような言い合い、けど今は関係が違う。
トレーナーとウマ娘、じゃなくて、恋人と恋人。
目と目が合う。前だったらとっくに離れていたけど、今は、なんとなく一歩前に出た。
違う。なんとなく、なんて言ったけどホントは嘘。もう一回、トレーナーとチュウがしたかったんだもん。
「……ん」
「……」
目を閉じて唇を差し出せば、柔らかいものが触れるのを感じる。
そのままボクとトレーナーは、しばらく唇を重ね続けていた。
好きな人と触れ合えるとこんなに嬉しい気持ちになるんだね……。
大好きだよ、トレーナー。
「トレーナー……なにこれ」
「見るなあああ! 見ないでくれぇぇぇええ!!!!」
テイオーの目の前で泣き叫ぶトレーナー。その必死な形相にテイオーは引きつった笑みを浮かべることしか出来なかった。
いつもトレーナーが付けている日誌とは別に書いている1冊の錠前付きのノート。トレーナーは肌身離さず持ち歩いており、随分と書き込まれているようで日誌よりもボロボロだった。
トレーニング終わりにチームルームに寄ってみるとたまたま鍵が掛けられてなかったようで、ノートが開かれていた。
テイオーは勝手に見てしまってもいいのかという罪悪感と、いつも何を書いているんだろうという好奇心の間で天秤が揺れ、結果──
「これは……ボクとトレーナーの小説?」
好奇心が勝った。信頼するトレーナーが自分にも見せてくれないノート、テイオーだって気になって仕方がなかったのだ。
読んでみればテイオーの目線で物語が描かれており、ぱっと読んで見た感じ普通の恋愛小説だった。多少テイオーのトレーナーに対する愛が重いところを除けば普通の恋愛小説だった。
トレーナーとテイオーが両思いになりキスを交わしたところでトレーナーが戻ってきて、そして悲鳴をあげた。
「なんで小説なんて書いたの?」
「いや、ほら。なんというか……そう、出来心?」
「ゴールドシップにバラしちゃおっかなー」
「嘘ですテイオーとこんな関係になれたらいいなーって言う欲望をノートに吐き出していただけですすいませんでしたぁああ!!!」
それはもう綺麗な土下座だった。ゴールドシップという言葉はトレーナーがこの世で一番恐れている言葉だ。彼女にこのノートのことがバレれば次の日にはこの学園にトレーナーの居場所はなくなっていることだろう。
テイオーはトレーナーの独白に顔を赤らめながら「そっ、そっか……」と言いそっぽを向いた。
「それなら言ってくれればよかったのに……」
「ん? 今なんて言った?」
「なっ、なんでもないよーだ!! とにかく! これは没収!」
「うわあああ! 俺のテイオー妄想ノートvol.3がぁああ!!」
「誰にも見せないように保管しておくからそこは安心して。……ん? ぼりゅーむさん? 待って、他にもこのノートあるの!?」
照れくさい感情を誤魔化しつつノートを取り上げるとトレーナーの口からとんでもない言葉が飛び出た。どうやらあと2冊も同じようなノートがあるようだ。とんでもない妄想力である。
「あ、ああ。俺の部屋の机にしまっている。あっ! あれまで取り上げるのはやめてくれ!!」
「…………だーめ! さっ、トレーナーの部屋に行くよー!」
「うわあああ!!!? 頼むよテイオー!!! ほらっ! ハチミー奢るから! なっ!! なっ!!!」
「ポエミーポエミーポエミー、ポエミーを綴るーと、顔がー顔がー顔がー、赤くーなーるぅ」
「いっそ殺せぇぇええええ!!!!」
絶望に沈んだトレーナーの表情、羞恥心に耐えきれず慟哭したその顔を見て、テイオーは──
「可愛いなぁ」
妖しく笑っていた。
ヤンデレと思いきや純愛?と見せかけて最後の最後でヤンデレの片鱗を見せつける作者のウデマエ。
鍵を掛けて肌身離さず持ち歩いているのになーんで今回に限って鍵をかけないで部屋に置きっぱにしてるんですかねトレーナーさんは?
あと ウマ娘
プリティーダービーは頑張ったけどこれが限界……あとは任せた……