――――ああ、僕はもう――――
焼け焦げていくコックピットと自らのパイロットスーツを、朧気な意識の中で俯瞰するように、どこか他人事のように感じながら眺めていた。
既に全天周囲モニターどころか、計器も装置も、何もかもが壊れ果て、その役目を、意味を失っていた。
は薄れゆく意識の中でここに至るまでの過程を、走馬灯のように馳る。
ジオン公国の兵でも、共に戦ったエウーゴのクワトロ・バジーナでもない、ネオ・ジオン総帥であるシャアとの邂逅。内縁の妻とも言えるベルトーチカがお腹に子を宿していたこと。シャアとの一騎打ち。今まさに地球に落下せんとするアクシズをモビルスーツの力で押し返そうとしたこと。サイコフレームの共鳴により、周りの連邦の兵士、そしてネオ・ジオンの兵までもがアクシズを押し返そうと協力したこと。そして、サイコフレームと機体から発せられる光が更に強まり、どこからか赤ん坊の声が聞こえたこと。
そして今、灼熱に包まれた自らの機体、νガンダムが光りに包まれながら落ちていってることを。
命の灯が徐々に消えていってることを実感しながら、アムロは想いに耽る。直感ではあるが、恐らくアクシズは地球への落下コースを外れただろう、それはあの場にいた人間が、そしえベルトーチカのお腹にいた子供が、地球の、宇宙の、全ての人間の心の光が見せた奇跡なのだろう。そう信じたい。そうでなければ僕たちが戦ってきた意味も、価値も、全てが失われてしまうから…
「僕は死ぬのか…」
確実なる死を前にしているが不思議と恐怖はない、機体を包んでいる業火とはまた違う、暖かい光のおかげかもしれない。
「ベルトーチカ、名前もつけてあげられなか僕たちの子…二人とも、ごめん」
戦いに巻き込まれ、数多くの死地を経験し、そして数多くの人を殺してきた自分が。両親に顧みられることなく、遂には和解や再開すらもできなかった自分が。愛し愛され、父親になることができたのだ。
「ベルトーチカ、元気に暮らせよ…幸せに」
僕は幸せだった。終わりにはそう思えたんだ、それが全てだ。
だが、アムロは、彼の運命は、未だ逃れ得ることのない戦いの宿命は、彼を縛って離さなかった。それは、奇跡を起こした男の行く末としては。人類に絶望せずに、世界に希望を見せた男の行く末としては。あまりに残酷で、悲壮な結末であったかもしれない
――――noir tref refront i trio fern reno frit――――
『step toward frontier』
どこからか、そんな声が聞こえた。