モンスターハンターライズ ~瑠璃色の歌姫と黎明の剣斧~ 作:丙玄武
まず、狼煙をあげた。
それを提案したのはリンコだったが、俺が設置している時にはもうすでにその場から走り去っていた。行動が早い。イオリ君、だったっけ。愛されてるな。
「し、師匠。どうしましょう」
「ルイン、俺達も急ごう……ん?」
狼型のモンスターがそこにいた。片目に傷を負う、隻眼の狼が、こちらにすり寄ってくる。ガルクだ、確か。オトモになってくれるモンスターの種類の一種。
「……女の子ですね、この子」
「性別が分かるのかい、ルイン」
「ええ、まあ。パッと見れば雄雌が分かりますよ」
さりげなく凄い特技だな。
防具を引っ張ってくる。
「乗れと?」
がう、と吠えるガルク。
「ルイン、後を追ってきて。俺は乗っていく」
「はい、師匠! ご武運を!」
その言葉に微笑み返し、俺は黒色の毛のそいつにまたがる。
凄まじい勢いで走りだした。姿勢が崩れそうになるものの、何とか踏ん張る。
「!」
「先に行く!」
リンコを抜かして、崩れた社のある場所へ。
小型モンスターを置き去りにして、たどり着いた先には、壁際に追い込まれた少年。
――首をもたげるリオレイア。
それが、どうしようもなく、あの時の光景を想起させる。
守れるのか。
いや、守り通せ。
その一撃で、屠ればいい。
そうだろ。それが、狩人だろ。
彼女に、牙を立てたあの竜を屠ったように。
「っらぁぁぁぁ!!」
ガルクから飛び降りつつ、斧を振り下ろす。
鈍い手応え。しかしそれは、打撃として脳天に振り下ろされる。開けていた口が強引に閉ざされる。
反動で斧が持ち上がる。それに逆らわず、トリガーを引きながら変形させ、剣になったそれを喉元に突き刺し、更に引き金を絞る。刺さった瞬間に、トリガーを何度も引いて戻していく。
属性解放突きがヒットする。トリガーを引くごとに、連続する爆発。内蔵されている瓶が剣先にあふれ出し、少しの衝撃で爆ぜる液体が、爆発しながらも溜まり――炸裂する。
反動で地面に転がるリオレイアに対し、こちらは武器をしまった。
ポカンとしている少年に顔を向ける。
「逃げられるか!」
「は、はい!」
「よし、行け。リンコが近くに来てるから合流してくれ。このままリオレイアを狩猟するなら白い狼煙を。逃げるなら赤い狼煙だ!」
「分かりました!」
聞き分けのいい少年だ。自分のできることをちゃんと理解し、人に助けを求められる。そこいらの大人より、よっぽど大人っぽい。
「さて、逃げるまで――遊んでやるよ、リオレイア」
びりびりと空気を震撼させる咆哮が唸る中、聞き飽きたそれに耳を顰めつつ、斧を構える。
もたげる首を眺めつつ、切り込んでいった。
三分程度、攻撃を与え続けた。
それなりにリオレイアも消耗しているようだった。こちらに敵愾心はあるようだが、動きが伴っていない。
キャンプの方の空を見る。――白い狼煙。狩猟か。
足音も聞こえる。
「ルイン、麻痺弾! リンコは頭狙って! 俺は尻尾を落とす!」
「了解!」「はい、師匠!」
遠く声が聞こえる中、斧を振り下ろし、反動で跳びあがる。リオレイアの後方に縦回転しながら移動しつつ、トリガーを引く。剣に変形した反動で急に高度が下がる――と同時に、尻尾に一撃入れる。
麻痺弾がすぐさま撃ち込まれ、動きが拘束される。ルインは才能があるのか、上手く当てていた。百発百中、とはいかないが、八割方は的に当たっている。
動きが止まる中、尻尾に向かって切りつけまくる。神経毒――つまりは、麻痺による拘束はあまり長くない。今のうちに、より深くにまで肉を抉っていく。
そして、神経毒が抜けたリオレイアがその場で翼をはためかせた。
――刹那。
轟音が。それは狩猟笛が頭蓋骨にたたきつけられた音。
既に鱗などが破壊されている頭にぶち込まれた豪快な一撃は、リオレイアの意識を奪い、転倒させる。
「よし」
刀身を思いっきり尻尾に突き刺し、取り付く。そのまま剣を解放し、瓶での爆発の連鎖が尻尾に叩き込まれ、最後の爆発で尻尾の先がリオレイアと泣き別れた。
「! 師匠、弱ってます!」
「分かった!」
すかさず、シビレ罠を仕掛けていく。
倒れたまま動きを拘束され、ルインがすでに装填済みだったらしく、麻酔弾を撃ち込んで、リオレイアはその場で寝息を立て始めた。
狩猟、完了だ。
「ありがとうございます、ユウリさん!」
「ああ、うん。イオリ君が無事でよかった」
イオリ君は少々傷を負ったらしく、今、ルインが治療している。
ああいう手当てはルインが得意で、よく俺もやってもらった。的確な処置をしてくれる。
「他に痛いところはありますか?」
「な、ないよ。ありがとう、ルインさん。で、あの、本当にユウリさんなんですよね……? あの、ポッケ村を救った双剣士! うわぁ、すごいなあ……! あ、握手してもらってもいいですか?」
「あ、ああ、うん。はい」
「うわぁ……! 凄く硬い、岩のようです……! ありがとうございます!」
ひたすら恐縮しきりな少年を前に、リンコは首を傾げていた。
「イオリ、なんか変だよ? ユウリにペコペコし過ぎ」
「だ、だって、リンコ! 知らないの!? 龍王伝説! その中で描かれている、『鬼人』のユウリさん! ってああ、リンコは本読まないもんね……」
「え、なにその話。俺知らないんだけど」
「ああ、これです」
渡された書物には、確かに白い装備を纏ったハンターが。俺に似てなくもないけど、こんな美形ではない。
読んでいくと、短編集のようだった。俺が出てくるのは第三章。双剣でアカムトルムに挑む話が書かれてある。
うーん、他人だと思ったけど、この動きは確かに俺のものだ。
「この本はどこから?」
「交易をしてるロンディーネさんから買ったものだよ」
「交易……」
なるほど、必要な素材とか売っているかもしれないな。チェックしておこう。
「ユウリさんは、もうオトモはいますか?」
「いや、そういうのはいないけど。君が斡旋してくれるって聞いてる」
「はい! ユウリさんには、こちらのルキナがおススメです! 若くてちょっと気難しいですが、お役に立てると思います!」
先ほどの黒い隻眼の狼だった。
こちらに近寄ってくる。頭を撫でると、嬉しそうに頭を擦り付けてきた。
「ほら、ルキナもユウリさんの実力を認めているみたいです。どうですか?」
「……来てくれるかい?」
それに一吠えし、答えたルキナの頭を撫でた。
「えっと、いくらだっけ」
「ルキナのレベルなら、千五百お願いします」
「はい、どうぞ」
「確かに。すみません、これが商売なので……」
「当たり前のことだよ。ありがとう」
「……本の通りだ。戦いの時は荒いけど、それ以外はとても穏やかな方。……うわあ……! 色々、お話聞かせてくださいね!」
「う、うん。いいよ」
「なーに、イオリ。ユウリのこと好きなの?」
「い、いや、憧れの人かな。ぼくはあんな風に戦えないから」
「ま、荒事はボクらに任せてよ! ね? ルイン、ユウリ!」
実に呑気なルキナの言葉に、ルインと俺は顔を見合わせた。お互いに苦笑を浮かべる。
「ほどほどにガンバリマス!」
「ベストは尽くすよ」
「よーし!」
手を合わせる俺達。
……もう一人、欲しいな。
できれば、注意を引いてくれるような……ドンドルマ時代の、兄貴――ヴォルンのような人が。
「かーっ、雅なところだなあオイ!」
男は豪快にそう笑う。
ゴム質の防具――ゲリョス一式を纏った姿。
ドでかい銃槍を担ぐ、大男。
空を仰ぎ見て、鳥が飛ぶのを眺めていた。
「……あいつぁ、元気でやってるかな。ユウリのやつぁ」
煙草に火を付けながら、リーゼント頭の男はニヤリと笑みを浮かべ、煙たい空気をいっぱいに吸い込んで、それを空へ放った。