モンスターハンターライズ ~瑠璃色の歌姫と黎明の剣斧~   作:丙玄武

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五話 アオアシラ

 振りかぶった斧を叩きつける。

 

 確かな腕力を持ってぶつけたそれは、アオアシラの腕の甲殻を破壊する。砕け散った破片が水面に散らばる中、痛みのあまり激高したアオアシラが二本の足で立ち上がる。

 

 そこへ、吸い込まれるようにボウガンの弾が撃ち込まれる。

 

 ルインが操るハンターライフルⅠだ。麻痺弾が撃ちこまれ、神経毒がアオアシラの四肢の自由を奪う。

 

「よい、っしょお!」

 

 アオアシラの顔面に振り下ろされるのは、狩猟笛。唸るような一撃は、アオアシラを怯ませつつ、意識を奪っていく。その後、リンコの一撃が決まっていた。

 

 押せ押せな雰囲気の中、俺は斧を振り下ろしながらトリガーを引く。

 斧の部分が下がってくる。それをしながら剣の状態のそれで切りつけ、連続で斬撃を叩きこんだ後、頭に剣を突き刺す。

 

 吹き出す瓶を持っての衝撃。決して少なくない爆発の連鎖。その後に、ひときわ大きな爆発が猛り吠えた。

 

 地面を震撼させる一撃。属性解放突きのフィニッシュ。

 

 その後、瓶が消耗してしまうけれども、既に――

 

 青い巨体が、ぐらりと揺らぎ、そのまま倒れ伏し、動かなくなった。

 

「アオアシラ、狩猟完了だね」

 

 そう声を掛けると、二人はこちらに集まって来た。

 

「お、お疲れ様です、師匠!」

「いや、やりやすかった。ユウリさんが注目集めてくれたからだよ!」

「二人のサポートあってこそだよ。さ、少し帰還の馬車が遅れるそうだから、ご飯にしようか。肉がいい? 魚がいい?」

「え、ユウリ、作れるの?」

「人並みには」

「じゃ、じゃあ、肉とキノコで」

「わかった」

 

 よろず焼きしてもらっていたアオキノコ。それと大社跡で獲れた、ブルファンゴの生肉を使う。

 アオキノコをスライスし、生肉を薄切りにして鍋に放り込む。

 ここでカムラの里で作られた醤油と、水、それから蜂蜜を入れて少し煮込む。ファンゴの生肉はそこそこ火を入れないとお腹を壊したりする。

 

 甘辛い味付けのそれが出来上がった。ユクモの村ではすき焼きと呼ばれた料理だった。

 

「どうぞ」

「頂きます!」

「……」

 

 俺の料理の腕を知っているルインは疑わずに手を伸ばしたが、リンコは疑わし気にそれを箸で突く。ちなみにルインはフォークだった。

 

 薄切り肉を頬張ると、リンコは驚きに目を見開いていた。

 

「お、美味しい! え、ユウリ料理できるんだ!」

「覚えたんだよ。味気なかったしね、いつもの食事は」

「懐かしいなあ。唐辛子と岩塩をポポノタンに染みこませた料理とか、雪山に行くとき、振る舞ってくれました! ポカポカしてましたねえ」

「ああ、あれか。懐かしいね。あれは体を温める目的の料理だったから、味は忘れちゃったなぁ」

「美味しかったですよ!」

「ありがと、ルイン。ポッケ村とかは結構環境があれだったけど、ここは本当に過ごしやすいよ。ちょっと虫が多いけど」

 

 すぐ虫がたかるのが、個人的にはそんなによろしくない。あんまり羽虫は好きではない。

 

 本音を言えば翔虫もそんなに好きではなかった。しかし、従順に教えたことを愚直にこなす虫を見ていると、割といいかなって思う時もある。

 

 本来なら、俺にもオトモが付いているはずなのだが。

 現在、その人間に与するアイルー……オトモアイルーや、狼型のモンスター、オトモガルクなどの雇用を一手に担うイオリという少年が、少し私用でどこかに行っているらしい。

 

「はい、これはおにぎりとよく合うよ」

 

 おにぎりを握ってくれた少年を思い出しながら、それを手渡す。

 少し大きめのそれは、食べ応えがありそうだった。齧りつくと、塩気を感じて、それだけでも美味いのだが、中に川魚の解し身があり、二度おいしい。

 

 黙々と食事が消化されていく。こういう光景は珍しくない。ハンターは食べる時にあまり喋らない。酒を飲むときなら饒舌にもなるが、モンスターを招きかねない声での会話は基本控えられている。

 

 食後、汲んできた水を手渡し、それらを飲み下す。本来なら肉焼きセットの火で煮沸するのだが、ここは水が綺麗だ。恐らく大丈夫だろう。

 

「夜もアオアシラを狩りにここに戻ってくる。まずは防具からだ、ルイン。その間にもう少しマシなボウガンを作ろう」

「は、はい!」

「リンコもそれでいい?」

「うん!」

「よし。……迎えも来たようだね」

 

 キャンプから狼煙が上がっている。

 それらを見て、俺達は重い腰を上げるのだった。

 

 

 

 

 帰って来た俺に話しかけてきたのは――いや、話しかけてはいない。だが、変わらない表情の女性が、ただじっとこちらを眺めている。

 

「……」

「えっと……確か、ミノトさん、でしたよね?」

 

 ヒノエさんの妹さんだ。

 容姿は瓜二つなんだけど、どうにも与えてくる印象が違う。

 

 ヒノエさんは穏やかで人当たりよさそうだけど、こちらのミノトさんはどこか神秘的というか、人を寄せ付けないような、不思議な魅力を放っていた。

 

「はい、ミノトと申します。ユウリ様」

「いや、様付けはよしてほしいんだけど……」

「いえ、実質的なギルドの功労者ですから。このような辺境まで足を運んでいただいて、我らカムラの里の一同、感謝しております」

「い、いえ、そんな……。こんな俺なんかを受け入れてくださって、ありがとうございます!」

「……自己評価が低いのですね」

「俺は恋人すら守れない、単なる馬鹿ですから」

「そんなに自分を卑下しないでください。ワタシ達は、馬鹿に助けられたとおっしゃりたいのですか?」

「……いえ、すみません。そんなつもりじゃ……」

「お話は、伺っています。最愛の恋人を、目の前で食べられてしまったと。……心中、お察しします。ですが、なぜまた狩人に? 一度、辞められていますよね」

 

 この人は事情を知っていそうだし、話すのはやぶさかではない。

 

「……その恋人の妹が、俺に言ったんです。狩り続けろ、それが贖罪だ、と。でも、自分の意思が、もう分からなくなっていて。いや、最初から意思なんてなかったんです。人が望んだから、そうしようとここに来るまでは言い訳ばかり考えていました。ここに来たのは、忘れたかったからです。戦うのはここで終わりにしようって、思ってました。そんな時、リンコに叩かれたんです。……そして、俺は自分の意思で、人を幸せにしたいと決めた。同時にそれは、人を守りたいという思いに繋がる」

「だから、剣を再び取った、と?」

「ええ。……みっともない、でしょうね」

「いえ。……つらい過去を思い出させてしまい、申し訳ございません。でも、リンコの隣にいるアナタを、知っておきたかったのです」

「愛されてるなあ」

「家族みたいなものですから」

 

 そうやって、ようやく変わった表情は、微笑みだった。

 不器用な笑みだ。これよりも綺麗な笑みは腐るほど見てきたが、彼女はただ優しく微笑んでいる。

 

 綺麗な人だな、と増々思った。

 

「お時間を取らせて、申し訳ございませんでした」

「いえ、こちらこそ。ミノトさんも、何かあれば自分やリンコにお願いします」

「頼らせて頂きますね」

「たたた、大変! 大変だー!」

 

 慌てて駆け込んできたのはヨモギだった。騒々しい彼女に、ミノトは少し目を細める。

 

「ヨモギ、騒がしいですよ」

「だ、だって! い、イオリ君が、ピンチなんだよぅ! り、リオレイアが! 大社跡まで帰ってるイオリ君のとこにいるって!」

「オーケー」

 

 それだけ訊けば十分だ。

 

「超特急で行ってくる。大丈夫、きっと助けるから」

 

 ヨモギちゃんの肩に手を乗せ、微笑む。そして、リンコとルインを呼びに、俺は駆け出して行った。

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