宇宙を航行する船の船内では、各員慌ただしくそれぞれの持場で作業をしていた。 船は高速で航行をしており、船員には焦りの様子が伺える。
「ばかな!レーダーにも反応はなかったんだぞ!巨大な生物が飛来するなどありえない!」
『ありえないもクソも実際に起きてんだよ!なんとか着弾地点の周辺の人間は避難させたが破壊活動を繰り返してる!』
お互いに焦燥した声を張り上げながら開拓中の惑星の基地へと通信を図る乗員。幸いにも通信設備、指揮系統は機能しているが現場の混乱は否めない。
『急に生体反応が出てきたんだよ!地上に落ちてきたときはただの隕石だった!』
「惑星周囲の隕石群に紛れ込んでいたというのか!?巫女様は無事なのか!?」
船団の周囲にも敵影はおろか生物の気配すらなく、事前に巫女の預言があり、惑星周辺の電探機器、衛星機器で警戒を怠らなかったにも関わらず、地上に落下するまで全く生体反応は無かった。
「なんたって丁度周辺惑星に防衛隊が出払ってるときに!まさか彼奴等の差し金か新兵器か!?」
『わからん!巫女様は塔の上で祈祷をしてる!危険なんだよ!艦の一つでもこっちによこせないのか!?』
「今向かってる最中だ!それでもあと5時間以上はかかる!」
最も惑星に近い艦は既に、惑星時間の朝方の預言があった時点で旋回し、全速力で帰還しようとしていたが、それでも尚距離からして直ぐに戻れはしなかった。
「くそっ!完全に安全を確保できていた気になっていたんだ!せめて地上に戦力は残しておくべきだったんだよ!」
『そうは言っても『アレ』が目覚めるまでに前線基地に戦力を投入しなきゃならん!そうなれば全て水の泡だ!警備隊以外こっちに戦力を置いておく余裕はな…なんだ?避難は終わったんじゃないのか?何が落ちてきたんだ!』
地上のレーダーと衛星情報から、避難が終わった筈の地帯で突然、光とともにボロボロになった鉄の巨人が降ってきた。
「どうした!?」
『何かが降ってきた!あれは…モビルスーツなのか!?見たこともない機体だ!』
「また敵襲か!?」
『いや、既に半壊しているようだが…こいつもなんの反応もなく…どうなってるんだ今日は、一体何が起きてるんだ!?』
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アムロは、祈祷と初のニュータイプ同士の『共感』で既に体力を消耗しきって眠ってしまっているノエミをおぶさり、人のいるところへと向かっていた。ノエミとの『共感』のおかげか、この辺りの地理はなんとなく感覚で掴んでいた。少し歩いた先に人々の避難している集会所があった。ノエミを抱えるアムロの姿を見た人々が駆け寄ってくる。
「巫女様!」
「大丈夫だ、疲れて眠ってしまっているだけだ。だが体力の消耗が激しい、恐らく満足に休まずの状態だっただろう、運んでやってくれ」
ひとしきりした後に、車輪付きの担架(ストレッチャー)にてノエミは運ばれ行った。体力の消耗が激しいのであろうと点滴なども用意されており、これでひとまず万全だろうと住人は溜飲を下げた。その後、アムロは施設の方へ向かって歩き、軍人らしき男に声を掛ける。
「すまないが、寝食を確保したい。何処かあてがあるか?それとモビルスーツの接収を頼みたい、既に半壊しているんだ」
「あ、あなたは一体…何処から来たのですか?まさか巫女様の仰っていた…」
「勇者なんてガラじゃないが、ともかくここが何処の宙域の星かもわからないんだ。ここの軍の統括官は居るか?行政官でもいい」
アムロは身体を動かして馴らしながらそう告げた、異世界から来た勇者など荒唐無稽な話だと既に一笑に付していたが、あの戦闘の後に何処まで飛ばされたのか、どれくらい時間が経ったのか、むしろ何故自分が生きているのかすら、何もわからないままでいた。
「そのどちらも私ですよ、勇者殿」
奥にある館の方から男の声が聞こえた。男は付き人を従えており、軍のものであろう制服を身にまといっている。栗色の短く整えたオールバックの髪をした、やや大柄で恰幅の良い、しかし相貌は鋭くその顔は野心を湛えていた。
「私は本国からここの惑星開拓の指揮権を委任されたものです、文民としての軍の統帥権、行政権などをね。私はクレイス、どうぞこちらへ」
男はアムロを館へと促すように手を入り口へ向け、先導をするように館へと向かう。アムロはその背を一瞥をしたあと、警戒心を解かずに付き人の後ろをついて行った。館はそれほど巨大ではないが、入り口にはギリシャ建築のような様式の、コンクリートの柱が芸術的なデザインでそびえ立ち、木造とコンクリートを併せた造作は豪華絢爛ではないが、格調高く高級感を感じさせるものであった。
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「ここは…」
ノエミはベッドの上で目が覚めた。木目調のテーブルの置かれた一室、クローゼット等の家具はシックで落ち着いた色合いで統一され、窓からは暖かく穏やかな陽が差している。小綺麗で整えられた部屋は察するに、誰かの家というわけではなく来客用の部屋であろうか。
ノエミは身体を起こした。服は既に寝間着に替えられており、上質な肌着の隙間から絹織物のような白い肌の太ももが露わになる。血色はよく、無事快復したようだ。乾いた喉を潤すためテーブルの上の水差しの透き通った水をコップに注ぎ、飲み干した。
「失礼いたします。お目覚めでございますか、巫女様」
ノックの後に入口の扉が開き、女性の声がした。使用人服を身にまとった女性が丁寧な動作で扉を閉め、一礼をした後に近づいてきた。
「僭越ながらお召し物を変えさせていただきました。お身体の方も綺麗にさせていただきましたが、まだ不快感がおありでしたら申し訳ございません。お着替えはクローゼットの中にございます。30分後に領主様と勇者様と、食堂にてお食事をお取りください。ご不便がございましたら何なりとお申し付けくださいませ。」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
慇懃な、しかして事務的な対応をして、再び一礼をし踵を返して部屋を出た使用人の女性に、おずおずとしながらも返事をし、今の状況を反芻する。私は昨日アムロさんに助けてもらって、その後の記憶が曖昧だから、多分倒れてしまったんだろう。その後領主館に運び込まれて、今こうしてここにいる…そのような思案を巡らせながら、とりあえず食堂へと向かうことにしたノエミ。
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食堂の中ではアムロが一人、周囲を眺めながら物思いに耽っていた。部屋に備え付けてあった、やや軍服に近いデザインの青色の礼服を着ており、元から軍人であるアムロには『着られている』という違和感はなく、第一、第二ボタンを開け、ラフに着こなしている。しばしば対比して語られるシャアの、小綺麗に整っている怜悧で余裕のある表情がよく似合う顔とはまた違った、アムロの野性味があるが繊細さを感じさせる顔つきと、有り体に言ってしまえば不機嫌そうに見える目つきの鋭さは一年戦争の頃からのものだが、その後の壮絶な戦争等の人生の経験からか、悲しみを帯びた青く透き通った瞳と、童顔故の若づくりさに反した、深慮を湛えた相貌。
やや近寄りがたい印象を与えるものの、大半の異性からは魅力的に見え、恐らく表を歩いていればすれ違った女性は皆振り向くような、硬い顔だが色気のある雰囲気の顔立ちの良さである。アムロをあまり知らないそういった女性が少年時代のアムロを見れば、垢抜けない顔立ちに無頓着なファッションなどに驚くことだろう。その辺りの美的感覚は、一年戦争後の軟禁期間の生活の中でのあてがわれた女性や、内縁の妻ベルトーチカの『修正』のおかげだろうか。
「…しかし、どうしたものか」
食堂は一般的な職員等の使うものとは異なり、恐らく領主が来賓を饗すような際に使われる、豪奢で煌びやかな部屋であった。テーブルに誂えてある金の杯に乗せられた果実の盛り合わせの、マスカットを一粒もぎ取り、指先で転がす。昨日は戦闘の後ということもあり、領主からは詳しい話は聞いていない。怪物を倒し巫女を救った件を感謝され、あてもないのでここへ身を寄せたが、ある種生殺与奪は先んじて相手に握られてしまっている。
既に自分はある種籠の中鳥であり、弄ばれようと殺されようと誰も助けはしないだろう。尤も、現在のところは『勇者』として祭り上げられいるようではあるが…
アムロは、何かを噛むように唇と歯を動かした。幼い頃からの爪を噛む癖は直したが、考え事をするときなどには、指の爪を噛む時と同じように、唇をやや開き、歯ぎしりをするように、噛むように動かす癖があった。狼が牙を剥き唸っているようにも見え、思案を巡らしているときは大体不機嫌そうに見えるため、余計に威嚇しているようにも見える。
対面で人と話しているときはせずに、一人でいるときにしているため、相手への悪印象等は抱かれたことはないが、それを偶々見かけた仲間の女性軍人などからはワイルドでカッコいいと専ら評判だった。少なくとも爪を噛んでいるところを見られるよりはまだマシであろうが、アムロも無意識に行っていることであるため、その評価を知る由もない。
「失礼します…あ、アムロさん!」
「ン、やあ、おはようノエミちゃん、体の方は大丈夫かい?」
思案をしていたところに、不意に食堂の大きな扉がゆっくりと開いた。そこから扉に不釣り合いな背丈の少女が不安そうに中の様子を伺いながらおずおずと入ってきたが、アムロを見つけると顔を綻ばせ、笑顔を見せて明るい声で話しかける。アムロもノエミの方を見つめると、先程までの険しい表情を消し、優しげな笑顔と声色で返した。
「はい、昨日はありがとうございました。あの後気を失って…」
「気にすることじゃないさ、無事で良かった。あれだけ力を使ったんだ…その」
「『奇跡』の力、ですよ。遅れて申し訳ない、巫女様に勇者様。何分事後処理に追われておりまして、やっとこさ休めるというところです。」
扉を開けて会話に割って入るようにそう付け加えた男は、上辺だけの恭しさをある種隠そうともしないで軽く手を上げて挨拶をした。
「あなたは…」
「クレイスです、重ねてご承知おきを…さあ巫女様もお掛けになって、まずは堅い話しは抜きにして朝食を。使用人がお持ちします。ここの料理人は本国から連れてきた腕利きですから、勇者様のお口に合えば良いのですが」
そうして椅子に座るよう促すと、自らも皆と同じ豪華な席に腰を掛けた。クレイスが合図をすると給仕係が入ってきて、丁寧に素早く配膳を済ませた。朝食は飲み物のジュースにミルク、主菜の卵料理や付け合せの肉も全て新鮮で食欲をそそるもので、生半なコロニーでは生産することの出来ない、この惑星の豊かな自然の恵みであることはアムロにも察せられた。
「アムロ・レイ、アムロでいい、こちらも重ねてになるが」
「ではアムロ様、そしてノエミ様、食事を楽しみましょうか。会話に花を咲かせてね…」
露骨に書きたいところとそうでもないところで文量と熱量に差が出てしまうのが課題ではありますが、読みやすく丁寧な文章を心がけたいと思います。