モンスターハンターライズ ~瑠璃色の歌姫と黎明の剣斧~ 作:丙玄武
ボク――リンコは、あいつを観察していた。
――ユウリ。
いつもニコニコしている、良く分からない奴。
里の人達の心をあっと言う間に掴んでしまった、そんな男だ。実力がないのに、人に取り入る術は一人前だなと思う。
武器はツインダガーⅡになったようだけど、防具が全然だ。
オサイズチの防具。足と腕が揃ったけど、だから何だという話。他はレザーって。どうなんだろうそれ。
積極的に武器や防具を作っている、というよりは、里の人の困りごとをズバリ解決していく、って言う方針みたいだ。それはいいと思う。里にも馴染めるし、なにより、ボクだけではそれは回らない。里の人達を助けてくれてるのは、本当にありがたいと思う。
でも、戦いで役に立たない人なら、足手纏いだ。
様々なモンスターを狩って、強い武器防具を作って備えて、そして、来たるべき百竜夜行とマガイマガドに打ち勝つ。
それが、ボクの目標であり、活動方針だ。
彼はあてにならない。なら、自分が高みに昇るしかない。
幸い、雑用的な仕事ばかり、彼は請け負ってくれている。ボクは、モンスターに集中できる。それはとてもありがたい事だった。
「何難しい顔してんの、リンコ!」
「……ヨモギ。団子屋は?」
「休憩なのだ!」
懐っこい笑みを浮かべて、ヨモギが隣に座る。
年が近いため、一緒に育った……姉妹のようなもの。スタイルは……ボクの方が、良くなってしまった。よくヨモギにもまれるけど、今日はお目当ては別っぽい。
彼女の視線を追う。いや、誰を見ているか、明確にわかってしまった。
ユウリだ。団子を一口食べて、ほんにゃりしている。ハンターなら一気にいってほしいところだ。
「美味しそうに食べるよね、ユウリさん!」
「まぁ、そだね」
「もー。彼いい人だよ、リンコ。運ばれてくるはずだった散らばった荷物集めてくれたし、それに、材料運ぶの手伝ってくれてたし。朝一番の仕込みから手伝ってくれてるんだもん、本当に優しいよ。いやー、ハンターってすごいんだね、団子粉の袋一気に片手に二つずつ担いじゃうなんてさ。まぁいいや。意地張るのやめて、仲良くしてよ!」
「別に悪い人だって思ってないよ。ただ、足手纏いはこれから先、要らないから」
「相変わらず厳しいなぁ。リンコってさ、自分に高い目標を課すけどさ、それを人にまで求めるのは良くないよ」
「……。かも、しれないけどさ。でも、里のピンチなんだ。高くもなるよ、目標」
ボクは、生まれ育ったカムラの里が好きだ。
団子屋も好きだし、飴も好きだし、お握りも好きだし。
里の人もいい人達ばっかりで……捨て子だったボクにまで、こんなによくしてくれた。
恩を返したい。
この里を、守りたい。
その想いの強さは、少なくともあの男にはないものだと思う。比肩するのもおこがましい。
「それに、今からじゃ間に合わないよ。ビシュテンゴも狩猟したし、後はからくりの完成を待つだけ。それまでに、せめて☆4のクエストくらい受けれるようになってくれなきゃ」
「たっはー、厳しいなあリンコは! あのハモンさんも認めてるんだよ? よく気が利いて、鍛冶も手伝ってもらってるんだって!」
「え!?」
それは驚いた。ハモンさんはこの村の鍛冶師で、武器全般の加工をしてくれるんだけど……頑固で、自分の仕事に絶対に他人を関わらせない、融通の利かなさがあった。それでも腕は確かで、この武器もハモンさんに仕立ててもらったものだ。
あのハモンさんが、神聖である自分の仕事に関わらせるだなんて。
まるで真昼に星でも見たような気分になる。
「どれだけ人たらしなの、あの人」
「いやぁ、穏やかで優しいし、紳士的だし。ていうか、あの性格でホントに戦えてるのかなあ。いや、オサイズチの防具を作ってるくらいだから、狩人なんだろうけどさぁ」
それは同感だった。
ボクとは短い時間しか話してないけど、彼の口調はとても柔らかくて、穏やかだ。
でもなんだろう。凄く違和感がある。
まるで、その場所に本当にいていいのか、と思っているのが、何となくわかってしまう。自分に自信がなさそうなのだ。
でも、鍛えている体はそうは言っていない。自分はハンターだとちゃんと主張している。
だからこそ、感じる――違和感。
「……クエスト受けてくる」
「うん! うさ団子、食べてく?」
「そうする。ここで食べたい」
「はいはーい、注文は? いつものにする?」
「お願い」
「あれ美味しいよね! よーし、すぐ持ってくるね!」
そう言いながらヨモギは再び下の方に消えていった。
……ふと、思い出す。
団子粉の入っている袋は、少なくとも子供一人分の重さがある。
それを二個ずつ、片手で……?
クエストに出発していった、リンコという少女。
どうやら俺は避けられているようだと分かったのは、最初からだけど。
足手纏いは必要ない、か。確かに、今の装備は貧弱だよなあ。
もう少し切れ味のいい武器が欲しい。でも、まだまだ素材が足りないんだよね。
それに、まずは防具だ。確実に攻撃を防げるようなものを作ってから、飛竜に挑みたい。
それはどちらかといえば慎重派の俺だから、そうしていた。
あの装備があれば……いや、未練がましいな。
それに、何となく再び強くなっていっている実感がするので、楽しくはあった。
でも、リンコが求めているのは、即戦力。
そう言った意味では、俺はそれに見合っていないのだろう。
客観的に見てもそうだし、自覚もしている。
だからといって、このままにはしておけないが。
「ふぅ……」
そう言えば、ここ最近大社跡に謎のハンターが出没しているらしい。
見たこともない装備だが、戦いもせずに、ハンターや通行人を一瞥して去って行くのだとか。危害とかはないから、それはどうでもいいか。
にしても、うさ団子美味しいなぁ。
モチモチしてて、甘くて、腹持ちが良くて。ヒノエさんが大量に注文している姿をよく見るけど、その気持ちは良く分かる。
と思っていたら、ヒノエさんが走ってやってきていた。
「ヒノエさんもうさ団子ですか?」
「それどころじゃないんです!」
剣呑な雰囲気に、思わず顔が引き締まる。
「どうしました?」
「先ほどリンコさんの向かった大社跡に……じょ、上位の、ヨツミワドウが!」
「よ、ヨツミワドウ?」
初めて聞くモンスターに首を傾げる。
「どういうモンスターなんですか?」
「大きい、その、鰐のような、河童のような……丸い形の……」
「……?」
「と、ともかく、あの個体は集会所上位のモンスターなんです! 今のリンコさんでは無理です、お願いしますユウリさん、彼女を連れ戻してもらえませんか!?」
「俺の言うことを聞くとは思えないのですが……」
「お願いします!」
真剣な願いだ。リンコは、この里で愛されてるんだな。
……大丈夫だ。連れ戻すだけ。それだけなら、この装備でもできる。
やれるとも。自信を持て。
「分かったよ、連れ戻してくる」
「ああ、ありがとうございます! では、お願いします……! くれぐれも、お気をつけて! 戦おうなどと考えてはいけませんよ!」
「はい、無理はしません」
頷いてから、俺はリンコの向かった場所へ駆け出して行った。
「……大丈夫かしら、彼で」
「心配ありませんわ、姉様」
「ミノト! どういうことなのですか?」
「……たった今、ギルドから詳細な情報が送られてきました。彼は、各地を転々とし、そして――世界で三本の指に入る実力者なのですよ」
「ふぅ」
ビシュテンゴの狩猟。楽勝、とまではいかないけど、楽な相手だった。
ボクの防具はインゴットシリーズ。重いけど、防御力は確か。重みのせいか、風圧だって怖くない。
もっとも、ビシュテンゴにのけぞらされることなんて、ないけども。
武器を研ぐ。よし。準備完了!
このまま追撃を――
「?」
ヨツミワドウだ。合流されても面倒だし、ここで撃退しておこう。
近づき、笛を振り下ろす。
――ガツン!
「え!?」
弾かれた!?
切れ味が落ちてきてる……いや、さっき研いだはずなのに!
混乱したボクは、ゆっくりした動きのヨツミワドウの攻撃を避けきれずに、受けて、地面を転がった。
つ、強い……! 明らかに、変な個体だ! 村で受けれるクエストのレベルじゃない!
でも、それなら余計逃げるわけにはいかない!
万一、ユウリが遭遇したら、死んでしまう!
「ったぁああああ!」
再び振り下ろすが、ダメだ、通じない!
がら空きの胴に、拳がめり込む。肺の空気が全て持っていかれるような感覚。
転がり、急に吸い込み過ぎた。跳ね返った土が口の中に入って、じゃりじゃりしている。咳き込むボクに、容赦なく、ヨツミワドウが迫る。
……ん? 何で、嘴が破壊されてるの?
そんなどうでもいいことを、酸素が回らなくてボーっとする頭で考えてしまった。
――振り下ろされる、腕。
だけど、その腕は寸ででボクに届かなかった。
ボクは、引きずられて下げられた。
「良かった、間に合って――!」
頼りないと断じた、あの男によって――
「何、してるの……?」
後ろから、そんな声がする。
フラフラの癖に立ち上がろうとして。けども、俺はそちらを見ることはない。気配でわかるけど、大丈夫。
双剣を構える。ちんけな武器だ。認めよう、この装備ではこのモンスターには勝てない。あの時のモンスターだ。通行していた新人ハンターを襲った、確かに河童のようなワニのような、ドでかい丸いモンスター。
あの武器でへし折ったのだ。その感覚と手ごたえが伝えている、全く今の装備では攻撃が通らないと。
だが、意識をそらすことならできる。
「逃げて。時間を稼ぐ」
「無理、だよ……! そんな武器じゃ……!」
「いいから逃げろ。――足手纏いだ」
一呼吸入れる。
迫りくる巨体に対し、俺は刃を鳴り散らしながらかちあげた。金属音と、隆起する赤いオーラ。
「……鬼人化」
そう、双剣の大技――鬼人化。
あふれ出る力が抑えられない。衝動のまま走り、刃を叩きつける。
弾かれたが、構わない。ただひたすらに相手に連撃を叩きこんでいく。
少々表皮を削り、やがてそれが大幅に傷を抉っていき、血の旋風が巻き起こる。地面を赤黒く染めるそれに構わず、俺は敵の攻撃をステップで避けながら、ただただ同じ個所に攻撃を決めていく。
「……」
逃げるのを忘れているのか、呆然とこちらを見るリンコの姿があった。
目が合う。彼女はハッとした表情を見せ、即座に踵を返して駆け出して行った。頭のいい子だ、それでいい。
俺も、後は疲れるまでこいつとやり合うだけだ。
「……行くぞ、化け河童」
逃げて、逃げて、逃げて。
逃げおおせた……よかった。
ん? キャンプに、誰かいる。
見たことない防具だ。白いそれはとても、強靭な気配がした。
でもなぜだろう、その人に全くと言っていいほどオーラを感じない。
ハンターなのだと思うけど、一般人のそれと何ら変わらない。
それは防具のサイズが合ってないからだろうか。見るからに大きめで、挙句に男性用。でも気配でわかる。この人、女の子だ。
「……聞きたいんですけど。黒い髪で、ニコニコしてる男の人、知りませんか?」
「ユウリ……?」
「は、はい! そうです、ユウリさんです!」
嬉しそうな声を出す彼女は、防具と武器を脱ぎ捨てた。可愛い女の子だ、金髪で、いかにも活発そうな顔立ちをしている。
「この防具と武器を、彼に返してください!」
「き、キミは?」
「ワタシはルインと言います。ポッケ村という場所から来ました、ハンターです。カムラの地で武器を作ってもらおうとしてたんですけど、移動の最中、あの河童みたいなのに襲われて……。ユウリさんに助けてもらったんです。それで、里までこれを着て逃げろって言われて……逃げたんですけど……。ワタシの双剣で相手をしてると思うんですけど、違うんです! これが、本領の武器なんです!」
重そうに差し出してきたのは、スラッシュアクスだった。
黒い、無骨な――まさか、これ。素材……ディアブロス亜種のものなの?
じゃあ彼は――自分の本領じゃない初心者用の武器で、あんな格の違うモンスターと渡り合っていたというの!?
足手纏い……言われたその言葉が響く。
まさか、自分の方が足手纏いだったなんて。
「……届けに行く! ルイン、キミも行こう!」
「は、はい!」
そう返事をする彼女に頷き返し、ボク達は再び戦場に戻っていった。
「くそっ」
役に立たない双剣を捨てたいのは山々だが。
一応借りものだし。後で手入れするから、許してくれ。
切れ味が限界に近い。これ以上無理をするとへし折れるかもしれない。
……引くか。いや、でも。
このまま居座られると、非常に面倒だ。本来の武器と防具なら、この程度のモンスターは軽いのだけど……。
内心で舌を打つ俺に、届く声。
「お返し、しますぅぅぅぅっ!」
ぶん投げられて、空を切る、聞き覚えのある質量。
地面に突き立ったそれは、俺の愛用武器――ハデス。
黒ディアブロスの素材で作った、剣斧……スラッシュアクス。
双剣を投げ捨て、手に取る。しっくりくる重量感と、充実していく感覚。
――これなら、負けない。
「おおおおォォォォッ!」
斧のままぶん回して、振り下ろしながらスイッチ。剣に切り替わる。
突然の切れ味の違いにヨツミワドウは驚いていたか。だが、関係ない。
このまま、属性解放突きを叩きこむ。
「っ!」
凄まじい威力の爆発でフィニッシュ。
よたよたと逃げようとするヨツミワドウ。しかし、俺の剣の方が早い。
怯み、そのうちに攻撃を叩きこまれ、ついにヨツミワドウは絶命した。
食いしばっていた歯から、力を抜く。思わずその場に座り込むと、いつか見た女の子と、リンコが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫ですか!? お、覚えていらっしゃいますか、わ、ワタシ、いつかの……!」
「うん。無事だったみたいでよかったよ」
「……」
「リンコも、投げてくれてありがとう。本当に助かったよ。あ、ダガーごめんね、そこらに落ちてると思う。使い込んじゃったから念入りに砥石掛けといて」
とりあえず、そう言って。
俺達は、ビシュテンゴのクエストを達成できないまま、上位のヨツミワドウの素材を剥いで、帰ることになった。