モンスターハンターライズ ~瑠璃色の歌姫と黎明の剣斧~   作:丙玄武

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六話 リオレイア

 まず、狼煙をあげた。

 

 それを提案したのはリンコだったが、俺が設置している時にはもうすでにその場から走り去っていた。行動が早い。イオリ君、だったっけ。愛されてるな。

 

「し、師匠。どうしましょう」

「ルイン、俺達も急ごう……ん?」

 

 狼型のモンスターがそこにいた。片目に傷を負う、隻眼の狼が、こちらにすり寄ってくる。ガルクだ、確か。オトモになってくれるモンスターの種類の一種。

 

「……女の子ですね、この子」

「性別が分かるのかい、ルイン」

「ええ、まあ。パッと見れば雄雌が分かりますよ」

 

 さりげなく凄い特技だな。

 防具を引っ張ってくる。

 

「乗れと?」

 

 がう、と吠えるガルク。

 

「ルイン、後を追ってきて。俺は乗っていく」

「はい、師匠! ご武運を!」

 

 その言葉に微笑み返し、俺は黒色の毛のそいつにまたがる。

 凄まじい勢いで走りだした。姿勢が崩れそうになるものの、何とか踏ん張る。

 

「!」

「先に行く!」

 

 リンコを抜かして、崩れた社のある場所へ。

 小型モンスターを置き去りにして、たどり着いた先には、壁際に追い込まれた少年。

 

 ――首をもたげるリオレイア。

 

 それが、どうしようもなく、あの時の光景を想起させる。

 

 守れるのか。

 いや、守り通せ。

 

 その一撃で、屠ればいい。

 

 そうだろ。それが、狩人だろ。

 彼女に、牙を立てたあの竜を屠ったように。

 

「っらぁぁぁぁ!!」

 

 ガルクから飛び降りつつ、斧を振り下ろす。

 鈍い手応え。しかしそれは、打撃として脳天に振り下ろされる。開けていた口が強引に閉ざされる。

 反動で斧が持ち上がる。それに逆らわず、トリガーを引きながら変形させ、剣になったそれを喉元に突き刺し、更に引き金を絞る。刺さった瞬間に、トリガーを何度も引いて戻していく。

 属性解放突きがヒットする。トリガーを引くごとに、連続する爆発。内蔵されている瓶が剣先にあふれ出し、少しの衝撃で爆ぜる液体が、爆発しながらも溜まり――炸裂する。

 

 反動で地面に転がるリオレイアに対し、こちらは武器をしまった。

 ポカンとしている少年に顔を向ける。

 

「逃げられるか!」

「は、はい!」

「よし、行け。リンコが近くに来てるから合流してくれ。このままリオレイアを狩猟するなら白い狼煙を。逃げるなら赤い狼煙だ!」

「分かりました!」

 

 聞き分けのいい少年だ。自分のできることをちゃんと理解し、人に助けを求められる。そこいらの大人より、よっぽど大人っぽい。

 

「さて、逃げるまで――遊んでやるよ、リオレイア」

 

 びりびりと空気を震撼させる咆哮が唸る中、聞き飽きたそれに耳を顰めつつ、斧を構える。

 もたげる首を眺めつつ、切り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 三分程度、攻撃を与え続けた。

 それなりにリオレイアも消耗しているようだった。こちらに敵愾心はあるようだが、動きが伴っていない。

 

 キャンプの方の空を見る。――白い狼煙。狩猟か。

 

 足音も聞こえる。

 

「ルイン、麻痺弾! リンコは頭狙って! 俺は尻尾を落とす!」

「了解!」「はい、師匠!」

 

 遠く声が聞こえる中、斧を振り下ろし、反動で跳びあがる。リオレイアの後方に縦回転しながら移動しつつ、トリガーを引く。剣に変形した反動で急に高度が下がる――と同時に、尻尾に一撃入れる。

 麻痺弾がすぐさま撃ち込まれ、動きが拘束される。ルインは才能があるのか、上手く当てていた。百発百中、とはいかないが、八割方は的に当たっている。

 

 動きが止まる中、尻尾に向かって切りつけまくる。神経毒――つまりは、麻痺による拘束はあまり長くない。今のうちに、より深くにまで肉を抉っていく。

 

 そして、神経毒が抜けたリオレイアがその場で翼をはためかせた。

 

 ――刹那。

 

 轟音が。それは狩猟笛が頭蓋骨にたたきつけられた音。

 既に鱗などが破壊されている頭にぶち込まれた豪快な一撃は、リオレイアの意識を奪い、転倒させる。

 

「よし」

 

 刀身を思いっきり尻尾に突き刺し、取り付く。そのまま剣を解放し、瓶での爆発の連鎖が尻尾に叩き込まれ、最後の爆発で尻尾の先がリオレイアと泣き別れた。

 

「! 師匠、弱ってます!」

「分かった!」

 

 すかさず、シビレ罠を仕掛けていく。

 倒れたまま動きを拘束され、ルインがすでに装填済みだったらしく、麻酔弾を撃ち込んで、リオレイアはその場で寝息を立て始めた。

 

 狩猟、完了だ。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、ユウリさん!」

「ああ、うん。イオリ君が無事でよかった」

 

 イオリ君は少々傷を負ったらしく、今、ルインが治療している。

 ああいう手当てはルインが得意で、よく俺もやってもらった。的確な処置をしてくれる。

 

「他に痛いところはありますか?」

「な、ないよ。ありがとう、ルインさん。で、あの、本当にユウリさんなんですよね……? あの、ポッケ村を救った双剣士! うわぁ、すごいなあ……! あ、握手してもらってもいいですか?」

「あ、ああ、うん。はい」

「うわぁ……! 凄く硬い、岩のようです……! ありがとうございます!」

 

 ひたすら恐縮しきりな少年を前に、リンコは首を傾げていた。

 

「イオリ、なんか変だよ? ユウリにペコペコし過ぎ」

「だ、だって、リンコ! 知らないの!? 龍王伝説! その中で描かれている、『鬼人』のユウリさん! ってああ、リンコは本読まないもんね……」

「え、なにその話。俺知らないんだけど」

「ああ、これです」

 

 渡された書物には、確かに白い装備を纏ったハンターが。俺に似てなくもないけど、こんな美形ではない。

 読んでいくと、短編集のようだった。俺が出てくるのは第三章。双剣でアカムトルムに挑む話が書かれてある。

 

 うーん、他人だと思ったけど、この動きは確かに俺のものだ。

 

「この本はどこから?」

「交易をしてるロンディーネさんから買ったものだよ」

「交易……」

 

 なるほど、必要な素材とか売っているかもしれないな。チェックしておこう。

 

「ユウリさんは、もうオトモはいますか?」

「いや、そういうのはいないけど。君が斡旋してくれるって聞いてる」

「はい! ユウリさんには、こちらのルキナがおススメです! 若くてちょっと気難しいですが、お役に立てると思います!」

 

 先ほどの黒い隻眼の狼だった。

 こちらに近寄ってくる。頭を撫でると、嬉しそうに頭を擦り付けてきた。

 

「ほら、ルキナもユウリさんの実力を認めているみたいです。どうですか?」

「……来てくれるかい?」

 

 それに一吠えし、答えたルキナの頭を撫でた。

 

「えっと、いくらだっけ」

「ルキナのレベルなら、千五百お願いします」

「はい、どうぞ」

「確かに。すみません、これが商売なので……」

「当たり前のことだよ。ありがとう」

「……本の通りだ。戦いの時は荒いけど、それ以外はとても穏やかな方。……うわあ……! 色々、お話聞かせてくださいね!」

「う、うん。いいよ」

「なーに、イオリ。ユウリのこと好きなの?」

「い、いや、憧れの人かな。ぼくはあんな風に戦えないから」

「ま、荒事はボクらに任せてよ! ね? ルイン、ユウリ!」

 

 実に呑気なルキナの言葉に、ルインと俺は顔を見合わせた。お互いに苦笑を浮かべる。

 

「ほどほどにガンバリマス!」

「ベストは尽くすよ」

「よーし!」

 

 手を合わせる俺達。

 ……もう一人、欲しいな。

 できれば、注意を引いてくれるような……ドンドルマ時代の、兄貴――ヴォルンのような人が。

 

 

 

 

 

「かーっ、雅なところだなあオイ!」

 

 男は豪快にそう笑う。

 ゴム質の防具――ゲリョス一式を纏った姿。

 

 ドでかい銃槍を担ぐ、大男。

 空を仰ぎ見て、鳥が飛ぶのを眺めていた。

 

「……あいつぁ、元気でやってるかな。ユウリのやつぁ」

 

 煙草に火を付けながら、リーゼント頭の男はニヤリと笑みを浮かべ、煙たい空気をいっぱいに吸い込んで、それを空へ放った。

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