モンスターハンターライズ ~瑠璃色の歌姫と黎明の剣斧~ 作:丙玄武
振りかぶった斧を叩きつける。
確かな腕力を持ってぶつけたそれは、アオアシラの腕の甲殻を破壊する。砕け散った破片が水面に散らばる中、痛みのあまり激高したアオアシラが二本の足で立ち上がる。
そこへ、吸い込まれるようにボウガンの弾が撃ち込まれる。
ルインが操るハンターライフルⅠだ。麻痺弾が撃ちこまれ、神経毒がアオアシラの四肢の自由を奪う。
「よい、っしょお!」
アオアシラの顔面に振り下ろされるのは、狩猟笛。唸るような一撃は、アオアシラを怯ませつつ、意識を奪っていく。その後、リンコの一撃が決まっていた。
押せ押せな雰囲気の中、俺は斧を振り下ろしながらトリガーを引く。
斧の部分が下がってくる。それをしながら剣の状態のそれで切りつけ、連続で斬撃を叩きこんだ後、頭に剣を突き刺す。
吹き出す瓶を持っての衝撃。決して少なくない爆発の連鎖。その後に、ひときわ大きな爆発が猛り吠えた。
地面を震撼させる一撃。属性解放突きのフィニッシュ。
その後、瓶が消耗してしまうけれども、既に――
青い巨体が、ぐらりと揺らぎ、そのまま倒れ伏し、動かなくなった。
「アオアシラ、狩猟完了だね」
そう声を掛けると、二人はこちらに集まって来た。
「お、お疲れ様です、師匠!」
「いや、やりやすかった。ユウリさんが注目集めてくれたからだよ!」
「二人のサポートあってこそだよ。さ、少し帰還の馬車が遅れるそうだから、ご飯にしようか。肉がいい? 魚がいい?」
「え、ユウリ、作れるの?」
「人並みには」
「じゃ、じゃあ、肉とキノコで」
「わかった」
よろず焼きしてもらっていたアオキノコ。それと大社跡で獲れた、ブルファンゴの生肉を使う。
アオキノコをスライスし、生肉を薄切りにして鍋に放り込む。
ここでカムラの里で作られた醤油と、水、それから蜂蜜を入れて少し煮込む。ファンゴの生肉はそこそこ火を入れないとお腹を壊したりする。
甘辛い味付けのそれが出来上がった。ユクモの村ではすき焼きと呼ばれた料理だった。
「どうぞ」
「頂きます!」
「……」
俺の料理の腕を知っているルインは疑わずに手を伸ばしたが、リンコは疑わし気にそれを箸で突く。ちなみにルインはフォークだった。
薄切り肉を頬張ると、リンコは驚きに目を見開いていた。
「お、美味しい! え、ユウリ料理できるんだ!」
「覚えたんだよ。味気なかったしね、いつもの食事は」
「懐かしいなあ。唐辛子と岩塩をポポノタンに染みこませた料理とか、雪山に行くとき、振る舞ってくれました! ポカポカしてましたねえ」
「ああ、あれか。懐かしいね。あれは体を温める目的の料理だったから、味は忘れちゃったなぁ」
「美味しかったですよ!」
「ありがと、ルイン。ポッケ村とかは結構環境があれだったけど、ここは本当に過ごしやすいよ。ちょっと虫が多いけど」
すぐ虫がたかるのが、個人的にはそんなによろしくない。あんまり羽虫は好きではない。
本音を言えば翔虫もそんなに好きではなかった。しかし、従順に教えたことを愚直にこなす虫を見ていると、割といいかなって思う時もある。
本来なら、俺にもオトモが付いているはずなのだが。
現在、その人間に与するアイルー……オトモアイルーや、狼型のモンスター、オトモガルクなどの雇用を一手に担うイオリという少年が、少し私用でどこかに行っているらしい。
「はい、これはおにぎりとよく合うよ」
おにぎりを握ってくれた少年を思い出しながら、それを手渡す。
少し大きめのそれは、食べ応えがありそうだった。齧りつくと、塩気を感じて、それだけでも美味いのだが、中に川魚の解し身があり、二度おいしい。
黙々と食事が消化されていく。こういう光景は珍しくない。ハンターは食べる時にあまり喋らない。酒を飲むときなら饒舌にもなるが、モンスターを招きかねない声での会話は基本控えられている。
食後、汲んできた水を手渡し、それらを飲み下す。本来なら肉焼きセットの火で煮沸するのだが、ここは水が綺麗だ。恐らく大丈夫だろう。
「夜もアオアシラを狩りにここに戻ってくる。まずは防具からだ、ルイン。その間にもう少しマシなボウガンを作ろう」
「は、はい!」
「リンコもそれでいい?」
「うん!」
「よし。……迎えも来たようだね」
キャンプから狼煙が上がっている。
それらを見て、俺達は重い腰を上げるのだった。
帰って来た俺に話しかけてきたのは――いや、話しかけてはいない。だが、変わらない表情の女性が、ただじっとこちらを眺めている。
「……」
「えっと……確か、ミノトさん、でしたよね?」
ヒノエさんの妹さんだ。
容姿は瓜二つなんだけど、どうにも与えてくる印象が違う。
ヒノエさんは穏やかで人当たりよさそうだけど、こちらのミノトさんはどこか神秘的というか、人を寄せ付けないような、不思議な魅力を放っていた。
「はい、ミノトと申します。ユウリ様」
「いや、様付けはよしてほしいんだけど……」
「いえ、実質的なギルドの功労者ですから。このような辺境まで足を運んでいただいて、我らカムラの里の一同、感謝しております」
「い、いえ、そんな……。こんな俺なんかを受け入れてくださって、ありがとうございます!」
「……自己評価が低いのですね」
「俺は恋人すら守れない、単なる馬鹿ですから」
「そんなに自分を卑下しないでください。ワタシ達は、馬鹿に助けられたとおっしゃりたいのですか?」
「……いえ、すみません。そんなつもりじゃ……」
「お話は、伺っています。最愛の恋人を、目の前で食べられてしまったと。……心中、お察しします。ですが、なぜまた狩人に? 一度、辞められていますよね」
この人は事情を知っていそうだし、話すのはやぶさかではない。
「……その恋人の妹が、俺に言ったんです。狩り続けろ、それが贖罪だ、と。でも、自分の意思が、もう分からなくなっていて。いや、最初から意思なんてなかったんです。人が望んだから、そうしようとここに来るまでは言い訳ばかり考えていました。ここに来たのは、忘れたかったからです。戦うのはここで終わりにしようって、思ってました。そんな時、リンコに叩かれたんです。……そして、俺は自分の意思で、人を幸せにしたいと決めた。同時にそれは、人を守りたいという思いに繋がる」
「だから、剣を再び取った、と?」
「ええ。……みっともない、でしょうね」
「いえ。……つらい過去を思い出させてしまい、申し訳ございません。でも、リンコの隣にいるアナタを、知っておきたかったのです」
「愛されてるなあ」
「家族みたいなものですから」
そうやって、ようやく変わった表情は、微笑みだった。
不器用な笑みだ。これよりも綺麗な笑みは腐るほど見てきたが、彼女はただ優しく微笑んでいる。
綺麗な人だな、と増々思った。
「お時間を取らせて、申し訳ございませんでした」
「いえ、こちらこそ。ミノトさんも、何かあれば自分やリンコにお願いします」
「頼らせて頂きますね」
「たたた、大変! 大変だー!」
慌てて駆け込んできたのはヨモギだった。騒々しい彼女に、ミノトは少し目を細める。
「ヨモギ、騒がしいですよ」
「だ、だって! い、イオリ君が、ピンチなんだよぅ! り、リオレイアが! 大社跡まで帰ってるイオリ君のとこにいるって!」
「オーケー」
それだけ訊けば十分だ。
「超特急で行ってくる。大丈夫、きっと助けるから」
ヨモギちゃんの肩に手を乗せ、微笑む。そして、リンコとルインを呼びに、俺は駆け出して行った。